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2人で歩くランウェイ
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社内の混乱もなく、社員達はすっきりと心機一転で業務に打ち込む毎日。
社長室には、以前と変わらぬ明るくパワフルな梶田がいる。
莉帆も時間がある時にはなるべくオフィスに顔を出し、梶田や成美と笑顔で雑談を楽しんだ。
そしていよいよ『クレール・ドゥ・リュンヌ』のパーティーの日がやって来た。
禅を連れて、莉帆は控え室として用意されたホテルの一室に向かう。
フランスからやって来たヘアメイクやスタイリスト達と挨拶を交わして、早速禅はドレッサーの前に座る。
するとなぜか莉帆は隣の部屋に連れて行かれ、鏡の前に座らされた。
大人しくされるがままになっていると、綺麗な金髪のヘアメイクスタッフが、あっという間に莉帆を大人っぽくセクシーに変身させる。
(ええー、これが私?)
自分では使ったことがないヌーディーカラーに、やりすぎじゃない?というくらいくっきり入れたアイライン。
まつ毛はバッサバッサと風でも起しそうだし、頬のチークも不自然なほど強調されている。
最後にパッと目を引く艶やかなリップグロスを塗られて、髪型もゴージャスな夜会巻きに整えられた。
(こ、こんなの、もはや私の原型留めてないんじゃ…)
不安で一杯になっていると、「はい、じゃあ着替えて」と真っ赤なタイトドレスを手渡される。
「ええー?!こんなセクシーな。胸も背中もどんだけ開いてんのよ?足だって、太ももちら見えするじゃない」
日本語でひとり言を言っていると、どうやら言わんとすることは伝わっていたらしい。
「下着はこれね」とヌーブラと紐ショーツを手渡された。
(こ、これって、下着の意味はあるの?)と思いながら、恐る恐る身に着ける。
「もっとこう、寄せて上げるの」
グイッとブラを調整され、莉帆はもう身を任せるしかなかった。
最後にドレスをまとうと、「ワオ、ビューティフル!」と声をかけられる。
(いやいやいや、もうスースーして、着てる感覚ないんですけど?)
ビスチェタイプのドレスはかろうじて胸を隠しているものの、肩と背中は大胆に見せたままだ。
おまけにピタッと身体に沿う為、腰やヒップのラインも丸分かり。
更には左サイドにざっくりスリットが入っていて、歩くたびに太ももが見えてしまう。
(これを着てパーティーに出なきゃいけないの?恥ずかしいことこの上ないんだけど)
半泣きになるが、ヘアメイクの女性は満足そうに莉帆を見て頷き、キラキラ輝くネックレスやイヤリングを着けていく。
「パーフェクト!じゃあ、あっちの部屋に戻りましょ」
そう言われて莉帆も仕方なく頷いた。
(きっとこれも『クレール・ドゥ・リュンヌ』の新作ドレス。だったらきちんと綺麗に見えるように着こなさなきゃ)
気合いを入れて、莉帆は堂々と部屋を出た。
◇
「莉帆…」
隣の部屋に戻った途端、聞こえてきた呟きに莉帆は顔を上げる。
次の瞬間目を見開いた。
どこかの異世界から突然現れたのかと思うほど、恐ろしくかっこいい禅の姿。
光沢のあるシルク素材の黒いスーツは、禅のスタイルに合わせたオートクチュール。
長い手足を最大限に生かしたその衣装を、禅は完璧に着こなしている。
すっきりと整えられた髪型も、男の魅力を感じさせて息を呑むほどセクシーだ。
近づくのも、声をかけるのもはばかられ、莉帆はただその場に立ちすくむ。
「じゃあ、時間になったら迎えに来るわね。ちょっと休憩してて」
そう言ってスタッフ達は部屋を出て行った。
残された禅と莉帆は、互いの姿にしばし呆然とする。
やがて禅が「莉帆」と優しく名を呼んだ。
「はい」
「驚いた。こんなにも美しいなんて」
禅が右手を差し出し、莉帆の左手をそっとすくい上げる。
そのままグッと莉帆の手を引き、ウエストを抱き寄せた。
「莉帆、息を呑むほど綺麗だよ。でももう1つだけ身に着けて欲しいものがある」
「え?」
莉帆が首を傾げると、禅はジャケットのポケットから小さなビロードのリングケースを取り出し、そっとケースを開く。
目がくらむほどのまばゆいダイヤモンドの輝きに、莉帆は思わず口元を両手で覆って目を見張る。
「莉帆、俺に世界の景色を見せてくれてありがとう。莉帆のおかげで今俺はこの場にいられる。莉帆がいてくれたから、俺は自分の信念を曲げずに歩いて来られた。莉帆が誰よりも…、俺よりも俺を信じてくれたから、最後まで諦めずにやり遂げられた。ありがとう、莉帆。必ず俺は莉帆を幸せにしてみせる。これからも俺のそばにいて欲しい。結婚しよう、莉帆」
ポロポロと莉帆の瞳からとめどなく涙がこぼれ落ちる。
「そんな…、私でいいの?」
「当たり前だ。莉帆がいい。莉帆しかいない」
「私、なんの取り柄もないのに。綺麗なモデルさんとも違うし、キャリアウーマンでもない。男の人から見たら、簡単に扱ってもいいような」
「ストップ!」
禅が莉帆の唇に人差し指を当てる。
「俺の女を悪く言うのは俺が許さない。莉帆、お前は誰よりもいい女だ。だって、この俺様が選んだ女なんだからな。分かったか?」
有無を言わさぬ禅の威圧的な態度に、莉帆はコクンと頷く。
すると禅はフッと柔らかく笑って莉帆を抱きしめた。
「まだ足りなかったか?もっと思い知らせてやらなきゃな、俺がどんなに莉帆に惚れてるかってこと。可愛くてかっこ良くて優しくて、素直で無邪気で健気で美しい。この俺様がぞっこんになった女だぞ?世界で一番いい女に決まってる。莉帆、観念しろ。お前は絶対に俺から逃げられない」
禅の腕の中で、莉帆もふふっと笑う。
「逃げないよ、逃げられる気もしない。こんなにもかっこ良くて、オラオラの俺様で、だけどとびきり優しくて、生き様は凛としてて。世界で一番素敵な、私の最愛の人。禅、私はあなたにぞっこんです。一生かけてあなたを愛し続けます」
禅は嬉しそうに笑うと、もう一度莉帆を優しく抱きしめた。
「結婚しよう、莉帆」
「はい。あなたと結婚させてください、禅」
互いの耳元で誓い合うと、禅は改めてリングケースから指輪を取り出し、莉帆の左手薬指にそっとはめる。
「よっしゃー!ぴったり!」
大きな声でガッツポーズを作る禅に、莉帆はたまらず笑い出す。
「あはは!賭けに出たんだね、指輪のサイズ」
「ちげーよ、確信してたもん。俺様は何でもお見通しよ」
「その割りには随分な喜びようじゃない?」
「うるせーな。莉帆に似合ってるから喜んだの」
どうだか、と呟いてから、莉帆はそっと指輪に触れてみた。
「綺麗…。素敵な指輪をありがとう、禅。ずっと大切に着けてるね」
「ああ。よく似合ってる、莉帆」
禅は莉帆の肩を抱き寄せると、優しくキスをする。
チュッ…とかすかなリップ音と熱い吐息が2人を甘く包み込んだ。
「やべ、スイッチが…。しかもここ、でっかいベッドあるし。時間、まだあるかな?」
「ななな、何言ってんのー?!バカも休み休み言いなさい!これから大事な仕事があるのよ?」
莉帆は顔を真っ赤にして憤慨する。
「ちぇ、そんなに怒ることないだろ?じゃあ今は我慢するから、夜はよろしくな?」
艶のある声でささやかれ、莉帆は仕方なく小さく頷いた。
「よっしゃー!夜の為にがんばろー!」
俄然張り切り出した禅に呆れながらも、莉帆も夜を楽しみにがんばろうと思った。
◇
時間になり、スタッフに呼ばれて禅と莉帆はパーティー会場に移動する。
広い会場の中央にはランウェイが設けられ、ゴージャスな雰囲気に溢れていた。
打ち合わせをしていたニコライが2人に気づき、互いにハグをして再会を喜び合う。
ニコライは禅と莉帆の姿をまじまじと見て、ビューティフル、アメイジングと大絶賛する。
そして「ゼンと一緒にリホもステージに上がってくれ」といきなり提案された。
えええー?!と莉帆は後ずさって必死に首を振る。
だが「リホの着ているドレスも新作として発表したいものだし…」と言われると、最後は頷くしかなかった。
簡単に流れを説明されると、いよいよパーティーの開始時間になった。
煌びやかで大きなバンケットホールには、華やかな衣裳のゲスト達がひしめき合っている。
ファッションデザイナーや有名アパレルブランドの社長、芸能人やモデル達。
外国人も多い中、日本人ゲストは莉帆もよく知るセレブばかりだった。
パーティーの開始が告げられ、照明がスーッと暗くなる。
音楽が流れ始め、皆が会話をやめて注目する中、パッと前方にスポットライトが当てられた。
そこに浮かび上がったのは、『クレール・ドゥ・リュンヌ』の衣装に身を包んだ禅の姿。
人々が思わず息を呑んで見つめる中、禅は真っ直ぐに前を見据えてランエェイを歩き始める。
堂々と、挑むように力強く。
禅というモデルと『クレール・ドゥ・リュンヌ』の衣装が、空間を支配し、空気を変え、見ている者を別世界へといざなう。
たった数十秒の出来事。
だがその衝撃的とも言える強烈な印象は、人々の脳裏に焼き付いて離れなかった。
◇
禅がステージ袖に消え、照明が明るくなると、ニコライがガラリと雰囲気を変えて楽しいパーティーの始まりを告げた。
「ようこそ!我が『クレール・ドゥ・リュンヌ』のパーティーへ。今夜は皆さんにハッピーなニュースをお届けします」
そして日本での直営店第一号オープンのお知らせと、それを皮切りにアジア各国でショーを展開することが発表された。
パリコレでのショーの様子が、前方のスクリーンに映像で流れたあと、ニコライは再びマイクを握る。
「それではフォトセッションの時間だ。我々が自信を持っておすすめする新作衣装を、どうか綺麗に撮ってくれよ?」
ジョーク交じりにそう言ったあと、ニコライはステージに手を向けて人々の視線を促した。
音楽が流れ、明るい照明の中を、美しいカップルが笑顔で手を取り合って登場する。
先程とは打って変わって優しい表情を浮かべた禅が、しっかりと莉帆の手を取り、ランウェイへと促す。
時折見つめ合って微笑みながら、2人はカメラマンが待ち構える前までやって来た。
「目線、お願いしまーす!」
2人でカメラを順番に見つめてから、禅は莉帆のウエストを抱き寄せて、大丈夫?というように莉帆の顔をそっと覗き込んだ。
莉帆がはにかんだ笑みで頷くと、禅も嬉しそうに目を細める。
その様子にカメラのフラッシュがまたしても次々と瞬いていた。
社長室には、以前と変わらぬ明るくパワフルな梶田がいる。
莉帆も時間がある時にはなるべくオフィスに顔を出し、梶田や成美と笑顔で雑談を楽しんだ。
そしていよいよ『クレール・ドゥ・リュンヌ』のパーティーの日がやって来た。
禅を連れて、莉帆は控え室として用意されたホテルの一室に向かう。
フランスからやって来たヘアメイクやスタイリスト達と挨拶を交わして、早速禅はドレッサーの前に座る。
するとなぜか莉帆は隣の部屋に連れて行かれ、鏡の前に座らされた。
大人しくされるがままになっていると、綺麗な金髪のヘアメイクスタッフが、あっという間に莉帆を大人っぽくセクシーに変身させる。
(ええー、これが私?)
自分では使ったことがないヌーディーカラーに、やりすぎじゃない?というくらいくっきり入れたアイライン。
まつ毛はバッサバッサと風でも起しそうだし、頬のチークも不自然なほど強調されている。
最後にパッと目を引く艶やかなリップグロスを塗られて、髪型もゴージャスな夜会巻きに整えられた。
(こ、こんなの、もはや私の原型留めてないんじゃ…)
不安で一杯になっていると、「はい、じゃあ着替えて」と真っ赤なタイトドレスを手渡される。
「ええー?!こんなセクシーな。胸も背中もどんだけ開いてんのよ?足だって、太ももちら見えするじゃない」
日本語でひとり言を言っていると、どうやら言わんとすることは伝わっていたらしい。
「下着はこれね」とヌーブラと紐ショーツを手渡された。
(こ、これって、下着の意味はあるの?)と思いながら、恐る恐る身に着ける。
「もっとこう、寄せて上げるの」
グイッとブラを調整され、莉帆はもう身を任せるしかなかった。
最後にドレスをまとうと、「ワオ、ビューティフル!」と声をかけられる。
(いやいやいや、もうスースーして、着てる感覚ないんですけど?)
ビスチェタイプのドレスはかろうじて胸を隠しているものの、肩と背中は大胆に見せたままだ。
おまけにピタッと身体に沿う為、腰やヒップのラインも丸分かり。
更には左サイドにざっくりスリットが入っていて、歩くたびに太ももが見えてしまう。
(これを着てパーティーに出なきゃいけないの?恥ずかしいことこの上ないんだけど)
半泣きになるが、ヘアメイクの女性は満足そうに莉帆を見て頷き、キラキラ輝くネックレスやイヤリングを着けていく。
「パーフェクト!じゃあ、あっちの部屋に戻りましょ」
そう言われて莉帆も仕方なく頷いた。
(きっとこれも『クレール・ドゥ・リュンヌ』の新作ドレス。だったらきちんと綺麗に見えるように着こなさなきゃ)
気合いを入れて、莉帆は堂々と部屋を出た。
◇
「莉帆…」
隣の部屋に戻った途端、聞こえてきた呟きに莉帆は顔を上げる。
次の瞬間目を見開いた。
どこかの異世界から突然現れたのかと思うほど、恐ろしくかっこいい禅の姿。
光沢のあるシルク素材の黒いスーツは、禅のスタイルに合わせたオートクチュール。
長い手足を最大限に生かしたその衣装を、禅は完璧に着こなしている。
すっきりと整えられた髪型も、男の魅力を感じさせて息を呑むほどセクシーだ。
近づくのも、声をかけるのもはばかられ、莉帆はただその場に立ちすくむ。
「じゃあ、時間になったら迎えに来るわね。ちょっと休憩してて」
そう言ってスタッフ達は部屋を出て行った。
残された禅と莉帆は、互いの姿にしばし呆然とする。
やがて禅が「莉帆」と優しく名を呼んだ。
「はい」
「驚いた。こんなにも美しいなんて」
禅が右手を差し出し、莉帆の左手をそっとすくい上げる。
そのままグッと莉帆の手を引き、ウエストを抱き寄せた。
「莉帆、息を呑むほど綺麗だよ。でももう1つだけ身に着けて欲しいものがある」
「え?」
莉帆が首を傾げると、禅はジャケットのポケットから小さなビロードのリングケースを取り出し、そっとケースを開く。
目がくらむほどのまばゆいダイヤモンドの輝きに、莉帆は思わず口元を両手で覆って目を見張る。
「莉帆、俺に世界の景色を見せてくれてありがとう。莉帆のおかげで今俺はこの場にいられる。莉帆がいてくれたから、俺は自分の信念を曲げずに歩いて来られた。莉帆が誰よりも…、俺よりも俺を信じてくれたから、最後まで諦めずにやり遂げられた。ありがとう、莉帆。必ず俺は莉帆を幸せにしてみせる。これからも俺のそばにいて欲しい。結婚しよう、莉帆」
ポロポロと莉帆の瞳からとめどなく涙がこぼれ落ちる。
「そんな…、私でいいの?」
「当たり前だ。莉帆がいい。莉帆しかいない」
「私、なんの取り柄もないのに。綺麗なモデルさんとも違うし、キャリアウーマンでもない。男の人から見たら、簡単に扱ってもいいような」
「ストップ!」
禅が莉帆の唇に人差し指を当てる。
「俺の女を悪く言うのは俺が許さない。莉帆、お前は誰よりもいい女だ。だって、この俺様が選んだ女なんだからな。分かったか?」
有無を言わさぬ禅の威圧的な態度に、莉帆はコクンと頷く。
すると禅はフッと柔らかく笑って莉帆を抱きしめた。
「まだ足りなかったか?もっと思い知らせてやらなきゃな、俺がどんなに莉帆に惚れてるかってこと。可愛くてかっこ良くて優しくて、素直で無邪気で健気で美しい。この俺様がぞっこんになった女だぞ?世界で一番いい女に決まってる。莉帆、観念しろ。お前は絶対に俺から逃げられない」
禅の腕の中で、莉帆もふふっと笑う。
「逃げないよ、逃げられる気もしない。こんなにもかっこ良くて、オラオラの俺様で、だけどとびきり優しくて、生き様は凛としてて。世界で一番素敵な、私の最愛の人。禅、私はあなたにぞっこんです。一生かけてあなたを愛し続けます」
禅は嬉しそうに笑うと、もう一度莉帆を優しく抱きしめた。
「結婚しよう、莉帆」
「はい。あなたと結婚させてください、禅」
互いの耳元で誓い合うと、禅は改めてリングケースから指輪を取り出し、莉帆の左手薬指にそっとはめる。
「よっしゃー!ぴったり!」
大きな声でガッツポーズを作る禅に、莉帆はたまらず笑い出す。
「あはは!賭けに出たんだね、指輪のサイズ」
「ちげーよ、確信してたもん。俺様は何でもお見通しよ」
「その割りには随分な喜びようじゃない?」
「うるせーな。莉帆に似合ってるから喜んだの」
どうだか、と呟いてから、莉帆はそっと指輪に触れてみた。
「綺麗…。素敵な指輪をありがとう、禅。ずっと大切に着けてるね」
「ああ。よく似合ってる、莉帆」
禅は莉帆の肩を抱き寄せると、優しくキスをする。
チュッ…とかすかなリップ音と熱い吐息が2人を甘く包み込んだ。
「やべ、スイッチが…。しかもここ、でっかいベッドあるし。時間、まだあるかな?」
「ななな、何言ってんのー?!バカも休み休み言いなさい!これから大事な仕事があるのよ?」
莉帆は顔を真っ赤にして憤慨する。
「ちぇ、そんなに怒ることないだろ?じゃあ今は我慢するから、夜はよろしくな?」
艶のある声でささやかれ、莉帆は仕方なく小さく頷いた。
「よっしゃー!夜の為にがんばろー!」
俄然張り切り出した禅に呆れながらも、莉帆も夜を楽しみにがんばろうと思った。
◇
時間になり、スタッフに呼ばれて禅と莉帆はパーティー会場に移動する。
広い会場の中央にはランウェイが設けられ、ゴージャスな雰囲気に溢れていた。
打ち合わせをしていたニコライが2人に気づき、互いにハグをして再会を喜び合う。
ニコライは禅と莉帆の姿をまじまじと見て、ビューティフル、アメイジングと大絶賛する。
そして「ゼンと一緒にリホもステージに上がってくれ」といきなり提案された。
えええー?!と莉帆は後ずさって必死に首を振る。
だが「リホの着ているドレスも新作として発表したいものだし…」と言われると、最後は頷くしかなかった。
簡単に流れを説明されると、いよいよパーティーの開始時間になった。
煌びやかで大きなバンケットホールには、華やかな衣裳のゲスト達がひしめき合っている。
ファッションデザイナーや有名アパレルブランドの社長、芸能人やモデル達。
外国人も多い中、日本人ゲストは莉帆もよく知るセレブばかりだった。
パーティーの開始が告げられ、照明がスーッと暗くなる。
音楽が流れ始め、皆が会話をやめて注目する中、パッと前方にスポットライトが当てられた。
そこに浮かび上がったのは、『クレール・ドゥ・リュンヌ』の衣装に身を包んだ禅の姿。
人々が思わず息を呑んで見つめる中、禅は真っ直ぐに前を見据えてランエェイを歩き始める。
堂々と、挑むように力強く。
禅というモデルと『クレール・ドゥ・リュンヌ』の衣装が、空間を支配し、空気を変え、見ている者を別世界へといざなう。
たった数十秒の出来事。
だがその衝撃的とも言える強烈な印象は、人々の脳裏に焼き付いて離れなかった。
◇
禅がステージ袖に消え、照明が明るくなると、ニコライがガラリと雰囲気を変えて楽しいパーティーの始まりを告げた。
「ようこそ!我が『クレール・ドゥ・リュンヌ』のパーティーへ。今夜は皆さんにハッピーなニュースをお届けします」
そして日本での直営店第一号オープンのお知らせと、それを皮切りにアジア各国でショーを展開することが発表された。
パリコレでのショーの様子が、前方のスクリーンに映像で流れたあと、ニコライは再びマイクを握る。
「それではフォトセッションの時間だ。我々が自信を持っておすすめする新作衣装を、どうか綺麗に撮ってくれよ?」
ジョーク交じりにそう言ったあと、ニコライはステージに手を向けて人々の視線を促した。
音楽が流れ、明るい照明の中を、美しいカップルが笑顔で手を取り合って登場する。
先程とは打って変わって優しい表情を浮かべた禅が、しっかりと莉帆の手を取り、ランウェイへと促す。
時折見つめ合って微笑みながら、2人はカメラマンが待ち構える前までやって来た。
「目線、お願いしまーす!」
2人でカメラを順番に見つめてから、禅は莉帆のウエストを抱き寄せて、大丈夫?というように莉帆の顔をそっと覗き込んだ。
莉帆がはにかんだ笑みで頷くと、禅も嬉しそうに目を細める。
その様子にカメラのフラッシュがまたしても次々と瞬いていた。
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