72 / 72
第5章 パーティ!!!
16 随分遅くなってしまったけれど、部屋のドアを開けると、
しおりを挟む16
随分遅くなってしまったけれど、部屋のドアを開けると、まだ電気が点いていた。俺のベッドに腰掛けている、風呂上がりのさっぱりした雫と目が合う。
「お、おかえり」
「たっだいまあ」
部屋に帰った途端に、これまでの疲れがどっと出た感じがした。ふらふらとベッドに寄って、ばたりと倒れ込む。それを見た雫は笑って、俺の頭をぽんと撫でてきた。
「おつかれさん」
「ほんとにね、ちょお疲れたあ」
「俺は楽しかったけど?」
片目を細めて笑う雫を見上げて、眉を寄せる。
二人で踊ったときのことを思い出した。
確かに、すごく楽しそうだったのは否定しない。
「達成できたか?」
「なに」
「汚名返上」
「あー」
会う度に俺を親の仇みたいに見てきた薙刀ちゃんが、最後には前言撤回してくれたのだから、目標達成と言えるだろう。この期間中はナンパどころか、かわいこちゃんをチェックするのも止めていたし(チェックしたら声をかけたくなる、絶対)、スキンシップも最低限に留めていたし、何より。
「イケメンと踊ったからねえ」
「イケメン様々だな」
どの女の子を選んでいても、きっと炎上物件だった。
それを見越してか単に面白がってかは知らないが、相手が雫だったのは、一番いい選択だったのかもしれない。もしかしたら。
「まあこれはこれで、別の噂が生まれる気がするけどー……」
うっ、そういえば、文化祭のときに絡んできたヤンキーズが、『女好きとか言いながら生徒会長もタラしてんだろ』とか非常に心外な爆弾を放り投げてきた気がする。タラしこまれるほど安くねーから、あの人!
「それなら、」
雫が口端を持ち上げてにやりと笑って、仰向けに寝転ぶ俺の上に覆い被さってくる。顔の横に手を付けられて、影ができた。
「事実で上塗りしてみるか」
頬を撫でられて、一度瞬く。
囁く声色がイイ声なのは止めて欲しい。
俺は雫の肩を押した。
「なあにそれ、またなんかのマンガの真似ですかー」
「違ェよ、オリジナルだっての」
「つうか雫お前童貞だったの」
「えっ、今それ言うの」
「童貞かーそうかー雫くん童貞かーへー」
「あっお前今俺のメンタルめちゃくちゃ抉ってるけど雫くん気絶寸前だけど」
「あのさ、」
少し前に知り得た衝撃の事実が未だに引っ掛かっている。
腹筋に力を入れて、雫に顔を寄せると、雫は驚いて固まった。
「抜ける動画教えてあげよっか」
「間に合ってます!!!」
内緒話みたいに囁くけれど、被せ気味に拒まれて、俺はもう一度ベッドに沈む。勢いに負けた。
「えーなんでよー、無料でオススメ結構あるよ?」
「俺推しいるんで」
「推し?」
「それはもう妄想の中であれやこれや」
「え」
「え?」
「雫お前」
「はい」
「好きな人いるの」
「え」
別に、深い意味で尋ねたわけじゃないし、何なら、二次元のキャラの名前が即答で返ってくると思っていた。女の子が苦手で、かといって男が好きなわけではない雫に、こういう話を振ることはあまりない。恋愛沙汰の話は、俺のことを聞いてもらうことが常だった。
少しの間の後、じわじわと、雫の顔が耳の先まで赤くなる。
――こんな顔、初めて見た。
目許まで赤く染まったことを自覚したのか、雫が目許を腕で隠して、思いっきり顔を背けた。
「し、しずくくん?」
「う、うるせーなお前と違ってピュアなんだよ悪いか」
「わ、悪くないけどさ」
なんでそんなに反応が大きいの、なんてのはとても聞ける雰囲気じゃない。
雫は小さく息を吐き出して、俺のベッドから下りた。俺も起き上がって、その背中を見る。
「寝る」
「あ、うん」
「ちゃんと風呂入れよ」
「はい」
「――いるよ」
「え?」
「好きな人」
いつものようにお母さんな一言を向けてきた雫が、俺の方を振り返らないで、間を開けて、質問への答えを向けてくる。
なにそれ知らなかった、ちゃんと教えろよー。
――って、いつもなら肩をぐいぐいして軽い雰囲気で言えたかもしれないけれども、とてもじゃないがそんな軽口は叩けない。
それに、一瞬だけ見えた横顔が真剣なもので、茶化していいとは思えなかった。
親友くんの、本気の恋。
きっと、心から応援しなきゃいけないんだろう。
俺は唇を噛んで、ベッドから下りた。
「雫」
既に上のベッドに上がってしまった雫に、声だけ掛ける。
「ん」
「今日はありがと」
「おー」
「俺風呂入ってくるからさ」
「おー?」
「思う存分スッキリしてね!」
「は?」
「あっ、もし、まだちょっと無理とかそういうアレがあったら連絡くれれば遅く戻ってくるし、ていうかゆっくり入ってくるし」
「流、お前な」
「はい」
「デリカシーって知ってるか」
「それさ、俺らの間に必要ある?」
声だけのやり取りだったのが、起き上がった雫がベッドの枠から顔を出して見下ろしてくる。その顔は、いつも通りのものだった。
「必要ねーな、ほら行って来い」
「はいはい」
「のんびりめで頼むわ」
「お任せあれ!」
びしっと大袈裟に敬礼して、お風呂セットを掴んで部屋を出る俺です。男同士の相部屋だからこそ、プライベートタイムも、大事。いや、今まで全然意識してなかったけど、雫どうしてたんだろ……。
親友の性事情を考えながら、俺は大浴場へと向かった。
時間も時間だけあって、大浴場には誰もいない。独り占め気分でのんびり浸かって、アレやコレやに思いを馳せる俺だった。途中でうとうと意識が飛びかけたのは内緒だ。
――月が、綺麗だ。
各務は自室の窓から夜空を見上げて、小さく息を吐く。この景色を見上げることができる時間も、数える程しか残されていない。
『総一郎、聞いているのか』
「――、ああ」
『冬休みの間に、一度こっちに来ておけよ』
「わかってる」
『高校生も残り三ヶ月か』
「そうだな……」
『未練のないように過ごせよ』
――未練、か。
従兄の言葉が、耳の中に残る。
一言二言、言葉を交わして端末の電源を切った。
残り三ヶ月の間に、どれだけのことができるのだろう。
生徒会長として、各務総一郎個人として。
無意識に眉間の皺を刻んでいたのを、窓に映る自分の顔を見て気がついた。イケメンが台無しっすよ、とまた言われてしまう。
チャラくて鈍い会計の顔を思い描き、各務は再び息を吐く。
未練のないように、過ごせたらどんなにいいだろうか。
――卒業まで残り、三ヶ月。
23
お気に入りに追加
339
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(6件)
あなたにおすすめの小説


【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

笑わない風紀委員長
馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。
が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。
そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め──
※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。
※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。
※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。
※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

和泉くんの受難
慎
BL
『こっちへおいで…』
翁のお面を付けた和服の青年に手を引かれ、少年はその手を掴んだ。
――――――――‥
――‥
「…ってことで、和泉くんにはそろそろ うちの学園に入ってもらいたいんですがねぇ」
「え、無理」
首を傾げる翁お面の青年に顔をしかめる。
「だって、俺は…」
遠い昔、人間であったことを捨てた少年は静かに溜め息ついた-

親衛隊総隊長殿は今日も大忙しっ!
慎
BL
人は山の奥深くに存在する閉鎖的な彼の学園を――‥
『‡Arcanalia‡-ア ル カ ナ リ ア-』と呼ぶ。
人里からも離れ、街からも遠く離れた閉鎖的全寮制の男子校。その一部のノーマルを除いたほとんどの者が教師も生徒も関係なく、同性愛者。バイなどが多い。
そんな学園だが、幼等部から大学部まであるこの学園を卒業すれば安定した未来が約束されている――。そう、この学園は大企業の御曹司や金持ちの坊ちゃんを教育する学園である。しかし、それが仇となり‥
権力を振りかざす者もまた多い。生徒や教師から崇拝されている美形集団、生徒会。しかし、今回の主人公は――‥
彼らの親衛隊である親衛隊総隊長、小柳 千春(コヤナギ チハル)。彼の話である。
――…さてさて、本題はここからである。‡Arcanalia‡学園には他校にはない珍しい校則がいくつかある。その中でも重要な三大原則の一つが、
『耳鳴りすれば来た道引き返せ』

不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う
らる
BL
幸せな家庭ですくすくと育ち普通の高校に通い楽しく毎日を過ごしている七瀬透。
唯一普通じゃない所は人たらしなふわふわ天然男子である。
そんな透は本で見た不良に憧れ、勢いで日本一と言われる不良学園に転校。
いったいどうなる!?
[強くて怖い生徒会長]×[天然ふわふわボーイ]固定です。
※更新頻度遅め。一日一話を目標にしてます。
※誤字脱字は見つけ次第時間のある時修正します。それまではご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
面白くて楽しい作品をありがとうございます。最近読みたくなってまた読み返したのですが、やっぱり幼馴染か会長かどっちのカプになるのか気になるところです。更新楽しみにしてます。応援してます。
いつも楽しく読ませていただいています。
これからも無理せず頑張ってください!
9月30日に投稿されたのって前回と同じ話ではないでしょうか??
ろじーさん、感想ありがとうございます!!
うれしいです!!
前回と同じ話をうっかり投稿してしまいました…
ご指摘ありがとうございます!!!
5章の4が重複してますよー
アキさん、ご指摘ありがとうございます!!
うっかりしてしまいました!!
削除させていただきました。