3 / 71
1:運命の邂逅
交わす言葉
しおりを挟む――ずっと会いたかった。もう一度、姿を見たかった
かつて少女は間違いなくこの黒竜を見た。空の彼方まで消えるのをずっと目で追った。その姿に目を奪われた相手――皆が恐れる竜。白雪が如く少女は恐ろしいという気持ちはなかった。むしろ言葉が交わせるなんてなんと僥倖なのかと喜びが胸中に広がっていた
「わたしあなたに会いたいと思っていたの」
「そうだろうな。こんな奥地まで来る程だ。しかし貴様にやるものはない。力も貸すつもりもない」
「黒竜様は、一目惚れとかって信じますか……?」
少女が胸の高鳴りに両手で胸を押さえながらも問い掛ける。初めて黒竜を見た時、目だけではなく心も奪われた。故に心臓は激しく脈打ち、告げる声は震えている。頬は赤く色付き頭は真っ白になってしまいそうになる。言葉も上手く纏まらない。それでも少女は唇を開いて言葉を紡ごうとしていた。黒竜への想いを
「あなたの事、知りたいの」
「――帰れ」
そんな少女に浴びせたのは冷たい言葉だった。放たれた言葉は他者を屈服させる程の力強さがあった。少女は両足に力を入れて踏みとどまる。力を込めなければ崩れ落ちてしまいそうだった。少女の体は危険であると警鐘を鳴らしている。圧力だけで力を奪うこの黒竜は生命を脅かす生物であると。それでも少女は体からの警告を無視し、黒竜に悟られぬように見つめて一歩踏み出した。すると竜は前肢の片側を上げ、思い切り振り下ろした。大地を踏み鳴らして遠くまで振動させる。振動で少女の体が僅かに浮いた。少女が懸命にこめた力など脅威の生物の前では無いに等しい
「帰れ、人間の戯れ言を聞くつもりはない!」
「お願い、話を――」
「愚かな人間よ、そんなに死にたくば朽ち果てるがいい!」
憤怒で燃え上がる目が眼光鋭く少女を睨めつけて大きな翼を広げる。広げただけで少女の視界の半分を埋め尽くした翼は羽振き始める。風を生み、やがて強風となって少女を襲った。大地に根を張るように飛ばされまいと踏みとどまる少女だが、徐々に風は強くなる。周囲の木々の葉は風で舞い、枝は撓う。その内に枝は折れて風のままに飛ばされた。次第に少女の体も浮き、とどめとばかりに強く翼を動かした。途端に力に押さえつけられて枝葉と共に飛ばされてしまう
少女が唇を動かして何か伝えようとしている。だが荒れ狂う風の前では何も黒竜には届かなかった
――暴風を止めた時にはとうに少女の姿はない。木々も抗えなかった横風で周辺の木の葉はすっかり散ってしまった。森の気配を探る。少女の気配は遠ざかっていっていた。少女がいなくなったと知ると黒竜は身を伏せる。黒竜にとっては彼女がどんな想いで来たのかなど知ったことではない。今まであらゆる目的でここに訪れた数多の者たちと大差ないのだ
つと、魔族の頂点に君臨していた者が脳裏によぎって目を細めた
――嗚呼、気分が悪い
それはこんな日々か
先程の新たな訪問者か
それとも――――そこまで考えて瞼を下ろした
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

邪魔しないので、ほっておいてください。
りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。
お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。
義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。
実の娘よりもかわいがっているぐらいです。
幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。
でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。
階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。
悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。
それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる