執事の喫茶店

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3杯目【前編】

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2018年政府が公式に副業を推奨する規定を
打ち出し副業元年と言われた

それから2年が経つ

就業規則からは用語が消えても
社内ルールとして根強く効力を持つ会社は未だ存在する

男の会社もその一つだった

だから彼は自分の副業を社内では決して明かさない

仕事を終えれば家に戻って動画を作る

そうして彼が最初に動画編集を
学んだミュニティからの
紹介案件を日々こなし時にYoutubeに上げる

自分の本業は動画クリエイターでありたい

会社員でありつつ彼はそう願っていた

社会的に見れば営業職が本業だろう

そちらの手を抜くつもりもない

なにしろ給与が安定してもらえるわけだし
残業も少ないのはありがたい

仕事から戻れば自由な時間が彼のものだ

好きなだけ様々な動画を研究し制作に打ち込める

ただやはり窮屈な思いはあった

彼の会社ではYoutubeやTwitterといった
SNSの影響力を未だ軽視する風潮すらある

子供のなりたい職業にYoutuberが上位入りする時代に
正直時代遅れな職場だと、彼はしばしばため息をついた

社内でSNSに理解がありそうなのは、同期の女性ひとりだけ

もっとも彼女との関係はあまりよろしくない

なぜか会うたびに睨まれてしまう

間柄今後よっぽどのことがない限り
動画クリエイターが秘密を明かす機会はなさそうだった

最近天気が崩れている

本日も雨模様

業務を終えて動画クリエイターは
帰路につく傘を差し彼は雨音に耳を傾けた

ふと有名なアニメのワンシーンを
思い出す心に残る動画を作りたい

いずれは動画だけで食べていきたい

『いっそ会社をやめて動画に専念できれば…
いや今の状況じゃ現実的じゃないな。稼げない』

彼は自らの状況を自嘲した

動画クリエイターなんて名乗っても
コミュニティのおこぼれの仕事が中心だ

自分以上の技術を持つクリエイターなんて五万といる

金にならない“本業”はもう潮時なのだろうか

雨の降りは、ますます激しさを増していく

土砂降りに折りたたみの傘が負けそうだ

動画クリエイターはひとまず
目についた建物の軒先に駆け込んだ

すっかり濡れ鼠になってしまった
体は急激に冷えていく

『どこかで温かいものでも飲みたいところだなぁ』

体を震わせてながら
動画クリエイターは辺りを見回す

そこで彼は自分の後ろに
木の扉があることに気がついた

ノブには“喫茶開店中“
というアンティーク調の看板が掛けられている

ちょうどいい暖をとっていこう

彼は迷わず扉を開けた

「ようこそ。
お客様あなたの成功を導く店へようこそ」

彼を出迎えたのは怪しげな白い燕尾服

入る店を間違えたと焦るも、当然後の祭りである
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