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グラード王国王都ヴェーテル
『真紅の修羅』と言う獣の哀しみ。
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「ウガァアァアァーッ!」
メタルバトラーは逃げようとするオークを、一匹また一匹と殺して行く。
ある一匹は、腕や足を引き裂かれた。
ある一匹は、心臓を鷲掴みの上握り潰された。
ある一匹は、臓物を引き出し巻き散らかされた。
シンの心の中)
『………殺せ。』
『……殺せ、殺せ、殺せ、殺せ!』
『皆殺しにしろっ!!』
「……俺は、あの時あいつらを守る事が出来なかった。」
『そうだ。お前が助けに行くのが遅れたからだ。』
「……あぁ、そうだ。」
『……だったら、全てを終わらせてやろうぜ?……全てを殺し尽くし、全てを破壊尽くそうぜ?』
「……それが、一番か?」
『それが、一番だ。』
現実)
オークの最後の一匹の頭を踏み潰す、潰す、潰す
何度も、何度も、何度も。
そして、静寂が訪れ、暫く微動だにしなくなったメタルバトラーだが、再び目が赤く禍々しく光ると、サラ達の方に頭を向ける。
殺気を消さないまま、一歩ずつゆっくりと近付いて来る。
「………グフゥ~~グフゥ~~。」
不気味な呼吸音が、響き渡る。
シンの心の中)
『そうだ。あいつらも血祭りにしようぜ?』
「……あいつら?」
『そうだ。あそこの女共や、満身創痍の男共を殺すと、きっと気持ちいいぞぉ?じわりじわりと、じわりじわりじわりじわりじわりじわり』
「……殺せば楽になるのか?」
『あぁ、楽になるとも。お前の苦しみが終わるんだ。さぁ、楽になれ、楽になれ!』
「……そうだな。俺は疲れた。そうしよう。」
現実)
……ズズン、ズズン、ズズン
本当の迫り来る恐怖とは、こう言うものかも知れない。
先程のオークとは別物の、強い恐怖が場を支配していた。
「……こ……殺されるぅ」
村人達で、この赤き死神の絶対的な恐ろしさに動ける者は誰一人も居なかった。
「……シンが泣いているわ。」
「……うん。シンさま辛そうッス。」
シンの心の中)
『お前が守りたかった奴は、あの組織の奴らに、殺された。お前を信じた少年も、お前が愛した女も。お前が背負えば背負うほど、お前が苦しむ。』
「……確かに……な。」
『だから、目の前の奴らを殺して、俺に心を委ねろ。楽になれ。誰もお前を責めはしない。お前を責める奴らは、俺が殺し、お前を守ってやる。安心して委ねろ。さぁ。』
「………………。」
現実)
サラとリーチェは立ち上がり、メタルバトラーもとい、シンの元へ歩いて行く。
気が付いた村長が
「あんたら、殺されるぞい!」
と忠告する。
サラとリーチェは、一度村人達へ振り返り、
「彼に殺されるなら、構わないわ。それが彼の弱さを救えるなら。」
「そうッスね。でも、アタイはシンさまが、本当は弱くないと思いッス。」
「そうね。ただ………」
「……ただ疲れ果ててるだけッス。」
メタルバトラーの眼前に立った2人に対し、メタルバトラーは熊の如く右手を振り上げる。
「グォオォオォーーーッ!」
「シン、聴こえてますか?」
ピタッ
「シン、憶えてますか?貴方が私と出会った、あの日あの時を」
しーーん。
メタルバトラーは右手を振り上げたまま硬直し辺りを静寂が支配した。
「……何故、貴方が私を助け、何故、貴方がこの世界に訪れたのかを思い出して下さい!」
続けてリーチェが言葉を紡ぐ。
「シンさま、あのカフェの火事を憶えてます?女の子を火事の中から助けたあの瞬間。アタイは感動したッス。でも、そんなシンさまが何故心が哀しみに溢れてるのかが、解らないッス。シンさまみたく強くないッスが、シンさまの辛さを分けて欲しいッス!アタイ達はシンさまを助けさせて貰いたいッス!」
サラもリーチェも泣いていた。
それは恐怖からではない。
シンを心から救いたい。
その一心による涙であった。
シンの心の中)
「………ぐぅ!」
シンは誰かの声が聞こえた気がした。その声に辛うじて洗脳されつつある意識が目覚める。
『どうしたのだ?一思いに殺るのだ!そうすれば、一生苦しむ事は無いのだぞ!』
「………ち……が、う。」
『何?』
「違う!俺は、例え苦しむ事になっても、そこから眼を背けちゃならない!逃げては誰も守れない!自分の心だけ守れれば良い?違うだろーーがぁあぁっ!!」
『な、何故、あともう少しで!』
「お前は、どうなんだ?力に溺れ、自身を滅亡させたいのだろうが!」
『違うっ!!』
「!!!?」
『俺は、本当にお前を救いたいだけだったんだ。お前は、あの少年、将の救出に失敗した。お前の恋人蓮も眼前で殺され、お前の心が悲鳴を上げ地獄の苦しみを味わった。もう、お前をあの苦しみを味合わせたくないだけだ!』
(そうか。こいつは俺の哀しみが産んだのか。)
「……ならば余計に逃げる訳には行かないんだ。解るか?」
『解りたくも無い!お前が哀しいと俺も辛いんだ!だったら俺がお前の分も背負い全てを滅ぼせば、お前も俺も哀しみに縛られずに済む……』
「……違うよ。」
俺は俺自身に諭し始める。
「この世界に来て、右も左も解らない俺だったが、助けた事がきっかけで、俺は独りでなくなって、色々教えてくれて、いろんな人達が俺を助けてくれた。確かに失った人々は帰らない。でも、それは俺だけの痛みじゃない。他の人達も同じだ。特別じゃないんだよ。だから、俺達は一緒に前に進まなきゃならない。例え、失おうとも、裏切られようとも、前に!俺とお前なら出来る!」
『そう……だろうか?』
「……あぁ、皆を支えてる俺達だが、俺達も皆から支えて貰ってるんだよ。1人でも支えてくれるなら、俺達は投げやりになってはならないんだ。」
すると、もう1人のシンは深く頷き、
『……わかった。もし、俺の力が必要な時は怒りに任せろ。今度は理性を失わず、お前に力を委ねるから、巧く使えよ?』
怒りと絶望のシンは、最後に晴れやかな笑顔で、本来のシンの中に還っていった。
メタルバトラーは逃げようとするオークを、一匹また一匹と殺して行く。
ある一匹は、腕や足を引き裂かれた。
ある一匹は、心臓を鷲掴みの上握り潰された。
ある一匹は、臓物を引き出し巻き散らかされた。
シンの心の中)
『………殺せ。』
『……殺せ、殺せ、殺せ、殺せ!』
『皆殺しにしろっ!!』
「……俺は、あの時あいつらを守る事が出来なかった。」
『そうだ。お前が助けに行くのが遅れたからだ。』
「……あぁ、そうだ。」
『……だったら、全てを終わらせてやろうぜ?……全てを殺し尽くし、全てを破壊尽くそうぜ?』
「……それが、一番か?」
『それが、一番だ。』
現実)
オークの最後の一匹の頭を踏み潰す、潰す、潰す
何度も、何度も、何度も。
そして、静寂が訪れ、暫く微動だにしなくなったメタルバトラーだが、再び目が赤く禍々しく光ると、サラ達の方に頭を向ける。
殺気を消さないまま、一歩ずつゆっくりと近付いて来る。
「………グフゥ~~グフゥ~~。」
不気味な呼吸音が、響き渡る。
シンの心の中)
『そうだ。あいつらも血祭りにしようぜ?』
「……あいつら?」
『そうだ。あそこの女共や、満身創痍の男共を殺すと、きっと気持ちいいぞぉ?じわりじわりと、じわりじわりじわりじわりじわりじわり』
「……殺せば楽になるのか?」
『あぁ、楽になるとも。お前の苦しみが終わるんだ。さぁ、楽になれ、楽になれ!』
「……そうだな。俺は疲れた。そうしよう。」
現実)
……ズズン、ズズン、ズズン
本当の迫り来る恐怖とは、こう言うものかも知れない。
先程のオークとは別物の、強い恐怖が場を支配していた。
「……こ……殺されるぅ」
村人達で、この赤き死神の絶対的な恐ろしさに動ける者は誰一人も居なかった。
「……シンが泣いているわ。」
「……うん。シンさま辛そうッス。」
シンの心の中)
『お前が守りたかった奴は、あの組織の奴らに、殺された。お前を信じた少年も、お前が愛した女も。お前が背負えば背負うほど、お前が苦しむ。』
「……確かに……な。」
『だから、目の前の奴らを殺して、俺に心を委ねろ。楽になれ。誰もお前を責めはしない。お前を責める奴らは、俺が殺し、お前を守ってやる。安心して委ねろ。さぁ。』
「………………。」
現実)
サラとリーチェは立ち上がり、メタルバトラーもとい、シンの元へ歩いて行く。
気が付いた村長が
「あんたら、殺されるぞい!」
と忠告する。
サラとリーチェは、一度村人達へ振り返り、
「彼に殺されるなら、構わないわ。それが彼の弱さを救えるなら。」
「そうッスね。でも、アタイはシンさまが、本当は弱くないと思いッス。」
「そうね。ただ………」
「……ただ疲れ果ててるだけッス。」
メタルバトラーの眼前に立った2人に対し、メタルバトラーは熊の如く右手を振り上げる。
「グォオォオォーーーッ!」
「シン、聴こえてますか?」
ピタッ
「シン、憶えてますか?貴方が私と出会った、あの日あの時を」
しーーん。
メタルバトラーは右手を振り上げたまま硬直し辺りを静寂が支配した。
「……何故、貴方が私を助け、何故、貴方がこの世界に訪れたのかを思い出して下さい!」
続けてリーチェが言葉を紡ぐ。
「シンさま、あのカフェの火事を憶えてます?女の子を火事の中から助けたあの瞬間。アタイは感動したッス。でも、そんなシンさまが何故心が哀しみに溢れてるのかが、解らないッス。シンさまみたく強くないッスが、シンさまの辛さを分けて欲しいッス!アタイ達はシンさまを助けさせて貰いたいッス!」
サラもリーチェも泣いていた。
それは恐怖からではない。
シンを心から救いたい。
その一心による涙であった。
シンの心の中)
「………ぐぅ!」
シンは誰かの声が聞こえた気がした。その声に辛うじて洗脳されつつある意識が目覚める。
『どうしたのだ?一思いに殺るのだ!そうすれば、一生苦しむ事は無いのだぞ!』
「………ち……が、う。」
『何?』
「違う!俺は、例え苦しむ事になっても、そこから眼を背けちゃならない!逃げては誰も守れない!自分の心だけ守れれば良い?違うだろーーがぁあぁっ!!」
『な、何故、あともう少しで!』
「お前は、どうなんだ?力に溺れ、自身を滅亡させたいのだろうが!」
『違うっ!!』
「!!!?」
『俺は、本当にお前を救いたいだけだったんだ。お前は、あの少年、将の救出に失敗した。お前の恋人蓮も眼前で殺され、お前の心が悲鳴を上げ地獄の苦しみを味わった。もう、お前をあの苦しみを味合わせたくないだけだ!』
(そうか。こいつは俺の哀しみが産んだのか。)
「……ならば余計に逃げる訳には行かないんだ。解るか?」
『解りたくも無い!お前が哀しいと俺も辛いんだ!だったら俺がお前の分も背負い全てを滅ぼせば、お前も俺も哀しみに縛られずに済む……』
「……違うよ。」
俺は俺自身に諭し始める。
「この世界に来て、右も左も解らない俺だったが、助けた事がきっかけで、俺は独りでなくなって、色々教えてくれて、いろんな人達が俺を助けてくれた。確かに失った人々は帰らない。でも、それは俺だけの痛みじゃない。他の人達も同じだ。特別じゃないんだよ。だから、俺達は一緒に前に進まなきゃならない。例え、失おうとも、裏切られようとも、前に!俺とお前なら出来る!」
『そう……だろうか?』
「……あぁ、皆を支えてる俺達だが、俺達も皆から支えて貰ってるんだよ。1人でも支えてくれるなら、俺達は投げやりになってはならないんだ。」
すると、もう1人のシンは深く頷き、
『……わかった。もし、俺の力が必要な時は怒りに任せろ。今度は理性を失わず、お前に力を委ねるから、巧く使えよ?』
怒りと絶望のシンは、最後に晴れやかな笑顔で、本来のシンの中に還っていった。
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