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85話
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「マジか。すげーな……」
普段のぼんやり具合は幻だったのかと思うくらい、本当にフォルアはすごいとファインは思った。だが見た感じは相変わらずぼんやりとした表情でフォルアはすでにあらぬところを見ている。こうしてよくあらぬところを見ているので、たまに「こいつまさかオレが見たくねえ何かヤベェもんでも見えてんじゃねえだろな」などとつい思ってしまう。
「助かった。ありがとう、フォルア」
とりあえず礼を言うとフォルアはまたファインを見た後定番ともいえる首傾げをしてから頷いてきた。何だか人間というより動物に見えてきそうだ。
「あと、お前の歌について少し聞きたいことがあるんだけどな。今日、ここは大公様の信仰に倣って皆、新説派なのもあってって言ってただろ、商業ギルドの事務員が」
フォルアが頷くのを見て、ファインは続けた。
「お前の歌は、新説派っていう宗教の絡みなのか?」
今度は首を振ってくる。
「宗教は関係ないのか?」
「……セルゲイに聞くんじゃないのか?」
「セルゲイさんにはお前との関係性について聞くつもりだったけど……。やっぱりそういう系の絡みで知り合ったとかなのか?」
「……違うけど、そう」
「どっちだよ」
「……セルゲイに」
「はぁ。了解。でもまあ、お前は別に宗教家じゃねえってことでいいのか」
別に宗教家でも信心深いのでもフォルアはフォルアなので構わないのだが、宗教が絡むとこの世は戦争すら起きることもあるくらい面倒だったりする。だからできればあまり関係ないほうがファインとしてはありがたいなとなんとなく思ったりしていた。
「むしろ無宗教だ」
「そうか。……でもあの歌。ほら、かつて世界を創造した……ってやつとかさ、あれ、モーティル教の教会でよく唱えられてる説教的なやつじゃないのか? それに曲をつけたやつだと思ってたけど……」
「そうでもあるし、違うとも言う」
珍しく首を傾げてこなかったとはいえ、ちっともそれではわからない。
「はぁ。お前は結構複雑だわ。全く。そういえばあの歌、一番はオレらも昔よく説教師から聞いたし、教会でも唱えられてる詩だけど、二番の詩ってお前の歌からしか聞いたことないんだよな。もしかして二番目のやつはお前が完全に作った詩か?」
ふと思い出して聞けば今度は首を傾げた後に頷いてきた。
「……一番目は七人の勇者がそれぞれの力を生かして魔王を倒したってやつだよな? そういえばその詞、教会ですら使われてるみたいだけど、何でモーティル教と関係あんのか、よく考えなくとも不思議だよな。宗教関係ねえよな、勇者の話は」
「……関係は、ある。元々は。あと、俺が作った」
「え? ああうん、二番目と曲な」
あえて言わなくともそれはもう理解しているとばかりにファインは頷いた。そして「普段は頷くか首を振るかでほぼ済ませてくるフォルアがあえてもうわかっていることを言ってくるなんて珍しいな」と何気に思う。
「勇者と絡めることで布教してんのかな」
「教会は……そうだろうな」
フォルアは素っ気なく頷いた。
「じゃあフォルアは?」
今度は首を傾げてくる。
「お前は何かを布教しようとしてるのか?」
「……かつての勇者を称える上で本当のことを」
何となく聞いたことであったが、思ったよりもしっかりと返ってきた。そういえば以前もそんなことを言っていた気がする。
「……本当のこと……は一番よりさらに二番?」
ふとそう思った。一番の詞は教会で大きく取り上げられているわりに二番の詞は一切触れていない。モーティナは信じつつも特に信者というわけでもないファインからしたら、むしろその二番の詞に何か知り渡っていない真実が込められているのではとつい思う。
フォルアはファインを少しじっと見た後にふわりと一瞬ではあるが笑った。
「え……」
フォルアが笑うなど、想像ですらできないくらいだ。ファインは動揺さえした。
「でも俺は新説派でもなんでもない。無宗教だ」
「そ、そうか」
「……しいて言うなら……モナ」
「は?」
「俺の太陽を信じ、求めてる」
「……お、おぅ?」
「……おやすみ」
ぽかんとしているとフォルアにおやすみと言われた。一緒に行動するようになってそれなりに経つが、フォルアにおやすみと言われたのは初めてではないだろうか。単純なことにファインはほんのりテンションが上がった。
「ぉ、おう。おやすみ。また明日な」
聞きたい気がした内容のほんの少しすらわかった気になれないというのについおやすみと返してしまい、ファインは結局そのまま部屋を出た。
「あ、おかえり。どこ行ってたんだ?」
自分が休んでいる部屋に戻ると、ソファーに座って今日買ってきた道具などを見ていたらしいアルスがフォルアに笑いかけてきた。ファインもついつられて笑いかける。
「ああ、ちょっとフォルアのとこ」
「珍しいな。どうかしたのか」
あのきのこはもう卑猥な形態をしていないし問題ないなと判断し、ファインは「魅惑のきのこを探してて先に見つけたほうのきのこについて、フォルアは知らないか聞きに行ってた」と答えた。
「ああ、あれ。え、あの猥褻物をフォルアに見せたの?」
納得した後にアルスが少し驚いたような顔をしてきた。
普段のぼんやり具合は幻だったのかと思うくらい、本当にフォルアはすごいとファインは思った。だが見た感じは相変わらずぼんやりとした表情でフォルアはすでにあらぬところを見ている。こうしてよくあらぬところを見ているので、たまに「こいつまさかオレが見たくねえ何かヤベェもんでも見えてんじゃねえだろな」などとつい思ってしまう。
「助かった。ありがとう、フォルア」
とりあえず礼を言うとフォルアはまたファインを見た後定番ともいえる首傾げをしてから頷いてきた。何だか人間というより動物に見えてきそうだ。
「あと、お前の歌について少し聞きたいことがあるんだけどな。今日、ここは大公様の信仰に倣って皆、新説派なのもあってって言ってただろ、商業ギルドの事務員が」
フォルアが頷くのを見て、ファインは続けた。
「お前の歌は、新説派っていう宗教の絡みなのか?」
今度は首を振ってくる。
「宗教は関係ないのか?」
「……セルゲイに聞くんじゃないのか?」
「セルゲイさんにはお前との関係性について聞くつもりだったけど……。やっぱりそういう系の絡みで知り合ったとかなのか?」
「……違うけど、そう」
「どっちだよ」
「……セルゲイに」
「はぁ。了解。でもまあ、お前は別に宗教家じゃねえってことでいいのか」
別に宗教家でも信心深いのでもフォルアはフォルアなので構わないのだが、宗教が絡むとこの世は戦争すら起きることもあるくらい面倒だったりする。だからできればあまり関係ないほうがファインとしてはありがたいなとなんとなく思ったりしていた。
「むしろ無宗教だ」
「そうか。……でもあの歌。ほら、かつて世界を創造した……ってやつとかさ、あれ、モーティル教の教会でよく唱えられてる説教的なやつじゃないのか? それに曲をつけたやつだと思ってたけど……」
「そうでもあるし、違うとも言う」
珍しく首を傾げてこなかったとはいえ、ちっともそれではわからない。
「はぁ。お前は結構複雑だわ。全く。そういえばあの歌、一番はオレらも昔よく説教師から聞いたし、教会でも唱えられてる詩だけど、二番の詩ってお前の歌からしか聞いたことないんだよな。もしかして二番目のやつはお前が完全に作った詩か?」
ふと思い出して聞けば今度は首を傾げた後に頷いてきた。
「……一番目は七人の勇者がそれぞれの力を生かして魔王を倒したってやつだよな? そういえばその詞、教会ですら使われてるみたいだけど、何でモーティル教と関係あんのか、よく考えなくとも不思議だよな。宗教関係ねえよな、勇者の話は」
「……関係は、ある。元々は。あと、俺が作った」
「え? ああうん、二番目と曲な」
あえて言わなくともそれはもう理解しているとばかりにファインは頷いた。そして「普段は頷くか首を振るかでほぼ済ませてくるフォルアがあえてもうわかっていることを言ってくるなんて珍しいな」と何気に思う。
「勇者と絡めることで布教してんのかな」
「教会は……そうだろうな」
フォルアは素っ気なく頷いた。
「じゃあフォルアは?」
今度は首を傾げてくる。
「お前は何かを布教しようとしてるのか?」
「……かつての勇者を称える上で本当のことを」
何となく聞いたことであったが、思ったよりもしっかりと返ってきた。そういえば以前もそんなことを言っていた気がする。
「……本当のこと……は一番よりさらに二番?」
ふとそう思った。一番の詞は教会で大きく取り上げられているわりに二番の詞は一切触れていない。モーティナは信じつつも特に信者というわけでもないファインからしたら、むしろその二番の詞に何か知り渡っていない真実が込められているのではとつい思う。
フォルアはファインを少しじっと見た後にふわりと一瞬ではあるが笑った。
「え……」
フォルアが笑うなど、想像ですらできないくらいだ。ファインは動揺さえした。
「でも俺は新説派でもなんでもない。無宗教だ」
「そ、そうか」
「……しいて言うなら……モナ」
「は?」
「俺の太陽を信じ、求めてる」
「……お、おぅ?」
「……おやすみ」
ぽかんとしているとフォルアにおやすみと言われた。一緒に行動するようになってそれなりに経つが、フォルアにおやすみと言われたのは初めてではないだろうか。単純なことにファインはほんのりテンションが上がった。
「ぉ、おう。おやすみ。また明日な」
聞きたい気がした内容のほんの少しすらわかった気になれないというのについおやすみと返してしまい、ファインは結局そのまま部屋を出た。
「あ、おかえり。どこ行ってたんだ?」
自分が休んでいる部屋に戻ると、ソファーに座って今日買ってきた道具などを見ていたらしいアルスがフォルアに笑いかけてきた。ファインもついつられて笑いかける。
「ああ、ちょっとフォルアのとこ」
「珍しいな。どうかしたのか」
あのきのこはもう卑猥な形態をしていないし問題ないなと判断し、ファインは「魅惑のきのこを探してて先に見つけたほうのきのこについて、フォルアは知らないか聞きに行ってた」と答えた。
「ああ、あれ。え、あの猥褻物をフォルアに見せたの?」
納得した後にアルスが少し驚いたような顔をしてきた。
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