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6:呑み込む想い
それは、新しい出会い2
しおりを挟む「行ってきます」
「気をつけて行っておいで」
昼食を終えると持ち物を確認してから出た。二人の見送りの言葉をしっかりと耳にして宿へと向かう。宿は一度利用したことがあるため、大体の景色を頼りにしながらもたどり着く事ができた。
初めて来た時以来の来訪だ。シェリーに教わった通りに階段を探して店の隣を見る。初来訪時には気付かなかった下に続く階段がそこにはあった。酒場を示すプレートは見当たらない。イヴのように見落とす者もいそうだ
プレートも何もないため、足がなかなか動かない。注意深く周囲を見たり、階段を覗き込んだ。階段の脇の壁にはランプが点々とついていた。入口は太陽が照らしてくれるものの、陽の光が及ばぬ場所はランプがなければ暗くて下りられそうにない。
一度大きく息を吸う。ゆっくりと息を吐いてから壁に手をつきながら階段を下りていった
最後の段の踏板から降りてイヴは一度目を閉じた。
徐ろに目を開ける。数にして三〇もない階段だったが、ランプがあるとはいえぼんやりとした明かりだった。しかし階下に着くや飛び込んできたのは地上と同じくらいの光だったのだ。地下は広く、室内を幾多ものランプが煌々と照らしていた。明かりが消えた時の為か一箇所につき二つ置いてある。
酒場はというと、円形のテーブルと椅子が並んでいるが座っている客は多くはない。カードを楽しんでいるものもいるが静かに飲んでいるものがほとんどだった。視線を動かしていけば、肉や野菜を売っているカウンターや、服を売っているカウンターもある。
――酒場ってこんな風になってるんだ。話は聞いた事があったけど……
酒場に訪れたのは今までで初めてらしく、ほうっと感嘆の息を漏らした。酒場と名はついているが、小商いもある。広さからして集まる事も十分出来そうだった。地方の酒場なため比較的狭いのだろうが、街の人々を収容するには十分だ
隅々まで見回す勢いなイヴだったが、メモを取り出した。シェリーに頼まれた通りの物を購入する。支払いを終え巾着は萎んだが少し余った。落とさないように腰のリボンに強めに結び付け直す。
買い出しを終えて、酒場の方へ向かった。小さな姿を探して視線を下げる
ーー外で遊んでいるのかな……? それともお仕事?
遊びたい盛りの子供二人に、明るい昼間。外遊びをしていてもおかしくはない。また、朝のように手伝いをしていてもおかしくはなかった。物陰も覗き込んで見てみるが視界には認められない。
ーーまた、来よう。お肉もあるし帰らないと
「さっきから何してんの? あんた」
「えっ……」
声のした方に顔を向ければ女性がイヴを見据えていた。髪を上部で一つに纏め、袖のない服を着ている。活力が溢れだしているようでありながら、つり目で厳しそうな面持ちをしていた。あからさまに警戒した目がイヴに容赦なく突き刺さる。視線の矢で客観的に見れば怪しい行動をしているのだと気付いて身を引いた。
「あ、あのごめんなさい! わたしパン屋で働いているんですけど……」
「へえ。あそこ、とうとう雇ったんだ」
「朝、小さい子達がパンを買いに来てくれて……前そういう子達の世話をしていたので、思い出して気になって」
突然声をかけられた事と怪しまれているという事があって狼狽気味ながらも事情を簡易に話した。パン屋と聞いた女性から視線から鋭さが消えた。完全に警戒が解けたわけではない。和らいだだけだ。未だイヴの一挙手一投足に注意を払っている。
弁明の言葉を並べ立てているイヴをまじまじと見て女性は「ふうん」と興味なさそうに呟いた。
「あんたより小さい子は他にもいると思うけどね」
「それは……そう、だろうと思いますけど……わたし、まだここに来てから日が浅くて。あまり、知らなくて」
「なんだ、よそ者かいあんた」
「えっと……街の外から来たのは、来たんですけど」
「ああもう、はっきり言いなよ!」
「はっはい! 外から来ました!」
狼狽を抜いても煮え切らない言葉に苛立たしげに強く言い放った。眉間に皺を寄せて眦を決する女性に肩を震わせる。一般的に恐ろしいとされる竜よりも彼女の方がイヴのは恐ろしかった。体が竦んで咄嗟に答えるが女性は腕を組んで睨んできている。
「オイ、静かに酒が飲めねえじゃねえか」
「ああ、悪いね。……よそ者自体は別に珍しくないけどね、妙な事はしないでよ」
「追加頼むよ」
大声を上げたからだろう。静かな場を引き裂き飲酒中の彼らを邪魔してしまった。近くの男が不機嫌そうに視線を寄越した。はっとして身を縮こませたイヴだが、女性は軽く流して注文を受けに呼んだ客の方へと足を向けた。歩を進める前に女性が振り返る。
「あの子達は十分働く年だから今は働いてるよ」
それだけ言い残して接客に向かってしまった。怒鳴られた恐怖もあって茫然としてしまったが遅れて理解する。ここにはいないことを教えてくれたのだと。
礼を言おうとしたイヴだったが、彼女はもう注文の品を覚えてカウンターの向こうへと行ってしまった。
――……帰ろう……。やっぱり、また来よう
目的の人物はおらずお遣いも済ませた。会話だけだったが酷い疲れも感じていたため、イヴは帰る事とした
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