62 / 72
第5章 パーティ!!!
6 きらきらとしたお城の中みたいな空間で、
しおりを挟む6
きらきらとしたお城の中みたいな空間で、俺はぽつりと立っていた。不思議に思って周りを見ていたら、一人、二人と、着飾った人たちが現れる。それは男だったり女の子だったり、様々だけど、二人一組になったと思えば、くるくると回り始めた。
軽快なBGMに乗って、踊り出す人たち。なんだか楽しくなって俺も混ざりたくなったとき、手を差し伸べてくれる一つの影がある。
ふんわりと笑うかわいい子、の輪郭が、段々と朧気なものとなって、――最後には、……。
おかしいな、と思ったとき、身体がすごく重かった。
「――れ、なーがーれ」
「んん……ううん……」
「いい加減起きろよ、起きないと」
「ちゅーはやだあ、俺はーおんなのこがすきなのー」
「寝惚けてガチ拒否は割と凹むから勘弁しろ」
むぎぎ、と目の前に迫る影の顔を手で押し退けて言うと、聞き慣れた声が割とガチで凹んでいて、そこで漸くはっと目が覚めた。
「えっ、雫!?」
「起きたか、おはよう」
「お、おはよう」
「先行ってる、急げよ」
ぽん、と俺の頭を一撫でする雫は、いつもとどこか違っていた。
目を合わせることもなく、ベッドを下りて、部屋を出て行ってしまう。
「――変なの」
何だか胸の辺りがざわざわする俺も、きっと変だ。
段々と、ダンパの本番が近付いてくるにつれて、校内も賑やかになってくる。新聞部は本気を出して女子高の特集を組み、「今話題の子はこの子!」なんてアイドル雑誌顔負けのインタビュー記事や写真を載せている。
授業のカリキュラムにも組まれている重大なイベントだから、この時期の体育では、社交ダンスの踊り方が必須項目だ。
冬の体育館、ジャージに身を包んだ男子高生が、代わりばんこに男女の役を入れ替えて踊る光景は、中々にシュールだ。
「く、久遠くん、上手いね!?」
「そうか?」
今は、久遠くんが俺のペア。ちなみに、俺がエスコートをされる方だ。
自然な動きで手を取って、音楽に合わせて踊る姿は、かっこいい。これはモテるやつだ。
「久遠くん、去年モテモテだったんじゃないの」
「去年は丁度、入院してたな」
「あっ、ごめんね!?」
「いや、気にしてない」
でもきっと、一年の頃は引く手数多だったに違いない。
俺はというと、女の子役はどうも苦手で、ついステップがずれたり、最悪、足を踏んじゃったりする。久遠くん、ごめん……。
「まあ、初々しい方がいいだろ」
「いや俺女の子役しないからね!?」
「?」
「なんで不思議そうな顔してるの……」
久遠くんはたまに天然だ。
そこで音楽が切り替わり、また別なペアへと変わる。
段々と女役が板についてきた頃、先生が授業の終わりを知らせてきた。
うん、男としての経験値、今日は上がらなかったな!
――次回の授業に、期待します。
そろそろ、準備も大詰めとなる。清楚ちゃんからは毎日のように連絡が来ていて、細かい部分の確認をしていた。その日も、授業が終わり、細々とした仕事を片付けに生徒会室へと向かっていたところ。最近はすっかりみんなちゃんと仕事をしてくれて、体育祭の頃のごたごたが懐かしくなるくらいだ。
生徒会室のドアを開いたところで、スマホが震える。画面には、清楚ちゃんの名前。
「もしも」
『すっ、す、すずみやさん~~~』
し、と言い切る前に、右耳いっぱいに高い声が響いてきて、思わず片眼を細めてスマホを遠ざけた。生徒会室にいる面々の視線が、一斉にこっちを向く。
「な、なに、どうしたの」
『たっ、た、たすけてくださいいぃ』
「落ち着いて」
『うっ、うう、予算が、予算があわないんですうぅ』
「えええ」
『いくら計算しても駄目で……どうしたらいいでしょうか……』
「ちょ、ちょっと待って、すぐ行くから!」
女の子を、泣かせたままにはしておけない。
スマホ越し、えぐえぐ聞こえる泣き声を宥めてから通話を切り、中央の椅子に座る会長の前へと走る。
「会長、俺ちょっと女子高行って来ます」
「ああ。気を付けて行けよ」
「あ、」
事の顛末は大体察したんだろう、会長はすぐに頷いてくれた。
うす、と敬礼してすぐ行こうとしたけど、ふと気付いて、一本の腕をがしっと掴んだ。
「平良くんも連れて行きます!」
「え」
「ほら行くよ、女の子が困ってるんだ」
「は、はい……?」
うちの自慢の会計監査を連れて行かないわけにはいかない。
戸惑う平良くんの腕を引っ張りながら、俺は生徒会室を出た。
「誤解されやすいのは」
「ああいうところだね」
「ああ、全くだな」
――とは、俺が出て行った後、双子と会長が顔を見合わせてしていた話。
11
お気に入りに追加
339
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

この僕が、いろんな人に詰め寄られまくって困ってます!〜まだ無自覚編〜
小屋瀬 千風
BL
〜まだ無自覚編〜のあらすじ
アニメ・漫画ヲタクの主人公、薄井 凌(うすい りょう)と、幼なじみの金持ち息子の悠斗(ゆうと)、ストーカー気質の天才少年の遊佐(ゆさ)。そしていつもだるーんとしてる担任の幸崎(さいざき)teacher。
主にこれらのメンバーで構成される相関図激ヤバ案件のBL物語。
他にも天才遊佐の事が好きな科学者だったり、悠斗Loveの悠斗の実の兄だったりと個性豊かな人達が出てくるよ☆
〜自覚編〜 のあらすじ(書く予定)
アニメ・漫画をこよなく愛し、スポーツ万能、頭も良い、ヲタク男子&陽キャな主人公、薄井 凌(うすい りょう)には、とある悩みがある。
それは、何人かの同性の人たちに好意を寄せられていることに気づいてしまったからである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
【超重要】
☆まず、主人公が各キャラからの好意を自覚するまでの間、結構な文字数がかかると思います。(まぁ、「自覚する前」ということを踏まえて呼んでくだせぇ)
また、自覚した後、今まで通りの頻度で物語を書くかどうかは気分次第です。(だって書くの疲れるんだもん)
ですので、それでもいいよって方や、気長に待つよって方、どうぞどうぞ、読んでってくだせぇな!
(まぁ「長編」設定してますもん。)
・女性キャラが出てくることがありますが、主人公との恋愛には発展しません。
・突然そういうシーンが出てくることがあります。ご了承ください。
・気分にもよりますが、3日に1回は新しい話を更新します(3日以内に投稿されない場合もあります。まぁ、そこは善処します。(その時はまた近況ボード等でお知らせすると思います。))。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる