私、魔王の会社に入社しました-何者でもなかった僕が自らの城を手に入れる日まで-

ASOBIVA

文字の大きさ
上 下
30 / 46
第15章

相手と電話して話すときの「コスト」と「メリット」とはー第15の課題:テレアポー

しおりを挟む
伝えたいはずの思いが
ねじまがって、誤解を生んでしまったり

ささいな言葉の食い違いが
大きなトラブルにつながってしまったり

ゲーテさんに相談した後も、ディレクション業務の中で
僕は何度も失敗を繰り返した。

メインディレクターである執事さんがその都度
フォローをしてくれたおかげで、大事には至っていない。

それでも、自分のコミュニケーション能力は
こんなにも低いのかと落ち込まずにはいられなかった。

きちんと人と向き合って
誠実に付き合っていきたい。

お互いにとってより良い形で
信頼を作っていきたい。

言葉でいうのはとても簡単で
けれど実践するのは途方もなく難しい。

それは、仕事だけではなく
プライベートにだっていえることだった。

親友からのメールを
僕はいまだに持て余している。


「日本語って、こんなに難しかったっけ」


いつも使っているはずの言語なのに
誰かとやりとりする言葉を選ぶのにこんなにも苦労する。

それこそ文章で伝えるのが難しいのなら
いっそ直接話せたら何か変わるのだろうか。

今でも打ち合わせで電話やテレビ会議を使うことはあるけれど
もっと声で話す機会を設けたほうがいいのかもしれない。

そんな思いつきを得た僕は、
思い切って執事さんにも提案してみることにした。

返ってきたのは、意外な返事だった。


「電話の方が伝わりやすいのは確かやな。目の付け所は悪くない。
ただ…ちょーっと、電話を甘く見すぎとらんか?」


僕の話を聴きながらも仕事の手を休めなかった
執事さんの動きがピタッと止まる。

何やら考え事をしているようだ。
そして浮かんだ笑みに、なんだか嫌な予感がする。

もしかして、僕は何かをやらかしたのか?


「というわけで、ちょい業務追加するわ。
あとはゲーテに話通しとくから、聞いといて」


なにが「というわけで」なのか流れがさっぱりわからないが
ただでさえパンク寸前の僕に新たな業務が加わるのは確定らしい。

詳細について質問を投げかける前に、話の流れが
切り替えられ、ディレクションに関する打ち合わせをその場で
行うことになった。

意図的なのか、たまたまなのか
新たな業務に関する情報を何一つ得られないまま
自分のデスクへと戻る。


「さてさて、新しいお仕事だよ~」


僕のデスクで待ち構えていたゲーテさんは
資料を手に、にこにこと笑っていた。

その笑顔につい身構えてしまうのは
これまでの経験から学んだ反射行動だ。

ぽいっと放り投げられた書類を慌てて受け取る。
見ると、企業名がずらっと並んだリストのようだ。


「さあ、さっそく電話をかけてみよう!」


僕に追加で与えられた業務は、いわゆるテレアポだった。

リストに載っている会社へと電話をかけ
相手と面談するためのお時間を頂く約束ができればクリア。

テレアポの中には、電話で即商品をセールスするケースもある。
それに比べれば、アポをとるだけなので難易度は低いと教えてもらった。


「とはいえ、楽じゃないけどね。でも電話の仕事やりたかったんでしょ?」


よかったね~と言っていただくが、心中は複雑だ。

あの話の流れから、まさかテレアポ業務につながるなんて
予想もしなかった。

とはいえ、せっかくだからチャレンジしてみよう。
仕事である以上、数をこなしてアポをとってみせる。

そう覚悟を決めることにした。

ゲーテさんを相手に簡単なシミュレーション練習をしてから
テレアポをすることになった。


「最初はまず10件だけね。10件終わった段階で、報告よろしく~」


10件電話をかけたら
1件くらいはアポがとれるだろうか。

確率としてはわずか1割だ。
初心者でもそのくらいは狙っていきたいところだ。

バクバクと鳴る心臓の音を無視して
電話をかける。

震えた指でも電話番号は間違えないように
慎重にプッシュする。


1件目は、プルル…と無機質なコール音の後
対応してくれた受付の女性にあっさりと断られた。

時間にしてわずか10秒。瞬殺だった。

2件目、3件目とかけていくと
そもそもつながらない企業や留守番電話もあった。

そして何より受付の壁が厚かった。

ただ代表者と会う約束をもらうだけのはずが
受付で冷たくあしらわれる。

突破の糸口すら見えてこない。

10件目を終えて時計を見る。
ぐったりと疲れたものの、わずか10分も経っていなかった。

アポは1件もとれていなかった。

悔しいという感情以上に
わけがわからない。

電話ってこんなに怖いものだったろうか。
こんなに、冷たく断られるものだっただろうか。

とぼとぼとした足取りで
ゲーテさんに結果を報告しにいく。

すると、テレアポに取りかかった手順や
電話口で話した内容について細かくヒアリングされた。

覚えている範囲でしどろもどろ答えた僕を見て
ゲーテさんはうまくいかなかった原因がわかったらしい。


「まあ、10件だとアポ取れなくてもおかしくないんだけど。
でも今のままじゃ多分100件やってもアポにはつながらない、かな」


うまくいかない原因はどこなのか
僕はゲーテさんへと詰め寄った。

が、ゲーテさんは決して答えを与えようとはしなかった。


「リストももったいないから、架電はいったんストップで。
ちょっと自分で調べたり考えたりしてみよっか」


=====
<第15の課題>

Q.このままだと100件やってもテレアポが上手くいかない理由はなんだろう?

=====


「上手くいかない事には必ず理由がある」とゲーテさんは言った。

そして答えは教えてもらうよりも、自分で探して納得する方が
きちんと身につくと言われてしまえば、反論なんてできっこない。

会社の電話にはレコーディング機能がついていたので
自分と受付とのやりとりの記録をまず振り返ることにした。

さて、答えはどこにあるのだろう。

=====
<第15の課題のヒント>

今回のテレアポは売り込み目的ではなく
あくまでも相手企業の代表者に会う約束を頂くこと。

電話に対応する受付の気持ちになって考えてみよう。
どんな電話なら代表者に取り次ぐだろうか?

=====
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

未来の軌跡 - 経済と企業の交錯

Semper Supra
経済・企業
この長編小説は、企業経営と経済の複雑な世界を舞台に、挑戦と革新、そして人間性の重要性を描いた作品です。経済の動向がどのように企業に影響を与え、それがさらには社会全体に波及するかを考察しつつ、キャラクターたちの成長と葛藤を通じて、読者に深い考察を促す内容になっています。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫
ファンタジー
唯一の血縁者である姪っ子を引き取った月山(つきやま) 五郎(ごろう) 41歳は、住む場所を求めて空き家となっていた田舎の実家に引っ越すことになる。 そこで生活の糧を得るために父親が経営していた雑貨店を再開することになるが、その店はバックヤード側から店を開けると異世界に繋がるという謎多き店舗であった。 少ない資金で仕入れた日本製品を、異世界で販売して得た金貨・銀貨・銅貨を売り資金を増やして設備を購入し雑貨店を成長させていくために奮闘する。 この物語は、日本製品を異世界の冒険者に販売し、引き取った姪っ子と田舎で暮らすほのぼのスローライフである。 小説家になろう 日間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 週間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 月間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 四半期ジャンル別  1位獲得! 小説家になろう 年間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 総合日間 6位獲得! 小説家になろう 総合週間 7位獲得!

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...