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43話
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これといって王国も町もないと聞いていた通り、エベール王国へ向かうのと反対側の地域はひたすら平原やなだらかな丘が広がっていた。ちょっとした林程度の木々の集まりはあるが、森らしい森すら見当たらない。村も中々なくて、延々と移動しては時折出てくる魔物や獣を倒し、野宿をするといった日々を繰り返している。さすがに少々飽きそうだなとファインは思った。
何より困惑しているのが気温だ。
一応四季で言うなら今が夏だということくらいファインも把握している。だが夏だというだけでどこを歩こうが延々と暑いなんて知らない。鍛冶屋は確かに加護がないから気候が定まっていないとは言っていた。春や秋は暖かかったり涼しかったりして、夏は暑く冬は寒いと言っていた。しかしこれほど延々と暑いとは思ってもみなかった。
「溶ける……」
「ファインは火属性だもんな。余計だよね。大丈夫か? 少し休もうか」
いつもなら多少疲れてようが大丈夫だと虚勢を張ったりするファインだが、この暑さは耐え難い。この地域にいる限り、どれだけ先に進もうが夏が終わって秋が来るまでずっとこの暑さだと思うとなおさら耐え難い。
「悪い、休む」
「悪くないよ。フォルアもいいよね?」
アルスが同意を求めると、フォルアはコクリと頷いてきた。水属性であり風通しのよさそうな服を着ているアルスですら薄っすらと汗をかいているのがわかる。
……汗、エロいな……。
熱にやられているのかぼんやりとそんなことを思いながら何気にフォルアを見ると、汗の一つもかかず涼しげだ。確かに上着の袖は半袖だが上質な生地といった風だけあってかっちりと着込まれているように見える。上着を脱げば涼しい恰好なのかもしれないが、フォルアは着込んだままだ。おまけに手袋の片方は肘の上まであるし、もう片方のそれよりも短めな手袋をしているほうの腕にはどのみち肘あたりまで長そうなサポーターをはめている。
「お前、暑くねえの」
「……普通」
普通?
普通、とは?
少し混乱しそうになりながら、ファインは思わずフォルアの額に触れてみた。ひんやりとしている。
「お前……生きてる? なあ、実は死んでるとかやめろよ。そういえば各所で出くわしてたはずだよなお前。だってちょいちょいお前の歌、オレら聞いてるもんな。その度に誰か死んでたり倒されてたり怪我したりしててオレ、めっちゃビビっ……じゃなくて、えぇっと、ああ、そう、お前人間でいいの?」
口元が引きつらないように心掛けつつ聞くと、フォルアは首を傾げてくる。
「おい、やめてくれよ何で首傾げてんだよマジで」
「ファイン落ち着いて。大丈夫だよ、フォルア生きてるよ。だって脈あるし」
ファインが動揺し始めたところでアルスがさらりとフォルアの首に手を伸ばし脈を計りながら言ってきた。フォルアは先ほど額に触れられた時もそうだったが、首に手を伸ばされてもぼんやりとしている。鈍いのだろうかと思いそうだったが、何度か見ているフォルアの戦闘能力と反応力を思うとそうは思えない。
「……ほんとお前なんなの……」
「フォルアだ」
「いや知ってるよっ? クソ。お前何で暑くねえの」
「……、……、……涼しい風……をまとってる、から?」
首を傾げて少しするとようやくそんな答えが返ってきた。ファインは呆れたようにため息をついた後に「なるほどな」と頷いた。
「そういえばフォルアは風属性だったな。いや、土だっけか?」
「……風、と土」
「冗談としか思えねえよな……。まぁ、で、風魔法を応用してるってわけか。だけどずっと発動してて疲れねえの」
「ごめん、俺、ファインが何言ってんのかわからないんだけど」
「アルスはほんと、の……」
「また脳筋って言うつもりだな? ファインは俺を一日一回は脳筋って言わないと気が済まないの?」
「悪い悪い、ついかわい、……じゃなくてからかい甲斐があって。要はアルスが水魔法応用して臨時に飲み水作ってくれる時あるだろ?」
「ああ、うん。今でも難しいけど」
「あんな感じで、フォルアは風魔法応用して自分の体か、身の回りに風を起こしてんじゃね。だから比較的涼しいってわけ」
「へぇ、すごい……ってそんなのめちゃくちゃ難しそうだけど」
「それをこいつはぼんやりしたまま常に発動してるってわけだ。フォルア、お前の魔力どうなってんの? 少なくともオレはそこまで使えねえよ」
ファインの言葉に、フォルアはまた首を傾げてる。
「あ、ねえ。だったらファイン、フォルアの風魔法で同じように涼ませてもらったら? 俺は水属性だしそこまで暑くないけどファインはきついだろ。なあ、フォルア、ファインにも風ってまとわせられるの?」
いいこと浮かんだといった様子でアルスが生き生きとした顔をフォルアに向けた。自分に使い慣れているものも、人に使うとなると調整は難しかったりする。逆に人に使うのは楽でも自分には難しいといった場合もある。魔力云々や使うのが上手い云々とはまた違う。魔術師であっても初めて使う力に関しては調整を間違えることもある。ましてやぼんやりとしつつフォルアが魔物に攻撃魔法をさらりと食らわせるところを見ているファインとしては嫌な予感しかしない。
「おいやめろアルス……」
「ファインに風魔法、かけてみてよ」
「……わかった」
「いや、だからいいっ……てぁぁぁぁあああああああっ」
上昇気流に巻き込まれそのまま遠い星になるかと思ったと、後でファインは申し訳ながっているアルスにここぞとばかりに抱きつきながらこぼした。
何より困惑しているのが気温だ。
一応四季で言うなら今が夏だということくらいファインも把握している。だが夏だというだけでどこを歩こうが延々と暑いなんて知らない。鍛冶屋は確かに加護がないから気候が定まっていないとは言っていた。春や秋は暖かかったり涼しかったりして、夏は暑く冬は寒いと言っていた。しかしこれほど延々と暑いとは思ってもみなかった。
「溶ける……」
「ファインは火属性だもんな。余計だよね。大丈夫か? 少し休もうか」
いつもなら多少疲れてようが大丈夫だと虚勢を張ったりするファインだが、この暑さは耐え難い。この地域にいる限り、どれだけ先に進もうが夏が終わって秋が来るまでずっとこの暑さだと思うとなおさら耐え難い。
「悪い、休む」
「悪くないよ。フォルアもいいよね?」
アルスが同意を求めると、フォルアはコクリと頷いてきた。水属性であり風通しのよさそうな服を着ているアルスですら薄っすらと汗をかいているのがわかる。
……汗、エロいな……。
熱にやられているのかぼんやりとそんなことを思いながら何気にフォルアを見ると、汗の一つもかかず涼しげだ。確かに上着の袖は半袖だが上質な生地といった風だけあってかっちりと着込まれているように見える。上着を脱げば涼しい恰好なのかもしれないが、フォルアは着込んだままだ。おまけに手袋の片方は肘の上まであるし、もう片方のそれよりも短めな手袋をしているほうの腕にはどのみち肘あたりまで長そうなサポーターをはめている。
「お前、暑くねえの」
「……普通」
普通?
普通、とは?
少し混乱しそうになりながら、ファインは思わずフォルアの額に触れてみた。ひんやりとしている。
「お前……生きてる? なあ、実は死んでるとかやめろよ。そういえば各所で出くわしてたはずだよなお前。だってちょいちょいお前の歌、オレら聞いてるもんな。その度に誰か死んでたり倒されてたり怪我したりしててオレ、めっちゃビビっ……じゃなくて、えぇっと、ああ、そう、お前人間でいいの?」
口元が引きつらないように心掛けつつ聞くと、フォルアは首を傾げてくる。
「おい、やめてくれよ何で首傾げてんだよマジで」
「ファイン落ち着いて。大丈夫だよ、フォルア生きてるよ。だって脈あるし」
ファインが動揺し始めたところでアルスがさらりとフォルアの首に手を伸ばし脈を計りながら言ってきた。フォルアは先ほど額に触れられた時もそうだったが、首に手を伸ばされてもぼんやりとしている。鈍いのだろうかと思いそうだったが、何度か見ているフォルアの戦闘能力と反応力を思うとそうは思えない。
「……ほんとお前なんなの……」
「フォルアだ」
「いや知ってるよっ? クソ。お前何で暑くねえの」
「……、……、……涼しい風……をまとってる、から?」
首を傾げて少しするとようやくそんな答えが返ってきた。ファインは呆れたようにため息をついた後に「なるほどな」と頷いた。
「そういえばフォルアは風属性だったな。いや、土だっけか?」
「……風、と土」
「冗談としか思えねえよな……。まぁ、で、風魔法を応用してるってわけか。だけどずっと発動してて疲れねえの」
「ごめん、俺、ファインが何言ってんのかわからないんだけど」
「アルスはほんと、の……」
「また脳筋って言うつもりだな? ファインは俺を一日一回は脳筋って言わないと気が済まないの?」
「悪い悪い、ついかわい、……じゃなくてからかい甲斐があって。要はアルスが水魔法応用して臨時に飲み水作ってくれる時あるだろ?」
「ああ、うん。今でも難しいけど」
「あんな感じで、フォルアは風魔法応用して自分の体か、身の回りに風を起こしてんじゃね。だから比較的涼しいってわけ」
「へぇ、すごい……ってそんなのめちゃくちゃ難しそうだけど」
「それをこいつはぼんやりしたまま常に発動してるってわけだ。フォルア、お前の魔力どうなってんの? 少なくともオレはそこまで使えねえよ」
ファインの言葉に、フォルアはまた首を傾げてる。
「あ、ねえ。だったらファイン、フォルアの風魔法で同じように涼ませてもらったら? 俺は水属性だしそこまで暑くないけどファインはきついだろ。なあ、フォルア、ファインにも風ってまとわせられるの?」
いいこと浮かんだといった様子でアルスが生き生きとした顔をフォルアに向けた。自分に使い慣れているものも、人に使うとなると調整は難しかったりする。逆に人に使うのは楽でも自分には難しいといった場合もある。魔力云々や使うのが上手い云々とはまた違う。魔術師であっても初めて使う力に関しては調整を間違えることもある。ましてやぼんやりとしつつフォルアが魔物に攻撃魔法をさらりと食らわせるところを見ているファインとしては嫌な予感しかしない。
「おいやめろアルス……」
「ファインに風魔法、かけてみてよ」
「……わかった」
「いや、だからいいっ……てぁぁぁぁあああああああっ」
上昇気流に巻き込まれそのまま遠い星になるかと思ったと、後でファインは申し訳ながっているアルスにここぞとばかりに抱きつきながらこぼした。
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