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7:重い音はいまは遠く

雫は落ちる

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 言に違う事なく挨拶だけをして雨の中アルベルトは去っていった。扉が閉まり姿が見えなくなると居住側へと二人は戻った。
 イヴは外を眺めた。依然として黒い雨雲が垂れ込んでいる。これには青息吐息だ。まだ希望は残されているものの、少なくとも今日は森に入ることは出来ないだろう。


 ――せめて今日の夜までには止んで、明日行けますように


 黒竜との仲が確かに一歩進んだ言葉があり気になっていた。今まで以上に行きたくて仕方がない。イヴの想いとは裏腹に、昨日は疲労から行けなかった。今日に至っては生憎の雨。殊更想いが増していた。
 明日もダメになってしまったなら。イヴは首を左右に小刻みに振った。恋患いで居てもたってもいられないだろう自身を今は抑制する。


 ――そうだ。会えたら好きな食べ物を訊いて、果物とか嫌いじゃなかったからあの果物買って持っていきたいな。美味しいって言ってくれるかな?


 好ましいと感じたあの果物を共に食べる姿を思い浮かべる。普段の黒竜の態度を反映させた。言葉少なで他者を拒絶するばかり。戦いが終わった今も尚ほの暗いものを背負い続けている。そんな黒竜が「美味しい」と言って食べる姿は想像がつかない。何度試みて見ても一口で食べては黙する姿だ


 ーー……今は難しいかも。それに一緒に食べてもらえたとしても、一個じゃ足りないよね


 一息であらゆる物を食らい尽くせる大きな口。幾人をも呑み込めそうな体躯。小さな果実一つでは到底満たせそうにない。
 うんうん唸って悩んでいたイヴだが、不意に名前を呼ばれて顔を上げる。シェリーの声だ。見ればグレンが作業室から出て来ており二度焼きされたパンをカゴに入れて持ってきていた。シェリーはあら熱がとれたものをミルクの入った器に入れて浸している。ミルクで柔らかくなったパンを一つ摘まんで食べていた。


「あんたも食べな」


 誘われて腹を撫で下ろす。胃が張っているという事もないが、小腹程度もまだ空いていない。普段ならば駆け寄っているところだが、首を横に振った。


「……いらないんならいいけどさ。保存がきくしね」
「少しお腹が空いた時にでもまたいただきます」
「じゃあいつでも食べられる場所に置いておこう。お腹が空いたら、食べるんだよ」


 今食べる分は分けて木製の器に入れて、残りは棚へと置いておかれる。イヴの傍らまで赴いてグレンは囁く。まるで秘密のお茶会にでも誘うかのように。


「持っていってどこかで食べたりとかも……いいですか?」
「もちろん」
「……ありがとうございます」


 口元を緩めて棚に目をやる。分けているがまだ数がある。三人で毎日三食食べたとしても五日は保ちそうな量だ。全粒粉の二度焼きビスキュイは固く、中に木の実や果物、チーズといったものを入れられたものではないがいざというときに空腹を満たすのに十分だ。
 ふと、見られている気がしたイヴは視線の主を探す。シェリーがじっと見ていた


「気になってたんだけど……あんた、どこから来たんだい?」


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