私、魔王の会社に入社しました-何者でもなかった僕が自らの城を手に入れる日まで-

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第20章

勝率を上げるための考え方は全ての物事に通じるー第20の課題:ギャンブルー

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ある朝のことだ。
いつもより遅めの時間に出社するように指示されていた僕は
オフィスに入ろうとした途端に拉致されていた。


「おっはよー、というわけで行くよ~!」


まさかの身内の犯行だ。

命の危険はないだろうが、犯行の意図は不明。
犯人は、いつも通りにこにこと笑っているゲーテさん。

会社のエントランスで彼女と出くわした瞬間
強引に腕を引っ張られて、そのまま車に乗せられてしまったのだ。


「辛気くさい顔しないでよ。
皆様お待ちかねだからね!急げ急げ~」


いつもに増して、ゲーテさんはハイテンションな様子で
楽しそうに車を運転している。

助手席に乗せられた僕は、車の窓の向こうを
流れていく街並みに、大きなため息をついた。

相変わらず慌ただしい。
そして予想すらできない展開ばかりだ。


「でも、まあ、悪くないのかも」


ぽつり、呟いた。
ほんの少しの現実逃避だ。

数日前、親友からまたメールが届いた。
そこに綴られていたのは、思いがけない彼の近況だった。

彼とは、時に酒を飲み交わし
互いに夢を語り合った仲だった。

彼は工場でも明るいリーダー格だったし
僕よりも仕事ができるタイプだったと思う。

親友であり、兄貴分だった彼の近況は
どうやら思わしくないらしい。

職場をやめたくてもやめられず
目の前にあるのは様々な問題ばかり。

楽にならない暮らしの中で
夢に挑もうなんて気概は失われて。

…だからこそ、彼は僕がうらやましいと書いてあった。

思うように道を選び、充実した職場で経験を積み
未来に向かって進む僕が、妬ましくてたまらない。

そんな思いを抱く自分が嫌でたまらないのに
「どうしてお前だけ」と思わずにいられない。

そんな内容だった。

魔王の会社に入って、僕は確かに変わった。
そして同じだけの時間が流れ、彼もまた変わった。

多分それだけのことだ。
お互いに変わってしまった、それがひどく寂しい。


「なんか、疲れたな…」


外を見ているのにも疲れて、僕は目を閉じた。
かつて見た親友の笑顔が、まぶたの奥に浮かんでは消えていく。

彼に返す言葉は、どうしても浮かばなかった。
慰めも励ましも、きっと無意味だ。


「着いたよー!ほら、起きて」


しばし、眠っていたらしい。
車の揺れる振動で、意識が浮上する。

目を開けると、見覚えのある景色が目の前に広がっていた。

正確には、知識として知っているだけで
今までの人生では無縁だった場所だ。


「…競艇場?」


僕は自分の目を疑った。
でも何度見直しても、やっぱり競艇場に違いない。

しかもゲート前では、魔王様と執事さんが手を振っている。
ギャンブルを楽しむ人達が列を成すなかで、二人は異様に目立っていた。


「ええと、今って朝ですよね?これから仕事…ですよね?」


混乱したままゲーテさんに問いかけると
詳しくはお二人に聞くように、と促された。


「さて、今日は仕事として本気で遊ぶぞ。準備はよいか?」


魔王様はそうおっしゃったが、準備なんて出来ているわけがない。

なにせ一切の前触れもなく、連れてこられたのだ。
これまで競艇なんてしたこともないから、ルールすらわからない。

助けを求めるかのように執事さんへと目線を向ける。
が、ヘルプなんて入るわけがないわけで…


「お前、絶対ギャンブル初めてやろ?観察力を磨くええ練習になるで?」


僕の不安はあっさりと笑い飛ばされた。

魔王様たちのにやにやとした笑みを見るに
どうやら逃げ場はないらしい。


「じゃあ私はここで~!今度は私もご一緒したいです!!」


ゲーテさんの任務は、僕を拉致して
競艇場に連れてくるまでだったらしい。

魔王様たちにこれ見よがしの敬礼ポーズをとってから
名残惜しそうにオフィスへと戻っていってしまった。


「やるっきゃないですね…」


競艇で持ちかけられたのは、魔王様たちとの真剣勝負だ。

勝負条件はシンプル。

初心者の僕は、とにかくトータルで利益を出せば勝ち。
逆に損を出してしまったら、負けだ。

僕は肚をくくることにした。
ここまでお膳立てされたのなら、全力でやるだけだ。

ギャンブルなんてしたことがないけれど
お二人との勝負だというのなら、本気で挑まなければ
あっという間にボロ負けしてしまうだろう。

生まれてはじめて、競艇場のゲートをくぐり
場内へと足を踏み入れる。

ボートレースを観戦している人たちの熱気を感じながら
出走表に並ぶレーサー達のコメントや予想情報を眺めていく。

そうして、第1レース。
展示走行といわれる本番前の試し走行が始まった。

とはいえ僕はレースの流れを把握できていなかったため
第1レースは魔王様と執事さんがしていることをただ見ていただけだ。

試し走行のデータやオッズなど様々な情報をもとに
お二人は賭ける目を決めていく。

自分が賭けたボートを応援するなかで
僕はひたすらレースの観戦を楽しんでいた。

水しぶきをあげていくボートレースは
見ているだけで、迫力があって楽しめる。


「流れは分かったか?では、第2レースからはおぬしも参戦じゃな」


魔王様から僕に声がかかる。

そうだ、僕はボートレースを観戦しにきたわけじゃない。

ここは、賭けごとの場だ。
そして、お二人から仕掛けられた真剣勝負の場だった。

執事さんから、簡単に賭け方のレクチャーを受けたが
基本的には1番挺が有利らしい。

試し走行の順位やオッズを参考にしながら
単勝と三連単で賭ければいいようだ。

僕は1番挺を入れこんだ3連単で賭けてみることにした。


「最初は100円くらいで様子を見てもええよ」と
執事さんからは勧められたが、初回だし景気よく賭けてみたい。

少し悩んでから、1000円札1枚を賭けてみることにした。

第1レースでは外していた魔王様と執事さんも
第2レースの舟券を買い終わったようだ。

さて、僕の賭け金はうまく増えるだろうか?


「そううまい話はないよなあ…ううっ」


結局、僕は約半日もの間、競艇場で賭けを楽しんだ。
そうして財布の中身はずいぶん寂しくなった。

最初のレースの予想は外したものの、
その後のレースでは何度か当たりもあったのだ。

賭け金が戻ってきて、一時はうれしくなったものの
トータルでは大幅に損をしてしまった。

まさにギャンブルあるあるだ。
最後に大逆転を賭けた狙い目も、思い切り滑ってしまった。

一方、魔王様と執事さんはというと
トータルでしっかり勝っていた。

お二人だって、百発百中なわけがない。
外したレースも数多い。

それでも稼げるレースでしっかりと当てて
10万円近く稼ぐことに成功していた。

それでいて「今日はしょぼかった」なんてのたまうのだから
僕のレベルとはケタが違うとしか言いようがない。

経験値の違いなのか、それともいっそ運なのか。
理不尽なまでに開く差に、僕は大きく打ちのめされた。


「負けたのは運のせいだ、なんて思っておらんじゃろうな?」


魔王様から鋭い問いが投げかけられる。
僕は、答えにぐっと詰まってしまった。


「経験値だけの差でもないで?お前が今のままなら
どうやったって競艇で利益なぞ出んわ」


執事さんからはさらに容赦ない追い打ちがかかる。
言葉がぐさぐさ刺さって、泣きそうだ。


お二人が言うには、僕は賭けどころを見誤っているのだという。
そして、絶対的に観察力が足りないとも言われた。


「勝率を上げるための賭け方っちゅうのがあるんやで?
ギャンブルの考え方はビジネスにも通ずる。ここが分からんようじゃまだまだやな」


さらっと執事さんが大事なことを言ったような気がする。

=====
<第20の課題>

Q.ビジネスにも通じる、勝率を上げるためのギャンブルの考え方とは何だ?

=====


僕は必死に考えを巡らせた。
きっとヒントは魔王様や執事さんの発した言葉の中にあるはずだ。

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