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73話
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城から見える風景は中々に興味深いかもしれない。石で囲まれた一見味気ない荘厳で頑強な作りの建物を、真っ白な雪が包み込んでいる。道中は精霊の加護が弱かったのであろう、雪はたまに降るくらいだったが、セルゲイが治めているこの地に近づくにつれてどんどん雪景色へと変わっていった。それもあり、慣れていないファインたちの尻には優しくないながらにそれなりに暖かい馬車は大変ありがたかった。
城下町も上から見ると雪のせいであまりよくわからないが、とにかくこの城の雰囲気と雪が妙に合っていてファインを何となくしっとりとした気持ちにさせてくる。
「まあ、それもこの暖かい部屋から見てるからこそだけどな。普通の宿屋だったらベッドに包まってるところだろうし」
「そうかもだけど、あれだよな」
「どれ?」
外を見ていたファインは部屋の中に視線を戻した。寒いのが苦手であるファインを考慮してくれたようで、案内された広々よりは多少こじんまりとした部屋の中ではアルスが暖炉近くのソファーで寛ぎながら茶と茶菓子を堪能している。セルゲイと一緒にいるアルスはいつか太るのではないだろうかとファインはほんのり思った。いくら食べた分以上に普段動いて消費していても、これほど見るたびに何か食べていては、消費もさすがに追いつかない気がしないでもない。おまけにセルゲイが一緒だと移動も馬車だしで歩かない上にほぼ魔物や獣にも出会わないので体を動かす率も減る。
まぁ、ちょっと太ったアルスも中々……。
きっと触り心地はよいだろうなと妄想したところでそっと首を振った。油断大敵だ。そっち方面に考えがいかないよう気をつけないと、とファインは微妙な気持ちで自分を戒める。結局ファインとアルスが二人部屋となった。フォルアはセルゲイが「ゆっくりなされるように」と言われ一人部屋をあてがわれている。一人で大丈夫だろうかと一瞬心配しかけたが、そもそもファインたちと出会うまでフォルアはずっと一人だったとかろうじて思い出せた。そして戒めている理由だが、アルスと二人きりの部屋はかなり久しぶりすぎて嬉しい反面、ファインのファインも大喜びしそうで要注意だからだ。
「ファインってさ、わりとロマンチスト」
「は?」
「だよなぁって前からたまに思ってて」
「オレが? ロマンチストだって?」
アルスは何を言っているのだろうとファインは窓から離れてアルスのいるソファーへ近づいた。
「あ、ファインも食べなよ。さりげなく置いてるくせにすごく美味しいし甘い」
「……後で軽食に誘うと言われてなかったか」
「それはそれ、これはこれだろ」
「アルス、太るぞ、さすがに。別にオレはアルスが太ってもいいけど」
「え、太るのは困るな……剣が鈍りそう。これ食べたらちょっと体動かそうかな」
「それは食うのか」
「まあ、せっかくだし……。でも体動かすって言っても下手にうろうろしないほうがいいよね? 宮殿とか屋敷と違って城って要は要塞だろ。そういうところ他人がうろつくのってあまりよくないよな?」
「どうだろな。後でセルゲイに聞いてみよう。ついでに訓練所みたいな場所も聞けばいいんじゃねえか」
訓練所と聞いてアルスは目をキラキラとさせてきた。食べるのが好きとはいえ、何だかんだ言ってさすがは脳筋だなとファインは内心ほのぼのした気持ちでアルスを見た。
「訓練所いいな。あるなら行きたい」
「多分あるだろ。それこそ要塞なんだからな」
「うん。あーでも気になったら今すぐにでも体動かしたくなるよなあ。ここでも何か動かせないかな」
二人でできるいい運動があるぞ、とまるでおっさんのようなことをファインの下半身が訴えてくるのを上半身に宿る理性が何とか押し退け「柔軟とかしたらいいんじゃないか」と提案した。
「そうだな」
「っていうか、ロマンチスト」
「え? 俺も?」
「じゃねーよ。アルスが言ってきたんだろ、オレがロマンチストだって。どういう意味?」
「ああ、流してたな。だってさ、アクアードでもエーニャとヴァジムの愛、受け入れてたし」
「? お前は受け入れてないのか?」
「んん? ああ、ううん。もちろん反対とかそんなんじゃなくて。俺はさ、あの二人を見てもどっちかと言えば家族愛っぽいなってすぐに思ったけど、ファインは恋愛に結び付けてただろ。何ていうか、そういうとこ」
「だって少なくともエーニャはそういうつもりだったろ」
「まあ、そうなんだろけど、それでも俺からしたら家族愛っぽいと思ったよ。ファインはでもエーニャの気持ちを優先したわけだろ。そういうとこも」
わかるようなわからないような、とファインは首を傾げた。ただもしロマンチストだと言うなら、多分それはアルスのせいだ。アルスに恋し、アルスを愛してているからこそだと思う。とはいえそれは口にできない。
「その上、雪に包まれた城にしみじみしてるだろ」
「お前はしないの?」
「俺は甘いお菓子食べてしみじみしてるかな」
「……それは何かこう、しみじみ違いじゃ……」
「風景より食べ物ってこと。そういえばアイトールにいた頃もさ、ファインって夜空の星を興味深そうに眺めたりしてたよな」
「アルスも一緒に眺めたろ」
「俺は星見て、それこそ貴族とかが食べてるらしいドラジェやボンボンという幻の菓子浮かべてたよ。説教師がモーティナの話をする傍ら、たまに余談みたいに世間話してくれただろ? あれ、わりと好きだった。その中で聞いた王国のお金持ちが食べられる菓子に夢馳せて、星をなぞらえてた」
「……アルスらしいよ」
城下町も上から見ると雪のせいであまりよくわからないが、とにかくこの城の雰囲気と雪が妙に合っていてファインを何となくしっとりとした気持ちにさせてくる。
「まあ、それもこの暖かい部屋から見てるからこそだけどな。普通の宿屋だったらベッドに包まってるところだろうし」
「そうかもだけど、あれだよな」
「どれ?」
外を見ていたファインは部屋の中に視線を戻した。寒いのが苦手であるファインを考慮してくれたようで、案内された広々よりは多少こじんまりとした部屋の中ではアルスが暖炉近くのソファーで寛ぎながら茶と茶菓子を堪能している。セルゲイと一緒にいるアルスはいつか太るのではないだろうかとファインはほんのり思った。いくら食べた分以上に普段動いて消費していても、これほど見るたびに何か食べていては、消費もさすがに追いつかない気がしないでもない。おまけにセルゲイが一緒だと移動も馬車だしで歩かない上にほぼ魔物や獣にも出会わないので体を動かす率も減る。
まぁ、ちょっと太ったアルスも中々……。
きっと触り心地はよいだろうなと妄想したところでそっと首を振った。油断大敵だ。そっち方面に考えがいかないよう気をつけないと、とファインは微妙な気持ちで自分を戒める。結局ファインとアルスが二人部屋となった。フォルアはセルゲイが「ゆっくりなされるように」と言われ一人部屋をあてがわれている。一人で大丈夫だろうかと一瞬心配しかけたが、そもそもファインたちと出会うまでフォルアはずっと一人だったとかろうじて思い出せた。そして戒めている理由だが、アルスと二人きりの部屋はかなり久しぶりすぎて嬉しい反面、ファインのファインも大喜びしそうで要注意だからだ。
「ファインってさ、わりとロマンチスト」
「は?」
「だよなぁって前からたまに思ってて」
「オレが? ロマンチストだって?」
アルスは何を言っているのだろうとファインは窓から離れてアルスのいるソファーへ近づいた。
「あ、ファインも食べなよ。さりげなく置いてるくせにすごく美味しいし甘い」
「……後で軽食に誘うと言われてなかったか」
「それはそれ、これはこれだろ」
「アルス、太るぞ、さすがに。別にオレはアルスが太ってもいいけど」
「え、太るのは困るな……剣が鈍りそう。これ食べたらちょっと体動かそうかな」
「それは食うのか」
「まあ、せっかくだし……。でも体動かすって言っても下手にうろうろしないほうがいいよね? 宮殿とか屋敷と違って城って要は要塞だろ。そういうところ他人がうろつくのってあまりよくないよな?」
「どうだろな。後でセルゲイに聞いてみよう。ついでに訓練所みたいな場所も聞けばいいんじゃねえか」
訓練所と聞いてアルスは目をキラキラとさせてきた。食べるのが好きとはいえ、何だかんだ言ってさすがは脳筋だなとファインは内心ほのぼのした気持ちでアルスを見た。
「訓練所いいな。あるなら行きたい」
「多分あるだろ。それこそ要塞なんだからな」
「うん。あーでも気になったら今すぐにでも体動かしたくなるよなあ。ここでも何か動かせないかな」
二人でできるいい運動があるぞ、とまるでおっさんのようなことをファインの下半身が訴えてくるのを上半身に宿る理性が何とか押し退け「柔軟とかしたらいいんじゃないか」と提案した。
「そうだな」
「っていうか、ロマンチスト」
「え? 俺も?」
「じゃねーよ。アルスが言ってきたんだろ、オレがロマンチストだって。どういう意味?」
「ああ、流してたな。だってさ、アクアードでもエーニャとヴァジムの愛、受け入れてたし」
「? お前は受け入れてないのか?」
「んん? ああ、ううん。もちろん反対とかそんなんじゃなくて。俺はさ、あの二人を見てもどっちかと言えば家族愛っぽいなってすぐに思ったけど、ファインは恋愛に結び付けてただろ。何ていうか、そういうとこ」
「だって少なくともエーニャはそういうつもりだったろ」
「まあ、そうなんだろけど、それでも俺からしたら家族愛っぽいと思ったよ。ファインはでもエーニャの気持ちを優先したわけだろ。そういうとこも」
わかるようなわからないような、とファインは首を傾げた。ただもしロマンチストだと言うなら、多分それはアルスのせいだ。アルスに恋し、アルスを愛してているからこそだと思う。とはいえそれは口にできない。
「その上、雪に包まれた城にしみじみしてるだろ」
「お前はしないの?」
「俺は甘いお菓子食べてしみじみしてるかな」
「……それは何かこう、しみじみ違いじゃ……」
「風景より食べ物ってこと。そういえばアイトールにいた頃もさ、ファインって夜空の星を興味深そうに眺めたりしてたよな」
「アルスも一緒に眺めたろ」
「俺は星見て、それこそ貴族とかが食べてるらしいドラジェやボンボンという幻の菓子浮かべてたよ。説教師がモーティナの話をする傍ら、たまに余談みたいに世間話してくれただろ? あれ、わりと好きだった。その中で聞いた王国のお金持ちが食べられる菓子に夢馳せて、星をなぞらえてた」
「……アルスらしいよ」
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