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8:良い竜悪い竜

大勝負2

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 髪を纏めるのに使ったり服飾に使ったりと様々な用途があるためか、リボンは種類に富んでいた。色も形も様々なものが陳列されている。長さも違えば幅が異なるものもあり、ひだがついていたり、一部分だけ素材が違う物もあった。
 午後からの開店を考えるとゆっくり選択する暇はないのだが、イヴは目移りして悩んでしまう。日常使いではなくというのが益々迷わせる。


 ーーこの色、綺麗。こっちは細すぎなくて使いやすそう。でもやっぱり見た目がいい方がいいかなぁ


 一つ一つ眺めているイヴの横から一つのリボンをとった。イヴの目とは反対の色をしており、先は生地が異なり色も黒となっていて緩くひだもついていた。
 視界にちらついたリボンに顔を上げ、目を見開いた。


 ――この色……


「これがいいと思うんだけれど……どうかしら? 似合いそう」
「いいですね……この色、好きです」


 今着けているリボンの位置まで持ち上げて当てる。顔全体を見て頷き、イヴの手の上へと乗せた。乗せられたリボンをまじまじと見る。細くはないが髪の間に通して結んでも問題ない太さだ。服を置いて手の上で上下に揺らす形で折り畳む。数回折り畳める程度には長いが、巻き付けるなり結ぶ箇所を増やせば肩まで垂れる長さにはならないだろう。
 包んで胸元まで引き寄せた。口元には笑みが浮かんでいる。


「これにします」
「じゃあそれと……他にはどうするの? あの奥のも良さそうよ?」
「あ……一つでいいんです。今日使うだけなので」
「今日が勝負なのね! わかったわ!」
「買ってきます」


 事情を話すとミランダは深く頷いて納得した。カウンターへと向かい、手に持ったリボンを店員に見せて提示された金額を置く。支払いを終えると置いていた服を持ってミランダと共に店を後にした
 服とリボンを両腕で抱える形にして、歩き始める。隣に並んだミランダを見上げてあ、と声を発した。


「赤い果物がたくさん実っていますよね?」
「木に出来るラフートの事かしら?」
「はい。たくさんほしいんですけど……いくらぐらいしますか?」
「パンに使うの?」
「いいえ。あげたいんです」
「そう。それなら買うより交換とかでもらった方がいいんじゃないかしら?」


 シェリー達が普段自然と行っている物物交換。実際口に出来たのもお金を出したわけではなくもらったものだ。だがイヴはパン屋に世話になっているだけの身に過ぎない。
 考えたイヴだったが首を横に振って否定した。


「出来ればお金で買いたいんですけど……」
「そうねえ……ここで買うならそこまでの金額じゃないから、買えると思うわ」
「本当ですか? どこで買えますか?」
「良かったらうちの畑にいらっしゃいな。少しだけど安くで売ってあげるから」


 手弱女の穏やかな笑みに、何度も頷く。自然と背筋が伸びて表情も和らいだ。
 しかしふと足を止めてあ、と何か気付いた様相でミランダが声を発する。イヴは首を傾げて同じように足を止めた。顔を覗き込めば片手を顎にあてている


「でも……今日はちょっと無理かも」
「えっ」
「今日は午後から皆で別の作業があるのよ。」
「そうなんですか」
「後日でもいい?」


 問いを投げられて手にしている服とリボンを見下ろす。今日最低限必要な物は揃っている。今日持って行きたい気持ちと後日ではあるものの安くで買えればその分多く持っていけるという想いでぐらぐらと揺れる。悩んだが首を縦に振った


 ーー今日持っていけたら一番良かったけど……たくさん買えた方が良いよね


「じゃあ……後日お願いします」
「わかったわ。お店にまた窺うわね」
「はい」


 ーーとりあえず二つとも買えたからもういいかな?


「わたしはそろそろ帰りますね。選んでくれてありがとうございます」
「すぐ終わっちゃったけれどね。……結果、聞かせてね?」
「は、はい」


 顔を近づけて声を潜めて伝えるとミランダは微笑を見せた。囁かれた内容にイヴははにかんで俯く。
 ミランダはイヴから距離をとり、畑の方を見る


「それじゃあ、またね」
「はい、また」


 挨拶を交わして背を向け畑に向かっていくミランダを見送ってからパン屋に向かった。少し小走り気味に。


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