久我くん、聞いてないんですけど?!

桜井 恵里菜

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突然の告白

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「蒼井さん。新商品についての詳細とキャッチコピー、いくつか案を用意しました。目を通していただけますか?」

「分かりました、ありがとう」

私と久我くんのデキル関係は続いている。
デキルであって、デキてるではない。

「蒼井くん、ちょっと」

「はい」

珍しく課長に呼ばれた。

「どうかな?久我くんの様子は」

「はい。自ら進んで考えて行動してくれます。パソコンにも長けていて、資料作りやデータの分析も、私よりはるかに戦力になります」

「そうか、なかなか良いコンビだな。これからもこの調子で頼むよ。歓迎会については話してみた?」

「いえ、まだです」

「聞いておいて。こちらとしては、ぜひやりたい」

「かしこまりました」

お辞儀をしてデスクに戻る。

「ね、華さん。久我くんの歓迎会のことですか?」

美鈴ちゃんが前のめりに聞いてきた。
久我くんも、何の事かと顔を上げる。

「そう。もう久我くんが来てから1か月以上経ったしね」

そう言うと、久我くんに説明する。

「うちの会社は、強制参加の飲み会はNGなの。やりたかったら、個人的に声をかけてやるってスタンス。だから久我くんの歓迎会も、私達からは誘わない。久我くんがやりたいって思うならセッティングする。そんな感じなの。どう?別にやらなくてもいい?」

最近の若い人は、飲み会は敬遠しがちで、会社のこの方針はありがたいらしい。

てっきり久我くんもそういうタイプだと思っていた。

「僕は、皆さんさえよろしければ、一緒に飲みに行きたいです」

「えっ、意外!どうして?上司と飲んだって、面白くないよ?」

「蒼井くーん、聞こえてるよ」

すみません、課長。
空耳です。

「じゃあ、私がセッティングします!」

美鈴ちゃん、生き生きしてるわ。
当分仕事は放棄ね。
まあ、いいでしょう。
よろしく頼むよ。

という訳で、早速その週の金曜日に、希望者を募って久我くんの歓迎会が行われた。

*****

「久我くん、ようこそ。かんぱーい!」

課長の音頭で、みんなは一斉に乾杯する。

久我くんはお誕生日席で、周りの上司と愛想良く会話をしている。

「あーん、もう。課長達、久我くん離してくれない。よーしこうなったら、さっさと課長達を酔わせて久我くん奪還よ!課長~ぅ。お酒、お注ぎしま~すぅ」

美鈴ちゃん、仕事の時もそれくらいやる気がみなぎってくれるといいな。

私は一番遠くの席で、ちびちびと手酌で飲む。

ふと目が合った久我くんがいきなりすくっと席を立ち、私の隣にやってきた。

「華さんに手酌はさせられません」

そう言ってグラスに注いでくれる。

「いいよ、気を遣わなくて。久我くん、クールなキャラだから無理してない?最近の男の子は、こういうお酒の席でお酌して回るの、面倒くさいって思うんでしょ?」

久我くんはキュッと眉を寄せた。
あ、またムッとしてる。
拗ねるといつもこんな顔するよね、久我くん。

何に拗ねてるんだろ?
小言のうるさいオバハンとか思われてるのか?

4歳違いだけど、22歳の久我くんからしたら、オバサンの類なのだろうか?

まあ、仕方ない。
私だって4歳も年下の男の子、どう接していいか分かんないしね。

美鈴ちゃんなら、1つ違いだから気が合うかも?
そう言えば、美鈴ちゃんはどうした?

キョロキョロ探すと、課長達に囲まれてヘベレケになっている美鈴ちゃんがいた。

あらら、酒は飲んでも呑まれるな、ですよ。
仕方ない、助け舟を出すか。

立ち上がろうとしたが、右手が動かない。

ん?なんだ?
視線を落とすと、テーブルの下で久我くんが私の右手を掴んでいるのが目に入った。

「久我くん?離して」

「嫌だ。離さない」

…は?なに、若者の逆襲?
だから無理して飲み会なんて来なくて良かったのに。

私は仕方なく座り直した。

「どうしたの?何か言いたいことでも溜まってる?」

「ものすごく溜まってる」

「そっか。まあ、入社して1か月以上経つと、色々見えてくるものあるよね。普段は言わないように我慢してたの?」

「めちゃくちゃ我慢してました」

「そうなの?言ってくれたら良かったのに。でも今からでも聞くよ。何を言いたかったの?」

「華さんが好きです」

ハナサンガ スキデス。
はなさんが すきです。

色々変換してみるがピンとこない。

「なに?はなさんって。花金の仲間?」

「違いますよ、あなたのことです。僕はあなたが好きです」

「あら、ありがとう。私も久我くんみたいにいい後輩ができて、ほんとに助かってるよ」

すると久我くんは、最大級にムッとした顔になる。

「ねえ、そんなに顔しかめてると、眉毛の間に梅干しできるよ。ほら」

久我くんの眉間のシワシワを触ると、パシッと手首を掴まれた。

「ちょっと来て」

「はい?」

久我くんは私の手首を掴んだまま個室を出る。

通路を奥へと進み、角を曲がった所でグイッと腰を抱き寄せられた。

そのまま後ろの壁に私を押しつけ、片手を壁について逃げられまいと囲う。

え、これって、壁ドンと腰グイの合わせ技?

「ちゃんと話を聞いてくれるまで離さない。いい?」

「は、はい。聞きますとも。企業コンプライアンスは遵守いたします」

「俺とつき合って欲しい」

「何に?」

「はあー?もう…、分からないなら身体で教える」

そう言うと久我くんはジワジワと顔を寄せてきた。

待て!まさか、これはっ…

「わー!ちょっと待った!分かった、分かったから!」

久我くんの顔を両手でグニャッと押し返す。
変顔にしちゃってごめんなさい。

「ね、ちょっと、おかしくない?」

「何が?」

「私、久我くんより4歳年上だよ?おまけに地味だし可愛げないし、恋愛にも興味ない。久我くんなら、もっとこう…、年下の可愛い女の子を彼女にした方がいいと思うよ?」

「余計なお世話です。俺は華さんがいいので」

「なんでそうなるかな。納得いかない」

「納得いかせますよ。だから俺とつき合ってください」

「それは無理」

「どうして?」

「私、結婚するから」

久我くんは、ハッとしたように目を見開く。

「嘘だ」

「ほんと」

「だって、恋愛に興味ないって…」

「恋愛と結婚は別だから」

「どういう意味?」

「どうもこうもない。そのままよ」

スッと久我くんの腕から力が抜ける。
私はスルリとその腕をかいくぐってその場を去った。
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