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3話
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小さな村だった。王国に存在すら把握されていないかもしれないほど、アルスたちの村は小さな村だった。そんな村を、しかも壊滅した村で、それも生き残りが少年たった二人という状況で何ができたというのだろうか。
事件のあと、二人は旅に出るしかなかった。新たに王国や町に住むには専用の許可証や権利証がいる。村が襲われた二人なら多少は容易に許可が出たかもしれないが、それでもどれほど時間と金がかかるかわからなかった。ましてや身分を証明するものなど小さな村の、それも他の者はだれ一人生きていない状態では一切ない。どこかの村ならまだ自由に住めたかもしれないが、そこそこ何でもありな町と違い、生活力の大してない子ども二人を住まわしてくれる村を探すのも結局難しい。まだ子どもで何の資格もない二人にできることは限られていた。
アルスの剣技が結構なものだとは、外に出てから改めて知った。村でも期待されてはいたが、比較対象が限られていたのと父親がかなりの腕を持っていたのもあり、そこまで自分が強いのだと意識していなかった。死にかけ、色々経て何度かの依頼をこなすようになっただけでなく、旅の間に出くわす魔物との戦闘で実感した。それとともに、村が襲われた時の魔物が相当強かったのだとも実感する。
「父さんがいても駄目だったってことだもんな」
「うん、おじさんはマジで凄かったぞ。……運が悪かったんだ」
「運……。それに戦い方もあるとか。戦術っていうの?」
「それを言うならオレとお前でも壊滅的じゃないか? おじさんで駄目なのにガキのオレやお前に優れた戦術を考え出す頭があるとは思えねえ」
「確かに」
アルスとファインは顔を合わせて苦笑する。
「まあとりあえず今日の晩飯はゲットできたわけだし。よしとしようぜ。アルス様々だわ。オレお前に一生ついてく」
アルスが倒した獣をつかみながらファインがにこにこする。
「……俺の体が目当てなんだな」
口元を膨らませて言えば、ファインの時が一瞬止まったかのようになった。
「どうしたんだ? 時間を操る系の魔法なんて俺、使ってないけど。そもそも使えないし」
「言い方!」
「え?」
「お前、ちょっと言い方考えろよな。それに別に剣が目当てなわけないだろ。確かにこの獲物もアルスが倒してくれたおかげだけどさ。冗談じゃないか」
「冗談? だったらそうだな、俺もお前の体目当てにする。お得意の火魔法使っていい感じに肉、焼いてくれ」
「だから言い方……!」
ファインはまだ何か言っているが、気にする内容でもなさそうなので聞き流しながらアルスは倒した獣の肉を削ぎ始めた。
数日前まで小さいとはいえ町にいたのだが、そろそろ次の場所へ行くかとまた二人で旅をしている。いつかどこか気に入った町か村に住むことができればというのが今のささやかな夢だろうか。旅人では路銀があってもずっと同じ宿に留まり続けるわけにもいかない。余分に出せばずっと泊めてくれるかもしれないが、そこまで余裕があるわけでもない。
次の町か村まではどうやらおそらく距離があるようで、数日間テント生活が続いている。当時否応なしに旅を始めざるを得なくなった頃は、テントすらなく完全に野外だったことを思えば快適ではある。それにたまにではあるが朝方などに少々肌寒い時はファインにくっついていればいい。ファインの体温が高めなのか昔からくっつくと温かい。逆にアルスはファイン曰くひんやりしているらしい。子どもの頃に言われた。ただ最近は遅い反抗期なのかあまりくっつかせてくれない。
テントで過ごしていても野外とあまり変わらないのは害虫などだろうか。テントの上に落ちてくるならまだしも入ってくることもある。ただこれはとある町でありがたくも教えてもらった、特定のハーブを置くことで何とか防げている。ファインは香りのせいで「なんだかテントの中に知らねえ女がいるみたいで落ち着かねえ」と最初言っていたがそれもすぐに慣れたようだ。最近は「ハーブの匂い、お前についてる気がする」と言ってアルスのそばで匂いを嗅いだ後にハッとなり勝手に一人慌てていたこともある。疲れているのかもしれないので、次に運よくそれなりに大きな町が見つかったらファインのために風呂を探したいとアルスは思っている。水浴びなどでは取れない疲れもそれで癒されるだろう。
「そういや数日前までいた町のも一個前の町で話題に出てた話覚えてるか?」
薪に得意の火魔法で絶妙な火をつけてくれながらファインがアルスを見てきた。
「何の話のこと?」
「ほら、とある森で出てくる幽霊の話」
「ああ、何か言ってたな。それがどうかしたのか」
「いや、その、それってさ、この辺の森、じゃねえよな? って思って、さ。多分違う、よな。もっと違う地域のことだったよな」
「どうだろう。ちゃんと聞いてなかったからなあ」
どんな話だっけかとアルスは首を傾げる。宿の食堂で、一応そんな話はしていたな程度には覚えている。あといつもなら知らない相手でも気軽に話しかけるファインが比較的静かだったことも覚えている。だが肝心の内容はほぼ覚えていなかった。
「ほら、あれだよ。何か歌が聞こえてきたかと思って見に行っても誰もいないってやつ。だのにたまにその場所に死体が転がってることもあるってやつ。絶対ヤバいだろそれ。間違いなく霊だって。歌がぼんやり聞こえてくる時点でまずいだろ。何かセイレーンみたいに引き込んでとり憑いたり殺したりしてくるやつだろそんなん。実際死体が転がってることもあるってことは間違いないだろ」
「あー、そうだっけ」
改めてファインに聞いてもピンと来ない。多分どうでもよすぎて流していたんだろうなとアルスはそっと思った。その時だった。少し離れたところでほんのりと歌声のようなものが聞こえた気がしたのは。
事件のあと、二人は旅に出るしかなかった。新たに王国や町に住むには専用の許可証や権利証がいる。村が襲われた二人なら多少は容易に許可が出たかもしれないが、それでもどれほど時間と金がかかるかわからなかった。ましてや身分を証明するものなど小さな村の、それも他の者はだれ一人生きていない状態では一切ない。どこかの村ならまだ自由に住めたかもしれないが、そこそこ何でもありな町と違い、生活力の大してない子ども二人を住まわしてくれる村を探すのも結局難しい。まだ子どもで何の資格もない二人にできることは限られていた。
アルスの剣技が結構なものだとは、外に出てから改めて知った。村でも期待されてはいたが、比較対象が限られていたのと父親がかなりの腕を持っていたのもあり、そこまで自分が強いのだと意識していなかった。死にかけ、色々経て何度かの依頼をこなすようになっただけでなく、旅の間に出くわす魔物との戦闘で実感した。それとともに、村が襲われた時の魔物が相当強かったのだとも実感する。
「父さんがいても駄目だったってことだもんな」
「うん、おじさんはマジで凄かったぞ。……運が悪かったんだ」
「運……。それに戦い方もあるとか。戦術っていうの?」
「それを言うならオレとお前でも壊滅的じゃないか? おじさんで駄目なのにガキのオレやお前に優れた戦術を考え出す頭があるとは思えねえ」
「確かに」
アルスとファインは顔を合わせて苦笑する。
「まあとりあえず今日の晩飯はゲットできたわけだし。よしとしようぜ。アルス様々だわ。オレお前に一生ついてく」
アルスが倒した獣をつかみながらファインがにこにこする。
「……俺の体が目当てなんだな」
口元を膨らませて言えば、ファインの時が一瞬止まったかのようになった。
「どうしたんだ? 時間を操る系の魔法なんて俺、使ってないけど。そもそも使えないし」
「言い方!」
「え?」
「お前、ちょっと言い方考えろよな。それに別に剣が目当てなわけないだろ。確かにこの獲物もアルスが倒してくれたおかげだけどさ。冗談じゃないか」
「冗談? だったらそうだな、俺もお前の体目当てにする。お得意の火魔法使っていい感じに肉、焼いてくれ」
「だから言い方……!」
ファインはまだ何か言っているが、気にする内容でもなさそうなので聞き流しながらアルスは倒した獣の肉を削ぎ始めた。
数日前まで小さいとはいえ町にいたのだが、そろそろ次の場所へ行くかとまた二人で旅をしている。いつかどこか気に入った町か村に住むことができればというのが今のささやかな夢だろうか。旅人では路銀があってもずっと同じ宿に留まり続けるわけにもいかない。余分に出せばずっと泊めてくれるかもしれないが、そこまで余裕があるわけでもない。
次の町か村まではどうやらおそらく距離があるようで、数日間テント生活が続いている。当時否応なしに旅を始めざるを得なくなった頃は、テントすらなく完全に野外だったことを思えば快適ではある。それにたまにではあるが朝方などに少々肌寒い時はファインにくっついていればいい。ファインの体温が高めなのか昔からくっつくと温かい。逆にアルスはファイン曰くひんやりしているらしい。子どもの頃に言われた。ただ最近は遅い反抗期なのかあまりくっつかせてくれない。
テントで過ごしていても野外とあまり変わらないのは害虫などだろうか。テントの上に落ちてくるならまだしも入ってくることもある。ただこれはとある町でありがたくも教えてもらった、特定のハーブを置くことで何とか防げている。ファインは香りのせいで「なんだかテントの中に知らねえ女がいるみたいで落ち着かねえ」と最初言っていたがそれもすぐに慣れたようだ。最近は「ハーブの匂い、お前についてる気がする」と言ってアルスのそばで匂いを嗅いだ後にハッとなり勝手に一人慌てていたこともある。疲れているのかもしれないので、次に運よくそれなりに大きな町が見つかったらファインのために風呂を探したいとアルスは思っている。水浴びなどでは取れない疲れもそれで癒されるだろう。
「そういや数日前までいた町のも一個前の町で話題に出てた話覚えてるか?」
薪に得意の火魔法で絶妙な火をつけてくれながらファインがアルスを見てきた。
「何の話のこと?」
「ほら、とある森で出てくる幽霊の話」
「ああ、何か言ってたな。それがどうかしたのか」
「いや、その、それってさ、この辺の森、じゃねえよな? って思って、さ。多分違う、よな。もっと違う地域のことだったよな」
「どうだろう。ちゃんと聞いてなかったからなあ」
どんな話だっけかとアルスは首を傾げる。宿の食堂で、一応そんな話はしていたな程度には覚えている。あといつもなら知らない相手でも気軽に話しかけるファインが比較的静かだったことも覚えている。だが肝心の内容はほぼ覚えていなかった。
「ほら、あれだよ。何か歌が聞こえてきたかと思って見に行っても誰もいないってやつ。だのにたまにその場所に死体が転がってることもあるってやつ。絶対ヤバいだろそれ。間違いなく霊だって。歌がぼんやり聞こえてくる時点でまずいだろ。何かセイレーンみたいに引き込んでとり憑いたり殺したりしてくるやつだろそんなん。実際死体が転がってることもあるってことは間違いないだろ」
「あー、そうだっけ」
改めてファインに聞いてもピンと来ない。多分どうでもよすぎて流していたんだろうなとアルスはそっと思った。その時だった。少し離れたところでほんのりと歌声のようなものが聞こえた気がしたのは。
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