執事の喫茶店

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6杯目【後編】

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インフルエンサーが、半分やけになりながらも
本音ぶちまける

執事は聞き終え、静かに息をこぼした

「…やはり。あなたにはエンカウンターをお出しして正解でした。

本当に必要な出会いを手に入れればあなたの見えている世界は
きっと180度変わるでしょうから」

(私に、出会いが必要?)

インフルエンサーは首を傾げる。

確かに、他のインフルエンサー達とのやり取りの裏表にも
主催しているグループ内で、クレクレ君たちにも疲れている。

それでも万を超えるフォロワーと繋がる自分に
新たな出会いが必要と言うのか

うつむいていたインフルエンサーが
顔を上げると

彼女と執事の目線が交わる

彼女の想像よりずっと
執事は真剣な眼差しで

力をこめた言葉を発していた

「インフルエンサーとしての影響力を使うには
あなたは少し真面目すぎるのかもしれません。
人の縁は選ぶべきです。そして、相手に応じて付き合いの深さは変わるもの」

執事はぴんと指を立てて、語り始める。

「例えばスクール形式のコミュニティを例としましょう。
そして、参加者が想定したよりも先生役のレベルが低いとします。
皆、勝手に自分のポジションを決めていくでしょう。

レベルが低いから学ぶことはないと場を投げるもよし。
場に貢献するありかたを見出し組む相手を探していくもよし
個々のとらえ方すべてに責任を取る必要はありません。
何事も完璧はありえませんしそのつながりを活かせるかは
相手次第。

相手の自由なのです」

でも…と彼女は反論したくなった

個々の自己責任だという論自体は分かるし
他のインフルエンサーも似たようなことを言う人がいる。

でも自己責任を建前に
参加者を利用するやり方もある。

インフルエンサーは
そんなやり方にも嫌気がさしていた

彼女の心を見透かすように
執事はさらに言葉を補っていく

「もちろん、期待値を超える努力と信頼の積み上げは前提として必要でしょう。
少なくとも私はそう思います。ただ、前提がそもそもずれている人も
いらっしゃいます。つながりをどう活かすのか方向性自体が違う相手とは
どんなに巨大な相手でも決して組まない。

それが、かつてSNSを活用していた私のルールでした」

執事の言葉に
インフルエンサーは共感していた。

彼女は努力を惜しもうとは思わなかったし
数の力を誰かを搾取するために使いたいとも思わなかった。

本名や素性は出さなくても、Twitterの向こうには人がいる。
だから、できる限り誠実であろうと決めていた。

でも、いつの間にか数はしがらみでしかなくなって
楽しかったはずのTwitterが苦しくてたまらなくなったのだ。

思い悩むインフルエンサーに、執事は問う。

「そもそも、あなたは何のためにTwitterを始めたのですか?
多くのつながりを求めた本当の理由は何だったのでしょう?」

(ああ…私は…)

『自由に、なりたくて。新しいことを取り入れたかったし
色んなことにチャレンジしたくて、だから』

だから、自分より広い世界を見てきた人たちと
たくさん繋がりたかったのだ

それが自分の世界をいつか切り拓くとただ信じて
彼女は結果を見える数字として求めただけのことだった。

「素敵な願いですね。ならばあなたは心から信じられる相手
そして一緒に自由な挑戦ができる相手と出会わなくては
貴重な時間と労力は、価値ある出会いに費やすほうが
少なくともあなたの望む成功にはずっと近づくかと」

薄く笑みを浮かべた執事を前に
インフルエンサーは自分に向けられた言葉を噛みしめる。

自由に挑戦したくて始めたTwitterだったのに
自分で自分をがんじがらめにしていたなんて本末転倒にもほどがある。

衝撃の大きさに頭痛すら感じて、彼女はこめかみをそうっと手で押さえた。

「確かにSNSは嘘や裏切りも多い世界です。
でもその中に確かに輝く原石たちも眠っている。
その可能性を掘り起こし出会いを繋げられるのも
また、あなたのように数の力をもつ者の強みですね」

そう話を締めくくって、執事は笑った。

もうとっくにエンカウンターは飲み干していたし

彼女はお代を払い、ふらりと扉を開けて家路に着く

彼の話は確かにインフルエンサーの世界を
ぐるんと反転させてしまった。

改めてつながりを見直してみよう。

せっかく努力してきた数の力はきっと

今とは違うかたちで活かせるはずだ。

少しふらついていた足取りに
次第に力が入っていく。

振り返らず歩く彼女の背後を
一陣の風が吹き抜けていった。

数日後のこととあるインフルエンサー達の
グループから、離脱者が出たという話題が
Twitterの一定層をにぎわせた

離脱したインフルエンサーは
明確に方向性を切り替える旨を打ち出したため、
フォロワーの入れ替わりが激しく起こっているらしい

「ふふ、動き出しましたね」

一連の流れをフォローしていた執事は彼女の決断を、
そして過去から未来へと連動する動きを見守っている

介入はすれど、最終的には、彼らの運命は彼らのものだ

「あと、お招きすべきはおふたり…ですね」

紅茶が薫る空間で、執事はゆるく笑った
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