ネトゲ≠リアルな恋愛事情~26歳社畜、ネトゲでもリアルでもイケメンと出会ってしまいました~

いちき

文字の大きさ
上 下
7 / 36
第1章 ネトゲ発祥のリアル恋愛!?

7 こんなに緊張してログインするのは、初めてだ。

しおりを挟む





 前回の気まずさを思い返して、少し躊躇いながら、俺はゲームの電源を入れた。いや、そもそも、気まずく感じるのがおかしいんだって。シノさんは優しい。優しいシノさんだから、俺のことも、あんなふうに構ってくれてるんだ。そう割り切る努力をして、俺はコントローラーを握り締める。こんなに緊張してログインするのは、初めてだ。

【こんばんはー】

 いつも通りの挨拶を打つと、【ばんわー】【やほー】【おっすー】とギルドの面々から、次々と言葉が返ってくる。その中にシノさんの名前もあって、ほっとしたような、気まずいような、複雑な想いが胸に浮かんできた。

【アキ、レベル上げに行かない?】

 ピロリン、と音がして、シノさんからのチャットを報せる。その誘いに少しだけ心臓が跳ねた。

【行く!】

 そして間髪入れずにそう打ち込んじゃう俺は、もしかしなくても、単純かもしれない……。

【ついでにストーリーもちょっと進めたいー】
【そういや最近進めてないな】
【うん】
【おけ、やろう】

 <シノさんからパーティに誘われました>というウィンドウが出て、やっぱり間髪入れずに、<仲間になる>を選択する。シノさんと俺のキャラの名前が、並んだ。

【んじゃ、行こう】
【はーい】

 ゲームの知識量は、シノさんには適わない。レベル上げもストーリー進行も、基本的に、俺はシノさんについていくだけ、だ。申し訳ないと思うこともままあるけれど、何も言わないシノさんに、甘えてしまっている。
 レベル上げは、基本的に、経験値がおいしい敵がいるエリアに行って、ひたすら敵を倒すことになる。今のレベルに丁度良いと紹介されたのは、洞窟だ。ガイコツの兵士や、でろでろに溶けそうになっているゾンビがうようよいて、薄暗い雰囲気だけれど、シノさんがいるから心強い。毒にかかっても、体力を減らされても、すかさずに後ろから回復してくれるから、どんどんと敵を倒して行けた。

【シノさんすげー!】
【アキも強くなったよな】
【え、ほんと? ほんと?】
【うん。上手くなった】
【へへ、うれしい】

 シノさんに褒められると、すごい嬉しい。
 その一言で、ちょっと前の複雑さとか気まずさとか、そういうのも払拭されたから、シノさんすげーって改めて思う。

【こんばんわ♡】

 その時だった、ピロリン、と音がして、ギルドのチャットが更新される。可愛らしい記号付きの挨拶は、ショコラちゃんだ。【ばんわー
】と俺が打つのと殆ど同時に、【こんばんはー】【ちーっす】【やっほー】と、ギルドの面々が挨拶を返す。シノさんもすぐに挨拶を打っていたけれど、【ばーんわ】と普通のもので、ちょっとほっとしてしまった。

【シノさんシノさあん】

 ほっとしたのも束の間、ギルドのチャットで、シノさんが名指しされてぎょっとする。ううう、すごい。女の子って、積極的だ……。

【どうしたー】

 シノさんも、一回、戦闘の手を止めて返事をする。

【ダンジョン連れてってくださあい】

 そんな直球の問いかけに、うぐぐ、となる俺である。これで一緒に行くことになったら気まずいなあ、とか、いや寧ろここは譲るのが大人じゃね?とか、色んな思惑が頭の中を過ぎって、コントローラーを握る手に力が籠もる。何か、別のゲームをしているみたいだ。

【あーごめん、今アキとPT中】

 そんな俺をよそに、シノさんがあっさりと断りを入れてくれて、驚きを隠せない。優しいシノさんなら、低レベルで初心者のショコラちゃんを優先すると思ったのに。

【えー、そっかあ】
【ていうかシノさんとアッキー仲良過ぎじゃない?】

 残念そうなショコラちゃんの声に、気まずい雰囲気が流れるのを阻止するように、俺たちをギルドに誘ってくれたリリアちゃんが言ってきた。

【BLかな?】

 リリアちゃんと仲が良い、筋肉ムキムキガチムチオークのクラウスさんも、それに続く。

【BLだね!】
【えっ】

 リリアちゃんが更に頷くのに、思わず驚きの声を上げてしまった。

【アキとならそれでもいいわw】
【し、シノさん……!】

 シノさんがノッた!
 いやこれ必死で否定すると更に怪しい感じになるやつじゃん。

【愛に性別は関係ないよね……!】
【ひゅーひゅー】
【お幸せにー】
【前々から怪しいと思ってました】

 俺が悪乗りすると、傍観していた他のメンバーが、次々と祝福の言葉をくれた。ううう、なんか、フクザツ。

【えー、お二人ってホモだったんですか? そっかあ】

 忘れ去られていたショコラちゃんが、更に残念そうな声を上げた。真面目に言ってるのかそうじゃないのか、わからない。中々やるな。

【残念だねえショコラちゃん】
【残念ですう】
【タロウさんが連れてってくれるってよ、ダンジョン】
【わあいお願いします!】
【言ってない】
【誘いますね!】
【言ってない……】

 リリアちゃんとクラウスさんのナイスコンビネーションで、何も関係のないタロウさん(超絶イケメンの剣士だ。寡黙なところもカッコいい)が、ショコラちゃんの身元を引き受けてくれた。

【よかったの? ショコラちゃん】
【ん?】
【いや、シノさんと組みたがってたから】

 パーティにしか見えない会話でシノさんに尋ねると、シノさんは、何故か俺のキャラの頭を撫でてきた。

【アキのが先約だったし、ストーリー進めたいし】
【おかげでBLキャラになっちゃったけど……】
【アキだし、いいよ】
【そっかー。ありがと】

 これで晴れて、俺とシノさんはギルド公式のホモだ。良いのか悪いのかわかんないけど、不思議と、俺の心は、この前よりも大分晴れやかだ。……いやいやいや、ガチでホモなわけじゃないけどね?!
 十分レベルが上がった後、メインのストーリーを進めると、あっという間に日付が変わる時間になる。その途中、たまたまショコラちゃんとタロウさんにすれ違ったんだけど、ショコラちゃんに振り回されてるイケメンなタロウさんが珍しく、ちょっとお似合いかも、なんて思ってしまった。

【アキ】
【ん?】
【もう寝ようか】
【今日もすげー楽しかった! ありがとシノさん!】
【おー、俺も。んじゃ、おやすみ、また明日な】
【うん、またねー】

 また明日、っていう言葉は、くすぐったいけど嬉しい。
 前回のもやもやは綺麗に消え失せて、穏やかな心地で、俺はゲームの電源を切った。
 うーん、我ながら、単純だ。






しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

フルチン魔王と雄っぱい勇者

ミクリ21
BL
フルチンの魔王と、雄っぱいが素晴らしい勇者の話。

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...