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45.窮鼠猫を噛めない(終)※
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あの時本気で怖かった。もう自分の人格というものが真っ白に消えてなくなりそうなくらい恐ろしさに震え抗っていた。
暴力を受けている際ひたすらずっと助けて欲しいと願っていた相手が来てくれた時には、違う意味で真っ白になった。
それでもやはり五月先生は怖かった。人にあんな暴力を振るえるんだ、あんなことができるんだ、と思った。そして実家は怖いところだったんだ、と。
やっぱり怖い人。なのになぜこんなに安心しているのだろう。
アパートへ送られると知った時はこのまま離れて欲しくないと思った。今なお震えが止まらない自分をもっと安心させて欲しいと、大変な思いをしたであろう五月先生に対してとても自分勝手なことを思い願った。
いつも無理やり僕をどうこうしてくる五月先生が怖かった。でも無理やりされることが本当はどういうことか身をもって思い知った。
五月先生はいつだって僕を無理やりどうにかしてくると思っていたけども、実際は僕を優しく扱い本当に恐ろしいことなど何一つしていなかった。
今もとても優しく僕の服を脱がせ、キスしてきて、それでもあの男に殴られ痛む頬と唇に僕が顔を歪めると「すみません」と謝ってこられた。
「……大丈夫、です……。大丈夫なんで、僕の震えが止まるまで……お願いです、先生……」
何て言えばいいのかわからない。
ぎゅっと抱きしめて欲しい、愛撫して欲しい、いたぶって欲しい、貪って欲しい。
国語の先生をしているのだ、日本語はわかる。でも恥ずかしくて言えないようなことしか思いつかなかった。
こういう場合、他の人は何と言うのだろう。結局思いつかなくて、そして恥ずかしくて言葉は続かなかった。代わりに顔が熱くなりながらも五月先生に手を伸ばし、僕がぎゅっと抱きしめた。
「……本当だ、震えてる……」
五月先生がぼそりと、だけれどもなぜか嬉しそうに呟く。
だってまだ震えが止まらない。でも今は怖いから震えているのか、それとも違う意味で震えているのか、わからなくなってきていた。
五月先生の唇が僕の首筋を這う。そしてその唇が僕の胸にくると、体の震えがまた酷くなった。
「っぁ……、ん、ん」
唇が僕の乳首を包み込むと背中の方にまで痺れが走った。唇に包み込まれたままさらに舌で包まれる。
「んん、ぅ」
その舌が僕の乳首を散々に舐ってくる。その上ちゅっと吸われ、僕はさらに痺れて体が少し反る。そのせいでまるで五月先生に胸を押しつけるみたいになった。
ああでも押しつけたい。
先程までの嫌な震えがどこかに消え、変わりに甘く切ない痺れを伴う震えが僕を襲う。
こんな震えを味わえるなら……。
反らせた背中に五月先生のあの細くて綺麗な指が伝った。
「ひ、ぁ……」
「内藤先生……いつも以上に敏感ですね」
多分それは今、五月先生を正面から受け止めているから。いつもよくわからないまま流され、していた行為とは少し、違うから。
「……先生を、感じたい、んです……」
思わずそう言ってしまうと、五月先生はとても唖然とした顔をしてきた。やっぱり僕はあまり何も言わない方がいいのかもしれない。国語の先生として情けない話だけれども。
「っひ、ぁ……っ」
変なこと言ったのだろうなとまた顔を熱くしていると、五月先生に僕のペニスを弄られた。括れのところに手を回してきてきゅっと圧迫される。それだけで僕の先からはトロリと溢れだす。先生は人差し指でその濡れた液体を塗り込めるように先っぽの割れ目をこねくり回してきた。
「ぁ、あっ、ひぁ」
僕の背中にまた電流が走った。しかもたまに爪先で掻かれるようにしてこられ、その強い刺激に思わず涙が溢れてきた。そんな僕を見てニッコリ笑った後、先生は僕のそれを口に含んできた。
「ぅ、ん、んっ、ぁ、あっ、待っ……、ぁあ、あっ」
五月先生の口はまるで魔法のように、巧みに僕のものをいたぶってくる。弱い部分をとてもよく知っていて、そこを執拗に舐めたり口全体で扱いてきたり、挙句の果てに吸われたりされると僕はいつもアッと言う間に果ててしまう。
「もうイってしまわれましたか」
五月先生の言葉に、僕の顔がまた熱くなった。
「こんなにびしょ濡れにさせながらもイくとまだ出るんだな? ローションいらず、だな」
五月先生は囁くと、僕ので濡らした指を僕のお尻に這わせてきた。穴らへんにそれを塗り込むようにしてマッサージしてくるだけで、僕はまた堪らなくなってくる。その指がゆっくり僕の中へ入ってくると、一瞬の違和感の後で乳首の先にまで響くような快楽が押し寄せてきた。
「っぁ、あ、ああっ」
「本当に快楽に弱い体だな、貴生」
先生が最中に僕を名前で呼ぶところが、実は嫌いじゃない。
徐々に押し広げられていく感覚を味わいながら僕は思っていた。
「……さつ、き……せんせ……い……」
「ん?」
僕の声が変に熱を帯びていて恥ずかしい。でも、もう耐えられなかった。
「おね、がいです……指じゃ、なくて……先生の、を……」
五月先生がまた唖然とした顔で僕を見てきたような気がする。でも五月先生の家で、この部屋で、おもいきり抱かれるのを、もしかしたら先生が僕を避けるようになってからずっと待ちわびていたのかもしれない。
「……っ貴生……」
五月先生は僕の名前を呟くと、僕の手をつかんで傷ついた手首に優しくキスしてきた。それからゆっくり、僕の中に先生の硬いものを挿入してくる。
「っひ、っん、んん、ぅあ、あっ、あっああ」
五月先生の大きなものが僕の後ろを押し破るかのように入ってくる。そして中をみっちり満たしていく。
それはゆっくり、ゆっくり僕の中で、まるでミチミチと音がしそうなほど押し広げながらいっぱいにしてきた。僕はその勢いで射精してしまった。
「ところてんか? かわいいな」
「ぅ、う……、……っぁ、ひ……ん、んんっ、んぅ、ぅ、う」
射精してしまった後もそれはまだ中に入ってくるものの、限界までくると暫く留まってくれた。だがいっぱいに広がり圧迫してくるそれが、動いてもいないのに僕の息を荒げさせてくる。
とはいえ、そのままは耐えられない。僕はモゾモゾ体を動かした。五月先生は耳元に顔を近づけて「どうかしたか」と囁いてくる。その際に少し中で動いたせいで、耳と中の刺激により僕はまた変な声が出た。恥ずかしくて顔を覆うと、手でどけられる。そしてまた耳元で「どうして欲しい」と囁いてくる。
「う、動いて……お願、動いて、くださ……」
やっぱり五月先生は意地悪だ。そう思いながらもたまらず懇願すると、ニッコリ笑みを見せた後で先生が動いてくれた。
「っひ、ぁぁ、あっあっ、ん、あぁ、んっ、ぅん」
先生が動く度、僕の弱い部分に先生の括れのところが擦れてくる。そして僕の奥に戦慄くような痺れをよこした後でそれは引いていき、ぞくぞく震えるような排泄感にも似た思いにさせられる。ひたすらそれを繰り返され、僕はおかしくなりそうだった。
隙間なくみっちり満たしてくる上に色んな部分を刺激され、僕の体は反り上がり大きく震え続けた。
「っああああ、あっあっ、ひっああ」
「俺の貴生……」
五月先生はそう囁いた後で僕にまたそっとキスしてきた。
電話では大丈夫だと伝えていたものの、僕が戻ると神野さんは本当に嬉しそうに僕を抱きしめてくれた。その後僕らは五月先生によって引きはがされたけれども。
神野さんは今でもやっぱり優しい。アパートで出会うといつもにこやかに話しかけてくれるし、たまに「一緒にご飯作ろう」と誘ってくれる。もうお泊まりをすることはないけれども、一緒に料理してそれを一緒に食べるのはやっぱりとても嬉しいし楽しい。僕の傍に五月先生がいる時に限って、妙なちょっかいもかけてくるけれども。
五月先生はよく「あいつはアレだから相手にするな近づくな」なんて言ってくるけれども、僕からしたら神野さん、五月先生を怒らせるのを楽しんでいるような気もしなくは、ない。
堂崎さんともあの後で何回か会っている。最初は泣きそうな顔して僕に沢山謝ってこられた。でも「謝っていただくと本当に僕が居たたまれないので」と何度も言うと、前の軽い感じの堂崎さんにもどってくれた。別に軽い感じを歓迎している訳ではないし、相変わらずやっぱり軽いのにどこか五月先生に似て怖い感じの人だ。でもそれが嫌いじゃない。
たまに「三人でしようよ」などと何をするのかわからないけれども楽しそうに言ってきた後、毎回五月先生に「帰れ」とそっけなく拭払されている。
五月先生は僕のことを、二人きりの時は普段でも「貴生」と呼ぶようになっていた。敬語で「内藤先生」と呼んでくるのは基本的に学校にいる時だけ。僕にも和実と呼ぶよう言ってきたが、色々無理だと思う。
どうやら僕と五月先生は付き合っている、らしい。らしい、と言ったのは実感がないから。でもなぜか神野さんや堂崎さん、そしてどうにも恥ずかしいのだけれども堂本先生や鬼崎先生はそういう風に見てくる。
なぜだろう?
だって五月先生は僕に「好きなので付き合ってください」と告白してきていない。そして僕は相変わらずこんなに五月先生が怖いというのに。
「今朝、俺を見た途端逃げましたよね?」
「……っひ」
今も学校の廊下で急にそう声をかけられ、僕はわたわた焦った後にそろりそろりと五月先生から距離をとっていたところだというのに。
「今も逃げようとしている。ちょっと色々勉強する必要があるようですね、内藤先生。昼休み、保健室にいらしてください」
そしてニッコリ言った後に去って行く五月先生を恨めしげに見ていたというのに。
なんでだろう? 付き合って……いるのか?
不思議に思いつつ、それでも僕は体を震わせながらも「先生やたら時計気にしてるね」などと生徒に言われながらも、昼休みになったら保健室へ行く。
「貴生。おいで」
そして優しくそう言ってくる五月先生の元に、自ら足を運ぶのだろう。
暴力を受けている際ひたすらずっと助けて欲しいと願っていた相手が来てくれた時には、違う意味で真っ白になった。
それでもやはり五月先生は怖かった。人にあんな暴力を振るえるんだ、あんなことができるんだ、と思った。そして実家は怖いところだったんだ、と。
やっぱり怖い人。なのになぜこんなに安心しているのだろう。
アパートへ送られると知った時はこのまま離れて欲しくないと思った。今なお震えが止まらない自分をもっと安心させて欲しいと、大変な思いをしたであろう五月先生に対してとても自分勝手なことを思い願った。
いつも無理やり僕をどうこうしてくる五月先生が怖かった。でも無理やりされることが本当はどういうことか身をもって思い知った。
五月先生はいつだって僕を無理やりどうにかしてくると思っていたけども、実際は僕を優しく扱い本当に恐ろしいことなど何一つしていなかった。
今もとても優しく僕の服を脱がせ、キスしてきて、それでもあの男に殴られ痛む頬と唇に僕が顔を歪めると「すみません」と謝ってこられた。
「……大丈夫、です……。大丈夫なんで、僕の震えが止まるまで……お願いです、先生……」
何て言えばいいのかわからない。
ぎゅっと抱きしめて欲しい、愛撫して欲しい、いたぶって欲しい、貪って欲しい。
国語の先生をしているのだ、日本語はわかる。でも恥ずかしくて言えないようなことしか思いつかなかった。
こういう場合、他の人は何と言うのだろう。結局思いつかなくて、そして恥ずかしくて言葉は続かなかった。代わりに顔が熱くなりながらも五月先生に手を伸ばし、僕がぎゅっと抱きしめた。
「……本当だ、震えてる……」
五月先生がぼそりと、だけれどもなぜか嬉しそうに呟く。
だってまだ震えが止まらない。でも今は怖いから震えているのか、それとも違う意味で震えているのか、わからなくなってきていた。
五月先生の唇が僕の首筋を這う。そしてその唇が僕の胸にくると、体の震えがまた酷くなった。
「っぁ……、ん、ん」
唇が僕の乳首を包み込むと背中の方にまで痺れが走った。唇に包み込まれたままさらに舌で包まれる。
「んん、ぅ」
その舌が僕の乳首を散々に舐ってくる。その上ちゅっと吸われ、僕はさらに痺れて体が少し反る。そのせいでまるで五月先生に胸を押しつけるみたいになった。
ああでも押しつけたい。
先程までの嫌な震えがどこかに消え、変わりに甘く切ない痺れを伴う震えが僕を襲う。
こんな震えを味わえるなら……。
反らせた背中に五月先生のあの細くて綺麗な指が伝った。
「ひ、ぁ……」
「内藤先生……いつも以上に敏感ですね」
多分それは今、五月先生を正面から受け止めているから。いつもよくわからないまま流され、していた行為とは少し、違うから。
「……先生を、感じたい、んです……」
思わずそう言ってしまうと、五月先生はとても唖然とした顔をしてきた。やっぱり僕はあまり何も言わない方がいいのかもしれない。国語の先生として情けない話だけれども。
「っひ、ぁ……っ」
変なこと言ったのだろうなとまた顔を熱くしていると、五月先生に僕のペニスを弄られた。括れのところに手を回してきてきゅっと圧迫される。それだけで僕の先からはトロリと溢れだす。先生は人差し指でその濡れた液体を塗り込めるように先っぽの割れ目をこねくり回してきた。
「ぁ、あっ、ひぁ」
僕の背中にまた電流が走った。しかもたまに爪先で掻かれるようにしてこられ、その強い刺激に思わず涙が溢れてきた。そんな僕を見てニッコリ笑った後、先生は僕のそれを口に含んできた。
「ぅ、ん、んっ、ぁ、あっ、待っ……、ぁあ、あっ」
五月先生の口はまるで魔法のように、巧みに僕のものをいたぶってくる。弱い部分をとてもよく知っていて、そこを執拗に舐めたり口全体で扱いてきたり、挙句の果てに吸われたりされると僕はいつもアッと言う間に果ててしまう。
「もうイってしまわれましたか」
五月先生の言葉に、僕の顔がまた熱くなった。
「こんなにびしょ濡れにさせながらもイくとまだ出るんだな? ローションいらず、だな」
五月先生は囁くと、僕ので濡らした指を僕のお尻に這わせてきた。穴らへんにそれを塗り込むようにしてマッサージしてくるだけで、僕はまた堪らなくなってくる。その指がゆっくり僕の中へ入ってくると、一瞬の違和感の後で乳首の先にまで響くような快楽が押し寄せてきた。
「っぁ、あ、ああっ」
「本当に快楽に弱い体だな、貴生」
先生が最中に僕を名前で呼ぶところが、実は嫌いじゃない。
徐々に押し広げられていく感覚を味わいながら僕は思っていた。
「……さつ、き……せんせ……い……」
「ん?」
僕の声が変に熱を帯びていて恥ずかしい。でも、もう耐えられなかった。
「おね、がいです……指じゃ、なくて……先生の、を……」
五月先生がまた唖然とした顔で僕を見てきたような気がする。でも五月先生の家で、この部屋で、おもいきり抱かれるのを、もしかしたら先生が僕を避けるようになってからずっと待ちわびていたのかもしれない。
「……っ貴生……」
五月先生は僕の名前を呟くと、僕の手をつかんで傷ついた手首に優しくキスしてきた。それからゆっくり、僕の中に先生の硬いものを挿入してくる。
「っひ、っん、んん、ぅあ、あっ、あっああ」
五月先生の大きなものが僕の後ろを押し破るかのように入ってくる。そして中をみっちり満たしていく。
それはゆっくり、ゆっくり僕の中で、まるでミチミチと音がしそうなほど押し広げながらいっぱいにしてきた。僕はその勢いで射精してしまった。
「ところてんか? かわいいな」
「ぅ、う……、……っぁ、ひ……ん、んんっ、んぅ、ぅ、う」
射精してしまった後もそれはまだ中に入ってくるものの、限界までくると暫く留まってくれた。だがいっぱいに広がり圧迫してくるそれが、動いてもいないのに僕の息を荒げさせてくる。
とはいえ、そのままは耐えられない。僕はモゾモゾ体を動かした。五月先生は耳元に顔を近づけて「どうかしたか」と囁いてくる。その際に少し中で動いたせいで、耳と中の刺激により僕はまた変な声が出た。恥ずかしくて顔を覆うと、手でどけられる。そしてまた耳元で「どうして欲しい」と囁いてくる。
「う、動いて……お願、動いて、くださ……」
やっぱり五月先生は意地悪だ。そう思いながらもたまらず懇願すると、ニッコリ笑みを見せた後で先生が動いてくれた。
「っひ、ぁぁ、あっあっ、ん、あぁ、んっ、ぅん」
先生が動く度、僕の弱い部分に先生の括れのところが擦れてくる。そして僕の奥に戦慄くような痺れをよこした後でそれは引いていき、ぞくぞく震えるような排泄感にも似た思いにさせられる。ひたすらそれを繰り返され、僕はおかしくなりそうだった。
隙間なくみっちり満たしてくる上に色んな部分を刺激され、僕の体は反り上がり大きく震え続けた。
「っああああ、あっあっ、ひっああ」
「俺の貴生……」
五月先生はそう囁いた後で僕にまたそっとキスしてきた。
電話では大丈夫だと伝えていたものの、僕が戻ると神野さんは本当に嬉しそうに僕を抱きしめてくれた。その後僕らは五月先生によって引きはがされたけれども。
神野さんは今でもやっぱり優しい。アパートで出会うといつもにこやかに話しかけてくれるし、たまに「一緒にご飯作ろう」と誘ってくれる。もうお泊まりをすることはないけれども、一緒に料理してそれを一緒に食べるのはやっぱりとても嬉しいし楽しい。僕の傍に五月先生がいる時に限って、妙なちょっかいもかけてくるけれども。
五月先生はよく「あいつはアレだから相手にするな近づくな」なんて言ってくるけれども、僕からしたら神野さん、五月先生を怒らせるのを楽しんでいるような気もしなくは、ない。
堂崎さんともあの後で何回か会っている。最初は泣きそうな顔して僕に沢山謝ってこられた。でも「謝っていただくと本当に僕が居たたまれないので」と何度も言うと、前の軽い感じの堂崎さんにもどってくれた。別に軽い感じを歓迎している訳ではないし、相変わらずやっぱり軽いのにどこか五月先生に似て怖い感じの人だ。でもそれが嫌いじゃない。
たまに「三人でしようよ」などと何をするのかわからないけれども楽しそうに言ってきた後、毎回五月先生に「帰れ」とそっけなく拭払されている。
五月先生は僕のことを、二人きりの時は普段でも「貴生」と呼ぶようになっていた。敬語で「内藤先生」と呼んでくるのは基本的に学校にいる時だけ。僕にも和実と呼ぶよう言ってきたが、色々無理だと思う。
どうやら僕と五月先生は付き合っている、らしい。らしい、と言ったのは実感がないから。でもなぜか神野さんや堂崎さん、そしてどうにも恥ずかしいのだけれども堂本先生や鬼崎先生はそういう風に見てくる。
なぜだろう?
だって五月先生は僕に「好きなので付き合ってください」と告白してきていない。そして僕は相変わらずこんなに五月先生が怖いというのに。
「今朝、俺を見た途端逃げましたよね?」
「……っひ」
今も学校の廊下で急にそう声をかけられ、僕はわたわた焦った後にそろりそろりと五月先生から距離をとっていたところだというのに。
「今も逃げようとしている。ちょっと色々勉強する必要があるようですね、内藤先生。昼休み、保健室にいらしてください」
そしてニッコリ言った後に去って行く五月先生を恨めしげに見ていたというのに。
なんでだろう? 付き合って……いるのか?
不思議に思いつつ、それでも僕は体を震わせながらも「先生やたら時計気にしてるね」などと生徒に言われながらも、昼休みになったら保健室へ行く。
「貴生。おいで」
そして優しくそう言ってくる五月先生の元に、自ら足を運ぶのだろう。
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