ネトゲ≠リアルな恋愛事情~26歳社畜、ネトゲでもリアルでもイケメンと出会ってしまいました~

いちき

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第2章 ネトゲもリアルも恋愛発展!?

1  紫と黒が混ざった禍々しい空間で、

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 紫と黒が混ざった禍々しい空間で、大きな竜の身体に、人間めいた顔が乗っかっている、グロテスクな外見をしている強大な敵と対峙をする。剣、斧、弓、杖、銃――それぞれのキャラクターが、手にした武器を握り締めて、一斉に大きな身体へと向かって行った。激しい光が弾け飛んで、ダメージを与える。

【あ、やべ!】

 大量の弓矢を一気に飛ばす必殺技の、タイミングがずれた。気が付いた敵が、竜の尻尾の部分をビタンと動かして、攻撃をしてくる。一気に体力が減ったけれど、すかさず、白い光が身体を包んだ。温かな魔法に、体力が一気に回復する。

【ありがと!】
【気を付けろよ!】
【はーい】

 緊迫した雰囲気とは裏腹に軽い会話を交わし、再び体勢を立て直した。剣士の大剣が大きく振られ、竜の身体に斬りかかる。それと同時に、魔法使いから炎が放たれた。ガンナーは隙間なく銃を撃っているし、戦士の斧が、竜の頭上を狙って下ろされる。全員の力が一つになったとき、光が辺りを包んで、大きな一本の剣になり、竜の身体を貫いた。

【ふいー】
【おつかれー】
【おつかれっすー】
【ありがとでした☆】
【おつかれさまー】
【おつかれ!】

 竜が崩れ落ちて、世界征服への無念を呻いているムービーが流れる横で、あっさりとした挨拶の文字列が、無機質にずらずらと並んだ。
 ――君は、ひとりじゃない。
 全員の力を合わせて、一つの強大な敵と対峙する。
 相変わらず、このネトゲは、おもしろい。










 ネトゲの商法の一つに、追加パッケージ、というのがある。新しい世界や、職業、人種、ミニゲームなんていう大量のデータを追加して、飽きずにプレイしてもらおうってシステムである。発売してから一年後くらいに発売するゲームが多い。結婚のアプデのときと同じように、みんな楽しみにしていたし、もちろん、俺も買った。
 ――でも。

「うううう、帰りたい」
「何言ってるんですか先輩、これからですよ!」
「もう終業時間過ぎてるじゃん、残業は最低限しかしない主義なのー」

 現実はそう甘くはなかった。
 散々、言われていたように、俺は四月から華の本社勤務、をすることになった。噂に聞いていた通り、そして俺のイメージの通り、支社とは比べものにならないくらいに忙しい。まるで一年目の仕事に慣れなくて苦しかった時期が戻ってきたように、毎日が忙殺されている。ひどいときには終電で帰る日もあって、家に帰っても風呂に入って寝るだけ、ゲームをする時間なんてある筈がない。

「いやだなあ先輩、それ、ギャグですか? 笑えないです」
「爽やかに切り捨てないでよ、超本心だよ、根っからの言葉だよ」

 俺の隣の席で爽やかに笑うイケメンは、本社の後輩だ。笑顔が眩しい。SEというよりは営業が本職のようだけれど、本社に来て間もない俺の面倒を見てくれている。
 しっかりしているし、仕事もできるし、女の子のことをあれやこれやと言ってはこないけれど、やっぱり俺の後輩くんは、眼鏡が似合ってちょっと頼りなくて不器用なあの後輩くんだけだ。だから、心の中でも、目の前のイケメンを後輩くんと呼ぶことはしない。近江くんって言ったっけな、確か。(名前もうろ覚えなんてそんなこと、本人には決して言えない)

「納期までまだ余裕あるんだから、少しぐらい早く帰ってもいいでしょー」
「早めに納品できたら、その分次の仕事ができるじゃないですか」
「わあお合理的、でもそのために残業するのは非合理的ー」

 かたかたとキーボードを叩きながら、隣の後輩と会話を交わす。一刻も早く帰りたい。本社勤務になってから、土日しかゲームが出来ていない。これは、由々しき事態である。

「仕事ができるようになりたいなら、趣味をもて」
「はい?」
「俺の尊敬する先輩の言葉。そっくりそのまま、君にあげるよ」
「ああ、俺、サーフィンが好きなんですよ。後、バー巡りとか。バーベキューも好きだなあ、先輩は?」

 さらりとリア充自慢をされて、俺の心が折れる。
 ううう。後輩くん、早く本社(こっち)に来てくれないかなあ。色々いじめてごめんね、俺の後輩くんは、きみだけだ……。
 パソコンの前で大きな息を吐き出して、画面に映る文字の羅列を眺めては、缶コーヒーを飲み干した。隣の後輩が、にこりと、眩しいイケメンスマイルを向けてくる。

「一緒に頑張りましょうね、先輩!」
「絶対やだ」

 ばっさり切り捨ててやる。
 ――ああ、早く家に帰ってゲームしたい。







 リアルのバージョンアップが思いの外苦しいものとなった弊害は、もう一つあった。
 犬塚さんに会う時間が減ったこと、だ。
 ネトゲで結婚した後にリアルでこいびとどうし、になるという逆転劇を繰り広げた俺たちだけれど、意外や意外、大分うまくいっていた。同性と付き合うのは初めての俺と、恋愛遍歴を頑なに教えてくれない犬塚さん(隠し子とかいたらどうしよう)で、最初はどうなることかと思った。でも、犬塚さんの優しさと懐の広さのおかげで、特に違和感もなく、幸せな毎日を送れていた。平日はネトゲの中で会って、“アキ”と“シノ”というキャラクターとして、一緒に冒険をする。週末はどちらかの家(犬塚さんの家の方が多い)で、やっぱり一緒にゲームをしたり、たまに映画を観たり、遠出をしたりと、穏やかな時間を過ごせていた。――そう、俺が異動するまでは。
 送別会で後輩くんが大号泣して見送ってくれたのにじーんと感動していたあのときは、こんなに忙しくなるなんて思いもしなかった。ううう、恨むぜ、本社。
 見た目も中身もイケメンな犬塚さんは、毎日、俺を労わるメッセージを送ってくれて、それに心底癒される日々だ。
 それでも最近、ネトゲでもリアルでも犬塚さんに会えていない俺は、すっかり犬塚さん不足だった。ううう。残業さえなければ、もっと早く帰れるのにー。
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