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第三章 コロシアム

第四十四話 暗殺者アン

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 第二試合、大盾を持つリーナに勝ちついに三回戦。
 相手は暗殺者アサシンのアン。
 ここまで勝ち進んでいるのだから強いのだろう。
 なんとか勝たなくては……。

「これより第三死合いを始める! 両者前へ!!」
 
 レフェリー兼執事さんの声で闘技場コロシアムに立つ。
 目の前にはアンがいる。
 目は伏せていて俺を見ていない。

「死合い開始!!」
 
 掛け声と共にアンが懐から両手に鈍色にびいろ短剣ダガーを出して突進してくる。

「あぶねっ!」
 
 アンの攻撃を躱しながら、後ろに距離を取る。
 アンは短剣ダガーを懐にしまうと、鈍色にびいろの長い槍で突いてくる。
 剣でなんとか防御する。
 槍を懐に入れ、今度は鈍色にびいろの曲刀を取り出すと鍔迫り合いになる。

「一体いくつの武器を持ってるんだ?」
「……ナイショ……、それより早く殺されてね……」
 
 お互い距離を取ると、また突進してくる。
 今度は懐から丸いボールを取り出し、地面に投げつけると爆発し、もうもうと辺り一面に煙が充満する。
 これじゃ何も見えない。
 アンは暗殺者アサシンだ。 この状況は慣れているだろうな。
 アンの足音に集中するが動いていないのか聞こえない。
 俺が動くのを待ってる?
 俺は魔闘気まとうきを全身に巡らせた直後、背後から斬られた。

「ぐっ!」
 
 足音も気配も無かった……。
 これが暗殺者アサシンの技か……。
 魔闘気まとうきを纏って無かったら危なかった……。

 俺はまだ魔闘気まとうきを使いこなせていないので安定していない。
 長くは纏っていられない。
 アンは俺に一太刀浴びせると、直ぐに煙の中へと消えて行く。
 俺は壁際に行き壁を背にし、アンの動きを探る。
 何処からくる……?

 突然煙を散らし、鈍色にびいろの矢が飛んで来た。
 なんとか矢を弾くと、鈍色にびいろの無数のクナイの様な刃が飛んでくる。
 全て弾く事は出来ず、何個かくらってしまうが、魔闘気まとうきのお陰で深くは刺さっていない。
 すると、弾いた矢、クナイもどきの刃が煙の中に戻って行く。

 煙も収まって来た頃、アンの姿がうっすらと見えてきた。
 そして風を打つ音がすると俺の左手首が折れていた。

「つっ! なんだ!?」
 
 アンを見ると持っていたのは鈍色にびいろの鞭。
 鞭の攻撃は音速になる。
 連続して鞭で攻撃してくるのを転がりながら躱す。

「もう~……、面倒臭いな……」
 
 アンが攻撃して来た鞭を躱すと、急に槍へと変化し、俺の腕を突き刺す。

「うおっ! な、なんだあ!?」

 腕に刺さった槍が、曲がり始め体に巻き付く。

「これは……、動け……ない……」

 アンは細い太腿から針状の物を数本取り出すと、首元目掛けて投げてくる。

 俺は自ら倒れ込んで躱したつもりだが、二本程足に刺さってしまった。
 この位なら再生でどうとでもなる。
 俺はおもいっきり力を込めて巻きついている物を千切ろうとするが、なかなか千切れない。

「ふんっ!!」
 
 更に力を込めると、巻きついていた物が勝手に外れ、アンの元に戻って行く。
 アンの肩に戻った鈍色にびいろの物は丸いポヨポヨとしたスライムの様な物に変わる。

「それ……、スライムなのか?」
「……ナイショ……」
 
 そして棘のついたハンマーに変わり、振り回してくる。

「そおい!」
 
 躱した後には、地面に大きな穴が空いている。
 小柄なアンのパワーであんな穴が空くのか!?
 あれだけの大穴を作れるパワーでは魔闘気まとうきを纏っていても殺されそうだ。
 だが得物が重量のある物になったせいで、アンの素早い動きが無くなった。
 今まで押されていたが、反撃開始だ。

 アンがハンマーを振り切った時、隙だらけの首元に剣を振るう。
 防御しなくては首が斬り落とされるぞ。
 俺は隙だらけのアンの首に振るった剣をギリギリで止めた。
 アンが防御しなかったのだ。

「やっぱり……甘いね……」
 
 ハンマーだった武器は形を変えて曲刀になり、振るってくる。
 逆に隙を作ってしまい、首を斬られた。
 なんとか魔闘気まとうきで防御出来た為に首を斬り落とされずにすんだ。

「あっぶねー!」
「じょうぶ……。 面倒臭いな……」
 
 アンは首元を中心に斬りかかってくる。

 剣で防ぐが、アンの曲刀は防いだ部分からぐにゃりと曲がり、俺を斬り掠めて行く。
 俺の攻撃も瞬時に小型の盾に変わり防いでしまう。
 その盾から棘が生え、シールドアタックを仕掛けてくるし、咄嗟に別の武器へと変化する。
 厄介な武器だ。

 アンの武器がスライム状に戻ると、分裂し、次々と刃になって飛んでくる。
 今度は結構めちゃくちゃに飛ばしてくるな。
 武器を飛ばしきったアンに斬りかかる。
 武器の無いアンは動かない。
 その瞬間、地面に突き刺さった刃が形を変え、鉄のロープの様に俺に絡み出した。
 切っても直ぐに元に戻り絡みつく。
 まるで蜘蛛の巣のようだ。
 腕、足、胴と絡みついたロープから棘が生え、俺の全身に突き刺さる。

「ぐうう!!」
 
 剣を落としその場に倒れると、更に棘が深く突き刺さる。
 アンが近づくとロープは解け、曲刀に形をかえる。

「……これで終わり……、じゃあね、ケンジ……」
 
 曲刀が振り下ろされる。
 俺は咄嗟に左腕を動かし、転がりながら曲刀を受けると、左腕は肘から下が斬り落とされた。
 その瞬間に近づいているアンの足を右手で掴むと、思いっきり引き込む。

「あっ!」

 倒れ込んだアンの上に馬乗りになり、首を絞めるように掴むと、アンは俺をジッと見つめ、動こうとはしない。
 むしろそのまま締め殺せと言わんばかりだ。
 アンの細い首は片手で軽々掴める。
 俺は首元の頚動脈けいどうみゃくを抑え、そのままアンを気絶させた。
 動かなくなったアンをレフェリーの執事さんが確認し、勝ちが決まる。

 すかさずアンの胸部を圧迫し意識を戻すと、アンは負けを悟ったのか、スライムを曲刀に変化させ、首を切ろうとする。

「まてまてまてーー!!」
 
 俺はすかさず止める。

「まだ俺を狙う理由とか聞いてないぞ! 勝手に死ぬんじゃ無い! 俺が勝ったんだから、俺の言う事を聞け!」
「…………わかった………」
 
 アンは頬を赤らめながら、俺の腕に引っ付いてきた。

「な、なに?」
「控え室で待ってる……」
 
 耳元で囁くと、アンは控え室に戻って行った。
 理由を教えてくれるって事か?
 優勝したら聞きに行ってみよう。
 次はこの大会の決勝だ。
 早く傷を治さないとな。
 俺は自分の再生能力をよく分かっていなかった。
 この試合で再生能力を使い過ぎたせいで、再生能力が落ちている事に気がつくのは次の試合が始まってからだった……。
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