12 / 14
【鬼灯】
第12話 命令
しおりを挟む「……シロ、これはどういうことかしら」
「メイ……。ごめんなさい、これは命令なの」
そう告げるシロの瞳は、とても苦しそうだった。私の額にあてている拳銃も、小刻みに震えている。指示といえど、ヘリコプターに乗った状態で拳銃を使えばこの場にいる人間はほとんど死んでしまうのではないだろうか。私を殺そうとするシロも、道連れになってしまう。そんな命令をした人は、人の命軽いものとしか見ていないのだろう。心底呆れてしまう。
「私を殺せば、シロも死ぬことになりかねない。そんな命令聞く必要あるのかしら。あなたの命をなんとも思っていない人間の命令って、自分の命より大切なもの?」
「もちろん、僕は自分の命が大切だよ。でも、ここで自分と同じ立場のメイと死ぬか、アルストロメリアで殺されるか選べと言われたら……。僕はメイと死にたい、なんてね」
シロは涙を零しながらも、おどけるようにそう呟く。それほどまでに追い詰められた状況でありながら、一人でずっと我慢してきたのだろうか。それにしても、こんなに複数の人間から命を狙われるとは思ってもいなかった。確かに私は、アルストロメリアのシロと仲が良く、ナスタチウム内でも私を疑う人は多い。アルストロメリアの指示は比較的聞いていた。アルストロメリアから命を狙われる理由があるとすれば、一つ。それは、ナスタチウムのメンバーの過去の書類に紛れ込んだ、アルストロメリアのメンバーの過去も見てしまったからだろう。私が見てしまった情報は、ナスタチウムのメンバー全員分とアルストロメリアのシロともう一人の情報だ。そして、シロに私を殺すよう命令したということは、彼女の上司にあたる人物だろうか。
「ねぇ、シロ。あなたにそんな酷い事をさせてしまっている人は、私かもしれないわ」
「え……?」
「私が、ナスタチウムに入る前にメンバーの過去の資料をアルストロメリアから読むように言われたわ。その中に、シロの情報も紛れ込んでいた。そして、もう一人アルストロメリアの人の過去の資料があったの。多分それは、あなたの上司かもしれないわ」
「……なるほど。そういうことか、やっとわかった。なんでメイを狙おうとしているのか、ずっと分からなかったんだけど理解出来たよ。そっか……、僕の過去も見ちゃったんだね」
「えぇ。でも、私はそれを知った上で今まであなたと接していたわ」
「……うん、そうだよね。だって、メイってそういうの全然気にしなさそうだし。はぁ……、なんかもうどうでもよくなっちゃった。なんで僕が、あいつの過去を抹消するためにメイを殺さなくちゃいけないんだろう」
シロは、私の額に押し当てていた拳銃を下ろした。けれど、まだ不安が残る表情で俯いている。ここで私を殺さなければ、指示を無視したことで彼女は殺される可能性がある。
「ねぇ、シロ。ナスタチウムのメンバーって、結構優しいのよ?自分の身元をしっかりと明かして、信頼できる人物だと思わせるといいわ。そうすることで、シロをアルストロメリアの中で唯一信頼できると思わせることができたら、きっとナスタチウムのメンバーを力を貸してくれる」
「でも、僕はみんなをガスで眠らせてしまったから、もう信じてもらえないかもしれない……」
「大丈夫、私が時間をつくるわ」
ナスタチウムは警戒心は強いけれど、まだ心に隙がある。特に、純粋とも言える二人の部下。この二人は、ナスタチウムの中でも特に優しい部類だ。シロとの相性が分からないが、私を慕ってくれるオミならば簡単に味方についてくれるだろう。シオは私と少し相性が合わないが、彼は彼なりの優しさを持っている。その良心を利用することは許して欲しい。
「作戦を今のうちに考えておきましょう。きっと、眠りから覚めたみんなは、真っ先にシロに牙を向けるわ。そして、わたしにも疑いを向ける。それを切り抜けるためには、私たちで力を合わせるしかない」
「でも、どうするつもり?僕、あまり演技とか上手くないんだけど……」
「大丈夫、きっと上手くいくわ」
そして、私はシロに作戦を伝える。まず、シロから渡されたハンカチで口と鼻を塞いでも、ガスが強く私も眠ってしまったことにする。何故眠らせる必要があったのかということに対しては、素直に上司からの命令と言ってもらおう。そして、命令に背けば自分の命のみならず、家族の命まで狙われていると嘘をついてもらう。それにより、大切な人を失っているナスタチウムの同情をしてもらえるだろう。そこで変にシロの肩を持てば、余計に私とシロの繋がりがバレてしまう。私はあえて、みんなを守るようにシロに敵対する。きっとそうすることで、私もシロも、ナスタチウムのメンバーより信頼を得られるだろう。そして、私たちの作戦がナスタチウムを通してシロの上司に知られないようにしなければいけない。シロには、万が一家族の命が狙われていることが上司にバレた際には、すぐに殺されてしまうため秘密にして欲しいと言ってもらおう。そこまで告げると、シロは深く頷きにっこりと愛らしい笑みを浮かべた。
「分かった。僕も精一杯頑張ってみるよ。だから、少しだけ力を貸してね、メイ副隊長!」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】少女探偵・小林声と13の物理トリック
暗闇坂九死郞
ミステリー
私立探偵の鏑木俊はある事件をきっかけに、小学生男児のような外見の女子高生・小林声を助手に迎える。二人が遭遇する13の謎とトリック。
鏑木 俊 【かぶらき しゅん】……殺人事件が嫌いな私立探偵。
小林 声 【こばやし こえ】……探偵助手にして名探偵の少女。事件解決の為なら手段は選ばない。
ヲワイ
くにざゎゆぅ
ミステリー
卒業式の前日。
3年生に贈るお祝いの黒板アートの制作を、担任から指名された素行の悪い2年生グループ。そして彼らのお目付け役として、クラス委員長。そこへ、完成具合を確認するために教室へやってきた教師たち。
そのとき、校内放送が流された。
放送で流れる歌声は1年前に、校舎の屋上から飛び降り、死亡した女子生徒の声。
悪質な悪戯だと思われたが、続けて、明らかに録音とは思えない、死んだ生徒の声が放送される。
「わたしはまだ、捕まってへんで――さあ、ヲワイのはじまりや」
彼女の復讐が、はじまった。
※他サイトでも公開中です。
舞姫【中編】
友秋
ミステリー
天涯孤独の少女は、夜の歓楽街で二人の男に拾われた。
三人の運命を変えた過去の事故と事件。
そこには、三人を繋ぐ思いもかけない縁(えにし)が隠れていた。
剣崎星児
29歳。故郷を大火の家族も何もかもを失い、夜の街で強く生きてきた。
兵藤保
28歳。星児の幼馴染。同じく、実姉以外の家族を失った。明晰な頭脳を持って星児の抱く野望と復讐の計画をサポートしてきた。
津田みちる
20歳。両親を事故で亡くし孤児となり、夜の街を彷徨っていた16歳の時、星児と保に拾われた。ストリップダンサーとしてのデビューを控える。
桑名麗子
保の姉。星児の彼女で、ストリップ劇場香蘭の元ダンサー。みちるの師匠。
亀岡
みちるの両親が亡くなった事故の事を調べている刑事。
津田(郡司)武
星児と保が追う謎多き男。
切り札にするつもりで拾った少女は、彼らにとっての急所となる。
大人になった少女の背中には、羽根が生える。
与り知らないところで生まれた禍根の渦に三人は巻き込まれていく。
彼らの行く手に待つものは。
事故現場・観光パンフレット
山口かずなり
ミステリー
事故現場・観光パンフレット。
こんにちわ 「あなた」
五十音順に名前を持つ子どもたちの死の舞台を観光する前に、パンフレットを贈ります。
約束の時代、時刻にお待ちしております。
(事故現場観光パンフレットは、不幸でしあわせな子どもたちという小説の続編です)
令嬢諮問魔術師の事件簿
真魚
ミステリー
同作品を「小説家になろう」にも投稿してあります。
11月4日、ジャンル区分を「ファンタジー」から「ミステリー」に変更いたしました。
以下あらすじ
1804年英国をイメージした架空の西洋風世界。魔術のある世界です。
アルビオン&カレドニア連合王国の首府タメシスの警視庁が任命する「諮問魔術師」唯一の女性、エレン・ディグビー26歳が、相棒のサラマンダーのサラと共に事件捜査にあたります。
第一話「グリムズロックの護符事件」
タメシスのスラム街サウスエンドの安宿で、娼婦と思われる若い女が首を斬られて死んでいるが見つかります。死体の傍には、良家の令嬢が持つような、魅了魔法よけの護符が残されています。
その真偽を確かめるために、駆け出しの諮問魔術師エレンが呼ばれます。
玉石混交の玉手箱
如月さらさら
ミステリー
ショートストーリーの詰め合わせ。
福袋の中身は大抵期待外れではあるのだが、自分から買う意欲のない物を様々なバリエーションを伴い獲得出来るので、案外楽しさを含んでいるのだなぁ、なんて。
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる