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第17章

話題をコントロールすること、そして守るべきものー第17の課題解答編ー

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会食の時間に繰り広げられた話題を振り返ると
同行した僕の紹介と最近のビジネスの情勢、そして
Twitter界隈の動向が割合としては多かったように思う。

執事さん自身のことや自社のビジネスについては
社外秘の部分は避けつつも、かなりオープンに話していたはずだ。


「詳しく話していなかったのは…Twitter関連?」


思えば、Twitterで交流している外部クリエイターさんのことや
運営している秘密のコミュニティの詳細については
執事さんはあえて名言を避けていたような気がする。

そう、社外秘というほどのことでもないことなのに
お相手の質問に対して、言葉を濁して語らないのが違和感だった。

批判や陰口を言わないのは当たり前としても
執事さんが高く評価している人の褒め言葉も語らない。

それが、僕としては不思議だったのだと
酔いがさめたころにやっと気付くことができた。


そうして翌朝。
微妙に二日酔いを引きずりながら、会社へと出社した。

昼の時間を使って、ランチを取りながら
執事さんと反省会の続きをする。

そこで、僕が気付いた違和感についても確認してみることにした。
考えてみても、やっぱり意図が理解しきれなかったのだ。


「そやなあ、ちょっと例え話でもしてみよか」


僕が理解しやすいようにとの配慮だろう。
執事さんはある例え話をし始めた。


「お前が話しとる相手を”Aさん”とするな?
Aさんとの関係値は、初対面よりは少し親しい程度としよう」


メモをとりながら、僕は状況のイメージをふくらませていく。
つまり完全に信頼しきった相手とはいえない相手らしい。


「で、Aさんからいきなりこんなことを言われるわけや。
『最近一緒に仕事したクリエイターで一番オススメの人を教えて』
さあ、どう答える?」


僕の脳裏には何人かのクリエイターさん達が思い浮かんだ。
技術もマインドも申し分ない方々ばかりだ。

僕はその場で数人の名前を挙げた。
執事さんはその言葉に頷きを返す。


「確かに、今名前を挙げたクリエイターたちは優秀やと俺も思う」


そこで執事さんはいったん言葉を遮ったかと思うと
でもな、と語気を強くした。


「もし仮にAさんがクリエイターの誰かと過去にトラブルを
起こしとったら、どうなると思う?」


僕は、何も言えずに押し黙った。

僕はきっとAさんの全てを知らない。
クリエイターさんたちの全てだって知るはずがない。

僕が知りえない昔に、トラブルが起きている可能性は
決してゼロではないだろう。

しかもAさんはそこまで信頼を築けていない相手だ。
何かあったときのフォローもできないだろう。


「まあ、当然場の空気は悪くなるわなあ。
顔には出さんかもしれんが、Aさんとしては不愉快になるやろ」


僕はこくりと頷いた。

あらためて今回の会食のことを考えてみよう。

お相手は、大物のインフルエンサーだった。
影響力があるということは、それだけ多くの人と関わっていて
利害関係もあるということだ。

自分たちでコントロールできない第三者の情報について話せば
それだけ後々のトラブルになる可能性が高くなる。

執事さんはそこまで見越して話題を選び、ときに言葉を濁して
場を作っていたのだと、僕はやっと腑に落ちた。


「あとは、さっきの例で言えば、クリエイターさん達がお前を信用して
他では話していないような内情を伝えとるかもしれんよな。
それをもし『うっかり』Bさんに話してしまったら…最悪よな」


誰かの秘密を『うっかり』第三者に話す。
そんなことを繰り返せば、信用問題に関わってくる。

つまり、話題をコントロールすることで
自分や大切な仲間を守り、信用を保つという意味があったのだ。


「わかりました、が、なんか怖いですね」


正直な気持ちだった。
そこまで考えきって、僕は言動を選べていただろうか。

取り返しのつかない『うっかり』をやらかしていないだろうか?
そう思うと、本当に怖くてたまらない。


「しゃれにならん『うっかり』で色んなチャンスを逃すやつは
SNSとかでも多いよな…お前は気ぃつけや?」


自分の言動は、自分が思う以上に
周囲に見られているということだ。

そしていつだって判断され
チャンスの網目からふるい落とされる。


「言葉、行動、難しいな…」


反省会も終わり、自分のデスクに戻ると
机の上にうっかり置き忘れていた携帯が目に入った。


「ああ、うっかりをやらかしてる…」


携帯には特に着信は届いていなかった、
が、ふと親友に送っていたメールのことが気になった。

親友に送ったメールには特に機密情報は入っていない。
けれど、なんとなく引っかかる。

メールはとっくに既読になっている。

最近、なんとなく親友のメールの端々に違和感があった。
あんなに心配してくるようなやつだとは思っていなかった。

それに対して、僕が返したメールは適切だったのか。

今はわからない。
ただ言えるのは、送った言葉はもう取り戻せない。

それだけだ。

=====
<×月×日 気づきノート>

あらためてTwitterを見てみると、結構うかつなことを
書いている発信もちらほら見かける。

自分がクライアントだったら、こういう発信をしている人には
まず依頼をしないだろう。

目に見えないところでチャンスが消えていく。
…やっぱり怖い。

=====
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