水晶の涙

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16話

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 ファインとアルスだけで探していた時は見つからなかったが、静かになってから少し時間が経ったのと今度はこの村の住民である男がいるからだろうか、他の生き残り住民を数名ではあるが見つけることができた。さほど大きな村というわけではないが、それでもあまりに少ない生存者に、男や見つかった住民だけでなくアルスたちも気持ちは下がる。
 その後もしばらくは村をくまなく探したが、生存者はそれ以上いない様子だった。アンデッドに襲われたとはいえ、建物自体はところどころ壊されつつもそのまま残っている。がれきになっているわけではない。なのでおそらくこれ以上探しても見つかることはないだろうと思われた。
 アンデッドに関しても新たな者が出てくる様子は今のところない。一番最初に出てきたアンデッドがどうだったかは男も知らないようだが、少なくとも知っている範囲では今まで出てきたアンデッドは皆、元は村の住民だった者ばかりだったそうだ。

「ろくでもねーな」

 ファインがぼそりと呟いていた。
 とりあえず今のところ危険はなさそうだし、もう少し様子を見て留まるにしても食料に限界がありそうだと、ファインとアルスは一旦村を出た。乾パンなどといった食料はほぼ残っていなさそうだったし、生ものは感染が怖いのでもし見つかっても手をつけられない。かなり見回って何も出なかったので大丈夫だとは思うけれどもまた先ほどのように隠れているようにと皆に言い聞かせ、二人は村から少し離れた辺りを様子見がてら探った。
 この辺りは町や村が少ないのか、辺りはほぼ平地や丘、林といった風景で、見つかる獲物も小動物が多かった。辛うじて見つけた道しるべで、ずいぶん先に行けばシュイナール王国があるのを知る。

「なあ、ファイン」

 狩りなどに集中して黙っていたアルスはぼそりと名前を呼んだ。

「ん?」
「……ボルフォルドって人の話、どう思う?」
「どう思うって言われてもなあ……過去だけの話を聞いたら、そのボルフォルドってじいさんも娘もかわいそうだなって思うよ。酷いよな、別に悪いことしたわけじゃねーのに何でそんな目に合わねーとなんだよ」
「うん」
「だけどそれとこれとは別だ。もし万が一、村をアンデッドに襲わせたネクロマンサーがそのボルフォルドなんだとしたら、やっぱふざけんなってオレは思う。今の村の住民は多分だけど、大抵が当時まだ生まれてなかったか、生まれてても小さかったかだろ。何で自分がしでかした罪でもねーことを背負わされなきゃなんねーんだ。過去にあった出来事をなしにはできねーけど、それとこれとは違う」

 ファインは先ほどアルスが易々と捕まえた小動物に触れようとせず、少し遠巻きに見ながら言ってきた。
 ちなみにアンデッドをあれほど呆気なく魔法で倒したファインだが、小動物を殺してさばくのが苦手だ。ファインいわく「だってかわいそうだろ」らしい。それはアルスもわからないでもないが、イノシシや鹿などそれなりに大きな動物は躊躇なくさばくくせにと少しおかしく思っている。アルスからすれば多少の魔物もイノシシもウサギも小鳥であってもどれも食用肉だ。むやみやたらに捕まえ殺す気はさらさらないが、生きるために仕方ないことだと思っている。
 とはいえアルスにも苦手なものはあるし、お互い様なのでこういった場合はアルスが何も言わず率先して小動物を狩ったりさばいたりしている。

「うん、俺もそう思う。まあ、あんな話聞いちゃったし、できればそのおじいさんじゃない死霊術師だったらいいなと思うけど」

 肉は新鮮な内にさばかないと生臭くなるしで、アルスは話しながらさくさくと小動物をさばいていった。ファインはそれとなく顔を逸らしながら「まあな。あと、もう諦めてどっか行ってくれてたらいいんだけどな」とため息を吐いている。
 肉ばかりもなんだし、と木の実や食用に出来る葉やハーブなども探したが、木々に溢れかえっている場所でもないので大して見つけることはできなかった。とはいえあまり空けるのも心配なので、二人は村へ急いだ。
 そして戻ってきたアルスの目に飛び込んできた光景は、あの日の光景を脳内によみがえらせてきた。
 あの日、無邪気にはしゃぎながら戻ってきて目にした大勢の死骸と壊滅した家々や木々や諸々──そして草木の混じったような土の匂いにさらに混じって否応なしに鼻につく血の匂い。
 かつてはとても大切だった家族の残骸。

「……ぁ……、あ……」

 がくがくと体中に震えが走っていると、ファインがアルスを抱き寄せるようにしてさっと物陰に身を隠した。そしてぎゅっとアルスを抱きしめてきた。

「アルス……ごめん。うまく安心させてやれない。でも今はしっかりしろ……ここはオレたちの村、アイトールじゃない。シュロンの村だ。そして敵はまだここにいる。少なくともオレたちの家族や村の皆を殺したやつらじゃねえ。アンデッドだ。わかるか?」

 ファインに抱きしめられ、静かな声で言われ、アルスはまず呼吸することを思い出した。ゆっくり吸ってゆっくり吐く。

 そう。違う。ここはシュロンの村で、俺らがいない隙を狙ったのか、あれほど探しても見つからなかったアンデッドがまた現れておじさんたちを殺した……。

 下唇をきゅっと噛みしめた。手も握りしめる。そして脱力した。

「……取り乱してごめん、ファイン。もう大丈夫」
「いい。大丈夫でよかった。でも何ならアルスは隠れてろ。オレが倒してくる」
「駄目だ。何があるかわからないし、こういう時は二人で行動したほうがいい。俺はもう大丈夫」

 抱擁を解いてきたファインに、アルスは剣を抜きながら気合いを入れた顔で見つめた。
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