執事の喫茶店

ASOBIVA

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9杯目 (終編)

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紅茶の香り漂う喫茶店で
店主の執事はひとり、紅茶の用意をしていた

お招きすべきお客様方とは、すでに縁ができた

『そろそろ閉店の頃合いでしょうね』

薄闇のなか、執事はつぶやく。

必要以上の介入を、この店は望まない

なぜなら
彼らの成功は彼ら自身がつかみ取るもの

喫茶店はただ、ほんの少し手助けするだけだ

舞台は、今宵いったんの閉幕を迎える

「執事さん、お疲れさまでしたー!」

「今回はお前の独壇場だったのう。
もう少し我も店主代理やりたかったわ」

店の扉から顔をのぞかせたのは古くからの付き合いの魔王と
常連として顔をのぞかせたかつての新人だ

舞台を降りれば、役もまた終わり

執事もまた、口調を戻して笑う

『ああ、二人ともお疲れさまやな。今回の世界は楽しめたか?』

三人は視線を交わしたかと思うと、互いに頷きあった

出会いは小さなきっかけにすぎない

それでも、きっかけ一つで人生なんていくらでも変わる

それを彼らはよく知っていた

時は流れる

ネット上から
いつの間にか成功を導く喫茶店の
噂は消えていた

けれど、その喫茶店が起こした波紋は
訪れた客を中心に広がっていく

「あなたとの出会いに、私、賭けてみようと思うんです!」

あるイラストレーターは自分がSNSで見出した
ある経営者との縁に全てを賭けると決意した

「今はただ、自分にできることをやるか…」

あるWEBライターは、自宅に届けられた
エナジードリンクを片手に今日もパソコンに向かう

「お前、やっぱりTwitterやってるよな?」
「あんたは動画作ってるわよね、アカウント知ってる」

ある動画クリエイターとインフルエンサーは
あるプロジェクトをきっかけに互いの存在を
ついに社内で知ることになった

副業禁止の会社からこっそり逃れて
今日も意見を交わしあう

「インフルエンサーすら利用してやるくらいの気概で
やるっきゃないな」

あるネット小説家はぼやくことをやめた
ディレクターがいるというありがたさを感じながら
今日も筆をとり続ける

「先輩、今度の営業先に持っていく資料、確認してもらえますか?」
「…ずいぶんわかりやすくなったな。きちんと視野が広がってる」

新人営業はほんの少し視野を広げ、人に聞くことを恐れなくなり
逆にディレクターは人に頼ることを少し覚えた

彼らの様子を経営者は、見守りながら
今日もプロジェクトを進めている

「皆の変化が著しいな。この先何があっても
ただ、今描く夢を貫いて見せよう」

彼らはそれぞれの道で
それぞれの決意で、各々の成功を目指す

『また、しばらくしたら
この店の出番もあるかもしれませんが…』

喫茶店に革靴の音が響く

すでに魔王たちはいない
執事がひとり、店の灯りを落としていく

『ひとまずは彼ら自身の道のりを
ここから見守っていくとしましょう。

これからが楽しみですね… また、お会いしましょう』

誰に届けるでもないつぶやきは
招いたお客様方の未来への花向けだ

扉は、再び開かれるときを待ちながら
ゆっくりと闇に消えていった
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