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第一章【帯宏高校SPOT部、始動!】

閑話 景村印斬の朝

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──ピピピピピピピ……

「ん、ぅぅ……」

僕……景村かげむら印斬いんきの朝は、目覚ましと陽光に包まれて始まる。ほぼ条件反射で時計の頭を叩き、ふと思う。

あれ、今日土曜日なのになんで起きなきゃいけないの……?

考え出すとすぐに答えが見つからず、フワフワッと意識がぼんやり浮いていく。
えっと、確か……確か……。ぼんやりしつつも、スルスルと記憶を手繰り寄せる。

〇〇〇

「全員集まったことだし、新入生もいるから今のうちに選抜の連絡をしておこうか」

そう神宮寺じんぐうじさんが切り出したのは、なぜか倒れてしまった校長を甘栗あまぐりさんのお兄さんがいるベッドに乗せて、元々いたお兄さんは床でも寝れるから転がしておこうとかなんとか先輩方がやり出して、部屋の隅に意識喪失者が3人も積み上がっているという異常な光景ができあがった直後のことだった。

「5月中旬に【DIVEダイブ  INイン  SPOTスポット】全国高校生大会の北区大会が行われるのだよ。そこに出場する選手と部門決めの選抜を行いたい」

「……もうそんな時期っスか」

毒島ぶすじまさんが感慨深そうに呟く。ちなみに、と神宮寺じんぐうじさんは言いながら僕と甘栗あまぐりさんに向き直って話し始めた。

「新入生にも分かりやすく説明するとだね、北区大会は地方予選のような立ち位置になるのだよ。ここを勝ち抜けば都大会、次は関東地方大会、その次に東日本選手権大会、最後に全国大会といった順序で勝ち上がっていくことになる」

ふむふむ、と甘栗あまぐりさんはメモを取っている。マネージャー志望だと言っていたけど選手よりも真面目に聞いているようだった。

「部門は個人部門、ペア部門、チーム部門の3部門で登録ができる。この内1人の選手が重複していいのは2部門までなのだよ。なんでか分かるかね、はい太陽たいよう君」

急に振られても花観はなみさんは臆することなく立ち上がる。そして右手をバッと上にあげてハキハキと答えた。

「はいっ!SPOTスポットは1日2時間までだからです!」

「その通り。補足すると、1つの部門の最大試合時間が1時間までと規定されているため、ギリギリまで行ったと考えても2部門までしか出場できないのだよ」

よろしい、と神宮寺じんぐうじさんに言われて花観さんは満足気に笑いながら座る。

「次に各学校から出しても良い人数の上限なのだがね。今年も個人部門は6人、ペア部門は2組……つまり4人、チーム部門は5人の1組となっている。合計15人が最大で登録できる人数なのだよ。ここにはマネージャーも登録して良いことになっているから、新入生2人を含めて11人全員が登録可能だ」

ただし、と神宮寺じんぐうじさんは続ける。

「私たちの学校は誰かが重複して出ないといけない、ということになるのだよ。ちなみに歌恋かれん君は選手として出る気は?」

「今のところないです!登録くらいならまあ、って感じですけれど……」

「なるほど、つまり5人が重複して出場してもらうことになる。1番効率的なのは、先にソロ部門とペア部門の選手を決めたあと、重複する5人をチーム部門に入れるという方法なのだが……」

実は、と神宮寺じんぐうじさんは目の前のホワイトボードに各自の名前を書いていく。

「私の方で既に個人とペアは決めていてね。異論なければこの通り進めようと思うのだが、どうかね?」

そう言われ、促されるままボードを見ていく。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

【個人部門】
倉敷くらしきてつ
半村なかむらほのか
甘栗あまぐり大和やまと
毒島ぶすじま夏樹なつき
浮雲うきぐも燐梨りんり
景村かげむら印斬いんき

【ペア部門】
蝶野ちょうのライト花観はなみ太陽たいようペア
神宮寺じんぐうじ零都れつ穂村ほむら勇気ゆうきペア

【補欠(マネージャー)】
甘栗あまぐり歌恋かれん

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「どうだね?」

「うむ!!!おおむね良いのではないのでしょうか!!!」

耳元で穂村ほむらさんの声が響く。もう、勝手に部員扱いされている点に関しては諦めていた。どうせ今更やだと言っても聞いて貰えそうにないから。
他の部員の人も特に異論はなかったようで頷いて同意を示す。

「ではこのまま登録を進めておくのだよ。そして肝心のチーム選手なのだが……」

その言葉に食い気味になってみな口々に話し出す。

「はいはいっ!!りんりん出たいっ!!」

「みぅ!!オレだって出たいもん!多分ライトとやまぴーも出たがるだろうしっ!!」

「……正直1戦じゃ物足りないッス」

「ふふふ、せっかくなら出たいわよね」

「更にパワーアップした俺が出てこそでは無いですか!!?」

「まあ部長の俺が出ないことにはなぁ?」

やんややんやと騒ぎ始める先輩方に気圧されて、口を開けることしかできない。
……ふと騒がしさの中に視線を感じて、そちらを見る。神宮寺じんぐうじさんが「君はどうするのだね?」とでも言いたげな雰囲気でこちらを見ていた。
いや、まあこんなに出たい人いるなら別に……と思って首を横に振ろうとした、その瞬間。

景村かげむら印斬いんきももちろん出たいだろうしな!!」

穂村ほむらさんに余計な事を言われてしまった。慌てて否定しようとするも「ほら、武者震いまでしている!!」とか言われて話にならない。

「分かった。では私と歌恋かれん君以外は全員参加で、今週の土曜日……まあ明日だね。10時からチーム戦出場選手の選抜を行うのだよ。まあとりあえず……そうだね、当日までに試合形式を決めておくから各自時間までに来てアップを済ませておいてくれたまえ」

「「「「はいっ!」」」」

「……」

結局、入部も選抜試合参加も勝手に決められてしまった……。
自分の今後の行く末が絶望的すぎて、思わずため息をつくことしかできなかった。

〇〇〇

(そうだ、確か土曜日に選抜選手を決めるって……時間は……10時から……)

ようやく記憶が現状に追いついてきた。目を開いて、ぼやける視界の中で時計を見る。

(今は……9時50分……そっか、もうすぐ……)

……覚醒した。

(遅刻だ!!!)

一気に冷や汗がブワッと出てくる。慌ててベッドから飛び降りてパーカーを上から被り、メガネを掴んだあと部屋から飛び出す。

「あら早いじゃないの印斬いんき?なんかあったのかい?」

奥からミユキさんの声が聞こえる。
ひょいっと頭を出してこちらを見るミユキさんに、声が上手く出ないから口パクで現状を伝えた。

「おやおや、まあ楽しそうでなによりだよ。いってらっしゃい」

そう言って気持ちよくカラカラと笑うミユキさんに頭を下げて、僕は玄関の外に飛び出す。そして走る、走る、走る。
必死に走りながら、昨日意気消沈気味に帰ろうとした時からかい混じりに倉敷くらしき部長から言われた言葉を反芻した。

「まーた遅刻しちゃうのは勘弁だぞ~?」

また、と言われる覚えは1つしかない。
去年のミナト杯。あの時の棄権負けの理由を、把握されている。恥ずかしくて顔から火が出てしまいそうだった。
とにかくっ、去年のミナト杯みたいな棄権のしかたはもう嫌だ……!
その思いだけを胸に、僕は学校までの道を駆け抜けていった。


【プロフィール】
名前:景村かげむら印斬いんき
クラス:帯宏たいこう高校1年1組
身長:155cm
体重:50.3kg
好きな食べ物:金平糖
誕生日:3月3日
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