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終章
いつぞやの真相、そしてー終章4:一度限りの決断ー
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親友だった人の色々な思い出が頭によぎる。
情はあったし、寂しくないといえば嘘になる。
それでも、僕の両手で抱えられるものには限界がある。
何もかもを欲ばって、全てを取りこぼす前に
今の自分が大事にしたいものを決めた。
なら、あとは貫くだけだ。
デスクに戻ってから、ゲーテさんには長時間の離席を
お詫びした上で、かつての親友との顛末についても軽くお伝えした。
業務に関わる内容ではないものの、以前に相談していたゲーテさんには
きちんと報告するのが筋だと思ったのだ。
ゲーテさんは何の感想も言うことなく
「そっか」と一言だけ応えた。
その素っ気なさが逆にありがたかった。
僕の選択が正しいかどうかなんて誰にもわからない。
ただ、自分が選んだものを最善にするために
覚悟を決めて、力を尽くすだけだ。
そうして数ヶ月がたった。
いつぞやの魔王様と執事さんの不穏なやり取りは何だったのか
僕は相変わらず、魔王の会社で日々の業務に励んでいた。
膨大な仕事量をこなしていると、感傷にふける暇もない。
さらに時間は加速して
冬が終わり、もうじき春が訪れる。
じきに桜が咲くだろう。
僕が魔王の会社に入社して、1年が経とうとしていた。
「さすがにもう、新人とは言えなくないな」
三分咲きの桜を見上げて、思う。
普通の会社とは異なり、魔王の会社では
春に定期採用をする…なんてことはない。
とはいえ、後輩がいないとしても1年も経っているのに
新人なんて名乗ったらお叱りを受けるに違いない。
そうして、今日も僕はオフィスのドアをくぐる。
と、なんだか様子がおかしい。
「ええーっと、僕に御用、です、よね?」
問いかける声が、緊張でこわばってしまう。
なぜなら魔王様と執事さん、そしてゲーテさんが
僕のデスクの前で揃って待ち構えていたからだ。
思わず警戒する僕をゲーテさんがおかし気に笑う。
「おはよ。そして社長候補決定おめでとう!」
一瞬、何を言われているのかが分からなかった。
社長候補、って一体なんのことだ??
「そう驚くな。あくまでも候補の一人に過ぎんしな」
ますます混乱する僕に、魔王様と執事さんが事情を説明してくださった。
ようは、魔王の会社の一事業を法人化して
別会社として立ち上げるということらしい。
そして別会社の代表取締役を誰に任せるのか
お二人はずっと思案していたのだそうだ。
そして選抜された数人の中に、僕が残ったというわけだ。
「僕が、社長候補…?」
正直なところ、実感がまるでわかない。
選抜に残ったことはうれしい反面、そもそも僕にやれるのか
自信がまったくなかったのだ。
「まあ、お前にゃ荷が重いのは分かっとる。が、いつまでも新人気分で
教えてもらう立場におるより、実践で学ぶ方がスパルタで覚えるやろ?」
「俺らとして崖に突き落とす気分やわ」と執事さんはケラケラ笑う。
まさか、と思った。
以前階段の踊り場で盗み聞きしてしまったお二人の会話の端々が
目の前で告げられた内容とリンクする。
クビどころか、とんでもないチャンスが飛び込んできた。
でも、こんなの予想できるわけないじゃないか!
「候補の面々には、今まで以上に厳しく指導をしていくことになろう。
一切の容赦はせんし、成長できる代わりに地獄を見ることになるじゃろうな」
そして基準に達しなければ、候補から脱落する。シンプルな話だ。
魔王様の言葉に僕はつばを飲みこんだ。
この先、どれだけの”地獄”を味わうことになるのだろう?
「今なら候補をおりてもペナルティはないぞ。覚悟がなければやめておけ。
…さあ、今決断せよ。おぬしは、どうする?」
「決めるのは一度限りや。この先に進むなら、後戻りできんで?」
お二人は、僕に問う。
今この瞬間の決断が全てを決めてしまうだろう。
ならば、僕は―――――――
情はあったし、寂しくないといえば嘘になる。
それでも、僕の両手で抱えられるものには限界がある。
何もかもを欲ばって、全てを取りこぼす前に
今の自分が大事にしたいものを決めた。
なら、あとは貫くだけだ。
デスクに戻ってから、ゲーテさんには長時間の離席を
お詫びした上で、かつての親友との顛末についても軽くお伝えした。
業務に関わる内容ではないものの、以前に相談していたゲーテさんには
きちんと報告するのが筋だと思ったのだ。
ゲーテさんは何の感想も言うことなく
「そっか」と一言だけ応えた。
その素っ気なさが逆にありがたかった。
僕の選択が正しいかどうかなんて誰にもわからない。
ただ、自分が選んだものを最善にするために
覚悟を決めて、力を尽くすだけだ。
そうして数ヶ月がたった。
いつぞやの魔王様と執事さんの不穏なやり取りは何だったのか
僕は相変わらず、魔王の会社で日々の業務に励んでいた。
膨大な仕事量をこなしていると、感傷にふける暇もない。
さらに時間は加速して
冬が終わり、もうじき春が訪れる。
じきに桜が咲くだろう。
僕が魔王の会社に入社して、1年が経とうとしていた。
「さすがにもう、新人とは言えなくないな」
三分咲きの桜を見上げて、思う。
普通の会社とは異なり、魔王の会社では
春に定期採用をする…なんてことはない。
とはいえ、後輩がいないとしても1年も経っているのに
新人なんて名乗ったらお叱りを受けるに違いない。
そうして、今日も僕はオフィスのドアをくぐる。
と、なんだか様子がおかしい。
「ええーっと、僕に御用、です、よね?」
問いかける声が、緊張でこわばってしまう。
なぜなら魔王様と執事さん、そしてゲーテさんが
僕のデスクの前で揃って待ち構えていたからだ。
思わず警戒する僕をゲーテさんがおかし気に笑う。
「おはよ。そして社長候補決定おめでとう!」
一瞬、何を言われているのかが分からなかった。
社長候補、って一体なんのことだ??
「そう驚くな。あくまでも候補の一人に過ぎんしな」
ますます混乱する僕に、魔王様と執事さんが事情を説明してくださった。
ようは、魔王の会社の一事業を法人化して
別会社として立ち上げるということらしい。
そして別会社の代表取締役を誰に任せるのか
お二人はずっと思案していたのだそうだ。
そして選抜された数人の中に、僕が残ったというわけだ。
「僕が、社長候補…?」
正直なところ、実感がまるでわかない。
選抜に残ったことはうれしい反面、そもそも僕にやれるのか
自信がまったくなかったのだ。
「まあ、お前にゃ荷が重いのは分かっとる。が、いつまでも新人気分で
教えてもらう立場におるより、実践で学ぶ方がスパルタで覚えるやろ?」
「俺らとして崖に突き落とす気分やわ」と執事さんはケラケラ笑う。
まさか、と思った。
以前階段の踊り場で盗み聞きしてしまったお二人の会話の端々が
目の前で告げられた内容とリンクする。
クビどころか、とんでもないチャンスが飛び込んできた。
でも、こんなの予想できるわけないじゃないか!
「候補の面々には、今まで以上に厳しく指導をしていくことになろう。
一切の容赦はせんし、成長できる代わりに地獄を見ることになるじゃろうな」
そして基準に達しなければ、候補から脱落する。シンプルな話だ。
魔王様の言葉に僕はつばを飲みこんだ。
この先、どれだけの”地獄”を味わうことになるのだろう?
「今なら候補をおりてもペナルティはないぞ。覚悟がなければやめておけ。
…さあ、今決断せよ。おぬしは、どうする?」
「決めるのは一度限りや。この先に進むなら、後戻りできんで?」
お二人は、僕に問う。
今この瞬間の決断が全てを決めてしまうだろう。
ならば、僕は―――――――
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