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第4章 フェスティバル!!!
9 ――結論から言うと、
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――結論から言うと、結果は僅差で、白いワンピースに麦藁帽子の清楚系謎の美少女の優勝だった。誰と僅差って、もちろん俺じゃなくて。ウェディングドレスの剣菱くん。俺は何故か審査員特別賞とかいう賞をもらった。すごく複雑だけれど、花田部長の力作のための賞だと思えば、うん、悪くはない。
誰が優勝してもおかしくないと言われるほどの豪華メンバーの中、本名も明かさず優勝をかっさらい、インタビューでも一言も声を発さず、にこっと笑っただけの美少女の正体に、学園中が翻弄されるのは時間の問題だった。もちろん、芸能界デビューの話はきっぱり断ったらしい。
「特別賞おめっとさん」
――そして、今、後夜祭として、校庭のど真ん中でごおごお燃える激しいキャンプファイヤーが行われている。フォークダンスもご自由に、って企画だけれど、残念ながらここは男子校でした。悪ふざけで踊ってる男たちしかいない。一般客はもう入れない時間だから、正真正銘男だけの祭り。わいわい騒ぐ生徒たちを、俺はオレンジジュースを飲みながら端っこのベンチに座って眺めていた。そんなとき、背後からかかる声に振り返る。アロハシャツとサングラスが眩しい。
「部外者立ち入り禁止の時間っすよー」
「前会長を部外者とは、ひどい言いぐさやなあ」
前会長の緒方さんが、ジュースを飲みながら片手をひらりと上げてくる。こっちは疲れてるのに、勘弁してほしい。
「疲れとるなあ、何やあったんか」
「そっすねー、軽く誘拐されたくらいっすかね……」
「っぶは!」
あ、吹き出して笑いやがった。ひーひー肩を震わせてる。
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「笑い事じゃないってばー」
「まあまあ、何事も経験っちゅーこっちゃな。なあ、次期生徒会長?」
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「文化祭まで来たら、もう終わりが見えとるやろ。ダンパの頃にゃあ大体目星つけとかんと。だあれもおらんかったら、流クンに決まりやなあ」
「え」
「ま、精々がんばりい」
飲み終えたジュースのパックをゴミ箱に投げ捨てた緒方さんは、歯を見せて笑った。
――『次期生徒会会計を流クンにやってもらいたいっちゅー話』
生徒会室に呼びつけて、そんなことを言いのけたときの笑顔と重なって、ひやりといやな予感がする。
「絶対イヤですよね」
「ほんなら、次期会長候補、目ェ皿にして見つけんとなあ。がーんばれー」
ひらひら、手を振って去って行く緒方さんの背中に、『無責任』の文字が見えた気がした。
俺が、生徒会長。
――ないない、絶対ない。もしそんなことになったら、学園が崩壊するね、マジで。
「鈴宮」
去る緒方さんと入れ替わりで、俺の前に立って名前を呼んでくる人影がある。赤髪に髭の、久遠くんだ。仮装コンからこっち、バタバタしていて会えていなかった。
「久遠くん! 大丈夫?」
医務室に行ったみたいだけど、新たな怪我とかは見当たらなかったかな。キャンプファイヤーの炎を背後に背負う久遠くんを見上げて訊くと、久遠くんは真面目な顔をして、俺に頭を下げた。え。
「悪かった」
真剣な顔で、謝られる。
「いや、いやいやいや! 久遠くんの所為じゃないっしょ!」
「いや、俺の所為だ」
「いやいやいやいや、どっちかっていうとあっさり捕まった俺が悪いから!」
「それも否定できねえが」
「でしょ!」
思わず立ち上がって、久遠くんの前で手をぶんぶん振る。
まあ、一番悪いのは、言わずもがなあの金髪ヤンキーズだ。久遠くんが悪いなんてことは、全くない。
ぽん、と頭に手を置かれ、わしゃわしゃと撫でられる。
「わ、」
「お前に何もなくてよかった」
小さく呟かれた声が耳に届いて、俺は久遠くんを見上げた。
その表情も真剣で、息を呑む。
こんな久遠くんの顔、初めて見た。
「く、久遠く、」
「次の弁当、期待してろよ」
久遠くんの手が、再び俺の頭を撫でてくる。今度は、優しく。
その手が降りて俺の背中に下りて、一瞬久遠くんの方に引き寄せられた。抱き締められた、ってのはきっと自意識過剰だろ、ってぐらい一瞬の。
その間に、耳元へふっと囁かれて、俺は笑った。
「ちょお期待してますとも」
大きく頷いたら、久遠くんも、いつもの笑みを浮かべていて、ほっと胸を撫で下ろす。
――バイトに向かうという久遠くんの背中を見送って、次の弁当に期待を馳せた。何重弁当かなあ。
「終わったな」
未だ火が消えないキャンプファイヤー、そして心なしか踊っているのが多くなっている人たちの輪を眺めて背中を丸めていると、どすりと隣のベンチに勢いよく座る影がある。会長だ。ネクタイを緩め、キャンプファイヤーの炎の明かりが、会長の疲れた顔を照らす。
「おつかれさんでーす」
と、手にしたジュースの缶を掲げた。
「おつかれ」
代わりとばかり、わし、と俺の頭が撫でられる。
「あー、なんだ。大変だったな?」
「他人事っすねー」
そりゃそうだ、会長にとっちゃ他人事だ。
遠くを見ながらジュースを一口飲む。
「確かにセキュリティは甘かった」
「え?」
「外部からの客はカメラで判断してたんだがな。まさかウチのヤツらが危険物を持ち込むとは……来年からの課題だな」
双子からの忠告を思い出す。あいつらは、予見してたのかな。だったらもっと早く助けてくれてもよかった気がするけどお……。
「処分については、俺からも掛け合っておく」
「どっちかってと、久遠くんのフォローおなしゃす」
あの金髪軍団がどうなろうと俺には関係ない。それより、巻き込まれた久遠くんが、暴力沙汰どうこうで謹慎とか留年とか、そうならないと良い。会長は、「もちろんだ」と大きく頷いてくれた。
「会長今回、裏方でしたねー」
「本来はいつでもそうなんだよ、生徒会長っつーのは」
「えー? あ、でも」
「ああ?」
「次はほら、ダンパじゃないすか。超主役じゃん」
「あー……」
さっきの、緒方さんの話を思い出す。
ダンパってのは、その名の通り、ダンス・パーティ。初夏が体育祭、秋が文化祭、ときたら、冬の一大イベントがこのダンパだ。しかもこれ、姉妹校の女子校との合同イベントで、一年で唯一、公式で女の子と関われるチャンス。
企画するのが、生徒会同士だから、女子校の生徒会の子たちと濃密な関わりをもてちゃう。互いの生徒会長同士が踊るのは、毎年恒例だ。去年、緒方さんも、いつものふざけた様子はどこへやら、ばっちり格好良くダンスを決めて、良い引き際になったと満足げだったのを思い出す。ちなみに、毎年、手芸部がその衣装を用意している。
「気が重いな」
「わあネガティブ! 会長なら大丈夫っすよ、イケメンだしー」
「ダンパが終わったら、引き継ぎだな」
う。
緒方さんの悪戯な言葉が頭に蘇るけど、こればっかりは決して会長には言えない。絶対言えない。
「会長、留年すれば?」
「あ?」
「二年連続生徒会長、歴史に残りますよ」
「出来るわけねえだろ、馬ァ鹿」
「だってさみしいっす」
そして俺、会長絶対イヤっす……。
本音を隠して言うと、横から腕が伸びてきて、わしゃわしゃと強く髪をかき乱された。――こうして撫でてもらうのも、あと少しかあ。
段々とキャンプファイヤーの勢いがなくなっていくのを、会長と二人、並んで見つめる。こんな雰囲気、久しぶりかも。
合宿の一件から何となく気まずさがあったけど、そんな場合じゃない。
ダンパまで後約一ヶ月、ひいては会長引退まで後、……。
なんとかして、次期会長候補を見つけないと。
「いいのかい、話しかけに行かなくて」
「ま、たまには傍観者に徹するっつーのも悪くないでしょ」
「三角関係勃発、って記事が書けるチャンスだったのになあ」
鈴宮と各務が座るベンチから少し離れた位置にあるテーブルに身を預けて飲み物を飲んでいる天乃に、カメラを構えた波多野が声をかけた。天乃の視線の先には、各務に頭を撫でられている鈴宮の姿がある。
「俺、一読者なんで。出演はやめてくださいよ」
「残念」
「あれ? 波多野さん、カメラ変えました?」
いつも首から下げている一眼レフが、新しくなっている気がする。
「ちょっと、臨時収入、でね。――あ、シャッターチャンス。じゃあ、またいいネタがあったら教えてよ」
「うす」
運動部の男子二人が、盛り上がりすぎた勢いで抱きついてはキスしようとじゃれあっているのを目敏く見つけた波多野が、カメラを構えて行ってしまった。
「――仮装コン優勝の子、めちゃくちゃかわいかったよなあ」
「――あれ、マジでウチの生徒なんかね?」
「――剣菱と並ぶ美少女、お近づきになりてえなあ」
――まさか、ね。
純白ワンピース美少女と、重たい黒髪に眼鏡の新聞部部長とを結びつけそうになって、首を横に振った。
知らなくていいことも、ある。
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