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5.狙う猫
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春休みの間、授業がないせいで学校は一見シンとしている。だが部活に来ている生徒はいるし、先生方は授業がないものの、変わらず出勤して学校関連の管理や運営、企画などを行っている。
それでも授業のある日に比べれば時間の融通がきくため大型連休を取る先生もいるし、校内で行う様々な仕事で忙しい先生もいる中、普段よりは比較的のんびりしている先生もいる。
ちなみに俺は新学期に向けて忙しい。健康診断の企画運営や、健康相談関連の書類作成に分析、学校医との連携など、やることは山積みだ。
世間では単に保健室にいて茶でも飲み、やってきた生徒たちと談話したり、挙句の果てに薬の処方などまでする保健医などと思われているが、そもそもまず医者でない。学校内での保健に関する管理対応を行う、養護教諭である。そして、当然ぼんやり茶を飲む暇など実際はほぼない。
まあ息抜きに、俺を慕ってやってくる遊びたい盛りの生徒らを美味しく頂くくらいはさせてもらっていたが。
だがそろそろお遊びはやめだ。と言っても上から咎められそうだからとかではない。どのみちその辺は全く気にかけていない。それこそ世間の先生方と違い、俺のはわりと暗黙の了解だと把握している。
そうではなく、最高に楽しめそうな対象を見つけたからだ。そうなると他に興味など、あまりない。
ただでさえ、忙しいのだ。興味の失せたものに関わる暇などない。そんな暇があれば……そう、興味のあるものに時間を割く。
今のように。
「さ、さつ、き先生……、あ、あの……あの、す、すみません! お願いですから、離して、もらえないで、しょうか……?」
ある時、俺が生徒達の台帳をまとめていると、そこに内藤先生がいつものようにビクビクとしながらやってきた。
「お、遅くなりまして、すみません……」
そう言いながら抱えた書類を恐る恐る近づき渡してきた。多分ここへ来るまでに相当葛藤したのだろう。間違いなく、この俺をどうやら敬遠しているようだからな。
本当に、面白い人だと思う。いつも俯き気味でまったくもって目立たない。そしていつもなぜかおどおどしている。
下手したらそれほどおどおど、ビクビクする人間はイラつきの対象でしかないであろうが、この内藤先生の反応は違う。こちらをどうにもそそらせてくれる。堪らない。
「ああ、どうもありがとうございます」
俺はニッコリ笑って礼を言うと、書類を片手で受け取った。そしてすかさずもう片方の手で内藤先生の腕をつかんだ。それだけで「……ひ?」という呼吸とも悲鳴ともつかない声を漏らし、すでに泣きそうな表情を浮かべている。
本当に堪らないな。
俺は立ち上がり内藤先生をつかんだままベッドまで移動し、押し倒してみた。その反応が「すみません、お願いですから離して」だった。
押し倒されているというのに、何をされるのか全くわかっていないように何となく思えた。いや、不安だけは感じているようでますます泣きそうな表情になっている。その顔つきは、二十代も後半だろうに、下手すれば生徒たちとさほど変わらないように見えるほど幼い。
それに……。
「……っ?」
俺は内藤先生の首筋から胸板、脇腹へと指を滑らせた。
それに、背は普通だろうがスーツの上から触れてもわかるほど、やはり相当華奢である。
ちゃんと食ってんのか?
「内藤先生……ちゃんと栄養、摂ってます?」
「は、ひ……? と、摂って、摂ってます! 摂ってますから……!」
「本当ですかねぇ? ああそうだ、何なら今度あなたの家に、家庭訪問しましょうか……? やはり先生方の栄養管理も気になるところですからねぇ?」
ニッコリ笑って囁くと、内藤先生は「け、け、結構で、す……」とさらにビクビクしている。
本当に家に押しかけてやろうか。ああでもまあ、その前に……。
「……っんぅ?」
とりあえずここで頂いてやろうか? などと思いながら、俺は内藤先生の唇を貪った。別に濃厚なものをしたわけでもないのに、唇を離すと彼は目を潤ませ真っ赤になって唇をワナワナと震わせている。
「どうしました? ていうか何ですその初心な反応は。別に初めてじゃあるま……」
そう言いかけた俺に、内藤先生は真っ赤になりながら言い返してきた。
「はっ、初めてですよ……! な、な、何て、何てこと……何て……っ」
え? 今、何と?
「……え? あー……そうか、男とするのが初めてだと」
「キ、キ、キス自体です……っ」
内藤先生はそう叫んだ後、我に返りさらに赤くなって顔を逸らした。
ちょっと、待て。お前、いくつだ……?
俺は唖然としてしまった。
今時、小学生でもキスどころか下手したら最後まで経験ある子がいる勢いだろ。それを、二十も後半であろう大人が? キスすらしたことない、だ、と?
俺は内藤先生の顔を凝視した。どう見ても悪くない。むしろかなり整ったかわいらしい顔をしている。
……まあだがこの性格だし。多分、そこだな。
俺はほくそ笑んだ。手垢をつけられる前に見つけられてよかった。かなりの掘り出し物じゃないか?
そうなると、この場所で頂くのも惜しい気がする。
そうだな、俺の家か、この人の家か……。
俺は内藤先生から離れ、手を伸ばして起こしてやった。少し乱れたスーツを整えてやり、出入り口のドアまで送ってやる。そしていきなり解放されて驚き唖然とした様子の内藤先生を見送りながら微笑んだ。
ごちそうはきちんと堪能したいから、な……。
それでも授業のある日に比べれば時間の融通がきくため大型連休を取る先生もいるし、校内で行う様々な仕事で忙しい先生もいる中、普段よりは比較的のんびりしている先生もいる。
ちなみに俺は新学期に向けて忙しい。健康診断の企画運営や、健康相談関連の書類作成に分析、学校医との連携など、やることは山積みだ。
世間では単に保健室にいて茶でも飲み、やってきた生徒たちと談話したり、挙句の果てに薬の処方などまでする保健医などと思われているが、そもそもまず医者でない。学校内での保健に関する管理対応を行う、養護教諭である。そして、当然ぼんやり茶を飲む暇など実際はほぼない。
まあ息抜きに、俺を慕ってやってくる遊びたい盛りの生徒らを美味しく頂くくらいはさせてもらっていたが。
だがそろそろお遊びはやめだ。と言っても上から咎められそうだからとかではない。どのみちその辺は全く気にかけていない。それこそ世間の先生方と違い、俺のはわりと暗黙の了解だと把握している。
そうではなく、最高に楽しめそうな対象を見つけたからだ。そうなると他に興味など、あまりない。
ただでさえ、忙しいのだ。興味の失せたものに関わる暇などない。そんな暇があれば……そう、興味のあるものに時間を割く。
今のように。
「さ、さつ、き先生……、あ、あの……あの、す、すみません! お願いですから、離して、もらえないで、しょうか……?」
ある時、俺が生徒達の台帳をまとめていると、そこに内藤先生がいつものようにビクビクとしながらやってきた。
「お、遅くなりまして、すみません……」
そう言いながら抱えた書類を恐る恐る近づき渡してきた。多分ここへ来るまでに相当葛藤したのだろう。間違いなく、この俺をどうやら敬遠しているようだからな。
本当に、面白い人だと思う。いつも俯き気味でまったくもって目立たない。そしていつもなぜかおどおどしている。
下手したらそれほどおどおど、ビクビクする人間はイラつきの対象でしかないであろうが、この内藤先生の反応は違う。こちらをどうにもそそらせてくれる。堪らない。
「ああ、どうもありがとうございます」
俺はニッコリ笑って礼を言うと、書類を片手で受け取った。そしてすかさずもう片方の手で内藤先生の腕をつかんだ。それだけで「……ひ?」という呼吸とも悲鳴ともつかない声を漏らし、すでに泣きそうな表情を浮かべている。
本当に堪らないな。
俺は立ち上がり内藤先生をつかんだままベッドまで移動し、押し倒してみた。その反応が「すみません、お願いですから離して」だった。
押し倒されているというのに、何をされるのか全くわかっていないように何となく思えた。いや、不安だけは感じているようでますます泣きそうな表情になっている。その顔つきは、二十代も後半だろうに、下手すれば生徒たちとさほど変わらないように見えるほど幼い。
それに……。
「……っ?」
俺は内藤先生の首筋から胸板、脇腹へと指を滑らせた。
それに、背は普通だろうがスーツの上から触れてもわかるほど、やはり相当華奢である。
ちゃんと食ってんのか?
「内藤先生……ちゃんと栄養、摂ってます?」
「は、ひ……? と、摂って、摂ってます! 摂ってますから……!」
「本当ですかねぇ? ああそうだ、何なら今度あなたの家に、家庭訪問しましょうか……? やはり先生方の栄養管理も気になるところですからねぇ?」
ニッコリ笑って囁くと、内藤先生は「け、け、結構で、す……」とさらにビクビクしている。
本当に家に押しかけてやろうか。ああでもまあ、その前に……。
「……っんぅ?」
とりあえずここで頂いてやろうか? などと思いながら、俺は内藤先生の唇を貪った。別に濃厚なものをしたわけでもないのに、唇を離すと彼は目を潤ませ真っ赤になって唇をワナワナと震わせている。
「どうしました? ていうか何ですその初心な反応は。別に初めてじゃあるま……」
そう言いかけた俺に、内藤先生は真っ赤になりながら言い返してきた。
「はっ、初めてですよ……! な、な、何て、何てこと……何て……っ」
え? 今、何と?
「……え? あー……そうか、男とするのが初めてだと」
「キ、キ、キス自体です……っ」
内藤先生はそう叫んだ後、我に返りさらに赤くなって顔を逸らした。
ちょっと、待て。お前、いくつだ……?
俺は唖然としてしまった。
今時、小学生でもキスどころか下手したら最後まで経験ある子がいる勢いだろ。それを、二十も後半であろう大人が? キスすらしたことない、だ、と?
俺は内藤先生の顔を凝視した。どう見ても悪くない。むしろかなり整ったかわいらしい顔をしている。
……まあだがこの性格だし。多分、そこだな。
俺はほくそ笑んだ。手垢をつけられる前に見つけられてよかった。かなりの掘り出し物じゃないか?
そうなると、この場所で頂くのも惜しい気がする。
そうだな、俺の家か、この人の家か……。
俺は内藤先生から離れ、手を伸ばして起こしてやった。少し乱れたスーツを整えてやり、出入り口のドアまで送ってやる。そしていきなり解放されて驚き唖然とした様子の内藤先生を見送りながら微笑んだ。
ごちそうはきちんと堪能したいから、な……。
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