黎明の錬金技工術師《アルケミスター》と終焉の魔導機操者《アーティファクター》

かなちょろ

文字の大きさ
上 下
72 / 156
第四章 砂漠の遺跡

第七十二話 四人の決断

しおりを挟む
 俺、レア、マブルさんがヘイトルーガを出て少し前の話し。

「ねぇねぇ、お姉ちゃん達」
「なに?」
「どうしたの?」

 ベッドで横になりながら同じ部屋で座っているエイル、ルルアに話しかけている。

「ケンジお兄ちゃん達の後を着いて行かなくていいの?」

 そう話すのは少し前まで風土病で熱を出していたフラン。

「そうね、フランの熱も下がったしケンジを追いかけても良いんだけど」
「無理はしちゃダメですよ」
「もう治ったし平気だよ。 皆んなで行けば魔生獣だって怖くないし」
「でもねえ……」
 
 フランの提案に少し悩んでいるエイル。

「……話しは聞かせてもらった……」

 いつの間にか部屋に入って来ているアンが、腕を組んで扉の前にいる。

「……フランも良くなったし、私もいる。 二人もそこそこ戦える……、これなら大丈夫」

 アンは親指を立ててサムズアップしている。

「ケンジさん達が帰って来るまで待ちませんか?」

 ルルアは言われた通り、待っている選択をしたようだが、そんなルルアにエイルは甘い言葉で語りかける。

「ルルア~、そんな事言って良いの? ケンジたちが向かったのって遺跡よ遺跡、古代遺跡。 何か良いお宝が見つかるかも知れないよ」
「ゔっ……」
「そうだよルルアお姉ちゃん。 僕もう平気だし、お兄ちゃんの所に行こうよ」
「……そう、お宝……、そしてケンジに会える……」
「……う~ん……、そうだね、レアさんにも会いたいし、行ってみちゃおっか?」
「うん! 決定だね」

 ルルアはエイルの甘い誘惑に負けてしまい、全員の意見が一致したので、エイル、ルルア、アン、フラン達はケンジ達の後を追うために旅立つ準備を始めた。

「まずは、ファブルの町に行くために船のチケットを買わなくちゃ」
「エイルさん、もうジルがあんまり無いよ?」
「それなら僕が稼ごうか? 僕可愛いから直ぐにジルなんて稼げるよ」
「「それは駄目! です!」」

 フランの提案はエイルとルルアに即却下された。

「……私が買う?」

 暗殺者のアンは元々ジルを使うタイプでは無いので、それなりの蓄えがあるようだが……。

「大丈夫。 私に任せて! これでもゴールドのガルなんだから!」

 エイルはぷにっとした二の腕を見せる。

「それでどうするんですか?」
「ガル支部で依頼を受けます! ゴールドだしそれなりの依頼を受けれるはず!」

 エイルは腰に手をやり胸を張る。

「わかりました。 私達も協力します!」
「大変な依頼だったら、宜しくお願いします」

 ルルア達の協力を経て、船のチケットを手に入れる為に依頼を受ける事にする。

「ここで受けられるんですよね?」
「そうよ……、こんにちは~」

 受付の人に声をかける。

「ようこそ、ガル支部へ。 ご依頼ですか?」
「はい。 ゴールドランクで受けられる依頼ありませんか?」
「ゴールドですか!?」

 受付の男性はランクを確認する。

「確かにゴールドですね……、しかも色々やってますね……。 これなら……と、これなんてどうですか?」

 出してきた依頼は【サンドスコーピオンの針 三つ】と言う依頼だ。

「報酬は針一つにつき三千ジルか……、うん、これなら良いかな。 で、サンドスコーピオンって強いの?」
「強いですよ! サンドスコーピオンの事知らないで依頼受けたんですか!?」
「私ここに来たばかりだから知らないけど、報酬的に強いんだろうな~、ってのはわかるけど、どんな魔生獣なの?」
「サンドスコーピオンは砂漠に出ます。 砂の中に潜っていて、いきなり襲って来る時もあります。 そして硬い外骨格で並の剣では歯が立ちません。 針には毒がありますから注意が必要ですよ」
「かなり厄介そうね」
「でも弱点もあります」
「弱点? なにそれ! 早く教えて!」
「わ、わかりましたから落ち着いて下さい」

 エイルは受付の人を揺さぶって弱点を聞き出そうとする。

「弱点ですが、サンドスコーピオンは低温に弱いですね。 水も苦手です。 ですから水で牽制して氷で攻撃するのがおすすめですよ」
「氷ね、わかったわ。 ありがとう」

 部屋に戻り、皆んなに説明する。

「一匹ずつ戦えばなんとかなりそうですね」
「氷……、氷か……」
「フランどうしたの?」

 考え事をしているフランにエイルが訪ねる。

「い、いえ、なんでもないです」
「そう? それなら良いけど。 作戦としてはこの中で一番素早いアンがサンドスコーピオンを誘き寄せて、私が氷魔法を使ったエイルキラキラ魔導銃まどうがんで攻撃するってどうかな?」
「エイルさん、私はどうすれば良いですか?」
「ルルアはフランを守ってあげて」
「僕なら大丈夫だよ」
「ダメよ。 本当は連れて行くのもダメなんだからね」
「……、……わかった」
「アンもこの作戦で良い?」
「……問題無い……」

 こうしてサンドスコーピオン討伐の準備を始め、お昼過ぎには砂漠に向かった。

「ローブ着てても暑いわねぇ……」
「仕方ないですよ」
「僕暑いの苦手~……」
「……私は慣れてる……」

 岩場と砂漠が交差しているこの場所は砂に埋まる事がない場所だ。
 そう言う場所にサンドスコーピオンはいるって聞いていた。

「この辺りでしょうか?」
「そうね。 気をつけて進みましょう」

 出来るだけ日陰に入りつつ進む。

「……いる……」

 アンがスライムを槍状にして構える。
 そして皆んなも武器を構える。

「フランは私の後ろにいてね」

 ルルアがフランの前に立つと、リュックからマジックハンドが出てくる。

「来たわよ!」

 砂の中からサンドスコーピオンが這い出してきた。

「アン! お願い!」

 アンは槍でサンドスコーピオンに突き刺すが、外骨格が硬く刃が通っていない。
 そのままアンを追って来る。

「くらえーー!」

 エイルは魔導銃まどうがんでサンドスコーピオンに氷の魔法を飛ばす。
 サンドスコーピオンは二本の爪でそれを防ぐが、爪ごと氷る。

「やったあ!」

 エイルが次の魔法を撃とうとするが、サンドスコーピオンは力で氷を砕き、エイルに襲いかかってくる。

「きゃああ!」

 近づき過ぎたエイルにサンドスコーピオンの爪が襲い掛かる!

「エイルさん!」

 ルルアがマジックハンドで爪を受け止めると、エイルがサンドスコーピオンの顔を目掛けて魔導銃まどうがんを撃つ。
 そしてアンの槍がサンドスコーピオンの背中にある急所を捉え、サンドスコーピオンは倒れた。

「エイルさん! やりましたね!」
「やったね! それよりアン!」
「……なに?」
「その槍、サンドスコーピオンの外骨格も貫けるの?」
「外骨格の隙間から……、急所を狙っただけ……」
「倒せるなら初めから倒してくれれば良いのにー!」
「……それだと、エイルの出番が無くなる……」
「そんな気を使わなくて良いの!」
「……そう……、難しいのね……」
「と、とにかく倒せたんですから、針を取っておきましょう」
「そうね、よし! 後二匹!」

 アンに外骨格の隙間を剣で切ってもらい針を取り出す。

「針は依頼用だけど、他は売ってジルにしよっと」

 一匹目の解体が終わると、次を探す。

「なかなかいないわね」
「そうですね……」
「サンドスコーピオンは砂の中にいるのよね?」
「そうですよ」
「それなら、無理矢理引きずり出せばいいわよね?」
「え?」

 エイルは小型爆弾コロボムを取り出すと、無造作に投げる。

「ちょ、ちょっとエイルさん!」

 あちこちで爆発する。
 すると、爆発した場所から十数体のサンドスコーピオンがワラワラと湧き出して来た。

「あ……、ちょっとやり過ぎちゃったかも……」

 その全てがエイル達に狙いを定め、襲いかかって来る。

「エイルさ~ん!!」
「……これは……無理……」

 エイルがフランを抱き抱え、アンがルルアを抱き抱えると、全速力で逃げる。
 その後を追うサンドスコーピオン。

「エイルさん、どうするんですか~!」
「わかんないよ~!」

 ドドドドッと地響きを上げてサンドスコーピオンの群れが襲いかかってくる。

「やれやれ、しょうがないなぁ……」

 抱き抱えられていたフランがエイルの腕から降りると、向かって来るサンドスコーピオンの前に立ち塞がる。

「フランなにやってるの!」
「早く逃げて!」
「……間に合わない……」

 もう駄目だと思った時、サンドスコーピオンの群れは一瞬で氷の彫像と化していた。

「「えっ!! ええっーー!!」」

 フランが何かやったのだろうか?
 あまりに一瞬で、皆んな驚き以外の声が出ない。
 そのフランは砂の上にパタリと倒れてしまった。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 6

あなたにおすすめの小説

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

プリンセス☆ボーイ

川口大介
ファンタジー
魔術師クリートは、一目惚れしたお姫様のクローンを創ろうとした。 だが失敗。出来上がったのは、お姫様そっくりの美少年であった。 クリートは唖然、茫然、愕然、失意のどん底に叩き込まれるが、 当のクローンはそんなクリートを「ご主人様」と呼んで一途に慕う。クリート自身がそういう風に創ったからだ。 完璧な出来栄えである。性別以外は。 だが。 そんな、「完璧だが大失敗なクローンの出来栄え」が、 綱渡り的な奇跡の軌跡であったことを、クリートは後に知る。 そしてその奇跡が、世界規模の災厄を止める切り札となる……! 実は。 この作品を執筆したのは、軽く十年以上も昔のことでして。 本作に途中から登場するサブヒロイン(メインヒロインはクリーティア)である エイユンは、この作品が初出です。この後、エイユンを気に入った私が、 彼女をメインヒロインに据えて描いたのが先に投稿しました「このアマ」なのです。 「このアマ」をまだ未読の方、よろしければそちらも見てやって下さいませ。 そして。 メインヒロインたるクリーティアは後に、 「ニッポニア」でミドリに、「事務長」でニコロになりました。 それやこれや、思い出深い作品なのです。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

処理中です...