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夜明け前
奴隷生活3
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【奴隷生活3】
マルコと会ってから1ヶ月ほど過ぎた。
相変わらず変わり映えのない日々を送っている。
奴隷生活は同じルーティーンばかりだから、当然といえば当然か。
強いて言えば隣の部屋で、マルコからスープを貰ったひ弱な男が死んだ。
強制労働中にドジをして事故死らしい。
彼はあの一件以来、マルコに懐いていたのでマルコはかなり悲しんでいた。
鉄格子越しで僕と話をする時も落ち込んでいたので、適当に慰めてあげた。
正直全く興味がなかった。
翌日には新たな奴隷が入ってきた。
これといった特徴もない普通の奴だ。
そして、また肉スープが配られた。
器は5個しかなかったので、またマルコが我慢していた。
曰く
「新入りなんだから、美味いモノ食って元気を出せ」
と。
マルコによると、もうじきに助けがくるらしい。
助けと言っても、僕たちは奴隷で逃亡防止の首輪を嵌められているのだ。
嘘をついているとは思わなかったが、本当とも思えなかった。
そんな感じで時は流れて、状況は変わらない。
相変わらず食事はマズイし、『教養』の時間では殴られる。
マルコや隣の席の子とも軽く話すし、牢屋の中は汚い。
僕の足は動かない。
このまま一生を過ごすのかな、なんて思っていた。
けれど今、マルコが僕にこっそりと話しかけてきたことで日常は破られた。
「おい、ヒナタ」
「ん、どうしたの?」
マルコは周りをチラリと見て、誰も聞いていないことを確認した。
そして、僕に耳を鉄格子に近づけるように合図をする。
少し体を起こして言われた通りに、耳を鉄格子にくっつけた。
「実はなんだが、明日俺たちの仲間が来るんだ」
「仲間?レジスタンスの?」
聞き返すと彼は神妙にうなづく。
「あぁ、レイモンド子爵だ」
「!?」
声を出さないようにしながらも驚く。
レジスタンスは現在の王権をひっくり返そうとする、いわば革命軍のようなものだ。
そんな組織に現役の貴族が加担しているという情報はあまりにも衝撃的すぎた。
「これは絶対に内緒にしてくれ」
今度は僕が神妙な顔でうなづいた。
「レイモンド子爵が奴隷を購入……と言う形で俺ともう一人の仲間を解放してくれるらしい。
流石に表だってあからさまな動きは出来ないからな。
この一カ月も色々と根回しをしてくれていたみたいだ」
なるほど。
仲間が助けに来てくれるとはそういうことだったのか。
納得と同時に少し安心した。
僕が想像していたように奴隷商人の店を襲撃……なんてなったら、どうしようかなんて考えていたのだ。
自由は得られるかもしれない。
もう殴られなくても良いかもしれない。
マズイ食事をしなくて良いかもしれない。
けれど僕にはこの世界に居場所なんてないんだ。
仲間なんていない。
帰る家も故郷もない。
となると僕はいきなりこの世界に放り出されることになる。
それならば、今の劣悪な環境でも奴隷と言う居場所があるだけマシなんだ……。
「そうなんだね。それは良かった。おめでとう」
僕はにっこりとマルコに笑みを向ける。
マルコには戻るべき場所も仲間もいる。
だからそれは、喜ばしいことだ。
「あぁ、ありがとう。
それでなんだが、ヒナタ。
お前も一緒に抜け出さないか?」
「え?」
想像もしていなかった発言に僕の思考はフリーズする。
「1カ月くらい話して、お前が悪い奴じゃないと分かったし、良ければなんだが俺たちの仲間にならないか?」
「それは……」
「体が不自由でもちゃんと俺たちが面倒を見る。
それにお前は元勇者で色々なことを知ってる。
だから別に同情とかじゃない。
純粋な勧誘だ」
マルコの目は本気だった。
直視出来なくて目を逸らす。
「僕は高いらしいよ」
そう逃げるように言った。
「いくらだ?」
「金貨500枚」
一般的な4人家族が一カ月幸せに暮らすには金貨3枚で充分だと言われている。
金貨1枚が日本円でいう10万円くらいの価値だ。
「そりゃ高いな。俺たちの10倍近くあるじゃねえか」
金貨50枚だって、奴隷としては高級奴隷に属する。
マルコは精悍な体つきだし、仲間の人もマルコみたいな人か愛玩奴隷に違いない。
命が軽いこの世界。
一番安い奴隷なんて金貨1枚くらいなのだから……。
「うん。だからさ……」
僕が言葉を紡ぐ前に、マルコが被せるようにして追い討ちをかける。
「それでも、元勇者の知識を持つお前が欲しい。
金貨500枚の価値はあると思う」
マルコがまたしても真っ直ぐに僕を見て来る。
この視線は苦手だ。
「って言っても支払うのはレイモンド子爵だよね」
誤魔化すように言うと、まぁなとマルコが豪快に笑う。
勧誘は嬉しい。
僕の価値を見出してくれたということだ。
使えない僕なんかにさ。
けど、だからこそ怖い。
もし僕がマルコの想像しているような働きが出来なかったら。
もし仲間の人たちから、いらないと言われてしまったら。
なにより僕自身に金貨500枚の価値があるとは思えない。
マルコのことは結構好きな部類だ。
お人好しだけど綺麗な人間。
だから僕を買ったことで彼が責められたらと思うと怖かった。
「あのさ、マルコ」
「ん?」
「気持ちは嬉しいけど、やっぱり僕はここに残るよ。
まだ決心がつかないし、自分の力で何とかして見せる」
今度は僕が真っ直ぐにマルコを見た。
虚言、嘘で半分構成された言葉を吐きながら視線を外さないように堪えた。
「はぁ……」
マルコが大げさに手を額にやりながらため息を吐いた。
「なんとなく、断られるような気はしてたんだよな。
けど嫌なら仕方ねえか。
無理に誘ってもアレだしな」
「ありがとう。ごめんね」
「気にすんなって、こっちこそいきなり悪かったな」
明日からはマルコと、たぶん『教養』で隣の席の子がいなくなる。
少し寂しかっだけど、仕方ないことだ。
差し出された助けのロープにすがりつくことを選ばずに、泥沼の中にいることを選んだ。
それだけなんだ。
僕どマルコはたわいもない話をたくさんして最後の夜を過ごした。
一カ月の中で一番夜更かしをしたと思う。
けどマルコは明日解放されるし、僕も寝ているだけだから全く問題はなかった。
夜が更けていった。
マルコと会ってから1ヶ月ほど過ぎた。
相変わらず変わり映えのない日々を送っている。
奴隷生活は同じルーティーンばかりだから、当然といえば当然か。
強いて言えば隣の部屋で、マルコからスープを貰ったひ弱な男が死んだ。
強制労働中にドジをして事故死らしい。
彼はあの一件以来、マルコに懐いていたのでマルコはかなり悲しんでいた。
鉄格子越しで僕と話をする時も落ち込んでいたので、適当に慰めてあげた。
正直全く興味がなかった。
翌日には新たな奴隷が入ってきた。
これといった特徴もない普通の奴だ。
そして、また肉スープが配られた。
器は5個しかなかったので、またマルコが我慢していた。
曰く
「新入りなんだから、美味いモノ食って元気を出せ」
と。
マルコによると、もうじきに助けがくるらしい。
助けと言っても、僕たちは奴隷で逃亡防止の首輪を嵌められているのだ。
嘘をついているとは思わなかったが、本当とも思えなかった。
そんな感じで時は流れて、状況は変わらない。
相変わらず食事はマズイし、『教養』の時間では殴られる。
マルコや隣の席の子とも軽く話すし、牢屋の中は汚い。
僕の足は動かない。
このまま一生を過ごすのかな、なんて思っていた。
けれど今、マルコが僕にこっそりと話しかけてきたことで日常は破られた。
「おい、ヒナタ」
「ん、どうしたの?」
マルコは周りをチラリと見て、誰も聞いていないことを確認した。
そして、僕に耳を鉄格子に近づけるように合図をする。
少し体を起こして言われた通りに、耳を鉄格子にくっつけた。
「実はなんだが、明日俺たちの仲間が来るんだ」
「仲間?レジスタンスの?」
聞き返すと彼は神妙にうなづく。
「あぁ、レイモンド子爵だ」
「!?」
声を出さないようにしながらも驚く。
レジスタンスは現在の王権をひっくり返そうとする、いわば革命軍のようなものだ。
そんな組織に現役の貴族が加担しているという情報はあまりにも衝撃的すぎた。
「これは絶対に内緒にしてくれ」
今度は僕が神妙な顔でうなづいた。
「レイモンド子爵が奴隷を購入……と言う形で俺ともう一人の仲間を解放してくれるらしい。
流石に表だってあからさまな動きは出来ないからな。
この一カ月も色々と根回しをしてくれていたみたいだ」
なるほど。
仲間が助けに来てくれるとはそういうことだったのか。
納得と同時に少し安心した。
僕が想像していたように奴隷商人の店を襲撃……なんてなったら、どうしようかなんて考えていたのだ。
自由は得られるかもしれない。
もう殴られなくても良いかもしれない。
マズイ食事をしなくて良いかもしれない。
けれど僕にはこの世界に居場所なんてないんだ。
仲間なんていない。
帰る家も故郷もない。
となると僕はいきなりこの世界に放り出されることになる。
それならば、今の劣悪な環境でも奴隷と言う居場所があるだけマシなんだ……。
「そうなんだね。それは良かった。おめでとう」
僕はにっこりとマルコに笑みを向ける。
マルコには戻るべき場所も仲間もいる。
だからそれは、喜ばしいことだ。
「あぁ、ありがとう。
それでなんだが、ヒナタ。
お前も一緒に抜け出さないか?」
「え?」
想像もしていなかった発言に僕の思考はフリーズする。
「1カ月くらい話して、お前が悪い奴じゃないと分かったし、良ければなんだが俺たちの仲間にならないか?」
「それは……」
「体が不自由でもちゃんと俺たちが面倒を見る。
それにお前は元勇者で色々なことを知ってる。
だから別に同情とかじゃない。
純粋な勧誘だ」
マルコの目は本気だった。
直視出来なくて目を逸らす。
「僕は高いらしいよ」
そう逃げるように言った。
「いくらだ?」
「金貨500枚」
一般的な4人家族が一カ月幸せに暮らすには金貨3枚で充分だと言われている。
金貨1枚が日本円でいう10万円くらいの価値だ。
「そりゃ高いな。俺たちの10倍近くあるじゃねえか」
金貨50枚だって、奴隷としては高級奴隷に属する。
マルコは精悍な体つきだし、仲間の人もマルコみたいな人か愛玩奴隷に違いない。
命が軽いこの世界。
一番安い奴隷なんて金貨1枚くらいなのだから……。
「うん。だからさ……」
僕が言葉を紡ぐ前に、マルコが被せるようにして追い討ちをかける。
「それでも、元勇者の知識を持つお前が欲しい。
金貨500枚の価値はあると思う」
マルコがまたしても真っ直ぐに僕を見て来る。
この視線は苦手だ。
「って言っても支払うのはレイモンド子爵だよね」
誤魔化すように言うと、まぁなとマルコが豪快に笑う。
勧誘は嬉しい。
僕の価値を見出してくれたということだ。
使えない僕なんかにさ。
けど、だからこそ怖い。
もし僕がマルコの想像しているような働きが出来なかったら。
もし仲間の人たちから、いらないと言われてしまったら。
なにより僕自身に金貨500枚の価値があるとは思えない。
マルコのことは結構好きな部類だ。
お人好しだけど綺麗な人間。
だから僕を買ったことで彼が責められたらと思うと怖かった。
「あのさ、マルコ」
「ん?」
「気持ちは嬉しいけど、やっぱり僕はここに残るよ。
まだ決心がつかないし、自分の力で何とかして見せる」
今度は僕が真っ直ぐにマルコを見た。
虚言、嘘で半分構成された言葉を吐きながら視線を外さないように堪えた。
「はぁ……」
マルコが大げさに手を額にやりながらため息を吐いた。
「なんとなく、断られるような気はしてたんだよな。
けど嫌なら仕方ねえか。
無理に誘ってもアレだしな」
「ありがとう。ごめんね」
「気にすんなって、こっちこそいきなり悪かったな」
明日からはマルコと、たぶん『教養』で隣の席の子がいなくなる。
少し寂しかっだけど、仕方ないことだ。
差し出された助けのロープにすがりつくことを選ばずに、泥沼の中にいることを選んだ。
それだけなんだ。
僕どマルコはたわいもない話をたくさんして最後の夜を過ごした。
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