水晶の涙

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95話

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 結局、だから何なのだとファインはセルゲイを見た。
 新説派が他からすれば無神論者になると聞いて「何でなんです」と問えば例の詩について今度は聞かれた。文字で見たのは初めてであり内容に少々、いやわりと驚いたとはいえ、流れがわからない。
 ファインは首を傾げた後にはっきりセルゲイに聞いた。

「この内容と新説派とどうつながるんですか。あとそもそもフォルアと知り合ったこととも」
「そうですね……教会では二番目の詩は取り入れてません。一番目の詩は勇者を称えているだけな上に勇者たちの中には教会の者もいたそうです。それに教会も魔王を倒すために助勢していました。それもあって讃美歌ではないものの教会や説教師たちも一番目の詩は取り入れています。ただし歌うことはありません。歌うことで伝えているのはフォルアさんです。そして本当に伝えたいことは二番目にある。新説派はその二番目の詩をフォルアさんから聞き、それについて考察し、その後真理まで到達せずとも真実に気づき、新たな宗派となったんです。新説派はモーティナを称えてはいますが、新旧教会派が考えるような形で神を崇めているわけではありません。ですのでフォルアさんのことは昔から知っていますし、新旧教会派からは無神論者と言われています」

 セルゲイの声は心地よく耳に入ってくる。だというのにあまり内容は入ってこなかった。少しわかったようでいて、肝心なところへ到達していない気がする。

「オレはまだよくわからなくて」
「俺はもっとわかってないと思うよ……」

 アルスが小さな声でぼそりと呟くのが聞こえてきて、ファインは少しほんわかとした気持ちになる。だがあえて顔を引き締め、セルゲイを見なおす。

「真実って何ですか。モーティナ神に秘密でもあるんですか。それに……新説派ってのはかなり最近できた宗派なんですか? フォルアに聞いてからってことですよね」

 というかフォルアは一体いくつから吟遊詩人をやっているのだろうと怪訝に思う。そもそもどこの出身かもわからない。もしかしたらこの辺の出身なのだろうか。だからこれほど皆がフォルアの歌を知っていたり、それに影響されて宗派を作るほどだったりするのだろうか。そうだとしてもすごいことではあると思う。

「やはりそこ、気になりますよね」

 そりゃなるわ。

 苦笑しながら言われてファインはこちらが苦笑したいとばかりに微妙な顔になった。ただアルスはそこが気になる以前の問題なようで、黙ったままひたすらセルゲイではなくファインを見てくる。アルスに見られることはこの上なく嬉しいものの、別にこれ喜ばしい状況じゃないからなとファインは自分に言い聞かせた。

「……そうですね……ですがその辺はまた改めてにさせてください」

 何で?

「何でですか?」
「私のワガママです」

 とても清々しいほどのいい笑顔で言い切られた。ファインはぽかんとした顔をセルゲイへ向ける。

「この世界について、私はあなたたちにもっとたくさん見て欲しい。宗教云々、ではなくたくさんの人間や魔物、そして様々な出来事を通して知って欲しい。……きっとあなた方お二人はその年齢の少年としてはすでにかなり色々なことを見聞きし経験されたんだろうなと思います。だからこそ、余計に、でしょうか。なので私のワガママ、です」
「は、あ……」
「新説派の者はさほど多くありません。そしてこの地域の者たちは私に倣って新説派でいてくださっているようですが、その実あまり詳しいわけではありません。ただ、そうですね……一般的に新説派はモーティナを称えつつ、神を拠り所にするのではなく自分たちで考え真っ直ぐに前を見据え、自分たち自身がしっかり生きようという考えの宗派ですとは言っておきます。そして私もその考えです。この地域の者たちもその考えであり、そしてフォルアさんの歌われる詩に感化されています」
「……う、ん……っと、その。えぇっと……一般的な新説派についてはとりあえずわかりました。でもフォルアの歌に感化されたっていうのが……。フォルアは自分で無宗教だって言ってましたけど……」
「ええ。フォルアさん自身は別に新説派とか云々関係ありません。フォルアさんは魔王を倒した後の真実について詩と歌うことで伝えようとしているだけです。勇者たちに称賛と感謝を、と。新説派はそれを知り、そこから自分たちの宗派を作っただけですね」

 そういえばフォルアも「勇者に称賛と感謝を」みたいなことを言っていた気がするなとファインはハッとなった。とはいえそもそも真実というのがわからない。

「……その真実ってのも、オレらがもっと世界を知ってからじゃないと教えてもらえないってことですか」
「そういうわけでもないんですけどね。単に私のワガママなだけで。フォルアさんが言いたいと思われたならきっと話してくれるでしょうし」

 いや、あいつは絶対話さないだろ……いかに口数を少なくするかに心を配ってそうなやつだぞ。

「ああ、でも詩の最後については今、少しだけ。あれはそれこそ真実について表現しています。モーティナの神話では神の子を放棄した少女は禁忌を犯して逃げ、そして世界が犠牲になったとありますが、本当はそれは関係なく、ただし勇者たちが自らを犠牲にして世界を守ってくれていたという」

 玻璃から何故そうなる?

 ファインはますますぽかんとセルゲイを見た。だがセルゲイはそれ以上は語ろうとせず、ただにっこりと笑みを向けてくるだけだった。
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