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第14章
自分の状況や感情よりもまず「相手」へと意識を向けることー第14の課題解答編ー
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僕の好みよりも甘めのカフェオレがの味が
口の中にずっと残っている。
パソコンの前で、あまり頭を使わなくても
できる作業をこなしていく。
ディレクションの基本とは何なのか?
一体何が求められているのか?
ゲーテさんの問いかけが
頭から離れない。
絶対に正しい正解はどこにもなくて
僕は僕なりの答えを見出さなくてはならない。
ゲーテさんは僕に言った。
「これまでのことをよーくよーーく考えてみて、か」
ヒントはきっと、自分がこれまでの経験に
隠されているはずだ。
気づきノートを机から取り出して
ぱらりぱらりとページをめくる。
毎日のようにメモは増えていくが
最近は忙しすぎて振り返りを忘れてしまっていた。
「なんだか、懐かしいなあ」
入社してまだ1年もたっていない。
けれど、今までにないほど濃い時間を過ごしてきた。
たくさんの苦労をして、たくさんの経験をして
一つ一つ成長し続けてきた。
最初のころの気づきを見ると
あまりの拙さに苦笑してしまう。
まだまだ未熟だとは痛感しているけれど
それでも、確かに前に進んで来れたのだろう。
「魔王様は、お元気だろうか」
最近はとみにご多忙なようで、同じ会社に所属しているとはいえ
ほとんど姿を見かけることもない。
きっとゲーテさんから報告は上がっているだろうし
僕の現状については把握されているだろう。
それでも、以前のように話す機会もないかと思うと
少し寂しさに似た感情を抱いてしまう。
ぱらりぱらりとページをめくり
ひとつひとつの体験と気付きを思い出していく。
「ああ、そういうことか」
答えはきっと、シンプルなことだった。
僕なりの答えがすとんと落ちてくる。
僕がずっと教わってきたことの根底は「相手のことを考える」ことだ。
ディレクションが始まってから、トラブルが起こるたびに
僕は自分の中にある恐れや焦りといった様々な感情にばかり
意識が向いていた。
目線が、相手に向かっていなかった。
僕は、一緒に組んでいるクリエイターの方に対して
どれだけ知ろうと動けていただろう。
作品作りは一人では決して出来はしない。
ディレクターがいて、クリエイターがいて
互いに意見を交わしあいながら、作品の質を高めていく。
ディレクターは全体をとりまとめる役割だ。
だからこそ、だれより周りのことを考えて動かなきゃいけなかった。
それがきっと、ディレクションの基本なのだと思った。
まだまだ知識も経験も少ない僕に求められていたのは
きっと相手を理解しようとする意識だった。
「これが、僕の答えだ」
ゲーテさんはもうオフィスにいなかったが
僕はこの答えを彼女に伝えたいと思った。
ゲーテさんのヒントがあったからこそ
僕は答えをつかむことができた。
携帯を片手に、ゲーテさんへと
お礼と合わせて文章を作り、メールを送る。
純粋な業務連絡ではない内容を
ゲーテさんに送ったのはたぶん初めてだ。
ゲーテさんは、驚くだろうか。
それとも案外、予想通りと笑うのだろうか。
ほどなくして、メールの返事が返ってきた。
件名は、「よかったね」。
その一言にきっと、いろんな思いが込められているのだと思う。
メールを開いて本文を読んでいく。
”みんなそれぞれの事情があって、クリエイタ-さんにも生活があって
だからこそ妥協じゃなくて、互いに配慮しあえる関係だといいね”
ゲーテさんの文章に、僕は頷いた。
僕も、そんな関係をあらためてチームで築きたい。
そして良い作品を、みんなで作っていきたい。
書かれている内容をじんわりかみしめていると
またもや携帯にメールが届いた。
今度のメールもゲーテさんからで、内容は
コミュニケーションに関する具体的なアドバイスだった。
文章でのやりとりは情報量が少ない分
どうしても誤解を生みやすいこと。
自分が言いたいことを端的に伝えるのも大切だが
同じくらい相手の言葉から読み取る能力が問われる。
失敗をしてもいいから数をこなしていけば
だんだんと相手のことが文章からでもわかってくる。
そんなことが、書かれていた。
ゲーテさんに今一度お礼を送ってから
メールの文面をそのまま気づきノートへと書き写した。
教えてもらったことを明日から活かしていけば
また失敗してしまうとしても、前向きにがんばれる気がした。
「ゲーテさんに、感謝だな」
ゲーテさんに悩みを打ち明けたからこそ
見えてきたものがある。
素直にありがたいと思った。
今までは苦手でたまらなかった先輩だったのに
今ではぐっと身近に感じている。
ゲーテさんとの間に壁を作っていたのは、きっと
僕の余計なプライドとかそういったものだったのだろう。
メールの文面を書き写し終えてから
ノートをぱたんと閉じた。
疲れた目が痛んで、視界がかすむ。
人の縁は不思議だ。
魔王様や執事さん、そしてゲーテさんと僕は出会い
ワーカホリックのように毎日仕事に打ち込む日々を送っている。
この会社に入社する前の自分が
今の自分を見たらどう思うだろうか。
バカだと、笑うだろうか。
そんなきつい仕事はやめておけと言うだろうか。
それこそ、親友から届くメールのように。
過去と今の狭間に立っている気分だ。
親友にはまだ、返信メールを出せていなかった。
のろのろと手を動かして、一言だけ
親友へのメールを返す。
”最近忙しくて返事できてなくてごめん”
それ以上の言葉は、今の僕からは出せそうにない。
相手を理解し、相手を配慮し
文章から相手をくみ取りながらも
自分の言いたいことを伝える。
「…難しいな」
残りのカフェオレを全て飲み干して
今日の仕事を終える。
正解なんてどこにもない。
人との付き合い方は、本当に難しい。
=====
<×月×日 気づきノート>
…
ゲーテさんから教わったことを活かして
明日からのディレクションはまず、相手の状況を
知るところから始めてみよう。
=====
口の中にずっと残っている。
パソコンの前で、あまり頭を使わなくても
できる作業をこなしていく。
ディレクションの基本とは何なのか?
一体何が求められているのか?
ゲーテさんの問いかけが
頭から離れない。
絶対に正しい正解はどこにもなくて
僕は僕なりの答えを見出さなくてはならない。
ゲーテさんは僕に言った。
「これまでのことをよーくよーーく考えてみて、か」
ヒントはきっと、自分がこれまでの経験に
隠されているはずだ。
気づきノートを机から取り出して
ぱらりぱらりとページをめくる。
毎日のようにメモは増えていくが
最近は忙しすぎて振り返りを忘れてしまっていた。
「なんだか、懐かしいなあ」
入社してまだ1年もたっていない。
けれど、今までにないほど濃い時間を過ごしてきた。
たくさんの苦労をして、たくさんの経験をして
一つ一つ成長し続けてきた。
最初のころの気づきを見ると
あまりの拙さに苦笑してしまう。
まだまだ未熟だとは痛感しているけれど
それでも、確かに前に進んで来れたのだろう。
「魔王様は、お元気だろうか」
最近はとみにご多忙なようで、同じ会社に所属しているとはいえ
ほとんど姿を見かけることもない。
きっとゲーテさんから報告は上がっているだろうし
僕の現状については把握されているだろう。
それでも、以前のように話す機会もないかと思うと
少し寂しさに似た感情を抱いてしまう。
ぱらりぱらりとページをめくり
ひとつひとつの体験と気付きを思い出していく。
「ああ、そういうことか」
答えはきっと、シンプルなことだった。
僕なりの答えがすとんと落ちてくる。
僕がずっと教わってきたことの根底は「相手のことを考える」ことだ。
ディレクションが始まってから、トラブルが起こるたびに
僕は自分の中にある恐れや焦りといった様々な感情にばかり
意識が向いていた。
目線が、相手に向かっていなかった。
僕は、一緒に組んでいるクリエイターの方に対して
どれだけ知ろうと動けていただろう。
作品作りは一人では決して出来はしない。
ディレクターがいて、クリエイターがいて
互いに意見を交わしあいながら、作品の質を高めていく。
ディレクターは全体をとりまとめる役割だ。
だからこそ、だれより周りのことを考えて動かなきゃいけなかった。
それがきっと、ディレクションの基本なのだと思った。
まだまだ知識も経験も少ない僕に求められていたのは
きっと相手を理解しようとする意識だった。
「これが、僕の答えだ」
ゲーテさんはもうオフィスにいなかったが
僕はこの答えを彼女に伝えたいと思った。
ゲーテさんのヒントがあったからこそ
僕は答えをつかむことができた。
携帯を片手に、ゲーテさんへと
お礼と合わせて文章を作り、メールを送る。
純粋な業務連絡ではない内容を
ゲーテさんに送ったのはたぶん初めてだ。
ゲーテさんは、驚くだろうか。
それとも案外、予想通りと笑うのだろうか。
ほどなくして、メールの返事が返ってきた。
件名は、「よかったね」。
その一言にきっと、いろんな思いが込められているのだと思う。
メールを開いて本文を読んでいく。
”みんなそれぞれの事情があって、クリエイタ-さんにも生活があって
だからこそ妥協じゃなくて、互いに配慮しあえる関係だといいね”
ゲーテさんの文章に、僕は頷いた。
僕も、そんな関係をあらためてチームで築きたい。
そして良い作品を、みんなで作っていきたい。
書かれている内容をじんわりかみしめていると
またもや携帯にメールが届いた。
今度のメールもゲーテさんからで、内容は
コミュニケーションに関する具体的なアドバイスだった。
文章でのやりとりは情報量が少ない分
どうしても誤解を生みやすいこと。
自分が言いたいことを端的に伝えるのも大切だが
同じくらい相手の言葉から読み取る能力が問われる。
失敗をしてもいいから数をこなしていけば
だんだんと相手のことが文章からでもわかってくる。
そんなことが、書かれていた。
ゲーテさんに今一度お礼を送ってから
メールの文面をそのまま気づきノートへと書き写した。
教えてもらったことを明日から活かしていけば
また失敗してしまうとしても、前向きにがんばれる気がした。
「ゲーテさんに、感謝だな」
ゲーテさんに悩みを打ち明けたからこそ
見えてきたものがある。
素直にありがたいと思った。
今までは苦手でたまらなかった先輩だったのに
今ではぐっと身近に感じている。
ゲーテさんとの間に壁を作っていたのは、きっと
僕の余計なプライドとかそういったものだったのだろう。
メールの文面を書き写し終えてから
ノートをぱたんと閉じた。
疲れた目が痛んで、視界がかすむ。
人の縁は不思議だ。
魔王様や執事さん、そしてゲーテさんと僕は出会い
ワーカホリックのように毎日仕事に打ち込む日々を送っている。
この会社に入社する前の自分が
今の自分を見たらどう思うだろうか。
バカだと、笑うだろうか。
そんなきつい仕事はやめておけと言うだろうか。
それこそ、親友から届くメールのように。
過去と今の狭間に立っている気分だ。
親友にはまだ、返信メールを出せていなかった。
のろのろと手を動かして、一言だけ
親友へのメールを返す。
”最近忙しくて返事できてなくてごめん”
それ以上の言葉は、今の僕からは出せそうにない。
相手を理解し、相手を配慮し
文章から相手をくみ取りながらも
自分の言いたいことを伝える。
「…難しいな」
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お読み頂き、ありがとうございます。毎日20時頃に更新していきます。
「面白い!」「続きが気になる…」と思われた方はぜひ、「お気に入り登録」頂ければうれしいです。
感想頂けた方には必ずお返事をさせて頂きます!
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