上 下
21 / 88
第二章 旅の行方

第二十一話 ヴァルスケン帝都へ

しおりを挟む
 レアを追いかけ、エルメリオン王国とヴァルスケン帝国の国境にあるデューク砦までやって来た。

「ここからヴァルスケン帝都までどの位かかるんだ?」
「ここかられふか? モグ……、山を下って半日程ですね。 ……そこから二日位でしょうか……ゴクン……」
「食べるか喋るかどちらかにしような」
「だって、お腹減って減って……、あ、すいませ~ん!」

 店員さんを呼んでるけど、まだ食べるのかよ! 
 俺達は砦で小休憩を挟み、食堂で食事をとっている。

「食べ終わったら出発するからな」
「わかりました。 それじゃ、持ち帰り用も買って行きましょう」
「そ、そうだな……」

 持ち帰り用を待っていると、兵士の声が聞こえてくる。

「やっぱりわからないらしい……」
「でもあのサイズの魔生獣なんて聞いた事ないぜ」
「あの爪は帝国に持って行って調べるんだろ?」
「そうらしいが……、ま、俺達には関係無いけどな」
 
 ……何か気になるな。

「あのすいません」
「なんだ?」
 
 俺は気になったので、兵士に話を聞いた。
 なんでも橋の下で見た事のない鳥の様な爪が見つかったらしい。
 爪は帝国側が引き上げ帝都へ搬送予定らしい。

「エイル、その爪って……」
「そうですね。 もしかして……」
「「サラマンダーの爪!!」」
 
 お互い声がハモッた。
 その爪がサラマンダーの物だったらシャッテが帝国に入ったのは間違いないだろう。
 そしてレアもいるはずだ。
 俺達は急いで帝都への許可証を取って砦を抜け橋を歩く。

「結構高いな」
「あれ? ケンジって高い所苦手ですか?」
「そんな事は無いけど」
 
 それなりに幅がある橋なので、端に寄らなければ気にはならないが、実際橋の端から下を見ると足がすくむ高さだ。

「この橋は由緒ある橋なんですよ」
「由緒ある?」
「はい。 帝国との戦争はこの場所で終結したって言われているそうです」
「なんでこんな場所で? そう言うのって普通は城だったり宮殿だったりでやるもんじゃないか?」
「もちろん表向きはエルメリオン城で行われましたが、その前にこの橋で条約が交わされたらしいです。 この橋は唯一、どちらの国にも入らない中立だからだそうですけどね」
「エイル詳しいな」
「さっき兵士さんに自慢されました」
 
 知ってたわけじゃ無いのか……。

 橋を渡りきり、ヴァルスケン帝国側の砦に到着する。
 許可証を見せ砦に入る。
 エルメリオン王国側の砦の作りとは違うもんなんだな。

「よし、ここからヴァルスケン帝国だな」
「はい。 もしかしたら獣車が出ているかも知れません」
 
 そうか、こっちは何かあったわけじゃ無いからな。
 砦の外には二台の獣車が止まっている。

「丁度いい。 乗せてもらうか」
「う~ん……、あれ獣車の中でも高いタイプですよ」
 
 高い? 確かに獣車の魔生獣がエルメリオン王国では見ない足が早そうな獣車だ。
 俺が眺めていると、兵士が話しかけてきた。

「おや? 君たちは帝都に行きたいのか?」
「ええ、そうなんです」
「そうか、ならもうすぐ竜車りゅうしゃが出ちまうから急いだ方が良い」
 
 竜車りゅうしゃって言うのか。 確かに二足歩行の竜っぽいけど。

「二台あるのにどちらも出発してしまうのですか?」
「ああ、一台は川から引き上げた爪を運ぶ為だからな」
 
 そう言えばヴァルスケン帝国で調べるって話しだったな。

「エイル、早く行こう」
「レアのためですからね」
 
 ……竜車は確かに高かった……。
 エルメリオン王国の獣車の三倍位の値段だ。
 ヴァルスケン帝都に着いたら仕事しないとな……。

 竜車のスピードは確かに早い。
 これなら帝都まで直ぐに着くだろう。

「エイル、前にヴァルスケン帝国は魔導技工士が多いって言ってたが、魔導技工士ってこの魔導法術機ガルファーを作る人が沢山いるのか?」
 
 俺は刀身が折れている剣を取り出した。

「そうですね。 魔導法術機ガルファーだけで無く、一般的な家庭用の物も作りますし、古代のアーティファクトにも詳しい方もいます」
 
 なるほど、それならこの剣も直せる人もいるかも知れないな。 それにシャッテも帝国に来たって事はサラマンダーの足を治すためかも知れない。

「この竜車なら一日程度で着くと思いますけど、レア大丈夫ですかね?」
「レアなら心配無いさ。 あんなに強いんだから」
「そう……ですよね」
 
 竜車に揺られながら、山を下ると前を走っていた竜車が突然道を外れて、脇道に入って行く。
 そして俺達が乗っていた竜車も急に止まる。

「なんだ? どうしたんだ?」
「すいません、前に人が……」
 
 窓から外を見ると、黒尽くめのローブを頭までかぶった人が数人竜車を取り囲んでいる。
 俺は急いで竜車から降りると、黒尽くめの人が話し出す。

「ここから先には行かせない」
「ここで死んでもらう」
 
 黒尽くめの全員が懐から短剣ダガーを取り出すと襲いかかって来た。

 俺は貰った長剣ロングソードで応戦を始める。

「なんだお前達は!?」
「言う必要は無い!」
 
 間合いではこちらが有利だが、素早い攻撃で数人で襲われると防戦一方となる。

「ケンジ!」
「エイル! そこから出るなよ!」
「いえ! 私も戦います!」
 
 エイルも戦いに参加するが、相手が手練れだ。

「ぐわっ!」
 
 竜車を運転していた御者の人がやられた。
 黒尽くめの奴らは俺とエイルを相手にしながら竜車も壊し始めている。
 そして多勢に無勢、これ以上はもたない……。
 一か八か……。

「エイル! こっちに!」
 
 エイルを呼び、手を握って引き寄せると同時に竜車に繋がれている竜に飛び乗り、手綱を握る。

「行くぞ!」
「え!?」
 
 荷台に繋がれているロープを切り、竜を走らせる。
 勿論、乗るなんて初めてだが良く調教されている為に、暴れたりはしない。
 黒尽くめの奴らは途中まで追いかけてきたが流石に竜の足には追いつかない為、諦めたのか撒くことが出来た。

 竜の操縦は出来ないが、竜はどうやら帝都に向かって走っているようだ。
 何かあったら帝都に戻るように調教しているのだろう。
 俺達は竜に身を任せ、ヴァルスケン帝都に到着する事が出来た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...