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第一章 魔導機《アーティファクト》

第八話 帰還

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「プギャアアアアア!!」
 
 俺達は魔生獣の雄叫びで目を覚ました。

 【ガウボア】に困っていたニール村の依頼で討伐に出た俺達は沼地で【ボグリザード】に出会う。
 なんとか倒し、ニール村に依頼達成の報告をし、その日は村長の家に泊まる事にした。
 その夜中の事だ。

「なんだ!」
「なに事ですか~……?」
 
 エイルは眠そうに目を擦りながら起きて来た。
 突然部屋の扉がたたかれ、村長が入ってくる。

「大変じゃ! 森の方から【ブルボア】がこちらに向かっているようなんじゃ!」
 【ブルボア】?
「【ブルボア】はですね~、【ガウボア】が成長して大人になった姿ですね……むにゃ……」
 
 ぼーっとしながら解説ありがとうございますエイルさん。

「それで、その【ブルボア】は何匹向かって来ているんですか?」
「一匹だけのようじゃが、今まで見た事無いサイズらしいのですじゃ」
 またデカいのか。
「わかりました。 とりあえず向かいます。 行くぞエイル!」
「……ふぁい……」
 
 とりあえず支度は済ませ、寝ぼけているエイルの手を引き森に向かう。
 なんとか村に来る前にどうにかしないと。
 森の木々が薙ぎ倒された先にデカい物がいる。

「あれが【ブルボア】か!」
「はい、でも大き過ぎです! 【ガウボア】が成長してもあそこまで大きいのは初めて見ます!」
「それでもやるしか無い!」
 
 剣を構えた時の刃が月明かりに反射し、【ブルボア】に気がつかれた。

「来るぞ!!」
 
 【ブルボア】は凄い勢いで突進してくる。
 エイルは小型爆弾《コロボム》を投げつけた。
 小型爆弾《コロボム》は弧を描き飛んでいき、【ブルボア】が大きいお陰で上手く当たり爆発するが、お構い無しに突進してくる。
 そのスピードは落ちない。
 攻撃をして来たエイルに狙いを定めたようで、凄い地響きをさせ突撃してくる。

「エイル! 躱せ!!」
 
 間一髪で転がって躱すが、【ブルボア】は木々を薙ぎ倒し、体を反転させてまた突進してくる。
 エイルが足首を押さえてうずくまっている。
 躱した時に怪我でもしたのか?

「エイル! 危ない!!」
 
 まだ立ち上がれないエイルめがけて突進してくる。

 俺は走り、エイルを抱えて躱した。
 だが、【ブルボア】の鋭い牙に俺の左腕は切り落とされ、腕が宙に舞う。

「ケンジ!!」
 
 エイルはその瞬間を見てしまったようだ。
 俺は腕が地面にボトンと落ちた時、初めて気がついた。
 だが、痛みはほとんど無い。
 アドレナリンのせいか? 痛みが無いならまだやれる。

「ケンジ無茶よ!!」
 
 エイルの言葉を無視し、向かって来る【ブルボア】に俺は抱えているエイルを放して右腕で剣を抜き【ブルボア】に立ち向かう。
 躱すだけじゃ倒せない。 【ブルボア】の皮膚も硬そうだ。
 ならばっ!

 俺は【ブルボア】の突進してくる勢いを利用して片腕で剣を【ブルボア】の額に突き刺した。
 だが【ブルボア】も止まらない。
 右腕の肩ははずれ、腕の骨も何本か折れたようだが……。

「うおおおおおお!!」
 
 更に深く突き刺す。

「プギャアアアアア!!」
 
 【ブルボア】の絶叫と共にやっと止まり、ゆっくりと倒れた。
 俺もその場に倒れ、気を失った……。


 気がついた場所は村長の家のベッドの上。
 首だけ持ち上げると、上着は脱がされ、包帯でぐるぐる巻きにされている。
 俺は体を起こそうとするが、左腕は無いし、右腕も包帯でぐるぐる巻きになっているから起き上がれない。
 そしてベッドの横にはエイルが寝ている事に気がつく。

「エイル?」
「……う……ん……、ケンジ? ……ケンジ!!」
 
 寝ている俺にエイルは抱きついてくる。

「ひぐっ! よがっだあ……。 死んじゃったかと思った……」
「エイル大丈夫だから……、ちょっと痛い」
 
 ぎゅーっと抱きしめてくるエイルに少し離れてもらう。

 さあ、ここからは大変だった。
 エイルの泣きながらのお説教。
 無茶しないと約束したばかりでこれだからな。
 一頻り怒られた後は、エイルは自分が戦力にならなかった事、助けられた事のお礼と謝ってきた。

「そろそろよいかの?」
 
 村長さんは空気を読んでくれたのか、エイルが泣き止んだタイミングで部屋に入って来た。

「体調はどうじゃ?」
「痛みはそれほどありません。 両手が動かないのは不便ですけどね」
 
 エイルに体を起こしてもらい、俺の言葉でまた泣きそうになってる。

「すまんかったの。 まさかあそこまで大きなブルボアとは……しかし、エイルがお主を運んで来た時は驚いたぞ」
 
 エイルが気を失っている俺を運んでくれたのか。

「俺の実力不足ですから謝辞は不要ですよ」
 
 村長も思っていなかったサイズの様だしな。

「傷が癒えるまでゆっくりしていってくだされ」
「ありがとうございます」
 
 そして村長は部屋を後にする。
 エイルと二人だけとなるが、エイルは何も喋らない。
 なんだか空気が重い……。

「エイルさん?」
「私の……」
「ん?」
「私の実力不足なんです! ケンジじゃありません! 私がもう少しちゃんとしてたら……」
「そんな事無いさ。 俺だって実力が無いせいで避けられなかったんだから。 左腕が無くても右腕がある。 まだまだ【ガル】だってやれるさ」
 
 エイルは何も言わずに抱きついて来た。
 抱きついているエイルに運んでくれたお礼をいう。 エイルだって足首怪我してたはずだ。
 倒れた俺に持っていたポーションを飲ませるけど、傷が回復しなかったので、持っていたポーションを全部使ったそうだ。
 それでも左腕は治らなかったようだけど。
 村の人を呼びに行こうかと思ったが、俺をこのまま放置しておくと他の魔生獣に襲われる恐れがあるので、瓶の中に残っていたポーションを集めて飲んで足首を治し、担いで連れて来てくれたようだ。
 
 次の日には、左腕以外の怪我は一日で治った。
 普通に剣も振れる。
 エイルにはまだ無理しないで! と言われたが、いつまでも寝ている訳にはいかない。
 それに、左腕を飛ばされた時も血はほとんど出ていなかった。 右腕の骨折だって一日で治った。
 これが人造人間の回復力。 もしかしたら、俺が元々いた場所に左腕を治す手がかりがあるかもしれないな。
 その事をエイルに話すと、エイルも同じ事を考えていたようで、ガッドレージに戻ったらもう一度緋燭《ひしょく》の塔へ行ってみる事にした。

 村長さんには【ブルボア】の報酬も上乗せしておくとの事で、サインしてもらった手紙を預かり、獣車を用意してもらいニール村を後にした。
 獣車の中ではエイルの元気が無い。
 まだ気にしているのか。

「エイル」
「は、はい」
「そろそろお腹空かない?」
 
 エイルは俺の世話をしている時、あまり食べていない。

「だ、大丈夫……」
 
 う~ん……困ったなあ……。 エイルが責任を感じる事は無いんだけど……。

「それじゃ、俺がお腹空いたから、前に作ってくれた干し肉を挟んだパンを作ってくれない? あれなら獣車の中でも作れるでしょ?」
「……うん……」
 
 鞄から材料を取り出して作ってくれた。
 そして少しちぎり、口に運んでくれる。

「だ、大丈夫だよ。 自分で食べれるから」
 
 右腕は普通に動くし。

「駄目です」
 
 そう言ってエイルはパンを口元まで運んでくれる。
 仕方ない。 口を広げてパンを食べさせてもらう。

「うん、さすがエイルだ。 美味しいよ」
「そう……?」
「エイルも食べてみなよ」
「……う、ん……」
 
 エイルも一口食べる。
 すると、一口では満足出来ない場所から催促の音が聞こえる。

 きゅるる~。

 その可愛い音でエイルは顔を赤らめるが、俺の言葉でいつもの元気が戻って来たようだ。
 そして二人でパンを食べ切り、一日半かけてガッドレージへ戻って来た。

「ケンジさん! その腕どうしたんですか!?」
 
 ガル支部の受付嬢のミリムさんは俺の無くなった左腕を見て前のめりで聞いてくる。

「……と言う事がありまして、あ、これがニール村村長の手紙と依頼達成の用紙です」
 
 俺は普通にミリムさんに淡々と説明すると、ミリムさんも普通にしている俺に感化されたのか、淡々と聞いていた。

「それでは、依頼達成と、緊急依頼の報酬です」
 
 その額8000ジル。
 二人で分て一人4000ジルだ。
 エイルは報酬要らないと言ってきたが、これは仕事なんだからちゃんと分けないと駄目だと言ってきかせた。
 この金額、普通だったら左腕を無くしてこの金額じゃ割に合わないと文句を言う人もいるだろう。
 俺は自分の実力不足が原因と思っているから、金額には満足だ。 これで借金も返せるし。

「本当に大丈夫なんですか?」

 【ブルボア】の討伐からまだ三日程しか経っていない。
 普通の人なら重症で守護盾ガルガードだって辞めるかどうかだ。 ミリムさんが心配するのも無理はない。

「大丈夫です。 体は頑丈なんで」
「頑丈で済む事でも無いと思いますが……」
「そうだ、ちょっと行きたい場所があるので、次の依頼は少し待って下さい」
「それは勿論大丈夫ですけど……」
「それじゃまた来ます」

 ガル支部を後にして、武器屋のおじさんに借金を返しに行く。
 もちろんここでも色々な事を聞かれた。
 そして片手でも振りやすい剣を安く譲ってくれ、まだ【ガル】を続けていく事を褒めてくれた。
 そして宿屋のおばちゃんにも同じ質問だ。
 【ガル】をやっていればこんな事もあるとは知っているようで、あまり質問はされなかった。

 そして明日は緋燭《ひしょく》の塔へもう一度行ってみる事になった。
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