一目惚れなんです、黒竜様

雪吹つかさ

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5:それは小麦と恋の香り

女の子の内緒話3

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 スライスしたパンの間に昨日物々交換交換で得たチーズと、塩漬けの肉を薄く切ったものをパンで挟む。それをバスケットに入れる。バスケットの中には、種類が異なるパンが先にいくつか並んでいた。


「それじゃあそれ、悪いけどミランダに頼むよ」
「はい。行ってきます」


  今日は朝早くに予定通りグレンが出て行った。不在のため、女二人での食事だ。今日は休日のためゆったりといつもよりも時間をかけて食事を済ませた。
  食事を終えてしばらくして、シェリーが今日食べたパンとはまた別のパンとバスケットを出した。何の用意なのか気になったイヴが尋ねてみるとシェリーは「ミランダのところに」との事だった。昨日のミランダの一件については遣いに関しての報告はしたものの仔細は話さなかったのだが、間が良いというべきか。イヴには昼からミランダと約束がある。
 会う約束を取り付けている事を話しついでに渡す事を告げるとイヴ用にパンを増やしてくれた。おまけに何でも挟んでもいいという。厚意に甘えて挟んだものをバスケットに入れ腕にバスケットをぶら下げて裏口から出て――今に至る。バスケットを片腕に誰かと約束をして会う事に少しだけワクワクしていた。

 ――今日はミランダに自分が何故この街に来たのか話す日だ。ミランダのいる農地を目指しながらこの街にたどり着くまでの事を考えていた。ただひたすらにがむしゃらで、話せる事はそう多くはない。


(誰かにちゃんと話すのは初めてかも……)


 それでもこの想いを誰かに打ち明けられるというのは嬉しかった。胸の奥から喜びが湧いてくる。足取り軽く、上機嫌で畑へと向かった


 今日は雲が多いものの空は晴れている。そのため耕地には作業をしている人が多く見られた。その中から約束をした人物を探すため一渡りも二渡りも見回す。ちょうど作業時間だからかより多い。更に言えば皆同じような格好をしているため見分けがつきにくい。昨日は雲が空を覆っていた上人の多い時間からはズレていた。昨日のようには見つけられない。
 皆忙しそうに思え邪魔をしてはいけないとなかなか柵で仕切られた向こう側に進めずまごついてしまう。 その場でミランダを探していたが、見つかりそうにない。このままでは拉致があかない。話しかけられそうな人物を探す。井戸に向かっている女性を見つけた。目の端で動いていた人物に焦点を定め近付き声をかけた


「ミランダさんってどこにいるか知っていますか?」
「ミランダちゃん? ミランダちゃんなら蔵で作業しているはずだけど」
「蔵、ですか?」
「ほら、あそこの。奥にある」
「あっ……あれですね。ありがとうございます」


 女性が畑の奥を指で示した。畑の奥の方を見れば小屋らしきものが見える。何人かが収穫物を小屋の中へと運び込んでいるのが目に入った。人が多く見つけづらいという訳ではなく、最初からミランダは外にいなかったのだ
 礼を言ってから蔵へと向かう。畑を避けて迂回して向かったため少々時間はかかったがたどり着く事が出来た。扉を開けて中に入れば、中にも複数人での作業が行われていた。その中の一人としてミランダはいた。座って何かを一つ一つ別に分けている。その作業をひたすら繰り返すミランダの傍らまで赴いて、名前を呼んだ。
 ミランダが顔を上げてイヴを見ると笑いかけた。


「こんにちは、イヴ」
「あの、約束どおり来ました」
「ああ! もうそんな時刻? 嬉しいわ、本当に来てくれたのね」
「でも……もう少し、後の方がいいですか?」
「うーーん……そうねぇ……」


 どう見ても仕事中で忍びなく思って尋ねればミランダは悩みだした。イヴが約束を果たして来てくれた事に喜びを表現していたものの、仕事を放り出す訳にはいかないだろう。
 思案していたミランダだったが、立ち上がった。スカートをはたいて砂や細かい葉っぱを払い落としていく


「せっかく来てくれたのにごめんなさい。今すぐには無理そうだわ」
「いいえ。じゃあまた後で……」
「今すぐは無理だけれど、もう少ししたら休憩に入れるから待っていてもらってもいい?」
「わかりました。今日はおやすみだからわたしは大丈夫です」


 返答にフフッとミランダは優しい笑みをこぼす。嬉しそうだ。


「ありがとう。じゃあ……私達が初めて会った場所で待っていてくれる?」


 二人が初めて出会った場所。すぐに思い浮かんで、首肯して扉を開けた。
 出る前に振り返ればミランダは他の作業員と話をしていた。視線に気付いたのか首を巡らせる。目が合うと笑顔になって片手を振ってくれた。それに対してイヴは礼をして蔵を出て行った

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