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2.弄ぶ猫
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「あ、先生。首元にゴミが」
「……ぇ、っあ、え、っと、あ、ありがとうござい、ます」
「いえ」
俺はニッコリ相手に笑いかけた。
相手、内藤先生は途端に青くなったり赤くなったり忙しい顔色を見せたかと思うと、わたわた頭を下げた後で逃げるようにこの場を立ち去って行った。
「ふふ」
おかしくて仕方ない。こんなからかい対象が先生方の中にいたとは。つくづくあの日、保健室に来てくれてよかったと思う。
あの日、俺を欲しがり保健室にやってきた生徒の相手をし出して間もなく、内藤先生は何も知らずに保健室へ入ってきた。鍵をどうやらするのを忘れていたようだ。別に俺は見られても構わないが、生徒の方は恥ずかしかったらしく、何やら言った後で慌てて出ていってしまった。
「ちょ……、さ、五月先生……あの、い、今の……」
「ああ。すみませんねぇ、お見苦しいところを。で、何の用です? 怪我でもされました?」
いいところを邪魔されたが、俺はすぐ仕事用の態度で問いかけた。大人だしな。
にしてもこんな先生いたっけ?
俺自身、あまり職員室には行かないし、先生方ともたまに飲みに行く程度だ。一部悪友のような付き合いをしている先生もいるが、基本先生という人種が俺自身、あまり得意ではない。
それもあってか、今目の前にいる先生に覚えはなかった。まあ大人しそうだしな。ていうかいくつだ。ここらの生徒とそう大差ないように見えるが。
「え、あ、え? あ……、えっと、そ、その、頭がずっと痛くて……。頭痛薬があればいただけたら、と……」
「ふふ。先生。申し訳ないんですが、俺はただの養護教諭ですよ。医者でも薬剤師でもない。だから薬を持っていたとしても先生に処方できないんですよ」
先ほど見たことには触れず、その先生はおどおどしながら言ってきた。
おいおい、先生という立場の人が先ほどの行為をスルーした上に何言っているんだ。
そう思いつつ俺はあえてニッコリして薬を渡せない旨伝えてやる。すると、途端にその先生の顔が赤くなった。おどおどしたり赤くなったり青くなったり忙しい人だと、俺はだんだん楽しくなってきた。こんな弄りがいがある人が先生にいたとはな。
「あ……そ、そうでした、ね……。し、失礼しまし、た」
その先生はとりあえず頭を下げると、そそくさその場を離れようとした。その瞬間顔を一瞬歪めていた。頭が痛いだろうに、俺から逃げたい一心か。
「おっと。まあまあ先生。そう急がずに。お疲れなんじゃないですか? 少し眠れば頭痛もマシになるかもですよ」
俺はニコニコ相手の手をつかんだ。途端、またもやびくついている先生が楽しくて仕方ない。
ていうか華奢だな。ちゃんと食ってんのか、こいつ。
保健医らしくそんなことを思う。
「あ、い、いえ。だ、大丈夫です。もう、治りましたから」
「ええ? でも顔色は悪そうですよ? 無理しないで」
「あ、あの! ほ、本当にもう……!」
俺は、真っ赤になって泣きそうな表情を浮かべている先生を思わずポカンと見た。
あ、何かますます俺の火をつけてくるなこの人。何だこの生き物。
先ほどから先生は俺にいたぶれと言わんばかりの態度しか見せてこない。俺は楽しくて仕方ないと言った表情を抑えることも忘れ、先生を引き寄せようとした。
「ほっ、ほんと大丈夫ですから!」
途端、その先生は必死になって俺から逃げるようにしてワタワタと保健室を出て行ってしまった。
残念。
だが、いい発見できて本当によかった。俺は後で先生の名前などを確認しに行った。内藤 貴生(ないとう きおい)、という名前らしい。
それ以来、俺は内藤先生を見かける度、絡みに行く。その度におかしいほど相手はビクビクしている。そして何とかして俺から逃げていく。なんともはや。楽しくて仕方ない。しばらくは内藤先生で遊べそうだ。
「……ぇ、っあ、え、っと、あ、ありがとうござい、ます」
「いえ」
俺はニッコリ相手に笑いかけた。
相手、内藤先生は途端に青くなったり赤くなったり忙しい顔色を見せたかと思うと、わたわた頭を下げた後で逃げるようにこの場を立ち去って行った。
「ふふ」
おかしくて仕方ない。こんなからかい対象が先生方の中にいたとは。つくづくあの日、保健室に来てくれてよかったと思う。
あの日、俺を欲しがり保健室にやってきた生徒の相手をし出して間もなく、内藤先生は何も知らずに保健室へ入ってきた。鍵をどうやらするのを忘れていたようだ。別に俺は見られても構わないが、生徒の方は恥ずかしかったらしく、何やら言った後で慌てて出ていってしまった。
「ちょ……、さ、五月先生……あの、い、今の……」
「ああ。すみませんねぇ、お見苦しいところを。で、何の用です? 怪我でもされました?」
いいところを邪魔されたが、俺はすぐ仕事用の態度で問いかけた。大人だしな。
にしてもこんな先生いたっけ?
俺自身、あまり職員室には行かないし、先生方ともたまに飲みに行く程度だ。一部悪友のような付き合いをしている先生もいるが、基本先生という人種が俺自身、あまり得意ではない。
それもあってか、今目の前にいる先生に覚えはなかった。まあ大人しそうだしな。ていうかいくつだ。ここらの生徒とそう大差ないように見えるが。
「え、あ、え? あ……、えっと、そ、その、頭がずっと痛くて……。頭痛薬があればいただけたら、と……」
「ふふ。先生。申し訳ないんですが、俺はただの養護教諭ですよ。医者でも薬剤師でもない。だから薬を持っていたとしても先生に処方できないんですよ」
先ほど見たことには触れず、その先生はおどおどしながら言ってきた。
おいおい、先生という立場の人が先ほどの行為をスルーした上に何言っているんだ。
そう思いつつ俺はあえてニッコリして薬を渡せない旨伝えてやる。すると、途端にその先生の顔が赤くなった。おどおどしたり赤くなったり青くなったり忙しい人だと、俺はだんだん楽しくなってきた。こんな弄りがいがある人が先生にいたとはな。
「あ……そ、そうでした、ね……。し、失礼しまし、た」
その先生はとりあえず頭を下げると、そそくさその場を離れようとした。その瞬間顔を一瞬歪めていた。頭が痛いだろうに、俺から逃げたい一心か。
「おっと。まあまあ先生。そう急がずに。お疲れなんじゃないですか? 少し眠れば頭痛もマシになるかもですよ」
俺はニコニコ相手の手をつかんだ。途端、またもやびくついている先生が楽しくて仕方ない。
ていうか華奢だな。ちゃんと食ってんのか、こいつ。
保健医らしくそんなことを思う。
「あ、い、いえ。だ、大丈夫です。もう、治りましたから」
「ええ? でも顔色は悪そうですよ? 無理しないで」
「あ、あの! ほ、本当にもう……!」
俺は、真っ赤になって泣きそうな表情を浮かべている先生を思わずポカンと見た。
あ、何かますます俺の火をつけてくるなこの人。何だこの生き物。
先ほどから先生は俺にいたぶれと言わんばかりの態度しか見せてこない。俺は楽しくて仕方ないと言った表情を抑えることも忘れ、先生を引き寄せようとした。
「ほっ、ほんと大丈夫ですから!」
途端、その先生は必死になって俺から逃げるようにしてワタワタと保健室を出て行ってしまった。
残念。
だが、いい発見できて本当によかった。俺は後で先生の名前などを確認しに行った。内藤 貴生(ないとう きおい)、という名前らしい。
それ以来、俺は内藤先生を見かける度、絡みに行く。その度におかしいほど相手はビクビクしている。そして何とかして俺から逃げていく。なんともはや。楽しくて仕方ない。しばらくは内藤先生で遊べそうだ。
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