ネトゲ≠リアルな恋愛事情~26歳社畜、ネトゲでもリアルでもイケメンと出会ってしまいました~

いちき

文字の大きさ
上 下
29 / 36
第2章 ネトゲもリアルも恋愛発展!?

9  ――ここから先のことは、意識がなかった時の出来事だ。

しおりを挟む





 ――ここから先のことは、意識がなかった時の出来事だ。
 仕事で無茶をし過ぎた俺は、文字通りぶっ倒れた。急に目眩がしたと思ったら、ばたり、だ。全身が熱くてじんじんする。もう何も考えられない、と思った直後、意識が飛んだ。

「ッ、先輩、駿河さん!? 医務室に運びます!」

 後輩の焦った声が、オフィスに響く。急な出来事に、皆、仕事の手を止めて此方を見ている。意識があったら謝り倒したいところだけれど、身体も頭も動かなかった。
 後輩が近付いてきたと思ったら、躊躇いもなく俺を抱え上げた。事もあろうか姫抱きだ。うっ、犬塚さんにしかされたことないのにい。だが俺は、はあはあと荒い息で汗をかくことしかできない。身体にも力が入らず、だらりとする。
 ざわめくオフィスを突っ切り、エレベーターに乗り込んで医務室にまで連れて行かれた。
 流石本社、常駐している産業医が、熱を測ったり様子を見てくれたりして、「過労でしょう」とあっさりと診断を下してくれた。後から追いかけてきた上司が息を吐いて、「確かに働かせすぎたな」と頷いている。ううう、今更、遅いっす。聞いてたら言い返してやりたかったなあ。
 「暫く休養が必要ですね」と産業医が頷くのに、「俺、家まで送って来ます」と後輩が言う。上司はそれに「頼んだぞ」なんて頷いている。
 そんなやり取りも聞こえないまま、俺は再び姫抱きされるのだった――こいつ、さては慣れてるな。






 ――どうやって家に帰り着いたのかも知らない。タクシーを使ったんだろうが、気付いたら俺は、自宅のベッドの上だった。
 ジャケットを脱がされネクタイを外されて、はあはあと呼吸がままならないのがしんどい。見慣れた天井すらぼやけて見えるし、相変わらず身体はひどく重い。
 そんな俺に、覆い被さる一つの影。
 その影さえもぼやけるけれど、俺にそんなことをするのは、一人しかいない。
 頬に手が触れてきて、その冷たさが心地良く、つい擦り寄る。

「いぬづかさ、……」
「っくそ、」

 呼び慣れた名前を呼んだら、聞き慣れない声での舌打ちが聞こえてきた。

「俺らしくねえ、……ねえ先輩、起きてください」
「?」

 せんぱい、って最近その名で俺を呼ぶのは、二人だ。
 ヘタレでメガネな後輩くんか、いけすかないイケメンの後輩か。

「恋人、呼びますよ」
「いぬづかさん?」

 そして、俺の恋人、は、この世にただ一人だけ。
 名前を呼ぶだけでなんだか安心して、ふにゃりと緩い笑みが出た。

「そう、そのひと」
「へへへ」
「あああ鬱陶しいなもう!」

 がしがしと頭を掻いて苛立ったように言う後輩、解せぬ。
 立ち上がったかと思うと俺の鞄を漁って、スマホを取り出した。

「ほら、スマホいじって! 恋人の連絡先出して!」
「はいー」

 指示されると、その通りに動いてしまうのは熱のせいだ。
 スマホの画面すら歪んで見える。
 開いたメッセージ画面は、犬塚さんのメッセージで止まってる。『大丈夫か?』とか、『無理するなよ』『落ち着いたら連絡くれよ』と連なるメッセージに、きゅぅ、と胸ら辺が痛くなった。待たせちゃってたなあ。
 自然と、指が、コールマークをタップする。
 腕を組んで苛立った様子の後輩も、コール音を聞く。
 1、2、3……ダメだ、繋がらない。
 そりゃそうか、今は午後3時、普通だったら仕事真っ最中の時間帯だ。
 なんだか無性に寂しくなって、スマホを持つ手が項垂れる。

「あーもう、貸してください。あんた今文字打てないでしょ」
「あー、えっちー」
「何言ってんですか」

 スマホが取られた。
 犬塚さんとのやり取りを見られる抵抗はあったが、取り返せない。

『駿河さんの後輩です』

 そして、わざと俺に見せるようにしながら、送信メッセージが追加される。

『今駿河さんの家にいます』
『早く来ないと』
『大変なことになりますよ』

 えっ、こいつ何言ってんの?
 と後輩を仰ぎ見ると、ぱしゃり、と写真を撮られた。
 ネクタイを外して上から二番目までボタンを外したシャツ、そして熱のせいで真っ赤な顔、熱のせいでぼやけた瞳、熱のせいで乱れた髪、が映った写真を、あろうことか犬塚さんに送りやがった!

「なに、なにしてんの」
「こうしたらきっと、駆けつけてくれるかなって」

 にっこり笑ってスマホを揺らす後輩は、マジのガチで性悪だ。
 うう、犬塚さんに嫌われたら、末代まで祟ってやるからなー。






しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

フルチン魔王と雄っぱい勇者

ミクリ21
BL
フルチンの魔王と、雄っぱいが素晴らしい勇者の話。

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...