私、魔王の会社に入社しました-何者でもなかった僕が自らの城を手に入れる日まで-

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第10章

自分以外の誰かに対して人はどれだけ関心を向けるのかー第10の課題:Twitterアカウント交換ー

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すべての努力が報われるなんて、嘘だ。

会食に同行できるチャンスをもらって
執事さんからの厳しい指導に必死で食らいついて

今の自分に出来ることは多分やりきれたと思う。

結果的に失敗だらけだったのは、今の僕の実力だ。
仕方ない。次を考えよう。


「…って割り切れればよかったのに」


これまでにも失敗は山ほどあった。

それなのに、今回ばかりはどうにも吹っ切ることができずに
会食のときにやらかした数々を振り返っては、くずぐずと引きずっている。


「次も、また失敗するのかな」


一度生まれてしまった不安は、なかなか消えてくれない。
失敗ってこんなに怖いものだったのだろうか。


「いやだなあ」


失敗をしてしまう自分が嫌だ。
そして何より、立ち直れないままうずくまる自分が嫌だ。



会社へと出社する足が次第にゆっくりになっていった。

かつては魔王様にストーカーのように付きまとっては
子供のように様々な質問をぶつけていた僕は、いつの間にか
なるべく独りでいたいと思うようになった。

休憩のたびに、トイレの個室にこもってうずくまる。


「ほんと、どうしちゃったんだろうなあ」


やる事は山積みで、デスクの上にはタスクが蓄積されている。
それなのに、頭が動いてくれない。手が止まってしまう自分が情けない。

薄暗い個室の中で、僕は目頭を押さえた。


「…独りで悩んでも何も変わらんぞ?」


ドアの向こうから、声がかけられた。
魔王様は僕の答えを待たずに、一方的に話し続ける。


「失敗なぞ、いくらでもすればよい。我らとて失敗なぞ星の数ほどしてきたわ」


そんなことは分かってる。
分かっているのに、僕の心は沈んでいく一方だ。

魔王様への答えを、今の僕は何一つ返せない。


「数をこなさないと、何も始まらんのじゃが…今のおぬしには何を言っても無駄か」


魔王様は言いかけた言葉を途中で飲み込んだようだった。
大きなため息が、扉の向こうから聞こえてくる。

きっと呆れられてしまったのだろう。


「ふむ、いいことを思いついた。後ほど詳細を送っておくとしよう」


きわめて適当な思いつきのような独り言を残して、魔王様は去っていった。

…わけが、わからない。
残された僕は、そのまま個室でぼんやりと座り込んでいた。

数分後、ジャケットの内ポケットが震えた。
スマホを入れっぱなしにしていたのだと思い出す。


「はあ??」


のろのろと携帯を取り出して、届いたメールを見た僕は思わず叫んだ。

メールの送信元は魔王様だ。メールで指令されている内容は2つ。


いわく、明日1日は他の業務はしなくていいので、次の遊びに本気で取り組むこと。

僕が運用している会社のTwitterアカウントと執事さんのアカウントを交換し
0時から24時までの24時間の間でどれだけのツイートができるか、発信数をとことん追求せよ。


「ええと、執事さんのアカウントって、アレだよなあ…」


どちらかと言えば、おちゃらけた感じの発信が多く
その中に時折真面目な内容も交えていくのが執事さん流のTwitterのやり方だ。

僕の会社アカウントはがっつり真面目な内容が多いので
運用の交換なんてするなら、うまく真似をしていかないと違和感をもたれそうだ。


発信数の追求という点については、自分で数の目標設定をしておくようにとのことだった。


「達成すべき最低限のノルマと目指すべき努力目標の数値を自分で設定せよ、か」


努力目標については、がんばればギリギリ達成できそうなラインで設定するように指示されていた。
目標数値達成を目指して、1日限定の遊びをゲーム気分で楽しめとのことだ。


「よりによって、執事さんのアカウントで遊べって。勘弁してくれよ…」


遊びという名目にはなっているが、ようは次の課題なのだろう。

正直なところ、魔王様の意図はよくわからない。
執事さんみたいなボケセンスを発信で身に付けろということなのだろうか。

変な発信をすれば、執事さんにも迷惑がかかってしまうだろう。
深いため息が自然と口からもれた。


座り込んでいたトイレの個室から出て、
自販機で飲み物を買ってから、デスクに戻ることにした。

いつまでも、独りの空間に逃げているわけにはいかない。
まだまだ仕事はあるし、明日の遊びとやらの目標数値だって早く決める必要がある。


「といわれても、イメージがつかないし。どうしよう…」


頭を抱えていた僕の携帯が、再び鳴る。

今度は電話の着信で、発信者は執事さんだ。
あわてて電話をとると、いつものケラケラという笑い声が聞こえてきた。


「魔王様から伺ったけど、明日はよろしゅう。お前のアカウントで思いっきり遊んだるわ」


のっけから不安しかない。
がんばって運用してきたアカウントなのに、明日1日で一体どうなってしまうんだろう。


「で、ノルマ設定するんやろ?200くらいはがんばりやー」


後でTwitterのログイン情報はメールで送る、とだけ言い残して通話は切れた。


「200って、マジか」


24時間で200ツイート。
つまり1時間あたり8から9ツイートはしなくてはならない計算だ。


「やるしか、ないよな」


せいぜい設定して150くらいの数字だろうと思っていたのに
「なに甘いこと考えとるんや」と言外に指摘されてしまった気分だ。

それとも、僕の考えなんてお見通しだったのか。

結局、最低ノルマ150、最終的な目標は200で設定すると
魔王様にはお伝えした。


「今夜は寝れないな、うん」


そして、時計の針がゼロを指した瞬間から
遊びという名の試練が始まった。


=====
<第10の課題>

Q.Twitterのアカウント交換にフォロワーはどれだけ気付いたのか?

今回はノーヒントで、ぜひ予想をしてみてほしい。
=====
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