猫と鼠

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38.理解できない鼠 ※

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 またため息つかれたが、僕は構わず聞いた。だって明らかに違和感しか感じられなかった。

「これはどうしたんです……?」
「……あれだ。やけどです」

 五月先生らしからぬあまりにバレバレの言い訳に、僕はますます不審に思う。

「もっと大事そうですが、この巻かれ方は……」

 僕が恐る恐る言うと何とも変な顔で見られた。

 そ、そりゃいつもびくびくしてるのは認めるけど……でもこれは……。

「……ちょっと包装されてたものを切るのに、間違えて自分の手を切った」
「…………」

 本当に五月先生らしくない。いや、何が五月先生らしいのだと聞かれても僕には答えられないけれども。
 でもこれでわかった。

「なぜ手を切ったこと、そんなに隠そうとするんですか……?」
「何でわかるんだ」

 ……もしかして僕は五月先生にバカだと思われているのだろうか。

 でもいつも怯えているところしか見ておられないだろうし、挙句の果てに一人ですることすらできないと思われているだろうし、確かにあまり賢そうじゃないかもしれない。
 仕方ない。とりあえず僕を避けていたのと、この怪我は何か関係あるのだろうか。だから五月先生にしては不自然な勢いで隠すのだろうか。
 そう思ってみたところでやはり理由などわからない。僕のせいで怪我をしたとは、さすがに色々自信のない僕でも思わない。

 だとしたら、なぜ?

 いや、そもそもなぜ僕はこんなに気にしているのだろう。五月先生は大人なのだしおまけに保健の先生だ。例え怪我してもご自分できちんと対応されているだろうし、僕が心配する必要などないはずだ。
 それにもし五月先生が僕を何らかの理由で避けていたのだとしても、僕には関係ないことだしむしろホッとするところのはず。

「……別に、言いたくないなら構わないです……。プリントは確かに置きましたので、その、僕は戻ります……」

 僕は五月先生の抱擁が解かれていたのでそのまま踵を返して保健室を出ようとした。するとその前に五月先生が先に出入り口まで足早に歩くと鍵をしてしまった。
 僕は立ちつくす。少しだけ、足が震えた。

「俺の前にわざわざやってきたごちそうを、むざむざ逃すとでも?」
「何を……言って……?」

 ごちそうとは、どういうことなのか。

 ……え?

 まさか僕のこと言っているのだろうか。怪訝に思っている僕にニッコリ笑いかけると、五月先生はそのまま僕を抱き抱えベッドまで運んだ。

「手を怪我しているのに、何して……」
「この状況でそこですか。相変わらずところどころで考えがずれておられますね。緊張感がありませんよ」

 五月先生はやはりニッコリされたまま、だが否応なしに僕のジャケットを脱がせてくるとネクタイをほどき、シャツのボタンを外してきた。

「おや? 抵抗、されないんですか?」
「……だってその……い、嫌がって五月先生をどけようとしたら何か手にあたりそうで……」

 切ったのであろう手に巻かれている包帯を見ていると、とても痛そうに思える。僕が抵抗して手を出すと、そこに当たったりつかんだりしそうで怖い。

「……本当にあなたは。危機感もずれてますよ。まあ、助かります」

 五月先生はまた微笑むと、そのまま僕にキスしてきた。そして露わにされた胸に手が触れられる。そこは自分で触ってみたけれども、ちっとも気持ちよくなかった。なのになぜ人に……五月先生に胸を触れられると、こんなにどうしようもなく背筋にまでくるのだろう。
 五月先生の手は下にもやってきた。
 なぜ五月先生に触れられるだけで、そこはジンジンと堪らなく疼くのだろう。

「……っぁ……、ぁ」
「……ローションがいらなさそうですよ? 内藤先生……。本当に見かけによらず厭らしい体ですね」

 どこからか聞こえる水音は僕のものなの?

 僕はもう何も考えられなくなる。
 五月先生の唇が僕の首筋や鎖骨、胸などを這う。その度にゾクゾクした震えが走る。五月先生の手が僕の疼くモノやそしてお尻の穴を刺激してくる。その度に突きぬけるような電流が走る。
 そして五月先生の硬いものが僕を貫いてくると、僕はもう他のことなどどうでもよくなるくらい、それしかわからなくなる。
 お腹の中もおかしなことになっている。とても苦しいのに僕の中を満たしてくるそれが奥を、そして入り口をかきまわしてくる度に気がふれそうになる。もっと僕の中を激しくかきまわして欲しい、沢山満たして欲しいとまで思い、腰がそれを求めにいく。

「っぃあ……っ、ぁぁ、ぁっ、ひ……っ、ん、んん」

 体の震えが止まらない。もっとして欲しくて、堪らなくて。
 僕はきっとおかしくなった。
 そして五月先生も沢山してきた。僕を前から、そして後ろから、下からと突き上げてくる。
 こんな保健室で。学校で。僕は一体どうしてしまったのだろう。硬いベッドの上で僕は顔も体もぐちゃぐちゃになりながらひたすら情けない声を出していた。何度頭の中まで電流が走ったかわからない。

 やっぱり僕はきっと、おかしく、なった……。

「……っぁああ、あっあああ……っ」

 僕の体の中が何か熱いもので満たされると、僕はむしろホッとしたようになり少しの間、意識を飛ばした。



 意識が戻ったのは五月先生が僕の体を拭いている時だった。

「……っひ?」
「……ああ、よかった。お目覚めですか。このまま昼休み終わっても目覚められなかったらどうしようかと思ってましたよ。でも案外早いお目覚めでよかった」

 そんなに時間は経っていないということかな。そう思った後で居たたまれなくなる。顔がとてつもなく熱くなった。

「あ……あの、そ、その、じ、自分で、します、から……」
「お気になさらず。俺はコンドームをしてましたしね、内藤先生の出されたものを拭くだけですから」

 何であえてそういう風に言うのですか。余計に居たたまれない。よく覚えてないけれども、きっと、とても恥ずかしい様子だったに違いないし、今も恥ずかしい。

 服、早く着たい……。

「……内藤先生」
「……は、はい?」
「もう暫くはここに寄りつかない方がいいですよ。でないと先ほどのように俺は無茶します。授業に差し支えるのはよくない」
「……」

 僕はポカンと五月先生を見た。元々僕が怯え、嫌がっていたのにいつも無茶してきたのではないですか。なのに何でそんな事を言うんですか。
 確かに今まで授業に支障が出るようなことされはしなかった。それでも意味がわからない。

 じゃあなぜ家に来られないんですか。
 家に僕を連れて行かないんですか。

 でも声にはならなかった。僕が俯いていると、額にキスされた。
 僕は、五月先生が怖い。そして、本当に、理解できない。
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