フリーダム!!!~チャラ男の俺が王道学園の生徒会会計になっちゃった話~

いちき

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第5章 パーティ!!!

15  踊り終わったあとは、後夜祭が待っている。

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 踊り終わったあとは、後夜祭が待っている。
 講堂でビュッフェ形式の料理が用意された立食パーティがメインだけれど、星が見えてくる頃には、外で花火が打ち上がるってな、学園らしい大規模でド派手な祭り。今日ばかりは共学気分で、お互い楽しんでねっていう、そんな伝統の時間だ。
 場のセッティングを済ませれば、生徒会もやっと自由な時間になる。花火が始まる時間ってこともあって、俺は講堂から繋がるバルコニーに出た。同じ考えの人たちもちらほらいて、初々しい男女が何組か、照れながら会話している。
 俺はジュースのグラスを片手に、バルコニーの端に行く。柵に手を掛けて、打ち上がる花火を見た。風が冷たいが、冬の夜空は綺麗だ。くっきり黒い空に、色とりどりの火花が散っていく様子を見るのは、悪くない。

「鈴宮さん、」

 ぼんやり空を見上げていると、不意に後ろから、丸い声がかかる。気がついて振り返れば、そこには、赤い顔をした清楚ちゃん。

「おつかれさまー」
「お、おつかれさまでした!」

 慌ててぺこりと頭を下げる様子に笑って、隣を示す。清楚ちゃんは躊躇った後、俺の傍に来て、花火を見た。

「すごい、綺麗……」
「ね。予算使った甲斐あったよねー」
「ふふ、そうですね」

 例年のこととは言え、花火代は莫大だ。
 初めて去年の予算を見たとき、驚いた記憶がある。まあその後、ビュッフェ代やらオーケストラ代やら何やらでどんどん上塗りされて、次元の違う世界の話だと割り切ることにしたんだけども。
 花火の音を聞き、空から降ってくる光を浴びる。

「色々、ありがとうございました」

 打ち上がる破裂音に掻き消されないように声を張り上げて、清楚ちゃんが言ってくる。身体を少し斜めにして、距離を縮めた。

「いいって、仕事だし?」
「なんでもかんでも聞いちゃって」
「役に立てたかわかんねーけどー」
「鈴宮さんのおかげで、わたし、会計の仕事がすっごく楽しかったです」

 清楚ちゃんが、照れたような顔で、笑っている。
 ふ、と、肩の力が抜けて、俺はグラスの中のジュースを一口飲んだ。オレンジの甘さが、口に広がる。

「汚名返上はできたかなあ、」
「そ、そんな、汚名だなんて!」
「いやいや、そこは無理しなくていいから」

 彼女だって知ってるんだろう、俺の極悪非道な噂の数々を……。
 空の花火を見上げると、なんと、うちの学校の校章(桃と桜がセットになったような男子高らしからぬかわいいマークだ)の模様が浮かんでいた。職人、すごい。

「みんな、鈴宮さんに憧れてるんですよ」
「憧れ……?」
「遊んでもらえる子が羨ましいって」
「ええ……」
「そういう気持ちが、裏目に出て、悪い噂になっちゃったのかも」
「女の子よくわかんねーなー」
「ふふ」

 頭をがしりと掻くと、清楚ちゃんが小さく笑う。
 そして、一つ呼吸した。俺に向き直るように、真っ直ぐと、見つめてくる。
 まん丸な瞳から、目が逸らせなかった。

「一つだけ、教えてもらってもいいですか」
「は、はい?」
「鈴宮さんは、どういう人が好きなんですか?」

 真剣に好みのタイプを聞かれて、俺は一瞬言葉に詰まる。
 清楚ちゃんのオーラに圧倒されそうで、つい、一歩後退っていた。
 ――好みのタイプは、後腐れのないかわいこちゃん。
 そう、思っていたんだけど、頭に浮かぶのは、――

「俺が好きなのは、」

 一際、大きな花火が打ち上がった。
 空が、金糸に彩られる。
 光に照らされる清楚ちゃんの顔を真っ直ぐと見つめ返して、口を開く。

「流!」「鈴宮!」

 ――そして、ほぼ同時に、低い声が俺を呼んだ。

 講堂からバルコニーに続くドアを開けているものだから、周りにいるカップルたちからも注目の的となっているのは、幼馴染み兼親友クンと、我らが生徒会長サマである。

「仕事中だろ、サボってんじゃねえよ」
「えっ、はい、ごめんなさい」
「衣装返せって急かされてるぞ」
「あっ、しまった! 今行く今行く」

 二人の言うことは尤もで、俺は慌てて柵から背中を離す。
 隣の清楚ちゃんを見て、ぽん、とその頭に軽く手を置いた。

「大丈夫、君みたいにかわいい子には、すぐに現れるよ」
「え?」
「運命の、王子様、ってヤツ」

 囁いて、片目を閉じて見せる。
 「流ー」「早くしろ」とイケメン二人が急かすから、「はいはい」と返事をして、急ぎ足で向かった。
 不意に、すれ違うのは、薙刀ちゃん。気のせいか、もう、殺気を感じなかった。――まあ、目は合わせてくれないですけれども。

「おい」

 そして擦れ違いざま、低い声で呼ばれる。

「ハイ!」

 つい背筋がピンと伸びてしまった。
 下から見上げてくるツリ気味の瞳からは、もう、殺気は感じない。……よかった。

「――悪かったな」
「へ?」
「お前が、闇雲に女子に声を掛け、泣かせるようなヤツだと思っていた」
「はあ」
「もし本当にそうだったら、梨子にも適当に甘い言葉を吐いて期待をさせて、捨てていたんだろう」
「えっ」
「だが、貴様はそれをしなかった」

 とんだ極悪人のイメージを持たれていたものだ。うん、否定はしきれないけどお。
 薙刀ちゃんは、俺の目を真っ直ぐと見てくる。

「梨子の思いを、無碍にしなかっただろう」
「そう、かな」
「男同士で踊るというのは、そういうことではないのか」
「あー、まあ、そうね」
「撤回してやる」
「は」
「汚名、返上だな」

 口角を持ち上げて笑う薙刀ちゃんの顔は、なんというか、男前のそれだった。
 俺は、眉を下げて小さく笑う。

「そりゃ、どーも」

 薙刀ちゃんはふっと笑って、歩きだそうとしたから、「あ」と思わず声が出た。反応した彼女が、振り返る。

「お姫様を大切にね」
「言われなくとも」
「ですよねー」

 澄まして言う薙刀ちゃんは、“お姫様”が誰のことなのか言わずもがなって様子だった。颯爽と歩き出す薙刀ちゃんの行く先は――言わずもがな、お姫様の元。
 お幸せに、って、小さく囁いて笑った。

「流ー」
「早くしろ」

 そして促されて、待たせてるのを思い出して慌てて向かう俺だった。
 ――女の子って、難しい。
 ちらりと振り返った先、向かい合って何だか幸せそうにはにかんでいる清楚ちゃんと薙刀ちゃんの姿が見えて、めでたしめでたし、って字幕を付けたくなった。







 手芸部に急かされて衣装を返して制服姿になった俺たちの最後の仕事は、お嬢様方をバス停まで送り届けることだ。列になってきゃいきゃいとパーティの名残を味わう可愛らしい子たちを、エスコートする。
 次々とバスに乗り込むお嬢様方を見守って、最後に残ったのは、生徒会の子たちだ。

「ありがとうございました」
「世話になったな」

 清楚ちゃんがぺこりと頭を下げて、バスに乗り込んで行く。その後ろには、何故か、勝ち誇った顔の薙刀ちゃん。リア充の顔はひと味違う。

「いい経験をありがとう」

 爽やかに笑うイケメンちゃんは最後までイケメンだ。ドレスを着ているはずなのに、不思議だなあ。

「天乃くんとのダンス、すごくよかったわぁあ」

 バスに乗り際に、テンション高く話しかけられてびくっとした。声の主は勿論、ヘアバンドちゃん。

「そ、そう?」
「進展したら、是非、事細かに教えてね。応援するから!」
「ど、どうも?」

 手をぎゅっと握られ、興奮気味に話されてしまう。
 進展ってなに、応援ってなに……。
 「か、楓ちゃん」とバスの中から清楚ちゃんに急かされて、「チャオ~」と手を振って上機嫌にバスに戻って行く。こ、これが、新聞部部長の彼女……。

「各務総一郎」

 圧倒されていると、凜とした声が部長の名を呼んだ。

「何だ」
「無事にパーティが終わったこと、感謝するわ」
「ああ、こちらこそ」
「…………わよ」
「あ?」
「こ、今度は、個人的に会ってあげても良いわよって言ってるの!」
「は?」
「じゃ、じゃあ、失礼するわ」
「ああ、気を付けて」

 小さな白い顔を真っ赤にして勢いよく言う金髪ちゃんを見送って、会長は首を捻っているが、これは、アレだ。恋の予感、ってやつ。思わず緩む口許を掌で隠して、会長の傍へ行く。

「やっぱりモテモテっすね、会長ー」
「あ?」
「会長同士、フラグが立つもんなんですねー」
「鈴宮」
「はい?」
「いい加減にしねえとその口塞ぐぞ」

 くい、と、顎を指で持ち上げられて、瞬いた。バスのエンジン音が掛かり、俺は慌てて身体を離す。お嬢様方にこんな場面を見せつけるわけにはいかない、色んな意味で。

「さっ、さーせんしたー!」
「ふん、わかればいい」

 あ、会長ガチで舌打ちした。
 俺はさっと会長の隣に立って、走り出すバスを見送る。
 窓から清楚ちゃんが此方を見て、笑って手を振ってくれる。その隣の薙刀ちゃんも、最初ほどの剣呑な視線ではなくなった。よかった……。
 ああ、これで、女の子たちとの交流がなくなるんだなあ。

「さようならー、清涼剤ー」
「品のないかけ声を止めろ」
「まあ確かにね」
「寂しくなるね」
「仕事が……増えます……」
「楽しかったですね!」

 双子、平良くん、剣菱くんもそれぞれ頷いている。
 副会長は珍しく、会長の隣に立って腕を組んでいた。

「これで俺たちは終わりだな」
「ああ……そうだな」
「剣菱との別れが刻一刻と近付いているなどと」
「次のこと、考えねえといけねえな」

 会長と副会長が話す内容は、聞こえない振り、だ。
 ――引き継ぎとか、来年のこととか、そういうものは、なるべく考えたくない。
 最後のバスが走り出し、その姿が段々遠のいていくと同時に、胸に無性に寂しさが込み上げてきた。
 
「あっ」

 そして思い出す。
 ――次期会長候補、探すの忘れてた!

「鈴宮」
「はい」
「落ち着いたら話したいことがある」
「えっ、いやです」
「あ?」
「いやですー」
「まだ何も」
「何も聞きたくないー」
「逃げてる」
「逃げだね」
「じゃ、じゃあ俺お先失礼するんで! おつかれっしたー!」

 双子の言う通り、逃げるが勝ち、だ。
 会長からの真面目な話なんて、引き継ぎのことに決まってるじゃんね。
 今はまだ、何も聞きたくありませんー!
 矢継ぎ早に言って、俺は片手をしゅぴっと挙げて走り出した。
 今日の仕事は全部終わってるから、問題ない、はずだ。

「振られたね」
「振られちゃったね」
「う、うるせえ」
「何だ図星か各務のくせに」
「うるせえな」
「冗談はさておき、お前らもわかっているよな?」
「さあ」
「何のことかな」
「ふ、逃げも誤魔化しも、出来るのは年内のうちだけだぞ」
「何の話ですか?」
「剣菱は俺と結婚してくれ」
「副会長」
「台無しだね」
「来年……」
「まあ、今日は帰るか」

 なんて会話は、俺が逃げた後のこと。






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