私、魔王の会社に入社しました-何者でもなかった僕が自らの城を手に入れる日まで-

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終章

出会いも別れも、すべての変化は加速度的にー終章2:盗み聞きー

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最近くもり続きだった天気も終わり
しばらく晴天が続く、と朝の天気予報が告げた。

青空をながめながら、僕は会社へと向かう。

前日にゲーテさんに相談できたことで
心はだいぶ軽くなっている。

ゲーテさんいわく、魔王様や執事さんにも
ご心配をおかけしていたらしい。

お二人にきちんとお詫びと、そしてあらためて
自分なりの決意表明をしたいと思った。


今日はお二人とも珍しく社内にいらっしゃるらしい。
うまくすれば、社内で5分程度ならお話できるかもしれない。

自分なりに決めた方向性を、できることならメールではなく
お二人の顔を見ながら直接伝えたかった。

オフィスを小走りで駆けて、階段にさしかかったところで
踊り場の陰で話し込んでいるお二人の姿が目に入る。

どうやら真剣な話の途中らしい。
とても気軽に割って入れる空気ではない。

幸い、僕の立ち位置はお二人からすれば死角に当たる。
まだ邪魔にはなっていないはずだ。

そうっと、お二人の様子を伺った。


「…どうしたものか。いつまでも新人でおられては困るしな」


魔王様の声が耳に飛び込んでくる。
「新人」という言葉に当てはまるのは、おそらく僕だけだ。

僕についての話題ということなのだろうか。
よくないこととは分かっていても、話の続きを聞かずにはおれない。

ばくばくと心臓が鳴っている。


「社員という枠だから自然と甘えが出てしまうというのもあるかと。
おっしゃるとおり、あえて崖から突き落とすのも手かと存じます」


いつもの関西弁ではなく、丁寧な敬語を使いながら
魔王様に接している執事さんの言葉に嫌な汗が流れる。

僕は今、何を聞いてしまっているのだろう。


「枠を壊すための荒療治…あやつには大変じゃろうが、よい機会か」


話の続きを聞き続けるだけの余裕はもうなかった。

衝動的に、けれど足音は殺して
僕はその場を立ち去った。

もう何も見たくなかった。
何も聞きたくなかった。

とにかく遠くへ、できるだけ遠くへ
走ってるうちに会社の非常階段にまでたどり着く。

ここなら誰も来ないだろう。

周りに人の気配がないことを確かめてから
ずるずると座り込んだ。

体が震えて、力が入らない。


「まさか僕は、クビ…?」


魔王様と執事さんとのやりとりで
交わされていた単語がぐるぐると頭を駆け巡る。

「新人でいられては困る」
「崖から突き落とす」
「あやつはこれから大変」

魔王の会社はシビアな会社だ。

パフォーマンスが発揮できなければ
雇用の打ち切りだって珍しい話じゃない。

情ではなく、ビジネスの視点から
僕はもういらないと判断を下されたのかもしれない。

カードゲームだって、もしかしたら
会社を去る前の僕にせめて楽しい思いをさせてやろうという
気遣いだったのかもしれない。

何もわからない、
ぎゅうっと胸が痛くなる。

僕は、できるならもっと
この会社で学んで、働いて、がんばりたい。

自分の可能性を見てみたい。

でも、もう無理なんだろうか。

こらえきれなかった嗚咽に
スーツの袖が湿っていく。

非常階段には僕以外誰もいない。
今だけはどうか、泣くことを許してほしい。


ーーーーーーー
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