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【鬼灯】
第12話 命令
しおりを挟む「……シロ、これはどういうことかしら」
「メイ……。ごめんなさい、これは命令なの」
そう告げるシロの瞳は、とても苦しそうだった。私の額にあてている拳銃も、小刻みに震えている。指示といえど、ヘリコプターに乗った状態で拳銃を使えばこの場にいる人間はほとんど死んでしまうのではないだろうか。私を殺そうとするシロも、道連れになってしまう。そんな命令をした人は、人の命軽いものとしか見ていないのだろう。心底呆れてしまう。
「私を殺せば、シロも死ぬことになりかねない。そんな命令聞く必要あるのかしら。あなたの命をなんとも思っていない人間の命令って、自分の命より大切なもの?」
「もちろん、僕は自分の命が大切だよ。でも、ここで自分と同じ立場のメイと死ぬか、アルストロメリアで殺されるか選べと言われたら……。僕はメイと死にたい、なんてね」
シロは涙を零しながらも、おどけるようにそう呟く。それほどまでに追い詰められた状況でありながら、一人でずっと我慢してきたのだろうか。それにしても、こんなに複数の人間から命を狙われるとは思ってもいなかった。確かに私は、アルストロメリアのシロと仲が良く、ナスタチウム内でも私を疑う人は多い。アルストロメリアの指示は比較的聞いていた。アルストロメリアから命を狙われる理由があるとすれば、一つ。それは、ナスタチウムのメンバーの過去の書類に紛れ込んだ、アルストロメリアのメンバーの過去も見てしまったからだろう。私が見てしまった情報は、ナスタチウムのメンバー全員分とアルストロメリアのシロともう一人の情報だ。そして、シロに私を殺すよう命令したということは、彼女の上司にあたる人物だろうか。
「ねぇ、シロ。あなたにそんな酷い事をさせてしまっている人は、私かもしれないわ」
「え……?」
「私が、ナスタチウムに入る前にメンバーの過去の資料をアルストロメリアから読むように言われたわ。その中に、シロの情報も紛れ込んでいた。そして、もう一人アルストロメリアの人の過去の資料があったの。多分それは、あなたの上司かもしれないわ」
「……なるほど。そういうことか、やっとわかった。なんでメイを狙おうとしているのか、ずっと分からなかったんだけど理解出来たよ。そっか……、僕の過去も見ちゃったんだね」
「えぇ。でも、私はそれを知った上で今まであなたと接していたわ」
「……うん、そうだよね。だって、メイってそういうの全然気にしなさそうだし。はぁ……、なんかもうどうでもよくなっちゃった。なんで僕が、あいつの過去を抹消するためにメイを殺さなくちゃいけないんだろう」
シロは、私の額に押し当てていた拳銃を下ろした。けれど、まだ不安が残る表情で俯いている。ここで私を殺さなければ、指示を無視したことで彼女は殺される可能性がある。
「ねぇ、シロ。ナスタチウムのメンバーって、結構優しいのよ?自分の身元をしっかりと明かして、信頼できる人物だと思わせるといいわ。そうすることで、シロをアルストロメリアの中で唯一信頼できると思わせることができたら、きっとナスタチウムのメンバーを力を貸してくれる」
「でも、僕はみんなをガスで眠らせてしまったから、もう信じてもらえないかもしれない……」
「大丈夫、私が時間をつくるわ」
ナスタチウムは警戒心は強いけれど、まだ心に隙がある。特に、純粋とも言える二人の部下。この二人は、ナスタチウムの中でも特に優しい部類だ。シロとの相性が分からないが、私を慕ってくれるオミならば簡単に味方についてくれるだろう。シオは私と少し相性が合わないが、彼は彼なりの優しさを持っている。その良心を利用することは許して欲しい。
「作戦を今のうちに考えておきましょう。きっと、眠りから覚めたみんなは、真っ先にシロに牙を向けるわ。そして、わたしにも疑いを向ける。それを切り抜けるためには、私たちで力を合わせるしかない」
「でも、どうするつもり?僕、あまり演技とか上手くないんだけど……」
「大丈夫、きっと上手くいくわ」
そして、私はシロに作戦を伝える。まず、シロから渡されたハンカチで口と鼻を塞いでも、ガスが強く私も眠ってしまったことにする。何故眠らせる必要があったのかということに対しては、素直に上司からの命令と言ってもらおう。そして、命令に背けば自分の命のみならず、家族の命まで狙われていると嘘をついてもらう。それにより、大切な人を失っているナスタチウムの同情をしてもらえるだろう。そこで変にシロの肩を持てば、余計に私とシロの繋がりがバレてしまう。私はあえて、みんなを守るようにシロに敵対する。きっとそうすることで、私もシロも、ナスタチウムのメンバーより信頼を得られるだろう。そして、私たちの作戦がナスタチウムを通してシロの上司に知られないようにしなければいけない。シロには、万が一家族の命が狙われていることが上司にバレた際には、すぐに殺されてしまうため秘密にして欲しいと言ってもらおう。そこまで告げると、シロは深く頷きにっこりと愛らしい笑みを浮かべた。
「分かった。僕も精一杯頑張ってみるよ。だから、少しだけ力を貸してね、メイ副隊長!」
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