12 / 45
12.首を傾げる鼠
しおりを挟む
変な夢を、見た。お酒のせいだろうか。
僕は重たい頭を抱えながら起き上がった。変な夢といえども、何も思い出せない。ただ、目が覚めた時点でとてつもなく変な夢だった、と思っただけで。
昨日はどうしたんだっけ?
途中から覚えていない。
やっぱりお酒は出来るだけ、飲みたくないな。
そう思いながらシャワーを浴びようと風呂場へ向かった。ただ、何となく既に入っている気がする。体もさっばりとした感じだし。
まさか酔っぱらいながら入ったのかな。
もしそうなら危ないなと思いつつ、中へ入りシャワーで体を流している時、ふと五月先生を思い出してなぜか体がゾクリとした。なぜ今思い出すのか不明だけれども、思い出しただけでゾクリとするなんて、僕はどれほど彼を恐れているのだろう。
いや、そのゾクリとは違う気も、するのだけれども。
その上、石鹸を泡立てた五月先生の手が自分の体を這っている光景が頭をよぎった。そしてまたゾクリとした。
何なのだろう。僕はもしかして変態なのだった、り……?
まさかと首を傾げつつ、重かった頭はとりあえずシャワーでスッキリしたので僕は食料を買うため外へ出た。
「おはようございます、内藤さん」
すると管理人さんに出会った。相変わらずニコニコして感じのよさそうな方だなと思う。
「おはよう、ございます」
「今日は休日だもんねぇ、お出かけ?」
「あ、いえ……。買い物に行くだけで……。食材の……」
「ああ、そうなんだ。若いのに自炊もして、偉いね」
若い?
僕は怪訝そうな表情をしたらしく、管理人さんは「あれ?」と苦笑してきた。
「てっきりまだ20代前半くらいかな、て勝手に思ってたんだけど。仕事してるようだし、まさか未成年ってことはないだろうし……」
途端、僕は落ち込んだ。昔から歳より下にしか見られたことしかない。もっと大人っぽくなりたいとずっと思っていた。例えば目の前の管理人さんや、五月先生、みたいに。大人になって相当経つというのに、未だに学生に見られてしまう自分の顔つきが恨めしい。
「……い、え。その、もう後半にさしかかって、ます……」
「え、あーごめんね! ていうか勝手にすごく若い人って思ってたからタメ口利いてたなぁ。ごめんなさい」
管理人さんはそう言って困ったように謝ってきた。いい人だなぁと思って僕は笑いかけた。
「ああ、いえ。気さくに話しかけてもらえて、嬉しいと思っていたので……。というか管理人さん、もしかして、僕と同じくらいなんですか?」
僕の方こそ勝手に少し年上かと思っていたのだけれども。
「そっか、よかった。って、いや、まさか。俺は三十は超えてるよ。ていうか管理人さん、はなんか他人行儀すぎてあまり嬉しくないなぁ。もしかして俺の名前、覚えてくれてないとか?」
そう言われて僕はワタワタした態度が少し出てしまった。そういえばここへ入った時に名乗ってくださっていた。僕はだが、初対面の方に挨拶をするのに変に緊張してしまっていて覚えていなかった。管理人をされているし、管理人さんと呼べばいいだろうから問題ないかな、などと思っていた。
「あはは。神野 樹聖(かんの いっせい)だよ。呼び捨てにしてくれていいよ」
「そ、そんな。そ、それはちょ、ちょっと」
年上の方を呼び捨てとか、僕にはレベルが高すぎます。いや、年下の方でも無理ですが。
……ていうか、名前……。
「か、んの……く、ん……」
同じ名字だ。でもそんなに珍しい名字でもないだろうし。
「くん、呼びかぁ」
「は……。あああい、いえ! す、すみません、神野さん。え、えっと、じゃ、じゃあ僕、そろそろ買い物に行ってき、ます……!」
僕は顔が熱くなるのがわかった。とりあえず慌てて頭を下げると、そそくさとスーパーへ向かった。
「いってらっしゃい」
後ろで神野さんがにこやかにそう言ってくれるのが聞こえた。
「……ああ、そっか。彼……。……にしても、おもしろい、ねぇ……」
その後でそっと呟いている声は僕には届いていなかった。
スーパーで買い物をした後は家へ戻ってのんびりした。夜は翌日の授業で進める内容を見直してから早々に眠った。
そして翌日。
「内藤先生、具合はどうっすか?」
興野先生に職員室で聞かれて、僕は首を傾げた。
「具合、です、か?」
「そっすよ。先生、かなり酔ってたっすから」
そうなの、か……? どうしよう、変なこと、してなければいいんだけ、ど……。
僕が青くなって口をただパクパクさせていると、堂本先生も話しかけてきた。
「つーか、むしろ送られて大丈夫だった?」
「……は……?」
どうしよう。話が、全く、わからない。
「覚えてないのか。和実が内藤先生、送ってったんだけど」
「……!!??」
何も覚えてないということが、これほど怖いと思ったことが、僕には、ない。
僕は重たい頭を抱えながら起き上がった。変な夢といえども、何も思い出せない。ただ、目が覚めた時点でとてつもなく変な夢だった、と思っただけで。
昨日はどうしたんだっけ?
途中から覚えていない。
やっぱりお酒は出来るだけ、飲みたくないな。
そう思いながらシャワーを浴びようと風呂場へ向かった。ただ、何となく既に入っている気がする。体もさっばりとした感じだし。
まさか酔っぱらいながら入ったのかな。
もしそうなら危ないなと思いつつ、中へ入りシャワーで体を流している時、ふと五月先生を思い出してなぜか体がゾクリとした。なぜ今思い出すのか不明だけれども、思い出しただけでゾクリとするなんて、僕はどれほど彼を恐れているのだろう。
いや、そのゾクリとは違う気も、するのだけれども。
その上、石鹸を泡立てた五月先生の手が自分の体を這っている光景が頭をよぎった。そしてまたゾクリとした。
何なのだろう。僕はもしかして変態なのだった、り……?
まさかと首を傾げつつ、重かった頭はとりあえずシャワーでスッキリしたので僕は食料を買うため外へ出た。
「おはようございます、内藤さん」
すると管理人さんに出会った。相変わらずニコニコして感じのよさそうな方だなと思う。
「おはよう、ございます」
「今日は休日だもんねぇ、お出かけ?」
「あ、いえ……。買い物に行くだけで……。食材の……」
「ああ、そうなんだ。若いのに自炊もして、偉いね」
若い?
僕は怪訝そうな表情をしたらしく、管理人さんは「あれ?」と苦笑してきた。
「てっきりまだ20代前半くらいかな、て勝手に思ってたんだけど。仕事してるようだし、まさか未成年ってことはないだろうし……」
途端、僕は落ち込んだ。昔から歳より下にしか見られたことしかない。もっと大人っぽくなりたいとずっと思っていた。例えば目の前の管理人さんや、五月先生、みたいに。大人になって相当経つというのに、未だに学生に見られてしまう自分の顔つきが恨めしい。
「……い、え。その、もう後半にさしかかって、ます……」
「え、あーごめんね! ていうか勝手にすごく若い人って思ってたからタメ口利いてたなぁ。ごめんなさい」
管理人さんはそう言って困ったように謝ってきた。いい人だなぁと思って僕は笑いかけた。
「ああ、いえ。気さくに話しかけてもらえて、嬉しいと思っていたので……。というか管理人さん、もしかして、僕と同じくらいなんですか?」
僕の方こそ勝手に少し年上かと思っていたのだけれども。
「そっか、よかった。って、いや、まさか。俺は三十は超えてるよ。ていうか管理人さん、はなんか他人行儀すぎてあまり嬉しくないなぁ。もしかして俺の名前、覚えてくれてないとか?」
そう言われて僕はワタワタした態度が少し出てしまった。そういえばここへ入った時に名乗ってくださっていた。僕はだが、初対面の方に挨拶をするのに変に緊張してしまっていて覚えていなかった。管理人をされているし、管理人さんと呼べばいいだろうから問題ないかな、などと思っていた。
「あはは。神野 樹聖(かんの いっせい)だよ。呼び捨てにしてくれていいよ」
「そ、そんな。そ、それはちょ、ちょっと」
年上の方を呼び捨てとか、僕にはレベルが高すぎます。いや、年下の方でも無理ですが。
……ていうか、名前……。
「か、んの……く、ん……」
同じ名字だ。でもそんなに珍しい名字でもないだろうし。
「くん、呼びかぁ」
「は……。あああい、いえ! す、すみません、神野さん。え、えっと、じゃ、じゃあ僕、そろそろ買い物に行ってき、ます……!」
僕は顔が熱くなるのがわかった。とりあえず慌てて頭を下げると、そそくさとスーパーへ向かった。
「いってらっしゃい」
後ろで神野さんがにこやかにそう言ってくれるのが聞こえた。
「……ああ、そっか。彼……。……にしても、おもしろい、ねぇ……」
その後でそっと呟いている声は僕には届いていなかった。
スーパーで買い物をした後は家へ戻ってのんびりした。夜は翌日の授業で進める内容を見直してから早々に眠った。
そして翌日。
「内藤先生、具合はどうっすか?」
興野先生に職員室で聞かれて、僕は首を傾げた。
「具合、です、か?」
「そっすよ。先生、かなり酔ってたっすから」
そうなの、か……? どうしよう、変なこと、してなければいいんだけ、ど……。
僕が青くなって口をただパクパクさせていると、堂本先生も話しかけてきた。
「つーか、むしろ送られて大丈夫だった?」
「……は……?」
どうしよう。話が、全く、わからない。
「覚えてないのか。和実が内藤先生、送ってったんだけど」
「……!!??」
何も覚えてないということが、これほど怖いと思ったことが、僕には、ない。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる