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97話
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セルゲイの話を聞いていたこともあり、昼食までそんなに時間はなかった。何となく、ここのところ毎日ほぼ食べているだけではないだろうかとアルスはつい思ってしまう。
早朝に騎士の人たちに混じって訓練させてもらっているし、日中も時間があれば剣を振ったり体を鍛えたりはしている。城下町へ行った時は仕事もこなした。だから一応食べるだけで一日を終えているわけではないのだが、料理が美味しいせいだろうか、食事の量が十分にあるせいだろうか、特に何をすると決まっていないからだろうか、ただの印象だろうか、ほぼ食べるだけで一日を終えている感じが半端ない。
それをファインに言えばニヤリと笑いながら「じゃあ朝か昼でも抜いてみるか」と返された。無理に決まっている。
食堂として使われている広間へ行くとすでにフォルアが来ていた。
「もう来てたんだ、フォルア」
アルスが笑いかけるとパンをちぎりながらフォルアはこくりと頷いてくる。
「フォルアは朝食後、何してたんだ?」
そして席に着きながらのファインに聞かれ、首を傾げている。ファインは「てめ、また俺にだけ首傾げやがって」と言っていてアルスはつい笑ってしまった。
「部屋からは出たの?」
「出た」
「散歩してたの?」
「そう」
「そんでアルスにだけ答えてるし」
はぁ、とため息をつきながらファインはバンダナのような大きい額当てをしているためほぼ意味がないながらに、横に流れている髪をかき上げている。
「……俺もファインくらい短く切ろうかな」
その様子をぼんやりと見ていたアルスがぼそりと呟けば、フォルアに気を取られていたはずのファインが「はぁ?」と何か納得いかない様子でアルスを見てきた。
「な、何」
「アルスはそれでいいんだよ! お前のその濃いめの茶色いサラサラの真っ直ぐな髪はな、少し長めのサイドとかがサラサラ揺れて……」
「ファイン?」
一体どうしたんだとアルスが椅子に座った状態でぽかんとファインを見るとハッとなったようにファインもアルスを見てきた。
「い、いや。あれだ。魔道具のその紐はオレくらいの長さだとあんま合わねえぞ」
「え、そうかな」
「そうだって。ただでさえ少なめの魔力をそれでほんの少しでも補いたいんだろ、前にそう言ってた」
「うん」
この髪紐のような魔道具をつけていても大した魔力はないが、これがないと水魔法を飲み水に応用することすらままならない。力仕事や剣以外でほぼ役に立たないアルスとしては飲み水確保係の位置は守りたい。多分アルスが使えなくとも今ではフォルアがそれこそ泉のように溢れさせることができそうだが、せめて緊急用の飲み水係は死守したいところだ。
「だからアルスの髪はそのままでいいと思う」
「そう、なのか? わかった」
ファインが言うならそうなのだろう。アルスは頷いた。
視線に気づきフォルアを見ると何故か思いきりアルスを見ている。
「フォルア? どうかしたのか?」
「……いや。……俺もアルスはそのままでいいと思う」
いや、と首を振った後にフォルアがそんなことを言ってきた。空耳かとつい、フォルアではなくファインを見ればファインもぽかんとしている。ということはアルスの空耳ではないのだろう。
「フォルアに言われるとなおさらそうなのかなって思うよ。ありがとう」
「……フォルア。言っとくけどアルスはお前の太陽じゃねえから」
笑って礼を言うとファインが当たり前すぎることをあえてフォルアに言っている。それに対しフォルアは「モナっぽいとこ、あるけどモナじゃない。知ってる」と頷いてきた。
「ったく。今から飯だってのに落ち着かねえな」
またため息をつきながら、ファインはすでに運ばれてきていた食事に手をつけ出した。アルスもそれに続く。やはり美味しいし、これを抜くなど考えられないが、多分またたくさん食べすぎてしまいそうだ。そして食べたなあとしみじみ思っていると気づけば夕食の時間になっていそうだ。
「あ、そうそう。オレらセルゲイさんに話、聞いたよ」
グリルされた魚を口に放り込んだ後にファインが思い出したようにフォルアを見た。フォルアは一度首を傾げた後にこくりと頷く。
「でも結局よくわかんねーんだわ」
「……」
「お前とセルゲイさんが以前からお前の歌を通して知り合いだったってのはわかったし、それをそもそも聞くつもりだったから何がわからねえんだって言われるとアレなんだけどさ……。それにフォルア自身は無宗教だってすでに聞いてるし、お前に言っても仕方ねえのはわかるんだけどさ。新説派のこととかお前の歌からわかる真実とかさ、その辺ぼかされたままでな」
「……」
「聞いてる?」
もぐもぐと果物を口にしているフォルアにファインが聞けば、フォルアはファインを見ながらまたこくりと頷いた。
「お前の歌にどんな真実があるんだろな。ああでもお前に説明しろって強要したいんじゃないからな。セルゲイさんにはもっとこの世界のことを知るよう言われたんだよな。そうしたらいずれわかるか教えてくれるんだとさ」
仕方ないよなとファインが諦め口調で話していると、フォルアが少し顔を引きしめながら口を開いた。
「……勇者たち自らが犠牲を払った世界だ。知るのはいいことだと思う」
「何て?」
ファインだけでなくアルスも口にはしなかったがぽかんとフォルアを見る。だがフォルアはまたぼんやりとした様子でふるふると頭を振ってきた。
早朝に騎士の人たちに混じって訓練させてもらっているし、日中も時間があれば剣を振ったり体を鍛えたりはしている。城下町へ行った時は仕事もこなした。だから一応食べるだけで一日を終えているわけではないのだが、料理が美味しいせいだろうか、食事の量が十分にあるせいだろうか、特に何をすると決まっていないからだろうか、ただの印象だろうか、ほぼ食べるだけで一日を終えている感じが半端ない。
それをファインに言えばニヤリと笑いながら「じゃあ朝か昼でも抜いてみるか」と返された。無理に決まっている。
食堂として使われている広間へ行くとすでにフォルアが来ていた。
「もう来てたんだ、フォルア」
アルスが笑いかけるとパンをちぎりながらフォルアはこくりと頷いてくる。
「フォルアは朝食後、何してたんだ?」
そして席に着きながらのファインに聞かれ、首を傾げている。ファインは「てめ、また俺にだけ首傾げやがって」と言っていてアルスはつい笑ってしまった。
「部屋からは出たの?」
「出た」
「散歩してたの?」
「そう」
「そんでアルスにだけ答えてるし」
はぁ、とため息をつきながらファインはバンダナのような大きい額当てをしているためほぼ意味がないながらに、横に流れている髪をかき上げている。
「……俺もファインくらい短く切ろうかな」
その様子をぼんやりと見ていたアルスがぼそりと呟けば、フォルアに気を取られていたはずのファインが「はぁ?」と何か納得いかない様子でアルスを見てきた。
「な、何」
「アルスはそれでいいんだよ! お前のその濃いめの茶色いサラサラの真っ直ぐな髪はな、少し長めのサイドとかがサラサラ揺れて……」
「ファイン?」
一体どうしたんだとアルスが椅子に座った状態でぽかんとファインを見るとハッとなったようにファインもアルスを見てきた。
「い、いや。あれだ。魔道具のその紐はオレくらいの長さだとあんま合わねえぞ」
「え、そうかな」
「そうだって。ただでさえ少なめの魔力をそれでほんの少しでも補いたいんだろ、前にそう言ってた」
「うん」
この髪紐のような魔道具をつけていても大した魔力はないが、これがないと水魔法を飲み水に応用することすらままならない。力仕事や剣以外でほぼ役に立たないアルスとしては飲み水確保係の位置は守りたい。多分アルスが使えなくとも今ではフォルアがそれこそ泉のように溢れさせることができそうだが、せめて緊急用の飲み水係は死守したいところだ。
「だからアルスの髪はそのままでいいと思う」
「そう、なのか? わかった」
ファインが言うならそうなのだろう。アルスは頷いた。
視線に気づきフォルアを見ると何故か思いきりアルスを見ている。
「フォルア? どうかしたのか?」
「……いや。……俺もアルスはそのままでいいと思う」
いや、と首を振った後にフォルアがそんなことを言ってきた。空耳かとつい、フォルアではなくファインを見ればファインもぽかんとしている。ということはアルスの空耳ではないのだろう。
「フォルアに言われるとなおさらそうなのかなって思うよ。ありがとう」
「……フォルア。言っとくけどアルスはお前の太陽じゃねえから」
笑って礼を言うとファインが当たり前すぎることをあえてフォルアに言っている。それに対しフォルアは「モナっぽいとこ、あるけどモナじゃない。知ってる」と頷いてきた。
「ったく。今から飯だってのに落ち着かねえな」
またため息をつきながら、ファインはすでに運ばれてきていた食事に手をつけ出した。アルスもそれに続く。やはり美味しいし、これを抜くなど考えられないが、多分またたくさん食べすぎてしまいそうだ。そして食べたなあとしみじみ思っていると気づけば夕食の時間になっていそうだ。
「あ、そうそう。オレらセルゲイさんに話、聞いたよ」
グリルされた魚を口に放り込んだ後にファインが思い出したようにフォルアを見た。フォルアは一度首を傾げた後にこくりと頷く。
「でも結局よくわかんねーんだわ」
「……」
「お前とセルゲイさんが以前からお前の歌を通して知り合いだったってのはわかったし、それをそもそも聞くつもりだったから何がわからねえんだって言われるとアレなんだけどさ……。それにフォルア自身は無宗教だってすでに聞いてるし、お前に言っても仕方ねえのはわかるんだけどさ。新説派のこととかお前の歌からわかる真実とかさ、その辺ぼかされたままでな」
「……」
「聞いてる?」
もぐもぐと果物を口にしているフォルアにファインが聞けば、フォルアはファインを見ながらまたこくりと頷いた。
「お前の歌にどんな真実があるんだろな。ああでもお前に説明しろって強要したいんじゃないからな。セルゲイさんにはもっとこの世界のことを知るよう言われたんだよな。そうしたらいずれわかるか教えてくれるんだとさ」
仕方ないよなとファインが諦め口調で話していると、フォルアが少し顔を引きしめながら口を開いた。
「……勇者たち自らが犠牲を払った世界だ。知るのはいいことだと思う」
「何て?」
ファインだけでなくアルスも口にはしなかったがぽかんとフォルアを見る。だがフォルアはまたぼんやりとした様子でふるふると頭を振ってきた。
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