シロツメクサと兄弟

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27.考えと行動

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 休み時間に真剣に何かを考えている利央を見て、女子たちは「黒宮くんてどこか他の男子と違うよね」と噂をする。バカ騒ぎせず何かを考えている様子はとても大人っぽく見えたし、かと言って友だちがいないのではなくむしろ周りが話しかけにいったりする。
 また、教師に頼まれ少し重い荷物を運んでいる女子を見かけると躊躇なく率先して「貸して」と持ってくれる。
 中には本気で好きだと思っている女子も少なくない。
 とはいえ利央が休み時間に実際考えていることは、兄を思っての夕飯の献立だったり買い物についてが大半だ。また、自分より小柄な人が重そうなものを持っているのを見ると兄とタブってしまい、いてもたってもいられないからだったりする。
 周りを疎かにしたいわけではないのでそれなりに友だちとも接しているため、せいぜいブラコンだとからかわれる程度にしか思われていないが、基本的に利央の脳内は元々ほぼ兄でできている。
 おまけに最近兄への思いを明確に理解したため、ますます利央の中はほぼ兄で占められていた。

「利央、冬休みどっか行く?」

 翼が聞いてきた時も考える素振りすら見せず「いや、兄貴といたいし」と答える。

「お前何か酷くなってねぇ?」
「酷いとか言うなよ。兄貴が大事なだけだ」
「……何でそんな堂々としてんだよ……」

 焦った様子もなく普通に答える利央に、翼の方が何故か動揺している。

「別に隠すことでもないだろ。兄が大事って気持ちくらい」

 違う意味で好きだとはさすがに公言しないけどなと利央は心の中で付け加えた。

「……で、もそれまるであれだ、その、俺、せーやの影響かもだけどあれだ、ホモ的な感じでお兄さん好きなんかって思われそうだろ……?」

 翼はそういえば男同士に対して引いてたっけと利央は思う。だが世間一般では同性どころか血縁に対して、普通恋愛感情など結びつきもしないだろうし周りも疑わないだろうと、実際血縁である律が大好きな利央は生ぬるい表情で翼を見た。その翼はドン引きしたようではなくむしろ赤い顔をしており、利央は怪訝な顔になる。

「そんな意味わかんねぇみたいな顔すんなよな! あれだ、一般的なその、意見として」
「一般? 一般な……。いや、意味わからんと言うか。まあ別にそう思いたいなら思えばいいし」

 それに実際間違ってないしな、とまた心の中でだけ付け加える。
 利央の言葉を聞いていた別の男子が「黒宮マジイケメンだな」と間に入ってきた。

「それに比べて翼、お前ムキになるからからかわれんだろうがよ」
「うるせぇ、別にムキになってねぇよ! お前らが俺と涼を変な風にからかってくるだけだろ!」

 なってるだろムキに……と利央も言った相手も苦笑した。そのあとでふと、この双子もどちらかがもしかして自分と同じように……? と利央の頭に過った。先ほどのような、たまに気になる翼の反応のせいでそんな発想に至ったのかもしれない。
 だがまさかな、と頭をそっと振る。双子は何だかんだ言ってお互いを大事だとは思っていそうだが、昔から特に仲が物凄くいいという印象はない。双子だとよく一緒にいたりするイメージもあるが、基本的に別行動だったような気がする。
 最近は何故かよく翼が涼の教室に行ったりしてはいるが、でも別れたとは言え二人とも彼女もいた。

 兄貴が好きな俺も中学の時に彼女いたけれどもな。

 利央は「ブラコン」「違ぇし」と言い合いをしている友だちらを放置して考えた。考えだが、律が好きだと自覚してからは献立以外にも色々考えるバリエーションが増えた気がする。
 兄が恋愛対象なので順序を色々間違えそうになるが、彼女と付き合っていた時を思えばやはりキスや諸々は普通付き合ってからだよなと思う。かと言って何度も「兄貴が好きだ」と言っているのだが、まずどうにも伝わらない。困ったものだなと思う。
 好きだと言うタイミングが悪いのだろうか。それともやはり付き合う云々は無視してじわじわペースを上げていくべきなのだろうか。

「黒宮くんが真剣な顔で何か考えてる」
「ほんとカッコいいよね。どんなこと考えてるのかなあ」

 少し離れたところで女子たちがまたそんな話をしていた。



 夕食を食べた後、最近は律も利央もこたつに入ってぼんやりTVを観ている。まだそこまで寒くはないが。こたつに入ると妙にだらだら寛いでしまう。食後に食器を洗いに行くのも面倒に思える。
 利央がだらだらとしていると律が運んで行ってしまうので慌てて「俺が」と立ち上がろうとするのだが「いいよ、俺がする」と律に洗わせてしまうこともたまにある。

「悪い兄貴」

 戻ってきてまたこたつに入ったところで律に利央が言うと「何で謝んの」と笑われた。

「だって朝も洗いものしてくれてるし」
「お互い様でいいじゃない。りおがご飯作ってくれてんだしさ」

 お互い様と言うなら律は働いてくれているのだから自分が他のことしたいのだと利央は内心思うが、この話は言っても詮無きことだと最近はあまり言わないようにしている。

「手、冷たくなってる」

 その代わり律の手をとり、その指先に触れた。

「そろそろ水も冷たくなってくる時期だな」

 律はそんな利央の行動に違和感を覚えた様子もなく、普通に答えてくる。利央はその指をギュッと握った。

「りお?」
「俺、兄貴好きだよ」
「え? ああうん。俺もりお好き」
「兄貴とは違う意味で」
「え?」

 付け足すと律は怪訝そうにポカンとした表情で利央を見てきた。利央はニッコリ笑いかける。
その笑顔を見た律はどこか安心したようなホッとしたような様子になった。少しは違和感というか、弟として言っているのではないということを感じとってもらえたのだろうか。その上で利央の笑顔を見て、いや気のせいだったかと思ったのだろうか。

 だとしたら気のせいじゃないよ。だけれどもごめんね、兄貴。ちょっと悩んでもらってもいいかなって思ってる。

 利央はさらに笑いかけ、握っていた指をゆっくりと離して手の甲へ掌を這わせていく。
 嫌がらせしたいのではない。大切で大事で大好きな兄にそんなことしたくない。ただ、悪いなと思いつつもそうして悩んでもらい、利央を今と違う風に、そして真剣に考えて欲しい。
 それも自己中心的な考えだろう。言い方を変えても、結局のところ律を悩ませようとしている。
 誰かを好きになるっていうのは本当に優しくないなと、利央はそっと他人事のように思った。

 俺だけかもだけど。

「……りお?」

 手の甲を軽く握った後でその指に今度は利央の指を絡ませていると、律がまた戸惑ったように利央の名前を呼んできた。

「何?」
「あの……」
「兄貴、そういや今日って面白い番組やるって言ってなかった?」
「……え? あ、ああ、そうだっけ」
「うん。もうそろそろじゃない?」

 利央は弄んでいた律の手を離し、リモコンに手を伸ばした。律はやはりどこか怪訝そうな顔をしたままだった。
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