変身HERO異世界へ征く!

アーナタト・ショーモネッガー

文字の大きさ
上 下
74 / 111
大乱と統一

父子の別れ

しおりを挟む
「トウッ!」

レーザーセイバーを振り下ろし、アヒムの左腕を切り落とす。
普通なら再生する。
……筈だった。

やはり。

と、メタルバトラーは納得した。

確かにマグナムブラスターも熱線だが、死滅していない細胞から再生。
故に頭の位置が微妙にズレたり、異形の様にいびつな形の再生になる。

つまり『焼き斬る』のが、再生不可能にする方法だった。

「まさしくヒュドラだな?」

成る程。
ただの制御研究だけでは無く、完全なる不死を目指す研究もしていた訳か。

そう思いながら、メタルバトラーとアヒムの戦いは白熱して加速した。

が、弱点を見破られたアヒムに、当然勝ち目は無く、やがて一方的に斬られ始める。

そこに避難誘導を終えて、フォルクハルトと、アルフォンス達が戻って来た。

一方的にやられているアヒムを見て、思わず「父上」と、口から言葉がこぼれる。

すると、忘我ぼうがの域であった筈のアヒムの口から自我のある言葉を発した。

「……フォ、フォルか?そして、アルか?」

生前の面影も無い、鬼の様な顔つきのアヒムではあったが、その声には優しさが帯びていた。

メタルバトラーは一瞬、罠かと思ったが、アヒムの眼は正気を宿しており、表情も苦悶に歪んでいた。

『アーシュリー、大公の意識を感じるか?』

『今のところは、な。……だが、また邪心に呑み込まれる。汝は助けたいと、思うやもしれんが、奴等の罠の方が一枚上だった。もう……救うすべは無い。』

『……そうか。』

メタルバトラーは、『父子の今生の別れになる』と悟り、レーザーセイバーの刀身を納めてから、この時をただ黙って静かに見守った。

「アル、フォル、済まなかったなぁ。……妻が亡くなり、ポッカリと空いた胸に……奴等の付け入る……隙が……出来た。……何かの……暗示だっ……たのかも知れん。……そこから、儂は……制御が……出来な、かっ……た。」

「……もういい!もういいんですよ、父上。」

フォルクハルトの言葉に頭を横に振るアヒム。

「良くは、無いのだ。……今、思えば……儂は妻が……無くなろうとも……愛する国民や……お前達、姉弟を……考えて……未来を見据えれば……斯様かように……国は乱れなかった……全ては、儂の心が弱かった……せいだ。」

「……父上ぇ」

やると決めた限り私心を捨て親殺しを決めた、アルフォンスとフォルクハルトの両目に薄らと涙が滲む。

その場の誰しもが、涙を流すのを堪える者や、恥とも思わず号泣する者が居た。

だが、ただ1人だけ泣かず、アヒムに問い掛ける者が居た。

「……アヒム、いやアヒム大公。意識を保つのも限界か?」

メタルバトラーは、ゆっくりと近付く。

「……うむ。これ以上……は……植え付……けられ……た邪心……が、皆の……良……心を利用……し、儂と同じ……運命にな……る。」

アヒムの心臓の位置が、奇妙な形で盛り上がって肉が開き、中から黒い直径1メートル位の球体が表れる。

「こ、れ……が、儂の……弱点……だ。早く、儂……を……討て。」

メタルバトラーは、アーシュリーに確認した。

『あれは、演技による罠か?』

『いいや。アヒムの良心からの言葉だが、邪心が邪魔をして、本当の事が言えないらしいな。アレを破壊すれば、半径約10メートルの者は呑み込まれ、邪心を増長させられるな。汝ならばアーマーで耐えられるが、普通なら無理だろう。恐らくアヒムの妻も、こうやってアヒムに邪心を植え付けたのだろうよ。』

アーシュリーの言葉に納得したメタルバトラーは、フォルクハルト達に、その事を伝え下がらせた。

レーザーセイバーがブゥンと音をたて、刀身が姿を現す。

「…………最期に言い残した事、伝えるべき事は無いか?」

メタルバトラーは冷ややかな、抑揚よくようの無い声で、アヒムに尋ねた。

「……娘に。エルネスティーネに、済まなかった……幸せになれ、と。」

「承知した。」

メタルバトラーは、レーザーセイバーを構え、一気に振り下ろす。

「……許せよ。バトルプロミネンススラッシュ!!」

必殺技が展開し、光の柱が天を貫く。

アヒムの居た場所には、クレーターと、その中央にメタルバトラーが佇んでいた。

『……私しか見てない。泣いても良いのだぞ。』

「……泣いてられねぇ。泣ける訳がねぇ。……今迄も、そして……これからも。」


アーシュリーの気持ちは有り難かったのだが、メタルバトラーは、自身のやるせない気持ちを俯いて呟いて泣くのは堪えた。

確かに正義を執行した。

だが、今迄も犠牲を払っての正義だった。

疑問に思ってはならない。

歩みを止めてはならない。

ここで終えたら多数の人々が、更なる悲劇を迎える。

そう思い、メタルバトラーの心は堪え忍んだのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

片翼の天狗は陽だまりを知らない

道草家守
キャラ文芸
静真は天狗と人の半妖だ。味方などおらず、ただ自分の翼だけを信じて孤独に生きてきた。しかし、お役目をしくじり不時着したベランダで人の娘、陽毬に助けられてしまう。 朗らかな彼女は、静真を手当をするとこう言った。 「天狗さん、ご飯食べて行きませんか」と。 いらだち戸惑いながらも、怪我の手当ての礼に彼女と食事を共にすることになった静真は、彼女と過ごす内に少しずつ変わっていくのだった。 これは心を凍らせていた半妖の青年が安らいで気づいて拒絶してあきらめて、自分の居場所を決めるお話。 ※カクヨム、なろうにも投稿しています。 ※イラストはルンベルさんにいただきました。

無職ニートの俺は気が付くと聯合艦隊司令長官になっていた

中七七三
ファンタジー
■■アルファポリス 第1回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞■■ 無職ニートで軍ヲタの俺が太平洋戦争時の聯合艦隊司令長官となっていた。 これは、別次元から来た女神のせいだった。 その次元では日本が勝利していたのだった。 女神は、神国日本が負けた歴史の世界が許せない。 なぜか、俺を真珠湾攻撃直前の時代に転移させ、聯合艦隊司令長官にした。 軍ヲタ知識で、歴史をどーにかできるのか? 日本勝たせるなんて、無理ゲーじゃねと思いつつ、このままでは自分が死ぬ。 ブーゲンビルで機上戦死か、戦争終わって、戦犯で死刑だ。 この運命を回避するため、必死の戦いが始まった。 参考文献は、各話の最後に掲載しています。完結後に纏めようかと思います。 使用している地図・画像は自作か、ライセンスで再利用可のものを検索し使用しています。 表紙イラストは、ヤングマガジンで賞をとった方が画いたものです。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

霧のはし 虹のたもとで

萩尾雅縁
BL
大学受験に失敗した比良坂晃(ひらさかあきら)は、心機一転イギリスの大学へと留学する。 古ぼけた学生寮に嫌気のさした晃は、掲示板のメモからシェアハウスのルームメイトに応募するが……。 ひょんなことから始まった、晃・アルビー・マリーの共同生活。 美貌のアルビーに憧れる晃は、生活に無頓着な彼らに振り回されながらも奮闘する。 一つ屋根の下、徐々に明らかになる彼らの事情。 そして晃の真の目的は? 英国の四季を通じて織り成される、日常系心の旅路。

千年生きた伝説の魔女は生まれ変わる〜今世の目標は孤独死しないことなのじゃっ!〜

君影 ルナ
ファンタジー
伝説の魔女は孤独だった。魔法の才能がありすぎたからだ。 「次の人生は……人に囲まれたいのぅ……」 そう言って死んでいった伝説の魔女が次に目覚めた時には赤ちゃんになっていた!? これは転生なのだと気がついた伝説の魔女の生まれ変わり、レタアちゃんは決めた。今度こそ孤独死しない!と。 魔法の才能がありすぎて孤独になったのだから、今度は出来損ないを演じる必要があると考えたレタアちゃん。しかし、出来損ないを演じすぎて家を追い出されてしまう。 「あれ、またワシひとりぼっちなのか!? それは不味い! どうにかせねば!」 これは魔法の天才が出来損ないを演じながら今世の目標「孤独死しない」を達成するために奮闘するお話。 ── ※なろう、ノベプラ、カクヨムにも重複投稿し始めました。 ※書き溜めているわけでもないので、不定期且つのんびりペースで投稿します。

君との空へ【BL要素あり・短編おまけ完結】

Motoki
ホラー
一年前に親友を亡くした高橋彬は、体育の授業中、その親友と同じ癖をもつ相沢隆哉という生徒の存在を知る。その日から隆哉に付きまとわれるようになった彬は、「親友が待っている」という言葉と共に、親友の命を奪った事故現場へと連れて行かれる。そこで彬が見たものは、あの事故の時と同じ、血に塗れた親友・時任俊介の姿だった――。 ※ホラー要素は少し薄めかも。BL要素ありです。人が死ぬ場面が出てきますので、苦手な方はご注意下さい。

ブチ切れ世界樹さんと、のんびり迷宮主さん

月猫
ファンタジー
異世界へ拉致された主人公。目が覚めた先はボロボロの世界樹の中だった?! 迷宮の主となった主人公は、ダンジョンの能力【創造】により全く新しい”モノ”を世界に作り出し、現状の打破に挑む。 新しい魔物を創ったり、予想外な成長に困惑したり。 世界樹の愚痴を聞いたり、なだめたり。 世界樹のため、世界のため、世界樹の治療と環境改善を目指し、迷宮はどんどん大きくなる。そんなお話。 始めは少々危険な場面がありますが、ダンジョンが成長してからはその様な場面は少なくなり、周りの生物の方がダンジョンに抗う感じになります。 俺TUEEEならぬ、ダンジョンTUEEEもの。チート能力ならぬ、チートダンジョンの予定。 (チート能力者が居無いとは言っていない) 初投稿です。山なし谷なし作品ですが、暖かい目でみてください。 異世界なのだから、元の世界の常識が当てはまらなくても、おかしくないのでは? をコンセプトに、スキルやら魔法やらの仕組みを表現できたらと思っています。 ※「小説家になろう」にも掲載 ※ストックが切れたら、更新が遅くなると思います、ご容赦下さい

処理中です...