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6.押しやられる鼠
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この間はとんでもない目に合った。担任なら全員作らなければならなかった資料。それを、どうしても保健室へ持っていかなくてはならなかった。
五月先生がいない隙に、などできるはずもなく、僕は悩んだ末に結局、怯えつつも資料を持って保健室へ向かうしかなかった。
恐る恐る持って行くと、受け取ってきた後でなぜか腕をつかまれベッドに倒された。すぐにでもベッドに寝かせなければならないほど、僕は貧相に見えたのか? などと思いつつも、やはり拘束されているような気分になり、怖くて落ち着かなかった。
「さ、さつ、き先生……、あ、あの……あの、す、すみません! お願いですから、離して……もらえないで、しょうか……?」
そうお願いするも「内藤先生……ちゃんと栄養、摂ってます?」などと言われ、体を触って確認された。おまけに家庭訪問しましょうか、などと言われた。
無理です。
絶対耐えられない。こうして学校内ですら怖くてしかたがないのに、自分のテリトリーにまで進入されたら僕はもう、きっとどうしていいかわからない。
血の気が引いていると、いきなり、いきなりキスされた。その瞬間、僕の頭は真っ白になった。
キス、だって……?
実を言うと、いい歳をして僕はキスすら経験なかった。学生の頃に一度だけ、告白してくれた女性と付き合ったことはある。その時ですら何もできなかった。その彼女には「私のこと、やっぱり好きじゃないんだ」などと言われ、結局しばらく付き合った後に別れた。好きじゃないわけではなかったものの、何もできなかった。勇気がなかった。
そんな僕だから、もちろんその後もそういうことなどあるはずもなく。それだというのに、したことないキスをいきなりされ、僕は血の気が引いているというのに顔が熱くなるのがわかった。しかも「初めてじゃあるまいし」と言われ、つい初めてだと、言わなくてもいいようなことを口にしてしまった。
するとその後なぜか五月先生は僕のスーツを整えてくれた上に笑顔で僕を保健室の出入口まで送ってくれた。
そしてそれ以来五月先生は僕に構わなくなった。
いつもなら僕に気づくと、笑顔で近づいてきていた。それが怖くて仕方なかったのだけれども、今はこちらに気づいても無反応だ。最初はたまたまかと思っていたが、何度かそういうことが続いたので、たまたまでも気のせいでもないとわかった。
わかった時は正直複雑だった。構われないこと自体はホッとできる嬉しいことなのだけれども、あれ以来だけに。
何ていうか、やはり「いい歳してキスすらしたこともないのか」と思われて呆れられ引かれたのだろうかと思った。
……ていうか改めて気づいたけれども、僕のファーストキスの相手は男なのか……。
僕はその後少々落ち込んだ。それでもあの怖い先生に絡まれなくなったので落ち込んだ気分もすぐに軽くなる。
まあ僕は男だし、いちいちあれだ、キスくらいで落ち込んでるなんて女々しいよね?
そんな風に思い、日々何となく肩の荷が下りたような気分でいた。だから多分相当油断していたのかもしれない。いや、でもどう気をつけろと。
「何か最近楽しそうですね」
職員用更衣室で、まだまだ手放せない春用のコートをロッカーから出そうとしている時、背後からそんな声が聞こえてきた。
「……っひ?」
僕はその瞬間体が固まるのがわかった。
「また妙な声を」
その声は何やら楽しげに言ってくる。僕は振り返るのが怖かった。確かに油断していた。
でも、でもまさかこの更衣室に入ってくるとは思わなかったんだ……!
固まった僕の肩に声の主の手がかかった。
「ねぇ? 内藤先生? 何でそんなに楽しそうなのか、俺に教えて欲しいですねぇ……」
「た、楽しいことなんか、な、ないです……! ていうか、な、何で五月先生がここに? 保健室にロ、ロッカーがあるじゃないですか……!」
僕が何とかそう言うと、グイとひっぱられ、壁に体を押しつけられた。
「ああ、内藤先生が入るのが見えたもので。……おや? 今は楽しそうな顔をされてませんねぇ?」
当たり前だ、と思ったが当然言えない。五月先生は僕を壁に押しつけ、それこそとても楽しそうな表情で僕を見下ろしている。
ていうか最近放っておいてくれたくせに、何で……!
怖い。でも逃げられない。
誰か、お願いだからこの更衣室に入ってきてください……!
僕は泣きそうな気持で祈った。
「まったく、何て顔だ……」
その時五月先生がボソリと呟いた。え? と思っていると、顔が近づいてくる。そしてあろうことか、またキスされた。なぜ、と思い抵抗する間もなく、しかも、舌……舌が入ってきた。
「っぅん……っ」
今、何を……、何を、されているんだ僕は……っ!
怖い。息できない。苦しい。涙が出てくる。なのに、変な感触だというのに、僕はぼんやりしてきた。変な、気分に、なる。
怖い、何なのだろう。本当に誰か、助け、て……!
五月先生がいない隙に、などできるはずもなく、僕は悩んだ末に結局、怯えつつも資料を持って保健室へ向かうしかなかった。
恐る恐る持って行くと、受け取ってきた後でなぜか腕をつかまれベッドに倒された。すぐにでもベッドに寝かせなければならないほど、僕は貧相に見えたのか? などと思いつつも、やはり拘束されているような気分になり、怖くて落ち着かなかった。
「さ、さつ、き先生……、あ、あの……あの、す、すみません! お願いですから、離して……もらえないで、しょうか……?」
そうお願いするも「内藤先生……ちゃんと栄養、摂ってます?」などと言われ、体を触って確認された。おまけに家庭訪問しましょうか、などと言われた。
無理です。
絶対耐えられない。こうして学校内ですら怖くてしかたがないのに、自分のテリトリーにまで進入されたら僕はもう、きっとどうしていいかわからない。
血の気が引いていると、いきなり、いきなりキスされた。その瞬間、僕の頭は真っ白になった。
キス、だって……?
実を言うと、いい歳をして僕はキスすら経験なかった。学生の頃に一度だけ、告白してくれた女性と付き合ったことはある。その時ですら何もできなかった。その彼女には「私のこと、やっぱり好きじゃないんだ」などと言われ、結局しばらく付き合った後に別れた。好きじゃないわけではなかったものの、何もできなかった。勇気がなかった。
そんな僕だから、もちろんその後もそういうことなどあるはずもなく。それだというのに、したことないキスをいきなりされ、僕は血の気が引いているというのに顔が熱くなるのがわかった。しかも「初めてじゃあるまいし」と言われ、つい初めてだと、言わなくてもいいようなことを口にしてしまった。
するとその後なぜか五月先生は僕のスーツを整えてくれた上に笑顔で僕を保健室の出入口まで送ってくれた。
そしてそれ以来五月先生は僕に構わなくなった。
いつもなら僕に気づくと、笑顔で近づいてきていた。それが怖くて仕方なかったのだけれども、今はこちらに気づいても無反応だ。最初はたまたまかと思っていたが、何度かそういうことが続いたので、たまたまでも気のせいでもないとわかった。
わかった時は正直複雑だった。構われないこと自体はホッとできる嬉しいことなのだけれども、あれ以来だけに。
何ていうか、やはり「いい歳してキスすらしたこともないのか」と思われて呆れられ引かれたのだろうかと思った。
……ていうか改めて気づいたけれども、僕のファーストキスの相手は男なのか……。
僕はその後少々落ち込んだ。それでもあの怖い先生に絡まれなくなったので落ち込んだ気分もすぐに軽くなる。
まあ僕は男だし、いちいちあれだ、キスくらいで落ち込んでるなんて女々しいよね?
そんな風に思い、日々何となく肩の荷が下りたような気分でいた。だから多分相当油断していたのかもしれない。いや、でもどう気をつけろと。
「何か最近楽しそうですね」
職員用更衣室で、まだまだ手放せない春用のコートをロッカーから出そうとしている時、背後からそんな声が聞こえてきた。
「……っひ?」
僕はその瞬間体が固まるのがわかった。
「また妙な声を」
その声は何やら楽しげに言ってくる。僕は振り返るのが怖かった。確かに油断していた。
でも、でもまさかこの更衣室に入ってくるとは思わなかったんだ……!
固まった僕の肩に声の主の手がかかった。
「ねぇ? 内藤先生? 何でそんなに楽しそうなのか、俺に教えて欲しいですねぇ……」
「た、楽しいことなんか、な、ないです……! ていうか、な、何で五月先生がここに? 保健室にロ、ロッカーがあるじゃないですか……!」
僕が何とかそう言うと、グイとひっぱられ、壁に体を押しつけられた。
「ああ、内藤先生が入るのが見えたもので。……おや? 今は楽しそうな顔をされてませんねぇ?」
当たり前だ、と思ったが当然言えない。五月先生は僕を壁に押しつけ、それこそとても楽しそうな表情で僕を見下ろしている。
ていうか最近放っておいてくれたくせに、何で……!
怖い。でも逃げられない。
誰か、お願いだからこの更衣室に入ってきてください……!
僕は泣きそうな気持で祈った。
「まったく、何て顔だ……」
その時五月先生がボソリと呟いた。え? と思っていると、顔が近づいてくる。そしてあろうことか、またキスされた。なぜ、と思い抵抗する間もなく、しかも、舌……舌が入ってきた。
「っぅん……っ」
今、何を……、何を、されているんだ僕は……っ!
怖い。息できない。苦しい。涙が出てくる。なのに、変な感触だというのに、僕はぼんやりしてきた。変な、気分に、なる。
怖い、何なのだろう。本当に誰か、助け、て……!
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