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夜明け前
宿屋にて2
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【宿屋にて2】
首輪が外れ、しばらくしてハルカに連れられて食事へと向かう。
食事は19.00~20.00の間に、宿屋一階の食堂ですることが出来る。
食堂はかなり広いらしく、宿屋に泊まっている人の多くが集まるらしい。
『梟の止まり木』の客のほとんどは冒険者か商人だったりする。
「ヒナタ、宿屋にいる時は帽子を被ってなくて良いんだよ?」
ハルカが僕を見てそう言った。
あれからずっと麦わら帽子を被り、食事に行く時までそのままで行こうとしたからだ。
確かにおかしいのは分かる。
帽子は太陽の眩しさから守る為のアイテムだ。
それは部屋用ではない。
けれど首輪が外れた今、僕は帽子を被ることで足元の不安定さを忘れられることが出来るのだ。
肉体的な意味ではなく、精神的な意味での不安定さ。
奴隷商人の元しか居場所がなかった僕の新しい場所。
それを証明してくれるのが、帽子のような気がしたのだ。
だからハルカの呼びかけにも、片手で麦わら帽子を押さえて首を横に振る。
「はぁ~、まぁ良いか。
ヒナタの容姿は目立つし、それを隠すと思えば」
そう言って部屋の扉を開けるので、僕はその背中を慌てて追うようにしてついて行く。
部屋から出て、階段を降りる。
それだけのことなのだが、やはり自分の足で歩くことにまだ慣れていない。
だから、ハルカの服の裾を軽く握ってついて行く。
ギュッと手すりを握るかのような感じではない。
摘んだところ以外にはシワが出来ないくらい軽く握る。
そうして一階に降りて、先ほどのカウンターを通り抜けて食堂に到着した。
19.00ピッタリに着いたのだが、既に着席して夕食を待ちわびている人もたくさんいた。
僕たちは、ちょうど真ん中くらいの空いてるテーブルに座った。
周りにはたくさん冒険者の人たちがいる。
ハルカと同業者の人たちで、同じ宿屋に泊まっているのだから、知り合いでもいるのかな?と思っていたのだが、誰も話しかけて来たりはしなかった。
代わりに、チラチラとハルカと僕を見る視線はたくさんあった。
僕は恥ずかしくなってハルカを見るが、こんな視線はいつものことなのか全く気にした様子はない。
着席して5分もしないうちに料理が運ばれてきた。
パンとスープと肉、そしてデザートにフルーツ。
僕は日本にいたころを含めて、料理らしい料理を食べたことがなかった。
その為、食欲を突き刺すように刺激する、肉の美味しそうな香りに驚いた。
食事が運ばれてきて、ハルカは頂きますと言って両手を合わせる。
僕もそれを見よう見真似で合わせた。
それから、ハルカはナイフとフォークを上手に使って食事を始めた。
一方で、僕はハルカが料理を食べているさまをぼうっと見ていた。
「どうしたの?食べないの?」
僕は手元のナイフとフォークを持ってみる。
が、片手だと上手く使えそうになく、不器用に握る形になってしまう。
スプーンは入院食でよく使っていたのだが、他のは箸くらいしか使ったことがなかった。
「もしかしてナイフとフォークの使い方が分からない?」
僕はコクリとうなづいた。
もう一度両手に握った二つの食器を見るが、どう扱えば良いのか分からなかった。
すると、ハルカは僕の肉のお皿を自分の方に取り、フォークとナイフを使って上手に切っていく。
一つ一つがちょうど一口サイズになるように全て切ってくれた。
「はい。本当は一人で出来るように練習しなきゃいけないんだけど、今日は特別ね」
切り分けた肉のお皿を僕の方に戻す。
そうなれば、あとは僕でも出来た。
フォークを肉に突き刺して口に運ぶ。
「……お……いし……」
初めて食べた料理は、美味しかった。
特に飾る言葉はなく、純粋に美味しくて幸せな気分になる。
パンを食べて、スープをすする。
全てが新鮮で、幸せな行為だった。
そんな冒険者をハルカがニコニコしながら見ている。
「…あ……りが…と」
今日、ハルカに出会ってから僕はいくつもの幸せな経験をした。
それは異世界に来て理不尽な思いをした……というより、日本にいた頃にすら与えられなかったものを、いくつももらった。
間違いなく、僕の人生で一番幸せで最高の日だと言える。
だから、僕もぎこちないけど笑顔でお礼を言う。
いつか本で読んだフレーズに
『幸せをもらった時の最高のお返しは、満面の笑顔なんだ』
と書いてあった。
読んだ時には自分には関係のないことだと思っていたけど、今日少しだけ意味が分かった気がする。
色々と思うところはあるけれど、幸せを感じて満面の笑顔を作る。
そんな僕を見て、ハルカは一瞬驚いたような顔をしたが、やはりすぐにいつもの優しい表情に戻る。
「どういたしまして。
これからよろしくね、ヒナタ」
そう言って、僕頭を撫でてくれるのだった。
少し擽ったさを感じたが、心地良かった。
ご飯を食べ終わり、部屋に戻る。
入った時は気づかなかったのだが、部屋の入り口の左側にスイッチがあり、それを押して灯りをつけた。
一回押すと小さな灯りがつく。
それだけだと部屋は少し薄暗い。
二回目押すと、完全に灯りがついて明るくなる。
ハルカは灯りを二回押した後に
「色々と話したいことはあるけれど、今日は疲れただろうからもう寝ようか」
そう言って、もう二回押す。
灯りが消えて、すぐに小さな灯りがついた。
ハルカはパジャマに着替えていたし、僕の白い服はパジャマのようなものだから、そのままベッドに入る。
ベッドはふかふかで暖かかった。
ゴツゴツした牢屋の床とは当然、比べ物にならない。
大きな一つのベッドに並んで横になる。
「おやすみ。ヒナタ」
ハルカはそう言って、添い寝をしながら僕の頭を優しく何度も撫でてくれた。
僕はその一定のリズムに心地良さを感じながら意識を落としたのだった。
首輪が外れ、しばらくしてハルカに連れられて食事へと向かう。
食事は19.00~20.00の間に、宿屋一階の食堂ですることが出来る。
食堂はかなり広いらしく、宿屋に泊まっている人の多くが集まるらしい。
『梟の止まり木』の客のほとんどは冒険者か商人だったりする。
「ヒナタ、宿屋にいる時は帽子を被ってなくて良いんだよ?」
ハルカが僕を見てそう言った。
あれからずっと麦わら帽子を被り、食事に行く時までそのままで行こうとしたからだ。
確かにおかしいのは分かる。
帽子は太陽の眩しさから守る為のアイテムだ。
それは部屋用ではない。
けれど首輪が外れた今、僕は帽子を被ることで足元の不安定さを忘れられることが出来るのだ。
肉体的な意味ではなく、精神的な意味での不安定さ。
奴隷商人の元しか居場所がなかった僕の新しい場所。
それを証明してくれるのが、帽子のような気がしたのだ。
だからハルカの呼びかけにも、片手で麦わら帽子を押さえて首を横に振る。
「はぁ~、まぁ良いか。
ヒナタの容姿は目立つし、それを隠すと思えば」
そう言って部屋の扉を開けるので、僕はその背中を慌てて追うようにしてついて行く。
部屋から出て、階段を降りる。
それだけのことなのだが、やはり自分の足で歩くことにまだ慣れていない。
だから、ハルカの服の裾を軽く握ってついて行く。
ギュッと手すりを握るかのような感じではない。
摘んだところ以外にはシワが出来ないくらい軽く握る。
そうして一階に降りて、先ほどのカウンターを通り抜けて食堂に到着した。
19.00ピッタリに着いたのだが、既に着席して夕食を待ちわびている人もたくさんいた。
僕たちは、ちょうど真ん中くらいの空いてるテーブルに座った。
周りにはたくさん冒険者の人たちがいる。
ハルカと同業者の人たちで、同じ宿屋に泊まっているのだから、知り合いでもいるのかな?と思っていたのだが、誰も話しかけて来たりはしなかった。
代わりに、チラチラとハルカと僕を見る視線はたくさんあった。
僕は恥ずかしくなってハルカを見るが、こんな視線はいつものことなのか全く気にした様子はない。
着席して5分もしないうちに料理が運ばれてきた。
パンとスープと肉、そしてデザートにフルーツ。
僕は日本にいたころを含めて、料理らしい料理を食べたことがなかった。
その為、食欲を突き刺すように刺激する、肉の美味しそうな香りに驚いた。
食事が運ばれてきて、ハルカは頂きますと言って両手を合わせる。
僕もそれを見よう見真似で合わせた。
それから、ハルカはナイフとフォークを上手に使って食事を始めた。
一方で、僕はハルカが料理を食べているさまをぼうっと見ていた。
「どうしたの?食べないの?」
僕は手元のナイフとフォークを持ってみる。
が、片手だと上手く使えそうになく、不器用に握る形になってしまう。
スプーンは入院食でよく使っていたのだが、他のは箸くらいしか使ったことがなかった。
「もしかしてナイフとフォークの使い方が分からない?」
僕はコクリとうなづいた。
もう一度両手に握った二つの食器を見るが、どう扱えば良いのか分からなかった。
すると、ハルカは僕の肉のお皿を自分の方に取り、フォークとナイフを使って上手に切っていく。
一つ一つがちょうど一口サイズになるように全て切ってくれた。
「はい。本当は一人で出来るように練習しなきゃいけないんだけど、今日は特別ね」
切り分けた肉のお皿を僕の方に戻す。
そうなれば、あとは僕でも出来た。
フォークを肉に突き刺して口に運ぶ。
「……お……いし……」
初めて食べた料理は、美味しかった。
特に飾る言葉はなく、純粋に美味しくて幸せな気分になる。
パンを食べて、スープをすする。
全てが新鮮で、幸せな行為だった。
そんな冒険者をハルカがニコニコしながら見ている。
「…あ……りが…と」
今日、ハルカに出会ってから僕はいくつもの幸せな経験をした。
それは異世界に来て理不尽な思いをした……というより、日本にいた頃にすら与えられなかったものを、いくつももらった。
間違いなく、僕の人生で一番幸せで最高の日だと言える。
だから、僕もぎこちないけど笑顔でお礼を言う。
いつか本で読んだフレーズに
『幸せをもらった時の最高のお返しは、満面の笑顔なんだ』
と書いてあった。
読んだ時には自分には関係のないことだと思っていたけど、今日少しだけ意味が分かった気がする。
色々と思うところはあるけれど、幸せを感じて満面の笑顔を作る。
そんな僕を見て、ハルカは一瞬驚いたような顔をしたが、やはりすぐにいつもの優しい表情に戻る。
「どういたしまして。
これからよろしくね、ヒナタ」
そう言って、僕頭を撫でてくれるのだった。
少し擽ったさを感じたが、心地良かった。
ご飯を食べ終わり、部屋に戻る。
入った時は気づかなかったのだが、部屋の入り口の左側にスイッチがあり、それを押して灯りをつけた。
一回押すと小さな灯りがつく。
それだけだと部屋は少し薄暗い。
二回目押すと、完全に灯りがついて明るくなる。
ハルカは灯りを二回押した後に
「色々と話したいことはあるけれど、今日は疲れただろうからもう寝ようか」
そう言って、もう二回押す。
灯りが消えて、すぐに小さな灯りがついた。
ハルカはパジャマに着替えていたし、僕の白い服はパジャマのようなものだから、そのままベッドに入る。
ベッドはふかふかで暖かかった。
ゴツゴツした牢屋の床とは当然、比べ物にならない。
大きな一つのベッドに並んで横になる。
「おやすみ。ヒナタ」
ハルカはそう言って、添い寝をしながら僕の頭を優しく何度も撫でてくれた。
僕はその一定のリズムに心地良さを感じながら意識を落としたのだった。
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