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終章
人生の船旅を共にするもの、別れるものー終章1:縁の行方ー
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どうしてこうなった?
僕の思いとしては、その一言だ。
競艇場での無様な負けでさんざん落ち込んだ僕としては
しばらく賭けごととは距離を置きたかった。
少なくとも、自分なりに勝ち方がある程度つかめるまで
目を向けたくなかったのだ。
なのに、どうして翌日から
しかもよりによって会社の中で、賭けをやる羽目になるのか。
「…うん、さっぱりわからん」
目の前で展開されるトランプを見ながら
僕は誰にも聞こえないように、そっとぐちをもらした。
とりあえず、理解することはいったん諦めよう。
競艇場に拉致された翌日から、僕はゲーテさんや執事さん
そして時々顔を出して下さる魔王様といった面々と
トランプゲームをするようになった。
大富豪・ポーカー
かぶ・ブラックジャック・ババ抜き…
しかも単なるゲームではなく、賭けごとだ。
といっても、お金を賭けるわけではなく
たとえば翌日のランチ決定権やおやつの奪い合いだ。
翌日のランチが100円のうどんになるのか
はたまた2000円近い豪華ランチになるのか
他愛ない内容かもしれないけれど
がんばろうと思えるようなものが賭けの対象に挙がる。
それだけではなく、「大金を賭けているつもりでやれ」と
魔王様たちには口酸っぱく言われているので、気が抜けない。
本気で遊べ、と彼らが言うからには
本気でやらなければ意味がないのだろう。
「ゲーム自体は楽しいんだけどなあ」
カードゲームは心理の読み合いだ。
特に相手が魔王様や執事さんだと
胃がおかしくなりそうなほどの緊張感のあるゲームになる。
お二人とも視線や言葉での探りがすさまじいのだ。
そして、勝率もすさまじい。
ゲーテさんには何度か勝てたものの
お二人にはまだ勝てる見込みがない。
カードゲームは勝つことよりも
負けないことが重要なのだと、魔王様はおっしゃった。
手札を活かし、負けるときの痛手を減らし
賭けどきを見極めて、一気に勝つ。
つまり、流れを読めたものがトータルの勝利を得るわけだ。
口で言うのは簡単だけれど、もしそれが簡単にできるのなら
ポーカーやブラックジャックで稼ぐプロなんて世の中に存在しないだろう。
業務が終わって、数日おきにカードゲームをして
ボロ負けして、眠りにつく。
そんな日々を過ごしていくなかで
心が少しずつ落ち着いていくのを感じていた。
親友からまた来るようになったメールの文面を
やっときちんと見られるようになった。
うまくいっていない彼の近況を、もう僕は知っている。
そんな彼が、僕に気遣いのようなメールを送る。
それは本当に気遣いなのか。
自分には成せないことを、僕が「できる」と信じたくないだけなのか。
いっそ、自分と同じ場所へと引きずり落としてみたいのか。
大きく、ため息をついた。
「ん、もしかして負け続きで落ち込んでる?…違うみたいだね。
最近少しましな顔になったけど、でも解消しきれてない悩みがあると見た」
今日の対戦相手のゲーテさんに、いきなり顔をのぞき込まれる。
そして、予告もなくデコピンをくらった。
「魔王様や執事さんも、ああ見えて気にしていらしたよ。
ゲーテお姉さんでよかったら話聞くけど、どうする?」
ゲーテさんの言葉がじわりと温かく染みる。
「プライベートのことなんですけど、話して、いいですか?」
自分一人ではどうにもならないことがある。
「助けて」と言うべきときがある。
せっかく差し伸べてもらえた手を、とるかとらないかは自分次第だ。
けれど、今は感謝しながら、その優しさに頼らせてもらおうと思う。
そうして、僕は親友との間に起こった全てを
ゲーテさんに話すことにした。
「…ああ、うん。なるほどね」
僕が話し終えるまで、ゲーテさんは静かに
考えを巡らせていたように見えた。
「魔王様もよくおっしゃるのだけど、結局
人生の舵を誰が握るのかってことだと思うのよ」
ゲーテさんの言葉はたしかに僕に向けられている。
けれど、その目はどこか遠くを見ているようだ。
「人生って船みたいなものだから、船に乗せる相手は自分で選べばいい。
どの船と旅をしてもいい。そして、いつ別れを選んでもいい」
ゆっくりゆっくり
言葉を選びながらゲーテさんは語る。
「もし一度別れを選んだとして、それでも同じ方向へ向かっている相手なら
いずれ交わることもあるだろうし、切れてそれきりってこともあるだろうし」
縁って不思議だよね、とゲーテさんがゆるく笑った。
「自分の心に聞いてごらん。自分の船はどこに向かいたいのか?
そして目の前の相手は本当に一緒に旅ができる相手なのか?」
人生にも「賭けどき」がある。
それだけは見誤らないように、とゲーテさんは言った。
賭けどき。
人生の時間を賭けて、何を成したいのか。
僕の人生のゴールは何なのか?
結局、答えは僕の内側にしかない。
ゲーテさんからいつもより早めの退社を促されて
僕はカードゲームを途中で切り上げて、家へと戻った。
ベッドに寝そべって、軽く目を閉じる。
そして、自分の心に問いかける。
変わりたいと願った自分。
「何者か」になりたくてあがいてきた自分。
賭けどきは、今か?
僕の思いとしては、その一言だ。
競艇場での無様な負けでさんざん落ち込んだ僕としては
しばらく賭けごととは距離を置きたかった。
少なくとも、自分なりに勝ち方がある程度つかめるまで
目を向けたくなかったのだ。
なのに、どうして翌日から
しかもよりによって会社の中で、賭けをやる羽目になるのか。
「…うん、さっぱりわからん」
目の前で展開されるトランプを見ながら
僕は誰にも聞こえないように、そっとぐちをもらした。
とりあえず、理解することはいったん諦めよう。
競艇場に拉致された翌日から、僕はゲーテさんや執事さん
そして時々顔を出して下さる魔王様といった面々と
トランプゲームをするようになった。
大富豪・ポーカー
かぶ・ブラックジャック・ババ抜き…
しかも単なるゲームではなく、賭けごとだ。
といっても、お金を賭けるわけではなく
たとえば翌日のランチ決定権やおやつの奪い合いだ。
翌日のランチが100円のうどんになるのか
はたまた2000円近い豪華ランチになるのか
他愛ない内容かもしれないけれど
がんばろうと思えるようなものが賭けの対象に挙がる。
それだけではなく、「大金を賭けているつもりでやれ」と
魔王様たちには口酸っぱく言われているので、気が抜けない。
本気で遊べ、と彼らが言うからには
本気でやらなければ意味がないのだろう。
「ゲーム自体は楽しいんだけどなあ」
カードゲームは心理の読み合いだ。
特に相手が魔王様や執事さんだと
胃がおかしくなりそうなほどの緊張感のあるゲームになる。
お二人とも視線や言葉での探りがすさまじいのだ。
そして、勝率もすさまじい。
ゲーテさんには何度か勝てたものの
お二人にはまだ勝てる見込みがない。
カードゲームは勝つことよりも
負けないことが重要なのだと、魔王様はおっしゃった。
手札を活かし、負けるときの痛手を減らし
賭けどきを見極めて、一気に勝つ。
つまり、流れを読めたものがトータルの勝利を得るわけだ。
口で言うのは簡単だけれど、もしそれが簡単にできるのなら
ポーカーやブラックジャックで稼ぐプロなんて世の中に存在しないだろう。
業務が終わって、数日おきにカードゲームをして
ボロ負けして、眠りにつく。
そんな日々を過ごしていくなかで
心が少しずつ落ち着いていくのを感じていた。
親友からまた来るようになったメールの文面を
やっときちんと見られるようになった。
うまくいっていない彼の近況を、もう僕は知っている。
そんな彼が、僕に気遣いのようなメールを送る。
それは本当に気遣いなのか。
自分には成せないことを、僕が「できる」と信じたくないだけなのか。
いっそ、自分と同じ場所へと引きずり落としてみたいのか。
大きく、ため息をついた。
「ん、もしかして負け続きで落ち込んでる?…違うみたいだね。
最近少しましな顔になったけど、でも解消しきれてない悩みがあると見た」
今日の対戦相手のゲーテさんに、いきなり顔をのぞき込まれる。
そして、予告もなくデコピンをくらった。
「魔王様や執事さんも、ああ見えて気にしていらしたよ。
ゲーテお姉さんでよかったら話聞くけど、どうする?」
ゲーテさんの言葉がじわりと温かく染みる。
「プライベートのことなんですけど、話して、いいですか?」
自分一人ではどうにもならないことがある。
「助けて」と言うべきときがある。
せっかく差し伸べてもらえた手を、とるかとらないかは自分次第だ。
けれど、今は感謝しながら、その優しさに頼らせてもらおうと思う。
そうして、僕は親友との間に起こった全てを
ゲーテさんに話すことにした。
「…ああ、うん。なるほどね」
僕が話し終えるまで、ゲーテさんは静かに
考えを巡らせていたように見えた。
「魔王様もよくおっしゃるのだけど、結局
人生の舵を誰が握るのかってことだと思うのよ」
ゲーテさんの言葉はたしかに僕に向けられている。
けれど、その目はどこか遠くを見ているようだ。
「人生って船みたいなものだから、船に乗せる相手は自分で選べばいい。
どの船と旅をしてもいい。そして、いつ別れを選んでもいい」
ゆっくりゆっくり
言葉を選びながらゲーテさんは語る。
「もし一度別れを選んだとして、それでも同じ方向へ向かっている相手なら
いずれ交わることもあるだろうし、切れてそれきりってこともあるだろうし」
縁って不思議だよね、とゲーテさんがゆるく笑った。
「自分の心に聞いてごらん。自分の船はどこに向かいたいのか?
そして目の前の相手は本当に一緒に旅ができる相手なのか?」
人生にも「賭けどき」がある。
それだけは見誤らないように、とゲーテさんは言った。
賭けどき。
人生の時間を賭けて、何を成したいのか。
僕の人生のゴールは何なのか?
結局、答えは僕の内側にしかない。
ゲーテさんからいつもより早めの退社を促されて
僕はカードゲームを途中で切り上げて、家へと戻った。
ベッドに寝そべって、軽く目を閉じる。
そして、自分の心に問いかける。
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「何者か」になりたくてあがいてきた自分。
賭けどきは、今か?
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☆第12回ドリーム小説大賞エントリー中☆
お読み頂き、ありがとうございます。毎日20時頃に更新していきます。
「面白い!」「続きが気になる…」と思われた方はぜひ、「お気に入り登録」頂ければうれしいです。
感想頂けた方には必ずお返事をさせて頂きます!
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