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夜明け前
奴隷生活1
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【奴隷生活1】
牢番がバカデカイ声で僕の番号を呼んだ。
『教養』の時間が始まるらしい。
手の力を使って、牢屋の入り口まで移動して迎えが来るのを待つ。
そうすると、いつものように牢番ともう一人雑用係らしき男が持ち運び用の簡易ベッドを運んで来る。
せっせと両端を持って運び、僕の牢屋の前まで来るとドサリと落とす。
牢番はふぅとため息を吐く
「はぁ、相変わらずクソ重いな。これ」
「本当にな。片道だけで一苦労だぜ」
同じようなため息を吐きながら、額の汗を拭う雑用係が同意する。
そして、牢屋の前に立ち鍵を開けてキィッと鉄格子の扉を開く。
「おい、早く乗れ」
僕は黙ってうなづいて、牢屋から抜け出す。
そして、また手の力だけで移動して簡易ベッドに横たわる。
世界一いらない情報だが、牢屋の中とは違って、外の廊下はピカピカで綺麗なので、這うのも気持ちが良かったりする。
そうして、僕が乗ったことを確認すると二人がベッドを持ち上げる。
「おいおい、さっきとほとんど重さ変わらねえな」
雑用係の男が呆れたように言った。
「いつものことだろう。こんなナヨナヨしたのがお貴族様はお好きなようだしな」
牢番はぶっきらぼうにそう言う。
僕の体重っていくつくらいなのだろうか?
最後に病院で身体測定をした時は身長が150cmに満たないくらいで体重は40kg前半だったから、もう少し痩せているかもしれない。
持ち上がったベッドは、一定のリズムで揺られながら廊下を進んでいく。
いくつもの牢屋の前を通り過ぎて、階段を登って地上へと出る。
牢屋は地下室でそのほかの施設が地上といった構造なのだ。
階段を登ってそのまま、真っ直ぐに進み二つ目の部屋に入った。
部屋の中はこじんまりとした教室といったところで、机と椅子が10組ずつあり、部屋の前方に教壇がある。
僕が到着したのが最後らしく、9組埋まっていた。
空いてる席の近くで降ろされて、両脇を抱えられるようにして椅子へと座らされる。
僕が無事着席すると、二人はベッドを持って部屋を出て行った。
教壇の方を見ると、まだ先生は来ていないようで各々がヒソヒソと話をしていた。
僕以外全員が女性だ。
愛玩奴隷……ということで、決して良い未来が待っているとは限らないのだが、彼女たちの顔には男奴隷にあるような絶望感や悲壮感はない。
純粋に愛玩奴隷だから現時点では、そこそこ大切にされていて、待遇はそこまで悪くないのだ。
中には女性でも戦闘奴隷……といった人もいるが、そんな人は『教養』なんてものは受けさせられない。
そうして、愛玩奴隷なのに僕の待遇はあまり良くない。
謎である。
奴隷社会の女尊男卑について真剣に考えていると、隣の席から視線を感じた。
チラリと見やる。
見たことない人だったので、またまた新入りなのだろう。
勝ち気そうな17,18くらいの少女だった。
赤い髪をショートカットにまとめている。
赤い髪で何か引っかかったのだが、結局その瞬間では思い出せなかった。
僕が視線を外すと、しばらくして彼女も視線を外して俯いてボソリと呟いた。
「こんな小さな子供が……」
膝の上で拳をギュッと握りしめている。
確かに僕の方が身長も明らかに小さいけれど、日本にいた頃にはすでに17歳だったから、たぶん同じか少し上だと思う……。
なんだか無性に悲しくなっていると、彼女が話しかけてきた。
「ねぇ君。もしかして歩けないの?」
遠慮がちに尋ねられるが、先ほどの運ばれて来た様子を見ればそんなことは分かると思う。
彼女は距離感を測りかねているのだろうと思った。
「はい。もう足が動かなくなっちゃって」
そうにこやかに言う。
「そう…なんだ……」
それっきり彼女は黙り込んでしまった。
よく分からないが、こちらから話しかけることもないので、そのままになった。
先生が遅れてやって来た。
初老の男性だ。
とは言え、こんな環境だから教師というよりヤクザぽさのある人だ。
いつものように読み書きと軽い計算。
そして一般常識を叩き込まれる。
「良いか、読み書きができるだけで奴隷の値段は3倍違う。
値段が3倍違ってみろ。
お前らのご主人も裕福な奴になるだろう。
そうすれば、お前ら奴隷の生活レベルだって上がるんだ。
死ぬ気で覚えろよ」
毎日、最初にこんなことを言われる。
みんなそれを真に受けて必死で勉強をしていた。
けど良く考えたら、主人が裕福だからと言って必ずしも奴隷が幸せになれるとは限らないのだ。
裕福ということは、たくさん替えの奴隷を購入できるから一人や二人を酷く扱ったって構わないだろう。
逆に暮らしが裕福でない人の方が大切にしてくれるかもしれない。
とは言え、僕は言われたとおりに勉強するしかないんだけど……。
最初に先生が講義というには余りにもお粗末な説明をする。
それでも、僕を含めてみんなちゃんと真剣に聞いている。
そして次に軽い演習をする。
計算だったら先生が前に書いた問題を写して解いて、読み書きだったら先生が話した言葉をそのまま書き取ったりする。
それだけで大体3時間くらいはある。
あまり頭の出来が良くない僕は疲れ始めてくる頃だ。
それが終わると小テストがある。
僕にとって一番嫌な時間だ。
日本にいた恩恵で、計算はいつものように満点が取れた。
言語は、読みは何とか出来る程度。
書きに至っては、単語と単語のぶつ切りでしか書けない……。
他の人たちは、読み書きはかなり完成していて、隣の新入りの子ですらある程度は出来るのに……。
どうしても日本語で考えてしまうところがある。
先生は書きが相変わらず出来ない僕のことをいつものように杖の先で何度も叩いた。
「うっ……カハッ……」
慣れてはいるけど痛いものは痛いし、息が苦しくなって自然と涙が出てしまう。
それでも流石というべきか、ヤクザぽい見た目を裏切らずに先生は容赦なく僕を打ち付けた。
それを見て、隣の席の子が今にも先生に殴りかかりそうな形相をしていたが、何とか自制心が勝ったのか堪えて俯いていた。
「物覚えの悪いバカは、家畜と同じだ。痛みで覚えさせるしかないな」
そう言って満足そうに先生が立ち去った。
打たれたところが熱を持って熱い。
きっと今日は寝ようとすると痛いのだろう……。
そう考えると少し憂鬱だ。
打ち据えられて、机にだらりとうつ伏せになったままため息をそっと吐いた。
これさえなければ、『教養』は好きな時間なんだけどなぁ……。
牢番がバカデカイ声で僕の番号を呼んだ。
『教養』の時間が始まるらしい。
手の力を使って、牢屋の入り口まで移動して迎えが来るのを待つ。
そうすると、いつものように牢番ともう一人雑用係らしき男が持ち運び用の簡易ベッドを運んで来る。
せっせと両端を持って運び、僕の牢屋の前まで来るとドサリと落とす。
牢番はふぅとため息を吐く
「はぁ、相変わらずクソ重いな。これ」
「本当にな。片道だけで一苦労だぜ」
同じようなため息を吐きながら、額の汗を拭う雑用係が同意する。
そして、牢屋の前に立ち鍵を開けてキィッと鉄格子の扉を開く。
「おい、早く乗れ」
僕は黙ってうなづいて、牢屋から抜け出す。
そして、また手の力だけで移動して簡易ベッドに横たわる。
世界一いらない情報だが、牢屋の中とは違って、外の廊下はピカピカで綺麗なので、這うのも気持ちが良かったりする。
そうして、僕が乗ったことを確認すると二人がベッドを持ち上げる。
「おいおい、さっきとほとんど重さ変わらねえな」
雑用係の男が呆れたように言った。
「いつものことだろう。こんなナヨナヨしたのがお貴族様はお好きなようだしな」
牢番はぶっきらぼうにそう言う。
僕の体重っていくつくらいなのだろうか?
最後に病院で身体測定をした時は身長が150cmに満たないくらいで体重は40kg前半だったから、もう少し痩せているかもしれない。
持ち上がったベッドは、一定のリズムで揺られながら廊下を進んでいく。
いくつもの牢屋の前を通り過ぎて、階段を登って地上へと出る。
牢屋は地下室でそのほかの施設が地上といった構造なのだ。
階段を登ってそのまま、真っ直ぐに進み二つ目の部屋に入った。
部屋の中はこじんまりとした教室といったところで、机と椅子が10組ずつあり、部屋の前方に教壇がある。
僕が到着したのが最後らしく、9組埋まっていた。
空いてる席の近くで降ろされて、両脇を抱えられるようにして椅子へと座らされる。
僕が無事着席すると、二人はベッドを持って部屋を出て行った。
教壇の方を見ると、まだ先生は来ていないようで各々がヒソヒソと話をしていた。
僕以外全員が女性だ。
愛玩奴隷……ということで、決して良い未来が待っているとは限らないのだが、彼女たちの顔には男奴隷にあるような絶望感や悲壮感はない。
純粋に愛玩奴隷だから現時点では、そこそこ大切にされていて、待遇はそこまで悪くないのだ。
中には女性でも戦闘奴隷……といった人もいるが、そんな人は『教養』なんてものは受けさせられない。
そうして、愛玩奴隷なのに僕の待遇はあまり良くない。
謎である。
奴隷社会の女尊男卑について真剣に考えていると、隣の席から視線を感じた。
チラリと見やる。
見たことない人だったので、またまた新入りなのだろう。
勝ち気そうな17,18くらいの少女だった。
赤い髪をショートカットにまとめている。
赤い髪で何か引っかかったのだが、結局その瞬間では思い出せなかった。
僕が視線を外すと、しばらくして彼女も視線を外して俯いてボソリと呟いた。
「こんな小さな子供が……」
膝の上で拳をギュッと握りしめている。
確かに僕の方が身長も明らかに小さいけれど、日本にいた頃にはすでに17歳だったから、たぶん同じか少し上だと思う……。
なんだか無性に悲しくなっていると、彼女が話しかけてきた。
「ねぇ君。もしかして歩けないの?」
遠慮がちに尋ねられるが、先ほどの運ばれて来た様子を見ればそんなことは分かると思う。
彼女は距離感を測りかねているのだろうと思った。
「はい。もう足が動かなくなっちゃって」
そうにこやかに言う。
「そう…なんだ……」
それっきり彼女は黙り込んでしまった。
よく分からないが、こちらから話しかけることもないので、そのままになった。
先生が遅れてやって来た。
初老の男性だ。
とは言え、こんな環境だから教師というよりヤクザぽさのある人だ。
いつものように読み書きと軽い計算。
そして一般常識を叩き込まれる。
「良いか、読み書きができるだけで奴隷の値段は3倍違う。
値段が3倍違ってみろ。
お前らのご主人も裕福な奴になるだろう。
そうすれば、お前ら奴隷の生活レベルだって上がるんだ。
死ぬ気で覚えろよ」
毎日、最初にこんなことを言われる。
みんなそれを真に受けて必死で勉強をしていた。
けど良く考えたら、主人が裕福だからと言って必ずしも奴隷が幸せになれるとは限らないのだ。
裕福ということは、たくさん替えの奴隷を購入できるから一人や二人を酷く扱ったって構わないだろう。
逆に暮らしが裕福でない人の方が大切にしてくれるかもしれない。
とは言え、僕は言われたとおりに勉強するしかないんだけど……。
最初に先生が講義というには余りにもお粗末な説明をする。
それでも、僕を含めてみんなちゃんと真剣に聞いている。
そして次に軽い演習をする。
計算だったら先生が前に書いた問題を写して解いて、読み書きだったら先生が話した言葉をそのまま書き取ったりする。
それだけで大体3時間くらいはある。
あまり頭の出来が良くない僕は疲れ始めてくる頃だ。
それが終わると小テストがある。
僕にとって一番嫌な時間だ。
日本にいた恩恵で、計算はいつものように満点が取れた。
言語は、読みは何とか出来る程度。
書きに至っては、単語と単語のぶつ切りでしか書けない……。
他の人たちは、読み書きはかなり完成していて、隣の新入りの子ですらある程度は出来るのに……。
どうしても日本語で考えてしまうところがある。
先生は書きが相変わらず出来ない僕のことをいつものように杖の先で何度も叩いた。
「うっ……カハッ……」
慣れてはいるけど痛いものは痛いし、息が苦しくなって自然と涙が出てしまう。
それでも流石というべきか、ヤクザぽい見た目を裏切らずに先生は容赦なく僕を打ち付けた。
それを見て、隣の席の子が今にも先生に殴りかかりそうな形相をしていたが、何とか自制心が勝ったのか堪えて俯いていた。
「物覚えの悪いバカは、家畜と同じだ。痛みで覚えさせるしかないな」
そう言って満足そうに先生が立ち去った。
打たれたところが熱を持って熱い。
きっと今日は寝ようとすると痛いのだろう……。
そう考えると少し憂鬱だ。
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